論考

Thesis

カンボジアNGO/開発の為の仏教

前回のカンボジア訪問で、郊外では未だ内戦が続くカンボジア第2の都市バッタンバンを訪問してきました。目的は旧知のカンボジア人僧侶、ヘン・モニチェンダ師が運営するNGO(BFD=Buddhism for Development)の活動を取材するためでした。以下、報告いたします。

 BFDの活動は多彩だ。

1.Kindergarten(幼稚園)(*後述)

2.Animals Bank(動物銀行)(*後述)

3.Rice Bank(米銀行)

 ・1村に1つの倉庫を置き、コメの不作時、村人に開放。収穫できたとき、現物で返却。
  参加意識を高めるため、メンバー制を取っている。現在、30ヵ村が参加。

4.Village Bank(村銀行)

 ・家屋、井戸等を整備した小規模な居住地を提供。

5.Youth Education(青年教育)

 ・英語、仏語教育。

6.Fruits Tree Promotion(フルーツトゥリー栽培)

 ・椰子の木等を一定度にまで栽培し、各家庭に無料配布。

7.Health Education(衛生教育)

 ・63ヵ村で移動教室を開講。

8.Monk Education(僧侶教育)

 ・仏僧教育。農村振興のリーダー育成。

9.Rehabilitation(再定住)

 ・生活全般にわたっての相談、支援。

以上、9つが主活動である。

 師と共に村々へ出かけ、人々の生活を見せてもらった。バッタンバンでは師のコーディネートにより、潅漑用水路が作られつつある。老若男女を問わず、庶民の手で水路を作りつつある。しかし、勿論ショベルカーなどはない。モニチェンダ師に案内された現場では、40度近い炎天下の中、木製のスコップを手に、数十人の人々が汗を流していた。粘土質の土は労働の過酷さを思わせた。その労働の対価は現物支給である。1立方メートルあたり、3キロの米と魚の缶詰1個が支給される。

 「大変な作業ですが、それでも皆喜んでやるのです。今年は大変な米不足。餓死者さえ生じました。おまけに彼らは現金収入がありません。ですから、食料の現物支給は何よりの報酬だと思います。そして、水路が完成すれば水不足に悩まずに住むのです。彼ら自身の足で立つことができるのです」。
師は額に汗をにじませながら、人々を励ましながら私に言った。

 数十の農家を訪問した。筆者やBFDのスタッフの姿を見かけると、親たちが家から出てきて笑顔と共に手を胸の前で合わせ、「チョムリアップ スー(今日は)」と挨拶をしてくれた。訪れた全ての家庭での出来事だったが、照れくさそうにしていた年端も行かない子供達が、親にその背中を押されると私の膝元まできて、手を合わせるのである。私がその礼儀正しさに驚くと、スタッフが挨拶に来る子供達は全てBFDの幼稚園児であることを教えてくれた。

 そして、多くの農家で牛や豚を見かけた。BFDの主活動の一つ、動物銀行である。まず、BFDは雄と雌の牛、あるいは豚を農家に提供する。牛の場合、1世代目の雄と雌の子牛をBFDに返せば、2世代目以降の子牛は全てその農家のものとなる。一方、豚の場合、雄と雌を合わせ3匹の子豚をBFDに返せば、あとは全て農家のものである。BFDは農家から返却された子牛・子豚を飼育し、次の農家に提供する、という制度である。農家にとってこれほど利点のある制度もないであろう、と思えるのだが全てがうまく行っているわけではない。子牛の返却を渋ったり、飼育費がないと言って無心する事もあるそうだ。

 農家で出会った子供達が通う幼稚園はBFDの敷地内にある。年小1クラス、年中2クラス、年長2クラスだ。クラス1つ1つを訪問した。園児達の服装が一様にきちんとしていたことも、師の教育理念の行き届きを思わせた。教室の戸をくぐると、子供達は立ち上がって可愛い手を合わせ、ちょこんとお辞儀をしてくれた。私は子供達に、将来何になりたいか聞いてみた。25人の園児がいた年小クラスでは、看護婦(10名)、警官(7名)、先生(6名)、パイロット(5名)、運転手(1名)の順であった。30人の園児を抱える年中クラスでは、先生(6名)、警官(4名)、看護婦(3名)、機械工(2名)、兵士(1名)であった。

 カンボジアでは警官や兵士に良いイメージはない。それになりたいと答えた子供がいたことに驚いて、先生に尋ねると、「この子達が住む村には殆ど毎日のように盗賊がやって来るんです。子供心に、自分で村を守るんだ、と思っているのでしょう。」と答えてくれた。

 その後、昼食の時間になった。BFDの幼稚園は終日である。一方、政府運営のそれは日に2時間しかない。昼食の提供に至ってはごく希なケースである。子供達は先生に連れられて、広間へと進んだ。プラスチックの皿にご飯と魚入りのスープが盛られていった。子供達は配膳が終わり、”仏様、今日もご飯を下さって有り難うございます。”と、お祈りを捧げるまで皆いい子にしていた。驚いたのはその後である。食べ終わった子供が自分の食器を手に持って、洗い場にまで運んだのだ。その時、カンボジア人の心にモラルを取り戻すため、子供の頃から教育します、と言った意味が初めて分かった気がした。そして、師の理想が、着実に実現しつつあることを実感させたのである。

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堀本崇の論考

Thesis

Takashi Horimoto

松下政経塾 本館

第13期

堀本 崇

ほりもと・たかし

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