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1997年2月

なぜ世の中が変わらないのか
黒田達也/卒塾生

 
2月に入り、市議、県議、国会議員と立て続けにお目にかかってお話をうかがう機会に恵 まれた。そこで誰もが口にするのは「このままでは日本はだめになる。なんとかしなけれ ばいけない。」ということである。これだけ政治家が変革の必要性を感じているのに世の 中が変わらないのはなぜなんだろう?今回はこの素朴な疑問について考察してみたい。

まず、世の中が変わらない原因にされるのが、やはり政治家がだらしがないからだという ものである。口では変革の必要性を説きながら、一方では集票と集金の因果関係に組み込 まれて、政治活動の自由度が失われているのである。
既存の社会システムに安住した政治 家には世の中を変革する勇気は持ちえない。既存の組織と緊張感を保ちつつ、より大きな ビジョンを示してこれらを飲み込んでいくだけの度量が必要である。
よく今の政治家には 哲学がない、ビジョンがないと言われる。確かに政策はと聞かれると規制緩和と行財政改 革と答える政治家が圧倒的に多い。しかし、どちらも既存のシステムをこわすといってい るだけであって、代わりにどんな世の中を築くのかという問への答えがない。言ってみれ ば政治は必要ない、政治の役割を縮小してなすがままに任せるというのと同じである。た とえてみると、老朽化した家に住む住民に、とにかく壊さないと危険ですからといってど んな家を建てるのかも言わないで承諾を迫っているようなものである。これでは住民を納 得させることはできない。
一時しのぎでも修繕屋に頼んでしまうのも無理からぬことであ る(もっともこの修繕屋は、余計なところを過剰に修繕したり、すぐ壊れるようにしか修 繕しないで利益を貪るのである)。きちんとした新築プランと資金計画を提示して、住民に多少のぜいたくを我慢してもらうことも説得した上で、抜本的な建て替えを迫らなけれ ばならないのである。

国民の危機意識の欠如も、世の中が変わらない理由としてよく挙げられる。「日本人は余 程の危機に遭遇しなければ現状を変えようとはしない、いや、そもそも自己改革能力のな い国民なんだ。明治維新だって黒船が来たから起こったことだし、戦後の復興だって敗戦 によりGHQが新しい秩序をもたらしたんだ」という人がいる。
また、「政治離れが問題 になるけど、政治に頼らなくても生きていける社会というのは幸せな社会なんだ。現在の 社会に満足しているから政治に関心がないんだ」という人もいる。であるならば、余程の 天変地異や戦争でもあって、日本国民の大半が困窮して覚醒するまでは政治は全く無力な のであろうか?
私は将来政治家を目指す者として、自分が国民に向かって発言し行動する ことにより、ほんのわずかでも変革の時期が早まるのであればそれを使命として愚直に突 き進んでいきたいと考えている。
そして、多くの同志が挑んでは消え、挑んでは消えてい くうちに「百一匹目の猿」ではないが突如としてこの国の抜本的変革が起こるのではない かと思っている。経済や情報のグローバル化は、「静かな黒船」と言っていい程の変化を この国の社会にもたらす。
この内外の圧力が同時進行的に高まり、臨界点を超えた時に初 めて変革が実現する。
その時に松下政経塾および出身塾員がどれだけの働きができるか、 この時にこそ塾主が政経塾を設立したことの真価が問われよう。

先のたとえ話に戻る。老朽化した家を支えてきた大黒柱も、内側を相当シロアリにやられ ているらしい。壁には亀裂が入り、ポロポロと崩れ始めてきている。住民は何となく不安 を感じながらも、建て替え用資金を貯蓄せずにレジャーや買物にお金を費やしている。
「 明日からは節約して貯金しようね」と幾度となくみんなで話し合っているのだが、個々の 消費癖はなかなか治らない。建て替えを奨めるセールスマンも、いいことばかり言って調子良さそうで信用できない。
そこに敏腕セールスマンKがやってきた。「ご家族の皆さ ん、このままでは4年後にはこの家は崩壊しますよ。築51年のこの家の大黒柱の内部の 状況はこうですし、壁もこの素材の耐用年数は45年です。この土地を担保にこれだけ資 金を借りましょう。
それで、5階建てのマンションを建てましょう。1階はテナントを入 れて、2、3階は賃貸マンション、4、5階を住居にします。
間取りはご家族で話し合っ て決めてください。管理はおじいさんにお願いします。月々の返済は、テナント料、家賃 を引いてこれだけです。みなさんで頑張って節約して下さい。そのかわり安心して快適な お住いをご提供いたします」。
この家の住民はKの説得力ある説明と熱意に建て替えの決 心をした。帰り際、Kはある修繕屋と擦れ違 った。「しまった。また、Kに喰いっぷちを 奪われた」。修繕屋は唇をかんだ。(現実はこんなにうまくはいかないんでしょうが。

橋本内閣の6つの改革の実現性についていろんな議論がある。なにか一つのテーマ(たと えば財政投融資の見直し)に絞ってから1歩1歩進めるべきだ、いや一挙にやらないと抜 本的改革はできないなど。私は入り口をいくつにすべきかより、最初の小さな一歩を踏み 出すために政治家の足腰を鍛え、集中力を高めておくことの方が肝心なのではないかと思 う。
具体的には、衆議院議員の任期制、選挙区内冠婚葬祭への関与の禁止などで本来の政 治活動に時間を割けるようにし、政策秘書の制度的充実、行政情報公開の徹底、議員立法 過程の見直し、政党法制定による各党の政策立案能力の増強などにより政治の側の調査能 力を高める。
そうした土台ができてからではないと真に政治がリーダーシップをとった改 革にはなりえないのではないかと危惧する。
その上で、国民にしっかりした将来ビジョン を示し、変革への具体的プロセスを挙げ、政官財の改革勢力を結集するリーダーシップを 発揮し、国民の政治への信頼を勝ち取る、これしか世の中を変えることができないと思う。
そのために私自身も全力を挙げてこの変革に取り組んでいきたいと思う。


1997年2月 執筆
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