Thesis
(財)社会経済生産性本部における研修を3月31日に終了した。
起業家育成塾にスタッフとして関わった体験を先月報告した。生産性本部は他にもビジネススクールを開講している。私が聴講した中で特に感銘を受けた講義を紹介したい。
経営戦略コースという企業の中堅幹部向けセミナーがある。ビジネススクールの中でも非常に人気が高い。このコースのコーディネーターを勤める人物こそ野中郁次郎・一橋大学教授、日本の経営学を世界に向かって発信した男だ。
彼の専門は組織論と経営論。著作には第二次大戦の日本軍の敗北の原因を探った「失敗の本質」、日本人初の全米ブック・オブ・ザ・イヤーを獲得した「知識創造企業」、訳書にはリストラの理論的背景とも言える「リエンジニアリング革命」等、多数。
彼のテーマは日本的経営は何かである。
年功序列、終身雇用がそのキーワードとしてすぐに思い浮かべられる。しかし、彼は日本的経営を「知」の創造プロセスから分析している。「知」とは単なる知識に止まらずノウハウや職人芸等の知恵も含まれた、広い意味での「知」である。
P・ドラッカーは21世紀を知識社会の競争として捕らえている。知的資産の優劣が国や企業の競争優位を決定する時代となると予言しているが、実際には既に突入したといえるだろう。知的所有権がクローズアップされているのはその証でもある。
彼は「知」を言語化できない暗黙知と言語化できる形式知に分類する。暗黙知はノウハウやスキル、直観的に掴む能力、経験した知、アナログ的知、主観的知等が含まれる。形式知には言語知、理性的知、デジタル的知、そして客観知等がある。
暗黙知の中の主観知と形式知の客観知を比較すると、主観知は個人的知のため他者と共有できないが、客観知は容易に組織知へ発展する。たとえばマクドナルドの仕事はマニュアルという形式知に翻訳されている。これは客観知であり、すぐに組織知となり、組織のだれもが共有できる。しかし刀鍛冶の仕事は長い間の個人的な鍛錬によってのみ修得できる。全くの主観知であり、刀鍛冶のノウハウは暗黙知である。塾主が言う学んで学べないチエ等は暗黙知であろう。
では組織の中で「知」はどのように創造されるのか。
暗黙知と形式知両者のスパイラルによって生み出されると提唱する。
暗黙知 → ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・↑・ 共同化 ・ 表出化 ・暗・ (体験の共同) ・ (想いを言葉にする) ・刑黙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式知・ 内面化 ・ 連結化 ・知 ・ (行動から体験する) ・ (既存の知識をネットワークする)・↓ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ← 形式知
以上をワンサイクルにして回転させる。説明が不十分なので、更に詳細な理論・事例を参照されたい方は「知識創造企業」(野中郁次郎・竹内共著、東洋経済)の第3章まで。
さていささか雑駁な説明であるが、最後に彼は自らの理論を一言で言い表した。
「衆知を集めるスキルとシステムだ」。
なかなか私たちにとって興味深い文句だ。興味がある方は先ほどの著作まで。
Thesis
Naruhiko Toyoshima
第16期
とよしま・なるひこ
公認会計士・税理士
Mission
リーダーのための公会計