Thesis
長かった戦乱の傷痕が今なお残るカンボジア。6年前にその教育生活支援を目的としたNGO「アジア子供教育基金(ACEF)」を設立した 堀本崇塾員(13期生) が、現地での強烈な体験と、今後への思いを語る。
1997年9月、私はカンボジアの僧侶となった。仏教に触れずして、深いカンボジア理解は得られないだろうと考えたからだ。毎日1時間半、私は托鉢に出かけ、豊かでない老婆たちの、絞り出すような祈りを受けた。
ある日、左目に大きな腫れ物(ガン)を抱えた9歳の少女に出会った。すぐさま県立病院に送り、できうる限りの手を打ったのだが、彼女は亡くなってしまった。その命が線香花火のように想えてならなかった。それからの私は、見えなかった姿、聞こえなかった声が受け取れるようになった気がしている。
以後、ACEFの活動は明らかに変化した。当初の短期で形の見える学校建設から、自立を最終目的とした基礎分野支援に比重を移しつつある。その最重要プロジェクトの一つに孤児支援がある。孤児院の多くは、最低限の食事と教育を与えるのみだ。身よりのない子供たちが、将来職を得られる可能性は極めて低い。孤児院を出た後、生活の手段がなければ少女たちが売春をする確率は高くなる。
そうした現状を打開すべく、昨年7月、裁縫を教える職業訓練所を開所した。ある日、試しにクラス一番の少女にシャツを作ってもらった。試着したときに、その少女が見せた笑顔を、私は忘れることができない。これまで自尊心などもてなかっただろう彼女の、「私にも出来るんだ!」という喜びを、私は全身で受けた。職業訓練所は、現在はACEF直轄だが、将来的には現地化する予定である。
私はまったく微力である。しかし、抱いた志だけは固い。ACEF支援者の中には、少しでも貧しいカンボジアの痛みを知ろうと、週に1度、夕食を抜いて協力してくれる施設もあった。支援者のあふれる愛に、そして、子供たちの笑顔に支えられ、今後も歩み続ける。
Thesis
Takashi Horimoto
第13期
ほりもと・たかし
Mission
東南アジア 援助・開発・国際協力