Thesis
「自分にも何かできるはずだ!」と、手探りで始めた援助団体「七五三基金」。多くの人々の協力で無事2年目の活動を終えた。これまでの活動を振り返ってみたい。
1993年に日本政府派遣の選挙監視員としてPKOに参加して以来、今日まで12回カンボジアを訪れた。カンボジアは20余年に及ぶ内戦、特に76年に政権をとったポル・ポトによって教育と文化が徹底的に破壊され、その傷痕が至るところに残されていた。そこで私が痛感したのは、「我が国日本も50年前には同じ様な状況にあったが、数十年でそれを乗り越え、いまや豊かな国と言われるまでに発展した。そのような豊かな国に生まれた日本人として、何かカンボジアの再建に役立つことができないだろうか」ということだった。国家の発展には人材が欠かせない。それには教育しかない。そう考えた私は、2年前「七五三基金」という団体を起ちあげた。
活動は順調に滑り出した。1年目、4つのプロジェクトを終え、私は次年度への意欲満々で帰国した。しかし翌日、カンボジアより悲しい知らせを受けた。最良のパートナーであるメアス・チャンリープ国会議員が、政争に明け暮れ国民を顧みない指導者たちに抗議して自らの命を絶ったというのである。
氏は在日20年に及ぶ親日家であった。在日カンボジア難民の世話に奔走する余り、脳溢血で倒れたこともあった。氏の存在がなかったら、第1回七五三基金の成功など思いもよらなかった。七五三基金の学校建設が彼の最後の仕事になってしまった。墓前でさらなる活動を誓い、2年目へと突入した。
96年8月、カンボジア最大のNGO「開発のための仏教(BFD)」からサヤプール幼稚園の宿舎建設申請を受けた。BFDは貧しい家庭の子や孤児を寄宿させているのだが、宿舎がなく子どもたちはコンクリートの床にゴザを敷いて寝る毎日だった。それが身体に良いはずがなく、毎日のように発熱する子どもが見受けられた。建設費総額は647,640円だったが、2カ月で集め終えることができた。昨年講演した京都梅小路小学校から「全校を挙げて空き缶拾いを始めましたよ。私達も協力させてもらいます!」との嬉しい知らせをいただいた。1年生の児童も「これでカンボジアの子どもに学校建ててあげるんやろ」と、空き缶を拾ったという。今年2月27日、宿舎は完成した。
11月には第1回カンボジアスタディツアーを実施した。メインは8月に送った7.2トンの衣料品と毛布(日本救援衣料センター後援)の配布だった。簡単に言えば援助品の配付だが、現地の人がどれだけ喜んで受け取ってくれるのかを実感してもらいたいと考えたのだ。
カンボジア北西部に位置するバッタンバン州サムナーン村、コンピンプイ村で配布を行った。村人たちは帰還難民がほとんどである。一家の現金収入は3日で2ドル。ゴザの織り賃である。副食物を口にするのも希で、ボボと呼ばれるお粥に道端の草を入れるのがせいぜいだ。
ある参加者の感想文を紹介する。
「(前略)ひたむきに生きている人を見るにつけ、このツアーで予定されている衣料配布のスケジュールが、非常に不遜な行為ではないかということが心に募るばかりだった。
だがその思いは、実際服を配っているときに吹っ飛んでしまった。(中略)我々が不要としているものが、これほどまでに喜んでもらえるということに、日本の飽食ぶりを反省するより、ただ素直に心の底から感激してしまった。中でも子どもたちの一片の邪気も感じられない喜びの顔は本当に胸に迫るものがあった。
『子どもは国の宝である』と、字面でなく一児の父親としてつくづく思う。未来を担うべき子どもたちが戦火に晒されたり、戦災孤児となったが故の物乞いや、自活のために働く姿には、わが子のことを思うにつけ胸が痛む。
カンボジアで出逢った子どもたちの笑顔の輝きを忘れまい。そしてその素晴らしい笑顔が失われぬよう、自分の出来ることから行動していこうと思う次第である。」
衣料品を配布した地域には、毎年のように洪水の被害に遭う地域も含まれていた。改めて訪問すると毛布を屋根代わりにしている家があった。たった1枚の毛布が、1着の服が、家を失った人々の肌をどれだけ暖めるのだろう。
昨年度最大のプロジェクトは、バッタンバン州のアンロンビル小学校(5教室)校舎建設であった。BFDをパートナーに村人総出で建設を進め、11月16日に開校式を行った。
現在、当校は学校建設のモデルケースとしてカンボジア教育省に取り上げられている。
開校式において七五三基金のそれまでの活動に対し、カンボジア王国政府より国家建設功労第1等勲章を授与された。非常な名誉ではある。しかし七五三基金にとって何物にも代え難い勲章は、子どもたちの笑顔であることは今後も変わることはない。
(ほりもとたかし 1967年生まれ。明治大学卒。松下政経塾第13期生。七五三基金代表、(社)国民外交協会地域国際化支援センターアドバイザー、関西国際理解教育情報センター監事。)
■七五三基金のこれまでの活動
Thesis
Takashi Horimoto
第13期
ほりもと・たかし
Mission
東南アジア 援助・開発・国際協力