論考

Thesis

政治家

インターカタログネットの研修中のある日、こんな一幕があった。
 来店した私の友人の奥さんに店の印象を尋ねてみた。客のターゲットは若い女性であるが普段なかなか客から率直な感想が出てこないので、答えにくそうな彼女に更に突っ込んでみた。

控えめに彼女の口から出てきた言葉は「この店は汚い。」「店のレイアウトそのものがいかにもシロウトづくり。」など手厳しい。言葉を重ねるにつれて水門が開くように思いが溢れ始めた。「こんな思いが込められていない店で買う客の気が知れない。」「客のことを全く考えていない。」「私が客ならこの店に関わって損をする前に逃げる。」

 これだけ率直に店について意見してくれる客はなかなかいない。私は半ば感謝の気持ちで聞いていたが、店の代表である吉山さんは顔一面が真っ赤に染まり、流れ落ちる汗は滝のようだった。彼は翌日「昨日の夜は眠れなかった」と漏らした。
店が暇なとき彼とよく話をする。店の運営・戦略からそれぞれの生き方まで多岐に渡る。
ある時私の人生について話をしていると、彼は「君は政治を目指すそうだが大変だろう。商売は店のお客に対して、商品を提供しその代価にお金をもらえば終わりだ。先日手厳しい指摘を君の友人の奥さんから頂いた。一つ一つが当たっているだけに正直言って厳しかった。しかし政治をやるならば、自分のお客の枠を超えた、何百人、何千人、何万人もの、あの奥さんのような人々の厳しい要望や思いを受け止めて解決していかなければならない。そして単によい公共サービスを提供すれば済む訳ではない。」と諭した。

 実際には目の前にいる私の友人の奥さんのニーズに応えるだけでも大変だ。政治家はこれを何万人、何千万人と拡大して奉仕していかなければならない。気の遠くなるような天文学的な数の人々の期待に応えていかなければならない。
 塾主が政治に対して強い関心を示したのは第二次大戦に敗北した時だという。実業人として創意工夫を凝らし精一杯国や国民に尽くしたあげくが敗戦時700万円の借金と荒廃した国土であった。政治がおかしくなったため日本がかくのごとき惨めな惨状になったと確信されたと聞く。

 このように政治は国民の繁栄・平和・幸福そのものの指針を大きく決定する。外交に失敗し、一度戦争を行うと決すればいく人もの国民が戦場に赴き、ある者は露と消えていく。経済政策に失敗すればいく人もの国民を餓死の恐怖に曝してしまう。最近ではずさんな厚生行政を看過できなかっため多くの無この国民をHIVウイルスの餌食としてしまった。

天文学的な人々の思いを受け止め、彼らの繁栄・平和・幸福を守り発展させていく使命をもつ政治家とはいかに重責を担っていることか!
 私は政治家を志している。国民一人一人が生き生きと自立した創造性ある人生が過ごせる社会を建設したい。そのためにまずできる範囲から始めていきたい。
 また同時に将来、1億2千万人の人々の思いを受け止め、繁栄・平和・幸福の社会を目指して前進していく巨大なエネルギーの元をしっかりと養っていく必要がある。
 それが今後の私の在塾中の課題であり、研修はそのためにある。

Back

豊島成彦の論考

Thesis

Naruhiko Toyoshima

豊島成彦

第16期

豊島 成彦

とよしま・なるひこ

公認会計士・税理士

Mission

リーダーのための公会計

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門