Thesis
これまで、私は「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」に事務局長として関わってきた。昨年4月の統一地方選挙、そしてこの10月の総選挙と、バリアチェックを実施してきた。その中でこの運動を発展させるべく、「理想の投票所プロジェクト」を立ち上げることを決心した。
1.「理想の投票所プロジェクト」とは
投票所を整備し、有権者に提供するのは、選挙管理委員会であり、行政である。そしてそこで有権者は投票する。
私はこの関係を逆転させて、提供されるだけでなく、有権者の側から有権者にとっていい投票所というものを追求すべきではないか、そしてそれを選挙管理委員会に提示して、投票所の整備に役立ててもらおうというものである。
2.思い至った経緯
1年以上、「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」を事務局長として関わっていく中、「理想の投票所」とは何なのかを考えてみるべきではないだろうか?理想があり、そして現実と比べる、その結果として何が足りないのかや、どうすべきかという提案を行うべきなのではないだろうか?私はそのような想いを持つようになった。チェック結果の申し入れだけでなく、こちらが考える「理想の投票所」を示すべきではないだろうか?その想いからこのプロジェクトを立ち上げることを決心した。
3.熊本県知事選にてバリアチェック
2月、熊本を訪れた。訪れた理由は、熊本のバリアフリーデザイン研究会とヒューマンネットワーク熊本という団体から、投票所の運動について相談したいことと「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」に関心があるからということであった。この2つの団体は、前回の参議院議員選挙のときから、選挙の都度、投票所のバリアフリーについて熊本県に申し入れをしている団体であったが、その活動についてすこし行き詰まり感があるということで、打開するためにということであった。
この県知事選挙において、申し入れだけだったのを、まずは現状チェックということで熊本県下の投票所のバリアチェックを行うこととした。
この打ち合わせの過程で、熊本大学の学生と知り合うことができ、その学生も参加したいということから、この学生を中心に大学生による実行委員会を組織し、そこに全国運動を展開している私と組んで、「熊本県の投票所バリアチェック運動」を展開し、その運動にこの2つの団体に協力してもらうこととした。
※県知事選は、無投票の可能性もあるといわれていたが、現職の潮谷知事を含めて3名が出馬表明をしているので、恐らくチェック可能だと思っている。
4.その後の展開
熊本でデータを取った後に、いままでのデータとあわせて「理想の投票所」モデルを作成できればと思っている。熊本の村上市議会議員から参議院議員選挙のときに投票所あり方を選挙管理委員会で見直すことを教えていただいたので、そのときに提示できれば、そしてそのモデルをもって、参議院議員選挙で、「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」を展開したいと考えている。
5.大学生が参加してくれるということ
大学生が取り組みたいといってくれて、私は非常にうれしく思っている。それはバリアチェックとして障害当事者にも参加して欲しいが、それ以上に大学生に参加して欲しいと思っていたからだ。
その理由は、20代の投票率の低さを改善したいからだ。
なぜ、20代の投票率が低いのだろうか?私はその大きな原因は、幼き頃から選挙教育が行われておらず、20歳になると自動的に選挙権が与えられるからだと思っている。何かわからないものを渡されてもそれを使うわけはないのは当然だと思っている。
そんな状態で20代の若者に大上段で投票に行こう!といっても難しいとも思っている。私はこの投票所のバリアチェックを20代の若者への選挙教育の題材にしたいと思っている。大上段ではなく、自分の近所の投票所ってどういったところか見に行って見ませんか?と誘いたいと思っている。
ただ、私も年代が違っている。学生と接していると自分も年代が違うことを実感させられる。だからこそ、大学生を誘う役を、同年代の大学生にしてほしいと願っていた。今回熊本で手を挙げてくれた大学生に感謝すると共に、私も惜しみなく力になりたい。
選挙において、行かない人の意見として、自分の一票なんて、しょせん取るに足らないものだということを耳にすることがある。果たしてそうなのだろうか?確実にいえることは行かないというのは現状を消極的に認めること、単に黙認していることだとはいえないだろうか?投票所のバリアチェックも、その人がチェックするのはしょせん一ヶ所だ。たった一枚のチェックシートに過ぎない。しかし、その一ヶ所が、その一枚が集まると大きな力になると思っているし、その一枚が一石を投じることもある。昨年4月にアクセシブル盛岡の協力で盛岡二高をバリアチェックすることを公表したとき、その二高では簡易的とはいえスロープがつけられ、それまでスロープがなくて困っていた老夫婦が投票所に入っていくのを見ることができた。たった一ヶ所の事例かもしれないが、動くことによって変えることができたのである。もしチェックすることを言わなければ、そこにスロープはついていなかったのだから...。
私は、この運動を通して、学生達に斜に構えずに積極的に動けば、わずかばかりかもしれないが、社会を変えることができるということを知ってもらいたいと思っている。そしてそこから投票の意味を知ってもらいたいと思っている。
その一枚が、投票所を変えることを、そして、その一票が社会を変えることを手を挙げてくれた、大学生と共に、熊本の大学に声をかけていこうと思っている。
1.発行について
選挙の際に、候補者の情報を一覧できるように作成された選挙公報というものがある。この選挙公報はすべての選挙においてすべての自治体の選挙管理委員会で発行されているように思われるかもしれないが、実はそうではない。
私の知っている範囲では、愛知県と岡山県の県議会議員選挙では発行されていない。そして今回訪れた熊本県の県議会議員選挙においても発行されていないのである。
選挙の際に、投票する候補者を選ぶためには、候補者の比較ができなければいけないのではないだろうか?その比較というのは、候補者が今までに何をしてきたのか、そして議員として何をするのかという比較ができなければいけないのではないだろうか?
現時点において、その比較をもっともフェアな形で行えるものこそが、選挙公報である。
確かに政策ビラもあるかもしれないが、必ずしもすべての候補者の政策ビラを得ることができるとは限らない。また候補者の中には政策ビラを満足に配ることができるだけの状態にあるとは限らず、政策ビラ配布については候補者次第となるので、スタッフやボランティアを大量に確保できる陣営とそうでない陣営ではおのずと差がついてしまい、必ずしもフェアな情報提供ではない。
選挙公報は、選挙管理委員会がすべての候補者の情報をまとめて発行し、配布されるために、すべての候補者にとってフェアであり、そして有権者にとってもすべての候補者の情報を得られる点でも、もっとも確実な情報源である。
選挙を行う側(選挙管理委員会・議会等)は、有権者に対する最低限の義務として、有権者にすべての候補者の情報を提供する必要性があるのではないだろうか?熊本県の県議会議員選挙においても選挙公報が発行されていないというのは、その義務を熊本県の有権者に対して果たしていないのではないだろうか?
地方議員選挙において選挙公報を発行するためには、その自治体において選挙公報発行条例を定める必要がある。ぜひ、発行していない自治体とその議会は、有権者に最低の義務を果たすべく、検討して欲しいと願っている。
2.ITによる選挙公報を
今、候補者が選挙期間中にホームページをつかっての運動はできないことになっている。それは使える人と使えない人との差があるというのもできない原因だろう。
しかし、選挙公報については、選挙管理委員会で、そのホームページ上で公開してもいいのではないだろうか?
紙媒体だけではなく、若い人にも反応してもらうためにホームページ上で公開すべきであり、選挙公報である以上、一部の候補者だけのためではない。選挙管理委員会が行う以上は、アンフェアではない。候補者の情報の提供として、紙媒体の選挙公報や、必ずしもいつも見ることのできるとかぎらない政見放送だけでなく、選挙公報をIT化してホームページで公開するなど、もっと多種多様な方法をするように取り組んで欲しいと願っている。
私は、憲法第15条が保障している基本的人権の一つである選挙権を、すべての有権者が行使できるようにしたいと思っている。
「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」や「理想の投票所プロジェクト」と「投票所」に焦点を当てているが、投票所だけでは不十分だと思っている。それは、投票所で投票できない有権者もいるからである。ただ、これをひとつのとっかかりとして取り組んでいき、できれば「理想の投票」について考えていきたい。
「理想の投票所プロジェクト」については、まだ私が思いついただけで、これからいろいろな方に協力をお願いしていきたいと思っている。私だけで考えることができるわけもなく、車椅子使用者・視覚障害者・聴覚障害者・高齢者、その他いろいろな方に入っていただき、そこで「理想の投票所」のモデルを作ることができればと思っている。
Thesis
Kentaro Ebina
第22期
えびな・けんたろう
大栄建設工業株式会社 新規事業準備室 室長
Mission
「ノーマライゼーション社会の実現」