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1996年11月

新春誌上座談会『青淵翁とまちづくり』 ~深谷の若手リーダー8名が語る~
黒田達也/卒塾生

 
 昨年の12月27日、新年から本格始動した黒田政経研究所の初仕事として、誌上座談会を企画した。ゲストに上甲晃前副塾長を招き、深谷の若手リーダー8名にまちづくりについて語ってもらった。この模様は、深谷市2万4千世帯に全戸配布されるタウン誌「風 」に、1月、2月に分けて掲載される予定である。やや長くなるが、その原稿をそのまま報告する。(最後に別枠として、上甲氏の総評があります。)

<リード>
 昨年は埼玉「彩」グループの問題を筆頭として日本各地でお役人の不祥事が明るみになったが、ここ深谷市においても残念な事件が発覚したというのはご案内の通り。暮れの忘年会シーズンも自粛、自粛のオンパレードで、われわれ市民までどうもすっきりとした気分になれないのが現状だ。
 そこで、年も改まったこの時期に合わせ、人心を一新し、市民に夢と希望をもってもらおうと、新年より活動を始めた黒田政経研究所の黒田達也氏(34)が、深谷の若手リー ダーによる誌上座談会を企画した。

 座談会のテーマは『青淵翁とまちづくり』。渋沢国際学園学園長の鳥塚惠和男氏にも青淵翁(渋沢栄一翁)にまつわるコメンイターとして小生とともに参加し、さらにゲストとして、志ネットワーク主宰で全国のまちづくりに詳しい上甲(じょうこう)晃氏にも来深していただいた。2時間の予定を40分もオーバーする程盛り上がった座談会の様子を本号と次号の2回に分けて掲載いたします。
(この座談会は昨年12月27日、埼玉グランドホテルにて行なわれたものですが、発言のうち、時節に関する表現は年明けの発行に合わせて変えてあります。)

<座談会参加者(敬称略 カッコ内の数字は年齢)>
新井 家光(41 埼玉県会議員)
佐藤 美智子(42 深谷市会議員)
小島 進(36 深谷市会議員)
小内 睦夫(36 深谷青年会議所理事長)
伊藤 義徳(39 岡部町商工会青年部長)
橋本 稔(38 深谷未来倶楽部代表)
坂本 久(36 20クラブ代表)
塚本 誠一(30 「祇園祭輯」著者)
コメンテイター
鳥塚 恵和男(渋沢国際学園学園長)
清水 惣之助(「風」発行人)
ゲスト
上甲 晃(志ネットワーク)
コーディネーター
黒田 達也(34 黒田政経研究所)

<本文>
黒田
 今、盛んに行財政改革の必要性が叫ばれています。確かに国と地方をあわせて500兆円を超える借金をわれわれは抱えてしまっており、このツケは必ず我々や次世代の子供たちに回ってきます。
一方で、昨年来の様々な行政上の不祥事を通じ、我々の税金が至るところで無駄に使われているという実態が明るみに出ました。かつて青淵翁は、「入るを計って出ずるを制す」の信念の下、軍事費拡大要求を繰り返す軍部に反対し、それが大蔵省辞職の一因となりました。青淵翁34歳の時のことです。
 青淵翁のおひざ元である深谷から、特にわれわれ若い世代がなんとかしていくべき時ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

小島
 そうですね。税金の使い方という面では、市会議員の立場から見て、市の施設の中にはやや豪華すぎて維持経費が大変と思えるものもありますね。
たとえば、公園にしても、極端な言い方をすれば野っ原さえあれば子供たちはいろいろと工夫して遊ぶことができると思うんですよ。要するに、利用する人の立場に立って必要十分な施設をつくっていくことが大切なんだと思います。

新井
 県も同じですね。問題になった老人ホームだって、不必要に豪華すぎますよ。そもそも要介護高齢者が生活する場所を、健康な人が設計していては適切なものができるわけありません。モノに金をかけるより、ソフトを充実させた方が入所者の満足を得られると思います。とにかく、最近の行政は、お節介すぎ、やりすぎの部分が多いです。一頃話題になった「すぐやる課」ではなくて、「何もさせない課」が今必要だと思います。(笑)

佐藤
 やはり、行政への住民参加が必要なんですね。厚生省の高齢者福祉のための「ゴールドプラン」にせよ、児童福祉のための「エンゼルプラン」にせよ、もっと当事者の声を 反映したものにすべきです。介護保険も導入されるようですが、どうか担当職員には紙おむつのなんとも言えない、ごわごわしたいやらしさというか、その切なさまでわかっていただきたいですね。

 深谷駅にしても、身障者用のエレベーターやトイレがありますが、前は点字パネルが逆さまについていたり、トイレのボタンが車イスでは届かない位置に付いていたりしたようです。
 また、パティオの身障者用の着替え所にしても、ベンチがなくて 利用者は困っておりました。今は行政にお願いして改善していただきましたが。設計は専門家に任せているから大丈夫というのではなく、こうした細かい点まで職員も議員も利用者の側に立って考えていくべきだと思います。

黒田
 今のお話では、議員さんは出来てしまったものに対して利用者の声を聞き、それを行政に申し入れて改善してもらっているというのが現状の様です。
 本来であれば設計の段階から利用者の声を反映していただいた方が、後から手直しする無駄が省けると思うのですが。子供の公園にしても、老人ホームにしても同じことがいえると思います。

佐藤
 本当は、そうですね。

黒田
 まあ、中央からの補助金がからんでいますんで、速やかに認可が下りるようにするにはどうしても他のところと同じものになりがちですね。
 地方では現状の補助金制度の下では利用者を向いて仕事をするより、霞が関を向いて仕事をせざるを得ないところがあります。深谷市も地域アドバイザー制度をつくったりして、市民の声を吸い上げようと努力しているようですが、やはり、市民の側が積極的に関心を持つようにならなければうまくいかないようです。
 そうした行政への関心を呼び起こす役割というのは、議員さんであり 、職員の方々でもあるんでしょうが、これからは市民団体が鍵になるのではないかと思います。そこで、橋本さんにご意見をうかがいたいのですが。

橋本
 一昨年、深谷青年会議所が提唱して、一般の市民の皆様を巻き込んだ深谷未来倶楽部というまちづくり市民団体を作らせていただいたわけですが、当初は市の方でもどんな団体なのか半信半疑のところもあったようですし、未来倶楽部の側でも市の対応に一喜一憂したところもありました。
 しかし、この1年数か月の間、互いの立場を尊重し協力し合いながらいくつかのまちづくり事業を行ない 、何とか同じ目線でまちづくりを考えられるようになってきたかなと思います。その結果 、今年度は、深谷市の推薦により県より30万円の予算をいただくこともできました。
 先ほど地域アドバイザーの話がありましたが、どうしても自治会を中心とした組織になってしまい、話題が地域の身近な問題に終始する傾向があったようです。

 また、各種の市民協 議会にも出席させていただきましたが、ほとんど行政側の提案に対し、YESかNOをいうだけで内容まで踏み込めないのが現状です。未来倶楽部は深谷に住む人ひとりひとりがまちのためにあれをしてみたい、これをしてみたいという思いや夢を実現するために、その後押しをする団体です。ですから、自由な発想で思い思いの活動を行なっていますし、それを仲間で支援しています。
 行政の中身に踏み込むよりも、自分たちの発想、自分たちの努力でまちづくりを進めていく、そこに行政の協力を求めるといったほうが現実的なようです。

小島
 できてしまった施設にあれこれいうよりも、それをどう活かすかと考えることも大切だと思います。どこまで市民を巻き込んで利用してもらえるか、そこに力を入れていきたいですね。

黒田
 それはその通りですが、せめてこれからできるものに関しては、なんとかより利用者の意見を反映できるようにしたいものですが。
 渋沢記念館のそばの清水川周辺の公園計画、これは県も関ってくるんでしょうが、鳥塚さんにもいろんなお考えがあるのではないかと思うのですが。

鳥塚
 ええ、まあその前にみなさんのご議論をお聞きした上での感想を述べさせていただきたいと思います。
 先ほどからみなさんより異口同音に「行政」という言葉がでてきておりますが、いったい「行政」という言葉が盛んに使われ出したのはいつごろからなんでしょうか。いつのまにか、あらゆることを 行政に頼るというムードができあがってしまっているんではないかと思うわけです。

 そこで、わたしは渋澤を思うわけですが、翁はあまり行政を頼りにしないで民間の浄財を集め 、また自らも進んでポケットマネーを出し、様々な社会公益事業を行なったわけです。そしてそのことが逆に行政をリードしていった、そういう志があった点がリーダーとして素晴らしかったんではないかと思います。

 また、先程、新井さんや小島さんから子供の遊びに世間がお節介を焼き過ぎるのではないかというお話がありましたが、これは学校週5日制にも関わる大切なポイントではないかと思うわけです。
 そもそも週5日制は、学校と家庭、地域が手を取り合って子供の教育をやっていく、社会の教育能力を取り戻そうという意図があるわけですが、そこで子供たちの遊び方までもが問題になってくるわけです。
 しかし昔の子供たちのことを考えてみますと、どの地域にもガキ大将がいて、ガキ大将を中心に子供たちどうしでそれなりの遊び方なり、ルールを作ってやっていたように思うんです。決して押し着せでなく、自ら創造した遊び方というのがあったような気がします。
 子供の主体性をどう育んでいくかを大切に考えていって欲しいと思いますし、それが住みよい地域、いいまちづくりにつながってくるのではと思います。

黒田
 そうですね。今まで行政のプランに対して何かものを言うという視点で議論をしてまいりましたけれど、『 青淵翁とまちづくり』というテーマにあるとおり青淵翁のお考えに則して考えるならば、行政に頼るのではなく民主導で主体性をもって考えていくべきだと思いました。
 子供の主体性を大切にというお話でしたが、市民や県民の主体性、企業や民間の主体性というのも大切なんでしょうね。そうした視点で岡部の方ではどんなまちづくりがされてますか。

伊藤
 商工会には2度ほど役場からまちづくりに関するアンケートが来ていましたね。また、今度「道の駅」ができるわけですが、事前に商工会青年部と2度ほど話し合いを持たせてもらいました。
 そこで、岡部の「道の駅」は埼玉の北の玄関なんだから何か特徴的なものをと考えていたわけですが、ハードの部分は建設省ですべて同じに決まっているし、県の予算だからダメということなんですね。
 なんとかソフトの部分でお祭りやフリーマーケットができるように交渉して、それは第3セクターの定款の範囲で可能になって良かったんですが。やはり、プランニングからやる気のある住民の意見を反映できるようにして欲しいですね。

 ところで、岡部からみると深谷市さんはお金の引っ張りかたが上手だと思いますよ。中央の制度の情報を良く勉強されていて、それに合わせた案件を提示して短期間に補助金を獲得しています。深谷の職員さん、頑張ってるなと思います。
 これは、全国各地でまちづくりを手がけてらっしゃる萩原先生(萩原茂裕氏、日本ふるさと塾主宰で浦和在住)の言葉なんですけど、「市役所は市民に役にたつ所だから市役所」なんだと思います。市の職員はまちづくりのプロなんですから、彼らがちょっと変わってくれたら、まちづくりも随分とよくなると思うんです。それが一番早いと思います。
 ですから、もっと職員の意識啓発、住民の立場に立った仕事をしてもらうように意識を変えてもらう、そんなところにお金を使ったほうがいいんじゃないかと思います。

黒田
 確かに深谷市は補助金をもってくるのが上手だと思います。きっと職員の方々のご苦労も大変なものがあろうと思います。
 ですが、せっかくつくるのなら住民の使い勝手の良いものにして欲しいとは思います。中央の補助金も回り回って我々の税金なのですから。
 では、今年青年会議所 の理事長に就任された小内さん、市と協力していろんな事業計画があるとお聞きしていますが、いかがでしょうか。

小内
 年の市の事業の中に、駅の南口からビックタートルやパティオを結ぶ遊歩道をつくるという計画があるんですが、そこにレンガを利用した彫刻というか、パネルを作ってもらおうと考えています。
子供たちに粘土でオリジナルの彫刻を作ってもらい、それを日本煉瓦さんに特殊なレンガとして焼いてもらう。それを新しい遊歩道に使ってもらえば、それが子供たちのいい思い出となって深谷への愛着も増すのではないかと考えたわけです。
 すでに市の方でも協力していただけることになってまして 、さらに教育委員会などにかけあって、小学校の図画工作の時間の課題として取り入れてもらえないかとか、いろいろな動きを始めるつもりです。

橋本
 こういう事業は市民が直接参加をして遊歩道をつくったという意識になる。それによって遊歩道を利用する市民も増えると思います。
 それを見て行政も「こういうやりかたはいいな」と思っていただけたら、別の市の事業にも活かされるんじゃないかと思います。そういう意味でこの事業を応援していきたいと思います。

黒田
 ちょっと似た例が一昨年市の紹介で研修させていただいた、深谷の姉妹都市のフリモント市でもありました。
 市の中心部にエリザベス湖という大きな湖があって、市民の憩いの場になっているんですが、その回りのベンチが老朽 化して新しく作り直さなければならなくなったわけです。
 ところが、当時市では徹底した経費削減に取り組んでいたため、担当の公園レクリエーション部には予算がなかったわけです。そこで、職員の一人がアイデアを出して、新しいベンチは市民の寄付によって作ろう、そのかわり寄付者の亡くなった家族や親友の名を刻んだプレートを付け、「メモリア ル・ベンチ(思い出のベンチ)」と名付けようということになったわけです。
 募集をしたところ、希望者が殺到しまして、今度は「メモリアル・グローブ(思い出の森)」を計画中とのことでした。このアイデアで約1千万円の予算を節約できたそうです。今年の青年会議所のレンガの遊歩道も素晴らしい試みだと思います。是非とも実現に向けて頑張って欲しいと思います。

 ただ、本当はこうした仕掛けなしに、自分の故郷ですから自然にまちづくりに関心が向くというのが本来なんでしょう。
 祭なんかもそうなんだと思います。お囃子を聞いただけで自然に胸踊りからだが動く、自然発生的に盛り上がる、そうしたものが祭なんでしょう。昨今、行政との関わりも議論されていますが、深谷の祭を何とか盛り上げたいという気持ちで本を書かれた塚本さん、どうでしょうか。

塚本
 私は中山道界隈に育った者として、今の旧市街地の問題をいろいろと考えてみるんですが、大まかに言って3つの課題に集約できると思うんです。
 それは、人間性の回復 経済的波及効果、郷土意識の高揚の3つです。そしてこれらすべてに関わっているのが祭りだと思うんです。
 特に旧市街地の活性化には八坂祭りを中心とした祭りが活気づいて人が集まってくれることが一番大切だと思います。

黒田
 別名「お祭り議員」と異名をとる小島さん、いかがですか。(笑)

小島
 今、子供も大人も地域も一緒になって熱くなれるものといったら祭りしかないんですよ。ですから昔からの伝統ある祭りを通じてみんなとのつながりを確かめ合いたいと思うんです。これからますます祭りは大事だと思います。

清水
 今や地域密着型の人間関係というのはないですね。
 まず第一は利害関係というか取引関係、次に趣味の関係ですね。その他の関係というのがないんですよ。
 昔はご近所付合が主で、後のものはその他だったんです。その辺がお祭りが衰退している原因なんですよ。でも、最近また隣り近所でカラオケへ行ったり旅行へ行ったりが始まってきているようで、皆何か足りないということに気が付き始めたように思います。
 人間ある地域に足を着けて生きているわけで、空中を漂っているわけではないからやはり地元というのは大切なんですね。

黒田
 でも昔の閉鎖的な町内会じゃ、若い人には敬遠されますよ。

清水
 そう、強制的なものではなく、自発的に集まるような形のものですよ。入りたくない人は入らなくてもいいんです。

橋本
 中瀬には7自治会あるんですが、山車が4台ありまして、ここに囃子保存会というのがあるんです。そこで子供たちに囃子を教えているんですが、やはり祭りを通した近所付き合いというのは大きいと思っています。
 中瀬のお祭りは毎年七月の最終土日と決まっているんですが、その時は仕事をしている人はいないくらいに皆熱中するんです。最近は観客が減ってきていますが、祭りは本来見るものではなくて、自分でやって楽しむものです。
 深谷祭りの時にも、中瀬の囃子を深谷の町でたたくという話がありましたが、見せ物じゃないんだ、中瀬でやるものなんだと言わせてもらいました。その時、郷土意識と祭りは深く関わりあっているとつくづく思いましたね。

黒田
 青淵翁も血洗島の獅子舞を大変楽しみにされていたとお聞きしました。

鳥塚
 そうですね。今でも血洗島では獅子舞は大変大事にされていて、興味深いのは、ここのうちは赤飯を、あそこのうちはきんぴらを、またあそこのうちは芋の煮転しをと、昔から持ってくる家が決まっているんですね。
 また、獅子舞が各小字別に回るわけなんですけれども、その時氏子総代や保存会の会長らがまさに羽織袴で先導して歩くわけです。そして、私どもの渋沢国際学園にもいらっしゃるわけですが、この時に限り南門を開けまして、我々も片ひざを着いて出迎えるというのが今も続いているわけです。
 また、青淵翁は 村人を激励するのが大変上手でして、にぼうとを食べながら「今の獅子舞は歌舞伎よりも おもしろかったよ」とおっしゃられたようです。その話が受け継がれているものですから 、保存会の皆さんも後継者育成に大変力を入れているわけです。
 それでも特に笛の吹き手 を養成するのは大変なようで、手製の大きな笛なんで肺活量も必要で、今の子では吹けなくなるのではないかというんです。そこで、笛だけでも集まってもらって笛の音大会でもしてもらったらいいんじゃないかと思うんですが。

黒田
 今。小学校では皆ピアニカを買って練習するらしいんですが、中学になるとほとんど使わないというんで、未来倶楽部の主婦の方が呼びかけてピアニカを集めてケニアに送ったりしたんですが、授業でお囃子の笛の練習でもすれば、こんなのが故郷のまつりにあるんだなあと知るいい機会になると思うんですけどね。

清水
 秩父の方は小学生や中学生が喜んで囃子の練習をするんですね。それは秩父の夜祭りが有名になったから、皆参加しようという意識が出てくるんでしょうね。
 お祭り自体に 関心を持たれなかったら、皆稽古なんかしないと思いますよ。まあ、鶏と卵でどっちが先かわかりませんが、子供たちが塾を休んで練習に出てくるんですから。

小島
 子供が喜んで祭りに出てきてくれるというのが一番ですね。本当にそうしたいですよ。

黒田
 深谷は市民の半数が他の地域から転入してきた方々ですから、やはり祭りもなにか一工夫して関心をもってもらえるようにする必要があるんでしょうね。

佐藤
 今の子供たちは楽しいか楽しくないかである意味シビアにものを判断しますから、なかなか難しいでしょうね。いかに楽をしてお金を儲けるかという世の風潮の中に彼らもありますし、それを大人も容認しているんではないかと思います。
 TVではタレントが昔はよく万引きしてたよと悪びれもせず言ったりしますし、駅ではタバコを平気でポイ捨てしたりする大人を見ているわけです。大人は言ってることとやってることが違うと感じていますから、いくらお祭りを一生懸命やっても、子供の作ったレンガを遊歩道に利用しようとしても、果たして子供たちがのってくるかどうか。もっと根本的なことから改めて行かなければならないのではないかと思います。

 たとえば、駅の自転車を起こすのに苦労していたお婆さんを、ある高校生が手助けしたんですが、そのお婆さんが高校生の校章を見て学校にお礼の電話を入れたそうです。そしてその話をそこの校長先生が朝礼でしたとき、本人はすぐ自分のことだとわかり、とてもうれしかったそうです。
このように普段から 子供たちのいいことは誉めてやり、悪いことには怒ってやることが必要なんだと思います。
 特に皆さんのようなリーダーの方々が、会議の場で言うだけでなく日常の場面で言行一致した態度を子供に示せるかどうかにかかっているんじゃないでしょうか。子供たちからの信頼の上でのお祭りなりイベントでないと子供たちの心からの参加を見ることはできないんじゃないかとおもいます。

黒田
 率先垂範、言行一致で自らやっていくことが大切というわけですね。
 でもまずまわりの人に関心を持つところから始めるべきなんでしょうね。あまりに周囲の人に対して無関心になってしまった、関わりを持つのをうっとうしく思うようになってしまっているのではないかと思います。だから、近所の子供が悪いこと をしていてもしからないし、よいことがあっても誉めてあげない、困っている人がいても助けない、助けてもらっても通り一ぺんのお礼をするだけという風なんでしょう。
 互いが 関心をもついいきっかけが祭りであり、まちづくりなんだと思います。また、関心をもってもらえないと祭りもまちづくりも盛り上がらない。これも鶏と卵です。

清水
 今は親が「学校でしつけをしてください」というんですよ。家族の間でもそうなんです。

新井
 本当にとんでもないことです。祭りでも福祉でも突き詰めると教育の問題に行き着くんですね。やはりいい人材を育てることが国の発展になると思います。
 いま厚生省も県でも 在宅介護を進めようとしていますが、核家族では物理的にも精神的にも無理なんですね。昔のいい意味での家父長制の中では、お年寄りを大切にしなさいというのが普段からしつけられていたわけです。
 祭りにしたって代々受け継がれるべきものなんだと自然にわかったからすんなり入れたんでしょう。このまま放っておいたら大変なことになります。その辺の抜け落ちた教育をなんとかしなければなりません。
 ところで、お祭りもたいへん参考になるんですが、もっと基本的な問題、21世紀の深谷や埼玉をどうしたいのか、工業都市にしたいのか、文教都市にしたいのか、そういったヴィジョンについて若い方の意見を聞きたいですね。
 普段なかなか若い方々の意見が聞けないものですから。だいたい朝日新聞によると2020年には消費税を35%にしないとこの国はやっていけなくなるというんですよ。もっと若い人に政治に関心を持ってもらわないと。「俺達には関係ない」じゃ困るんですよ。自分たちで借金を背負うんですから。

佐藤
 今回の衆議院選挙でも深谷市は投票率が低かったですしね。

黒田
 そのあたり、「若者の政治参加と誇れる郷土づくり」をスローガンに活動している20クラブ会長の坂本さん、どうですか。

坂本
 今回、黒田さんや小島さん、小内さんも一緒にやったんですが、「埼玉新11区公開政治討論会」というのを開催させていただきました。
 新11区の候補者に深谷に集まっていただき、公開の場で討論していただいたのですが、投票率には反映されなかったのが残念でした。やはり、投票に行かない人には政治を批判する資格はないですよ。白票でもいいから 投票には行って欲しい。
 また、子供のうちから政治に関心を持つような教育というのも必要だと思います。
 今、赤字財政や福祉など目の前に重要な問題がたくさんありますが、中長期的な視野で考えるとやはり子供の教育というのが大切だと思います。それともっと政治やまちづくりにも気軽に参加できるようにしていかないとと思います。
 私はサラリーマンなんですが、県南や東京へ通勤しているサラリーマンの多くは、青年会議所がどんなまちづくりをやっているのか、市の政治はどうなっているのか、知らないというか関心がないと思うんです。
 彼らの中にもきっと優秀な人材がいるはずです。それを活かしていくような場をつくっていただきたいと思います。

清水
 それを坂本さんたちが中心になってつくっていかなければしょうがないんですよ。(笑)
 いろんな団体が深谷にもありますが 、みんなで力を合わせてわいわいやるようじゃなければだめなんです。新井さんのいう21世紀のヴィジョンを含めて議論する場を皆さんが作らなければ。決して圧力団体である 必要はないんです。

新井
 ちゃんと議員も聞いていますから。(笑)

坂本
 僕らもまだ40名程度ですが、10年頑張っているんですが、もっとやらなければと思います。

佐藤
 それには子供たちも参加させてあげることが大切です。私は議員になったばかりの時 に、岡部町さんではやったんですが、是非子供議会をやって欲しいとお願いしたんです。
 7、8年前に深谷でも子供の意見を聞くというようなものを他の会場でやったらしいのですが、どの市町村でも議場でやっているんですよ。何とか深谷でも議場での子供議会を実現させて、子供から直接市長に「公園はこんな風にして」と言ってもらえば自然に政治や行政、まちづくりにも関心を持ってもらえると思うんです。

新井
 県会でもやってますよ。

佐藤
 そうですね。それに黒田さんからも話があるかもしれませんが、フリーモントでは夜に議会をやって市民が傍聴しやすいようになっていると聞いていますし。

黒田
 毎週火曜日夜7時からで、ケーブルテレビで全戸に生中継されます。

新井
 県議会のテレビ埼玉視聴率は2%ですよ。(笑)

黒田
 フリーモントでは視聴率高いんですよ。
 傍聴者から意見を言うこともできますし、議員はフリーディスカッションですし、見てて面白いんです。
 それと、むこうでは「子供選挙」というのがあって、実際の選挙と同じ候補者、同じ投票日に選挙をやるんです。候補者の政策も子供にわかりやすいようにパンフ レットにまとめて。おまけに、実際の投票所の隣りに子供用の投票所をつくって、親子で 投票に来れるようにしています。それで投票率もアップしますし、子供も親も政治意識が高まります。
 これ、実は民間の女性の非営利団体(全米女性投票者連盟、もともとは女性の参政権を求めた運動組織で100年の歴史をもつ政治的に中立の団体)が運営してるんですよ。

佐藤
 そうですか。素晴らしいですね。

小島
 そういうしくみも大事だけれど、要はまちづくりは市民がどれだけ「感動と情熱」をもてるかだと思うんですよ。皆それぞれやりたいことがあって、なかなか一つのヴィジ ョンにまとめるというのは無理だと思うんですね。それぞれが一生懸命情熱持ってやることなんだと思います。
 子供をどう参加させてもいいけれど、まず大人が一生懸命やる姿を見せることなんじゃないかと。俺は欠陥だらけで、いい背中を子供たちに見せることはできないけれど(笑)、祭りにしろ仕事にしろ、懸命にやっている姿を見て、それを子供が感じてくれていれば十分なんだと思います。
 世界の貧しい子供たちの生活ぶりを見て、大人が心から涙を流せれば、子供もわかってくれると思います。そうして皆の志が少しづつ上がっていけばいいんじゃないでしょうか。

伊藤
 工業都市とか文教都市とかはバランスの問題だと思うんですよ。
 大事なのは自分の故郷を好きになる人をどれだけ増やせるかだと思うんです。それがここにいる皆の共通した思いじゃないかと思うんです。

黒田
 そうですね。まず故郷に関心をもってもらうためには、歴史的なつながり、あるいは地域という空間的なつながりを感じてもらわないと始まりませんし、そのためには子供のうちから教育をしていく必要があるんでしょう。
 しかもそれは上からの押し付けではなくて内面から自然な形で変われるようにする、そのためには大人が率先垂範して子供に背中を見せる、故郷への情熱を背中から感じさせるようでなければならないでしょう。

鳥塚
 そうですね。坂本さんから教育が大切というお話、感銘をもってお聞きしたんですが、戦後どうも教育が観念論に走りすぎているように思えるんですよ。もっと実践を通して教育をやらないと、小島さん、本当の感動も沸いて来ないんじゃないかと思うんです。
 そこで、ご紹介したいのが市の青少年健全育成会議が大変一生懸命やっている、かれこれ10年以上も続けている「脱いだ靴をそろえる運動」なんですね。
 これは渋澤さんの忠恕の精神、おもいやりとまごころの精神に通ずるわけで、やっぱり足元の小さな実践から偉大な精神に近づいていこうというわけです。
 お世話になった履物をそっと揃えておく、次の人が履きやすいようにほかの人の靴も揃えておく。よく学校教育と家庭教育は車の両輪だと言いますが、それだけでは観念論なんです。このささやかな実践を通じて家庭と学校が近付き始めているという事実があるわけです。

 小島さん、佐藤さん、文教委員会の議員さんを学校に視察でご案内したことがあるんですが、皆、こうささやいているんですよ。「おい、家に帰ったら靴を揃えないと子供に笑われちゃうぞ」と。(笑)
 これを聞いて私は大変うれしく思うわけです。これは八基の公民館の広報ですが、ここに「靴をそろえる運動」(128)とあります。これは八基地区の方が毎回一人づつこの運動に関する感想を書いているわけです。月1回発行ですから、もう10年以上、128名の方が書いていることになるわけです。これは大変貴重な財産だと思うんですね。そろそろ公民館長とも小冊子にまとめて各戸に配ろうと話をしているところです。
 また「青少年健全育成発表大会」というのもやってまして発表する題は自由なんですが、ただ渋澤の伝記を読んだ感想と脱いだ靴をそろえる運動の実践は永遠に続けようと思いまして、これももう10年を超えているんです。
 この本はその発表を全部収録してあるんですが、意外に知られていないんですね。小島さん、佐藤さん、これももっとPRしていただきたいものだと思います。いずれにしても10年続けるというのは大変なことなんですよ。やはり時間をかけないと根付いていきませんね。
 上甲先生が毎日1千字 のメッセージを書かれており、全国に発信されております。私も愛読させていただいておりますが、これも大変なことだと思います。「脱いだ靴をそろえる運動」は永遠に続けてまいりますが、最近は「あいさつ先手運動」というのも始めています。地位の上下、年齢 の高低を問わず、まず先にあいさつしようというものです。
 こんな運動がしっかり根付いていけば、「論語の里」にふさわしいまちになると思います。

黒田
 そういった風土づくりはやはり時間をかけて継続してやることが大切なんでしょうね。

鳥塚
 それと深谷はもっとPRをうまくしたほうがいいんじゃないかと思うんです。
 たとえば、レンガ工場までの遊歩道、あの下には大きな下水導管が走っているんです。渋澤はパリの下水道管にもぐって視察しているんですが、それをもとに東京の下水道計画を立てたわけです。これがいろんな憶測を呼び、実現するまで大変苦労したわけです。
 今から考えれば先見の明が あったわけですが、渋澤が用地買収して作ったレンガ工場の引き込み線跡が遊歩道となり、下には下水道管があり、一部残されているレールもベルギーで王様から鉄を買えと言われたエピソードとからめれば、遊歩道1つでこれだけのことを学ぶことができるはずなんです。
 そうしたものを紹介した観光用の資料をつくって、駅に置いたりタクシーの運転手 に配布したりしてPRすべきだと思うんです。もっと全国に誇っていいものがいっぱいあるんです、深谷には。

黒田
 そうですね。我々ももっと深谷のことを知らないといけませんね。
 誰に何を聞かれてもまちの誰もが説明できるところというのは、それだけみんなが地域に愛情をもっているということなんでしょうから。
 今日の座談会は、行政のハードの部分から始まって、一人一人、またソフトといいますか心のあり方といったものに焦点 が移っていったような気がします。
 考えてみますと大げさな派手なものばかりがまちづくりじゃなくて、深谷のどこへ行っても玄関には必ず靴がそろっている、それだけでも大変なことですし、誇れるまちになるんではないでしょうか。

 今日は大変いいお話を皆様からうかがうことができて良かったのですが、幕末維新の頃の青淵翁を始めとしたこの地域の若者の志と行動を見るにつけ、日本や世界の転換期と言われるこの時期、こうしてこの地に生きている若者である我々は、めいめいの志を果敢かつ具体的に行動に移して世の中を変えていかなければならないのではないか、このことを最後にお願いして座談会を終わりたいと思います。
本当に長時間ありがとうございました。

1996年11月 執筆
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