論考

Thesis

誰もが投票できる選挙を目指して! ~運動から見た選挙(投票)制度の問題~

昨年末から、私は「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」の事務局長としてこの運動を広げるべく活動を展開してきた。

 今回は、約4ヶ月に及ぶ活動からみえてきた選挙(投票)制度の問題について書いていきたい。

※現在、4月13日・27日の両日に実施したバリアチェック結果について集計・分析作業中であるため、全体的な総括は次号以降に譲る。

◆投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動の活動について

 統一地方選挙の前半戦(13日投票分)については、諸般の事情でバリアフリーチェックができなかったが、後半戦(27日投票分)については、茅ヶ崎市において不在者投票所を、そして盛岡市においては、活動に賛同してくれた「アクセシブル盛岡」とともに投票所のバリアチェックを行った。

1.茅ヶ崎市でバリアフリーチェック

 私は茅ヶ崎市民であるため、茅ヶ崎で投票を行った。

 27日(日)は盛岡市でバリアチェックを行うため、今回は23日(水)に不在者投票を行い、その不在者投票所のバリアチェックを行った。

(1)茅ヶ崎市の不在者投票所
 茅ヶ崎市の不在者投票所は、茅ヶ崎市役所分庁舎5階にある。投票時間は午前8:30~午後8:00までで、投票日前日まで土日を含めて投票可能である。

 不在者投票を済ませた後、さっそくバリアチェックを行った。

 職員に、投票所のバリアチェックをしたいという旨を伝えたところ、投票所では答えづらいので、分庁舎の2階にある選挙管理委員会(以降、選管)にて調査をして欲しいということであった。

 不在者投票時にチェックできた項目と選管から聞き取りを行ったチェック結果は以下のとおり。

チェック項目回答補足
かなふり案内板ない「ふりがななし」なら、ある
かなふり候補者表示ある 
手話通訳者の配置ない障害福祉課の職員を呼んで対応orみぶりてぶり
音声案内ない職員が自らの声で対応
点字の候補者名簿ある 
点字器ある 
拡大ルーペある 
老眼鏡ある 
車いすの貸し出しある私が行ったときに実際に貸し出しされていた
車いす用の記載台ある 
介助員の配置ある職員が車椅子介助を行っていたのを見た
スロープある役所ゆえに段差はほとんど目に付かなかった
車いす用仮設駐車場ない 
多目的トイレある 
介助者やこどもの同伴OK基本的にはOK こどもについては場合によっては職員が対応


(2)茅ヶ崎市全体として

 茅ヶ崎市の選管は、不在者投票所だけでなく茅ヶ崎市全体についても調査に協力をしてくれたので、その結果を記載する。

 茅ヶ崎市全域には投票所が40ヶ所ある。そのうち18ヶ所が小中学校である。

 全体でみても、足りないものはかなり少ないという印象であった。

状態 
ないかなふり案内板
一部だけある車いすの貸し出し・多目的トイレ
あるそれ以外

※手話通訳者については、本部待機で必要に応じて本部から投票所に派遣する形で対応を行う(もしくは、職員の身振り手振り)。

(3)茅ヶ崎市の投票所の今後について

 茅ヶ崎市の投票所は、市内で40ヶ所、うち18ヶ所が小中学校である。公共施設でない投票所については、その地区に公共施設ができたら、公共施設に投票所を移転させていきたいと考えている。

 これから建設される公共施設はハートビル法によりバリアフリーにつくられるため、こちらに移転させていけば、アクセス面での問題は解消されるはずだとの見解であった。

(4)チェックの感想

 はじめのうち松下政経塾生を名乗らずにチェックを行ったが、選管職員は非常に丁寧に答えてくれ、全体的に好印象であった。

 不在者投票所については、アクセスのバリア、投票のバリアともに目立った問題を感じることはなかった。

 選管職員からのヒアリングだけで実際に目で確認したわけではないのでわからないが、全体的にもおおむねバリアはあまりないといった印象であった。

2.盛岡市でバリアフリーチェック

 岩手県において、アクセシブル盛岡(※)(代表、石川紀文氏)が、私の誘いに応えて、岩手県下のアクセシブル盛岡の関連団体とともに投票所バリアチェックの実施に協力していただけることになった。

 そして、この27日(日)に盛岡第二高等学校内に設置される投票所のバリアチェックを行うことなり、運動の事務局長として参加させていただいた。

(1)盛岡第二高等学校でのバリアチェック

 27日(日)、アクセシブル盛岡の会員、菊池亨氏とともに投票所(盛岡二高)のバリアチェックを行った。

 チェックに際して、岩手日報・盛岡タイムスや岩手放送がチェック模様の取材に同行した。

 菊池氏は、参議院選挙のときの投票では、この投票所に段差があり、職員が対応にすぐ出てくれなかったために電話で呼び出して投票をしたという経緯があった。したがって、今回の13日の投票時には、またその経験をすることが分かっていたので、盛岡市役所で不在者投票を行っていた。

 当初27日も不在者投票をする予定であったが、この運動に協力するということで、投票日に投票所(盛岡二高)にて投票してくれることとなった。

 投票終了後、菊池氏とともに投票所バリアフリーチェックを職員に質問をしながら行った。

▲投票所内の風景▲菊池氏とともに

(2)チェックの感想

 選管職員はチェックについては、非常に協力的で友好的に答えてくれた。しかし回答内容自体はあまり満足の行くものでなかった。

 大きな疑問点は以下のとおりである

  • 案内板があるといってもわかりづらい(私達は迷いました)
  • 点字器あれども点字の候補者名簿がない(矛盾した状態に疑問を感じていない)
  • 仮設のスロープ(実は13日はついていなかった。27日にバリアチェックをすることを伝えた結果つけられたものであった)
  • 車いすの貸し出しはあるが、その車いすのタイヤの空気が全然入っていない(メンテナンスチェックをしていない)
▲13日にはなかったスロープ

※アクセシブル盛岡についてHP:http://www.acc-m.com/
 岩手県内9ヶ所(盛岡・江刺・宮古・花巻・釜石・北上・久慈・北岩手・気仙)でユニバーサルな街づくりを目指して活動する市民団体。平成14年度バリアフリー活動功労者賞において内閣官房長官賞を受賞

◆選挙(投票)制度の問題点について

 約4ヶ月間の運動を通じて投票の面から選挙(投票)制度を研究していくうちに、今の選挙(投票)制度の問題は大きく分けると以下の4つあると思われる。

1.公職選挙法の問題

 現行法制度下においては、一般的な不在者投票制度・代理投票制度・郵便投票制度を用いても在宅の寝たきり高齢者(外出できず、手が動かないため字が書けない状態の場合)やALS(筋萎縮性側索硬化症)患者等は常に棄権に追い込まれてしまうという実態。

※詳細は、2002年12月月例「誰もが参加できる選挙制度~選挙制度は違憲状態!?~」を参照
URL:https://www.mskj.or.jp/getsurei/ebina0212.html

2.投票所の問題

 投票所のアクセス自体のバリア(たとえば、段差)、投票所内で投票をする上でのバリア(たとえば、手話通訳者・点字の候補者名簿・点字器)の問題

※詳細は、投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動HP参照
※URL:http://www.b-free-web.com/check1.htm

3.指定施設による不在者投票の問題

 都道府県選挙管理委員会があらかじめ指定した特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・病院・身体障害者更生援護施設or保護施設に入院(入所)中の方々が、当該施設で投票日前に投票する制度であるが、この制度には大きな問題があるように思われる。

 この不在者投票所においては、不在者投票管理者が事務全般の管理執行を行うが、その管理者は当該施設長が任命される。不正がないかを第三者的な存在や選挙管理委員会が監督することはない。

 この不在者投票所においては、投票所であるため代理投票が可能である。

 私が話を聞いた施設(特別養護老人ホーム)では、おやつの時間に職員ひとりが利用者につく形で利用者に候補者一覧を見せながら投票事務を行うとの事であった。

 どうしても選ぶことができない場合は白紙での投票にしているそうである。

 しかし、この白紙にする場合であるが、代理投票できることから、たとえばであるが管理者である施設長が後で白紙に候補者名簿を書いてしまうことが可能なのではないだろうか?

 実際に、関西のほうではこの4月の統一地方選挙で、痴呆の高齢者の投票用紙を勝手に代筆して投票したために選挙法違反で逮捕されたという事件が起こっている。

4.選挙公報の問題

 選挙公報の問題は大きく分けると2つある。

 一つ目は、すべての選挙で発行されているわけではないということである。

 国政選挙や知事選挙の選挙公報については公職選挙法で発行することが定められているので問題はない。それ以外の選挙は各地が“選挙公報発行条例”といった条例を制定して発行することになっている。

 実は県議会議員選挙においては、岡山をはじめとする16の県で発行されていないのである。

 現在において選挙公報はすべての候補者の経歴や主張を知ることのできる貴重なツールである。しかしこのツールが発行されていない地方自治体があるのだ。

 二つ目は、選挙公報がユニバーサルデザインに基づいていないということである。

 現在発行されている選挙公報は、そのほとんどが点訳や音訳されていない。したがって、たとえ選挙公報が発行されても利用できない人たちがいるのである。

※詳細は、2003年3月月例「誰もが投票できる選挙を目指して!~みんなが利用できる選挙公報を~」を参照
URL:https://www.mskj.or.jp/getsurei/ebina0303.html

◆投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動の結果について

 この4月13日・27日の統一地方選挙をターゲットに10,000ヶ所という壮大な数字を掲げて活動をしてきた。

 実際には900枚前後しかチェックシートを集めることができず、件数的に見ると大惨敗の結果に終ってしまった。

 現在、集計・分析作業を進めているため、検証結果については今後のレポートに譲るが、私なりに大惨敗に終ってしまった結果の原因を分析してみた。

<理由1:各自治体で確実に賛同して動いてくれる団体を見つけなかった点>

 一番大きな原因は、全国で展開するといっておきながら、各地方自治体内で確実に賛同して動いてくれる団体を見つけることができなかったことである。

 見つけることができた地域はそれなりの数を収集できたが、大半の都道府県で見つけることができなかったのでこれが大きな失敗の原因だったと思う。 候補者を選ぶためには、候補者の情報が必要である。選挙期間中においては、「選挙公報」は選挙管理委員会が提供し、すべての候補者を一度に知ることのできる貴重な情報源である。

<理由2:中央偏重の営業活動を展開してしまった点>

 五大紙やキー局のテレビ局に営業をかけることにかなりの時間を割いていたが、中央のマスメディアには非常に受けが悪く、相手にしてくれないところが大半であった。

 終盤戦に地方紙や地方局に営業をかけるとそのほうが手ごたえがあり、取材依頼を受けたりすることもあった。このことに気づいたときには時すでに遅く、大きく広げることができなかった。

 したがって、非常に告知不足な運動になってしまった。

<理由3:本部が応じればすべての支部は動いてくれるという錯覚>

 全国レベルの団体で、本部が応じてくれば、そのままその団体の地方支部も動いてくれると安易に考えてしまっていたがゆえに、各支部に対して挨拶をしっかりしなかった。

 その結果、ふたを開けると、非常に協力してくれた支部とそうでない支部とに分かれてしまうことになり、自分達が予想していたよりも全国で満遍なく集まるということにはならなかった。

 枚数的には900枚前後とはいえ、FAXベースで確認できる範囲で、北は北海道から南は鹿児島まで協力者がいたことや、10ヶ所以上もの投票所を一人でチェックしてくれた人がいたことについては非常に感謝している。

 また、13日のときのチェックでスロープがないから危険だと伝えると、27日の再チェックの時にはスロープがついていたという情報もあり、たった1ヶ所かもしれないがバリアフリーが進んだことは、この運動をやってよかったと思うのである。

 しかし、私たちの活動方法がいたらなかったばかりに、そういった熱心な参加者にたいしても十分な結果が出せなかったことについては本当にすまなく思うとともに、非常にくやしく思っている。

◆今後の展開について

 4つの問題すべてに付いて満遍なく取り組むことはなかなか難しい。 運動については、900枚前後のデータを集計・分析して公表するとともに、総務省に提出して、一旦終了という形になる。

 私自身としては、まずは900枚前後で終ってしまったこの運動の戦略をもう一度練り直して、次回の総選挙か参議院選挙で再度展開するつもりである(副実行委員長も同じ考えである)。

 900枚前後のデータをベースにこれからも投票所のバリアフリーが進んでいくかを有権者の側からチェックしていくためにも次回も続けていきたい。

 次回はあわせて選挙公報の問題、ユニバーサルな選挙公報を目指した運動を展開しようと考えている。国政選挙をターゲットに各政党に選挙公報の音訳・点訳を求めていこうと考えている。

 これらの活動を通して、選挙制度のユニバーサルデザイン、すなわち「誰もが投票できる選挙」を実現したい。

◆参考資料・引用、活動協力等

  • 岩手日報(2003年4月28日)
  • 盛岡タイムス(2003年4月28日)
  • 朝日新聞岩手版(2003年4月25日)
  • 茅ヶ崎市選挙管理委員会
  • アクセシブル盛岡
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海老名健太朗の論考

Thesis

Kentaro Ebina

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第22期

海老名 健太朗

えびな・けんたろう

大栄建設工業株式会社 新規事業準備室 室長

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