論考

Thesis

私の夢

「政治を正さなければ日本は良くならない。」
 政経塾出身者はこの一節を必ずと言っていいほど選挙民に訴えかけてきた。
 松下幸之助塾主は経営で培われた独特のカンによって、このままの政治を続けていれば日本が沈没してしまうと見抜き、新たなる政治を担う政治家を育成するために松下政経塾を設立したのは今から17年前になる。
 不幸にして塾主の危惧は長引く構造不況と危機的な財政破綻として的中しつつある。

 史上最高の完全失業率を始めとして、4月からは消費税は5%へとアップ。年金支給年齢は65歳へと引き上げられているにも関わらず、納付金額は上昇の一途。
 税金や社会保障費の増額に追い打ちをかける、経費削減のための減棒とリストラの恐怖。
 厳然たる事実として存在する高齢化社会の到来と右肩上がりの経済成長の終焉は、青年層の将来に大きな影を差し込める。

 危機的な状況の中、日本変革のため、国民の代表者たる政治家に対して強いリーダーシップを求める声が澎湃として湧き起こっている。

 所信表明演説で行政改革に「火だるまになる」覚悟を訴えた橋本総理であるが、整備新幹線の建設決定は、橋本政権に期待する層に冷や水を浴びせかる格好となってしまった。

 野党勢力はと言えば政治改革の期待を担い誕生した新進党は分裂騒ぎが絶えることなく続き、今や存在意義すら忘れ去られようとしている。
 リベラル陣営の結集を唱う民主党には、冷戦対立時代の体質を引きずる社会党出身議員が潜在的行革反対勢力としていつ立ち上がるともしれぬ状態にある。 極言すれば国家存亡の時代に立たされているにも関わらず、国民のリーダーとなる政治が混迷し、力強い結集勢力が産み落とされないのはなぜだろうか。

 政経塾設立趣意書に「・・・日本の現状はまだまだ決して理想的な姿に近づきつつあるとは考えられない。・・・これらの原因にはいろいろあるが、帰するところ、国家の未来を開く長期的展望にいささか欠けるものがあるのではなかろうか。」とある。
 「そのような正しく明確な基本理念があれば、そこから力強い政治が生まれ、その上に国民の経済活動、社会生活も安心して営むことができ、ひいては国民の平和、幸福、国家の安定、発展ももたらされるのである。」と続く。

 塾主は「力強い」という表現をしばしば多用される。設立趣意主にも4回、講話録にも頻繁に見かけることができる。塾主が訴える「力強い」政治がなかなか実現しない理由は、将に国家の未来を開く長期的展望にかけているからではなかろうか。
 国家の未来を開く長期的展望とは何だろうか。

 一時期小沢一郎氏の「普通の国」論を始め武村正義氏の「キラリと光る国」論等が世上の話題となったことは未だ記憶に新しい。読売新聞社が憲法改正試案を発表した動きも含めて、これらは「国家の未来を開く長期的展望」を示さんとする潮流だったのだろう。
 経済の構造改革・財政再建が喫緊の課題となったため忘れ去られているが、むしろ力強く改革を推進するためにももう一度検討されるべきではなかろうか。

 政界・産業界・マスコミ業界を始め広く国民各層も今自らに降り懸かろうとする火の粉を振り払うために全力をあげている。 こうした状況だからこそ、公益団体である政経塾の仲間達には「国家の未来を開く長期的展望」を目指すために衆知を集める使命があるのではなかろうか。

 PHPを始め、私たちには多くの仲間がいる。そして塾主は「無税国家」という大きなヒントを残している。
 今こそ素直に衆知を集めて、努力する時ではなかろうか。

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豊島成彦の論考

Thesis

Naruhiko Toyoshima

豊島成彦

第16期

豊島 成彦

とよしま・なるひこ

公認会計士・税理士

Mission

リーダーのための公会計

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