Thesis
昨年の12月27日、新年から本格始動した黒田政経研究所の初仕事として、誌上座談会を企画した。ゲストに上甲晃前副塾長を招き、深谷の若手リーダー8名にまちづくりについて語ってもらった。この模様は、深谷市2万4千世帯に全戸配布されるタウン誌「風 」に、1月、2月に分けて掲載される予定である。やや長くなるが、その原稿をそのまま報告する。(最後に別枠として、上甲氏の総評があります。)
座談会のテーマは『青淵翁とまちづくり』。渋沢国際学園学園長の鳥塚惠和男氏にも青淵翁(渋沢栄一翁)にまつわるコメンイターとして小生とともに参加し、さらにゲストとして、志ネットワーク主宰で全国のまちづくりに詳しい上甲(じょうこう)晃氏にも来深していただいた。2時間の予定を40分もオーバーする程盛り上がった座談会の様子を本号と次号の2回に分けて掲載いたします。
(この座談会は昨年12月27日、埼玉グランドホテルにて行なわれたものですが、発言のうち、時節に関する表現は年明けの発行に合わせて変えてあります。)
深谷駅にしても、身障者用のエレベーターやトイレがありますが、前は点字パネルが逆さまについていたり、トイレのボタンが車イスでは届かない位置に付いていたりしたようです。
また、パティオの身障者用の着替え所にしても、ベンチがなくて 利用者は困っておりました。今は行政にお願いして改善していただきましたが。設計は専門家に任せているから大丈夫というのではなく、こうした細かい点まで職員も議員も利用者の側に立って考えていくべきだと思います。
また、各種の市民協 議会にも出席させていただきましたが、ほとんど行政側の提案に対し、YESかNOをいうだけで内容まで踏み込めないのが現状です。未来倶楽部は深谷に住む人ひとりひとりがまちのためにあれをしてみたい、これをしてみたいという思いや夢を実現するために、その後押しをする団体です。ですから、自由な発想で思い思いの活動を行なっていますし、それを仲間で支援しています。
行政の中身に踏み込むよりも、自分たちの発想、自分たちの努力でまちづくりを進めていく、そこに行政の協力を求めるといったほうが現実的なようです。
そこで、わたしは渋澤を思うわけですが、翁はあまり行政を頼りにしないで民間の浄財を集め 、また自らも進んでポケットマネーを出し、様々な社会公益事業を行なったわけです。そしてそのことが逆に行政をリードしていった、そういう志があった点がリーダーとして素晴らしかったんではないかと思います。
また、先程、新井さんや小島さんから子供の遊びに世間がお節介を焼き過ぎるのではないかというお話がありましたが、これは学校週5日制にも関わる大切なポイントではないかと思うわけです。
そもそも週5日制は、学校と家庭、地域が手を取り合って子供の教育をやっていく、社会の教育能力を取り戻そうという意図があるわけですが、そこで子供たちの遊び方までもが問題になってくるわけです。
しかし昔の子供たちのことを考えてみますと、どの地域にもガキ大将がいて、ガキ大将を中心に子供たちどうしでそれなりの遊び方なり、ルールを作ってやっていたように思うんです。決して押し着せでなく、自ら創造した遊び方というのがあったような気がします。
子供の主体性をどう育んでいくかを大切に考えていって欲しいと思いますし、それが住みよい地域、いいまちづくりにつながってくるのではと思います。
ところで、岡部からみると深谷市さんはお金の引っ張りかたが上手だと思いますよ。中央の制度の情報を良く勉強されていて、それに合わせた案件を提示して短期間に補助金を獲得しています。深谷の職員さん、頑張ってるなと思います。
これは、全国各地でまちづくりを手がけてらっしゃる萩原先生(萩原茂裕氏、日本ふるさと塾主宰で浦和在住)の言葉なんですけど、「市役所は市民に役にたつ所だから市役所」なんだと思います。市の職員はまちづくりのプロなんですから、彼らがちょっと変わってくれたら、まちづくりも随分とよくなると思うんです。それが一番早いと思います。
ですから、もっと職員の意識啓発、住民の立場に立った仕事をしてもらうように意識を変えてもらう、そんなところにお金を使ったほうがいいんじゃないかと思います。
ただ、本当はこうした仕掛けなしに、自分の故郷ですから自然にまちづくりに関心が向くというのが本来なんでしょう。
祭なんかもそうなんだと思います。お囃子を聞いただけで自然に胸踊りからだが動く、自然発生的に盛り上がる、そうしたものが祭なんでしょう。昨今、行政との関わりも議論されていますが、深谷の祭を何とか盛り上げたいという気持ちで本を書かれた塚本さん、どうでしょうか。
たとえば、駅の自転車を起こすのに苦労していたお婆さんを、ある高校生が手助けしたんですが、そのお婆さんが高校生の校章を見て学校にお礼の電話を入れたそうです。そしてその話をそこの校長先生が朝礼でしたとき、本人はすぐ自分のことだとわかり、とてもうれしかったそうです。
このように普段から 子供たちのいいことは誉めてやり、悪いことには怒ってやることが必要なんだと思います。
特に皆さんのようなリーダーの方々が、会議の場で言うだけでなく日常の場面で言行一致した態度を子供に示せるかどうかにかかっているんじゃないでしょうか。子供たちからの信頼の上でのお祭りなりイベントでないと子供たちの心からの参加を見ることはできないんじゃないかとおもいます。
小島さん、佐藤さん、文教委員会の議員さんを学校に視察でご案内したことがあるんですが、皆、こうささやいているんですよ。「おい、家に帰ったら靴を揃えないと子供に笑われちゃうぞ」と。(笑)
これを聞いて私は大変うれしく思うわけです。これは八基の公民館の広報ですが、ここに「靴をそろえる運動」(128)とあります。これは八基地区の方が毎回一人づつこの運動に関する感想を書いているわけです。月1回発行ですから、もう10年以上、128名の方が書いていることになるわけです。これは大変貴重な財産だと思うんですね。そろそろ公民館長とも小冊子にまとめて各戸に配ろうと話をしているところです。
また「青少年健全育成発表大会」というのもやってまして発表する題は自由なんですが、ただ渋澤の伝記を読んだ感想と脱いだ靴をそろえる運動の実践は永遠に続けようと思いまして、これももう10年を超えているんです。
この本はその発表を全部収録してあるんですが、意外に知られていないんですね。小島さん、佐藤さん、これももっとPRしていただきたいものだと思います。いずれにしても10年続けるというのは大変なことなんですよ。やはり時間をかけないと根付いていきませんね。
上甲先生が毎日1千字 のメッセージを書かれており、全国に発信されております。私も愛読させていただいておりますが、これも大変なことだと思います。「脱いだ靴をそろえる運動」は永遠に続けてまいりますが、最近は「あいさつ先手運動」というのも始めています。地位の上下、年齢 の高低を問わず、まず先にあいさつしようというものです。
こんな運動がしっかり根付いていけば、「論語の里」にふさわしいまちになると思います。
今日は大変いいお話を皆様からうかがうことができて良かったのですが、幕末維新の頃の青淵翁を始めとしたこの地域の若者の志と行動を見るにつけ、日本や世界の転換期と言われるこの時期、こうしてこの地に生きている若者である我々は、めいめいの志を果敢かつ具体的に行動に移して世の中を変えていかなければならないのではないか、このことを最後にお願いして座談会を終わりたいと思います。
本当に長時間ありがとうございました。
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Tatsuya Kuroda
第14期
くろだ・たつや
事業創造大学院大学副学長・教授
Mission
人工知能(AI)、地方創生、リベラルナショナリズム