論考

Thesis

誰もが投票できる選挙を目指して! ~投票所バリアチェック10~

私は、12月末から事務局長として「アジア太平洋バリアフリー研究集会」に関わってきた。当初は「(仮)アジア太平洋バリアフリー研究集会~情報のバリアフリーと選挙・投票について考える~」としていた。しかし活動内容がよりわかりやすくするため、「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」とし、パネリストの交渉と営業活動を行うとともに投票制度の研究を行ってきた。 今回、4月の統一地方選を前に、今まで自分が調べてきたことについて報告したい。

投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動 
HP http://www.b-free-web.com/check1.htm

◆活動の中で分かったこと・見えた問題

1.人の話から ~子供は家においてくるように~

 これは、この運動の協力の呼びかけ活動を行っている最中に小さなお子さんを抱えた女性から聞いた話である。

 投票日、この女性は小さな子供の手を引いて投票所へと向かった。彼女が子供とともに投票所に入ろうとしたちょうどそのときである。選挙管理委員会(以下、選管)の職員から、「小さな子を家に置いてくるように」と言われたのである。彼女が理由を尋ねると、職員は、投票所内で子供が暴れると困るからということであった。

 果たして、このようなことが許されるのだろうか?

 小さな子供を抱える親が投票に行くとしたら、連れて行くのは当然のことではないだろうか? それがダメといわれたのである。

 しかし、たとえば、大阪府選管が出している投票方法の案内を書いた「~選挙のお知らせ」という冊子には、「投票所には、付添人や介助人、お子さまも一緒に入ることができます」と明記されているように、本当は子供と一緒に投票所に行ってもいいのである。

 つまり、この場合、選管の職員が「小さな子を家に置いてくるように」というのは間違いなのである。これは、ルールはあれども、現場の運営側がこれを周知徹底できていないのが問題なのである。

2.新たな判決 ~郵便投票制度は不完全~

 この「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」に取り組んでいるときに、郵便投票制度に関する新たな判決が2月10日に出された。

(1)郵便投票制度の説明

 公職選挙法第49条2項にて「選挙人で身体に重度の障害があるもの(中略)の投票については、前項の規定によるほか、政令で定めるところにより、その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし、これを郵送する方法により行わせることができる」と定められているものが、郵便投票制度である。

 この郵便投票制度を使用できる人とは、以下の障害等級の身体障害者手帳または戦傷病者手帳を交付されている人である。

<身体障害者手帳>
・両下肢1級か2級
・体幹同上
・移動機能同上
・心臓機能障害1級か3級
・腎臓機能障害同上
・呼吸器機能障害同上
・ぼうこう又は直腸の機能障害同上
・小腸機能障害同上
 
<戦傷病者手帳>
・両下肢特別項症から第2項症
・体幹同上
・心臓機能障害特別項症から第3項症
・腎臓機能障害同上
・呼吸器機能障害同上
・ぼうこう又は直腸の機能障害同上
・小腸機能障害同上

※障害等級がこれら以外でも郵便による不在者投票ができる場合がある。
(岡山市選挙管理委員会の郵便による不在者投票説明HPより)

 これを読んで分かることは、
・身体障害が前提であって、知的・精神障害のケースは不可能であるということ
・身体障害手帳か戦傷病者手帳の交付を受けていなければ不可能であるということ
の2点である。
 これらの知識をもとに以下の裁判内容について読んでいただきたい。

(2)裁判内容

 なぜ、裁判が行われたのか?

 それは、現在の郵便投票制度が、(1)で説明したとおり一部の重度身体障害者と戦傷病者に限られており、知的障害者や対人恐怖症の人たちに開かれていないからである。

 郵便投票は「不完全」大阪地裁判決賠償は認めず障害者の利用をめぐり選挙の際の郵便投票利用者が一部の重度障害者に限定されていることの是非が争われた訴訟の判決で、大阪地裁の村岡寛裁判長は10日、「憲法の趣旨に照らして完全ではなく、対象拡大の方向で改善が図られるべきだ」と指摘した。知的障害があるなどして外出できず投票できなかった原告による100万円の国家賠償の請求自体は「対象の制限は国会の裁量だ」と棄却した。

 訴えたのは大阪府茨木市の男性(23)。判決は対人恐怖症で引きこもり状態にある原告について「一般の投票所で通常の投票をするのは事実上極めて困難だ」と認めた。

 しかし、「在宅投票は、投票の秘密が害される弊害が伴う恐れも高い。選挙の公正さを保つため、どのような要件で制度利用を認めるかなどの決定は国会に委ねられている」と述べ、違法行為はないと結論づけた。(平成15年2月11日 朝日新聞朝刊を引用)

 先々月の月例で、「筋萎縮性側索硬化症(以降、ALS)」患者らが訴えた公職選挙法の郵便投票の判決で、東京地裁が昨年11月、国の賠償責任は認めなかったが、「自筆でなければ投票の有効性を認めないのは憲法に違反する」との判断を示した。

 しかし、この訴訟においては、「在宅投票制度は国会の裁量に委ねられており、郵便投票制度を重度身障者に限ったことは違法ではない」と判決が下され、ALS患者の訴訟と異なり違憲であるとの判断を示さなかったのである。

 ただし、「現行の制度は憲法の趣旨に照らして完全ではなく、在宅投票の対象拡大などの方向で改善が図られるべきものである。」という意見が付けられた。

(3)まとめてみると

 郵便投票制度の説明とこの判決を見ると、今の郵便投票制度は非常に限られた人しか使えない制度であり、他にも本当に使いたい人がいても使えない制度なのである。

 そしてこの限られた制度は、今回の裁判のように対人恐怖症の人、在宅で寝たきり状態にある人(高齢者だけでなく)たちは、国会の裁量で解決を図られない限りは、投票については常に棄権に追い込まれることになるのである。

 果たしてこれで本当に選挙権は基本的人権と呼べるのであろうか?

 基本的人権は国会の裁量で与えられるものではない。基本的人権の行使も国会の裁量で保障されるものでもない。生まれながらにして持つ権利、それが基本的人権である。

 そう考えたときに今回の判決が憲法判断を明確にせず、憲法の趣旨に照らして完全でないという表現をしたのは残念でならない。明確に違憲であると判断すべきである。

 今こそ、すべての人が選挙権を実行できるような仕組みを考えるべきときなのである。

3.不在者投票制度への疑問 ~身分証明書は不要!?~

 不在者投票制度があるが、その制度への疑問とは、
「投票ハガキがあれば、不在者投票所において身分証明書は不要」
ということである。

 なぜ、これを知ったのかであるが、それは、ある選挙管理委員会HPの不在者投票に関する説明の中に、「印鑑・身分証明書などはいっさい必要ありません」と書いてあったからである。

 確かに、私は一度、不在者投票をしたことがあるのだが、そのときもハガキだけで免許証等の身分証明を提示せずに行った。

 郵便投票においては不正防止の観点から、代筆の禁止や使える有権者の限定等の制限が加えられているにもかかわらず、不在者投票については投票ハガキを持参すれば問題ないのである。 考えてみると、非常に不正のやりやすい制度なのである。

 たとえば、郵便受けから投票ハガキを盗って不在者投票で投票するとか、生活苦の有権者から投票ハガキを買い取って代わりに不在者投票に行くということができるのである。

 小さな町村なら、住んでいる人の顔がわかるなど考えづらいことかもしれないが、大都市だとこれは十分に可能だろう。

 投票権は個人の重要な権利である。これの乱用を防ぐためにも、不在者投票において投票ハガキとともに身分証明を提示させて本人確認を行った上での投票に改めるべきであろう。

◆まとめ

1.投票する権利(選挙権)はすべての人の権利であることの確認を!

 昨年11月のALS患者訴訟の判決の後、塾の先輩議員から国会でもこの問題についての議論を行っているとの話を聞いた。

 私は、この問題を単にALS患者のための投票制度のあり方だけを考えるのではなく、まずは、投票する権利(選挙権)はすべての人の基本的人権であり、すべての人が投票できる(権利行使)ように投票制度はあらためねばならないことを確認すべきであろう。

 なぜなら、現行の公職選挙法において、常に投票が棄権に追い込まれてしまう人たちが、他にも存在するからである。

 選挙権は、憲法第15条に定められている基本的人権の一つである。そして、憲法11条において、国民の基本的人権の享有は妨げることができないことを規定してあり、第14条の法の下の平等は、人間の存在だけでなく権利行使においても差別されないことを求めているはずである。権利は行使までを保障されてはじめて、その人に人権があるといえるのではないだろうか?

 だからこそ、再びではあるが、まずは投票する権利(選挙権)はすべての人が享有する権利であって、すべての人が権利行使できなければならないことを確認した上で、個別具体的な議論を行っていただきたいと願うのである。

2.改めてのお願い

 この4月の統一地方選挙を対象に「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」を展開します。
 これは有権者の方々に、投票する側から投票所をチェックしてみようというものです。ようやくチェックシートが完成し、HPも完成しました。

 投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動 HP http://www.b-free-web.com/check1.htm

 まずは、このHPを開いていただき、投票日には、チェックシートを印刷して投票所に持参して、スロープの有無や手話通訳者の有無等のチェックをしてみてください。

 チェック後は、このHP上でも入力可能としておりますので、郵送やFAXで送っていただかなくてもいいようになっています。

 この運動でできるかぎり多くの投票所のデータを集めて、総務省に全国の投票所の改善要求の意見具申を行い、投票所のナショナルミニマムを設けてもらおうと考えています。

 年度はじめの大変忙しい中だとおもいますが、これからの投票制度を考えるために、すべての人が本当に権利として選挙権を行使できる(投票できる)制度にするためにどうかご協力くださいますようお願いいたします。

◆参考資料・引用

  • 投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動
    HP http://www.b-free-web.com/check1.htm
  • H15.2.10大阪地方裁判所 平成12年(ワ)第6589号損害賠償請求事件
  • 毎日新聞 2001年7月28日東京夕刊
  • 毎日新聞 2000年7月27日東京朝刊
  • 毎日新聞 2003年2月11日東京朝刊
  • 朝日新聞 2003年2月11日東京朝刊
  • 大阪府選挙管理委員会冊子 「~選挙のお知らせ」
  • 横浜市選挙管理委員会HP  http://www.city.yokohama.jp/me/senkan/
  • 岡山市選挙管理委員会HP  http://www.city.okayama.okayama.jp/senkyo/
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海老名健太朗の論考

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Kentaro Ebina

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第22期

海老名 健太朗

えびな・けんたろう

大栄建設工業株式会社 新規事業準備室 室長

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