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1996年7月

巻原発住民投票を考える(1)
黒田達也/卒塾生

 
 6月の月例報告でも述べたように、ついに8月4日、巻原発建設の是非を問う住民投 票が 実現した。結果は建設賛成7904票、反対12478票、投票率は88.29 %という 高さであった。投票結果を受け、記者会見に臨んだ笹口孝明町長は「住民投 票の結果を尊 重し、炉心予定地の町有地を東北電力に売却はしない。従って原発建設 は不可能になる」 と述べた。

 私は投票日前日より4たび巻町に入ったが、今回は全国初の原発建設を巡る住民投票 とい うことで、全国各地から報道陣が詰めかけていた。中には欧米の特派員や横浜の 高校生グ ループなどもいて、1年半前の町民自主住民投票の時と比べると様変りの様 相でであった 。

 これだけ全国レベルの注目を浴びる中行われた今回の住民投票。町民が東北電力や県 、国 にNOを突きつけた結果も手伝って、様々な論点から賛否の声が上がった。以下 、2回に わたり、こうした論点について自分なりに考えたことを述べてみたいと思う 。

1)議会制民主主義と住民投票

 町民自主住民投票の頃、盛んに争われた論点である。笹口現町長は、当時「巻原発住 民投 票を実行する会」の代表として、「現在の議会や町政は、原発建設に対して町民 の意見を 正確に反映しているとは言い難い。町の将来に関わる重大な問題である原発 建設について 、住民が直接意見を表明する場として住民投票を実施すべきだ」と主張 していた。

 一方、当時の町長であった佐藤莞爾氏は、「住民投票は議会制民主主義への挑戦だ。 とりわけ原 発のような高度な政治的判断を要する問題には住民投票はなじまない」と 真っ向から対立 した。

 確かに現行法体系は議会制民主主義を前提として成り立っており、それは民主政治が 衆愚 政治に堕落するのを防ぐ安全弁として導入されているものである。が、果たして 実際に「 住民の意見を正確に反映」し、かつ「高度な政治的判断」をなすだけの人物 が選挙で選ば れていると言えるであろうか。よく選んだ選挙民がそうしたことをいう のはおかしいと言 われるが、議員に立候補しようという者は特定の業種(建設業者、 医者、官僚、政治家の 子弟など)に偏っており、選択する幅がきわめて狭いというの が実情だ。

 また、政策よりも地縁・血縁を優先する選挙習慣の下では、具体的な政策について投 票を 通じて民意を反映させることは困難だ。政策選挙を求めない選挙民が悪いとも言 われるが 、政策に関する行政情報が容易に手に入りにくい環境では、なかなか日常生 活の中で政策 について関心を持つ機会は少ないのである。特に原発に関わる住民投票 では、住民の判断 能力の有無が問題とされ、笹口氏は「2年間の住民投票を求める運 動の中で、巻の住民は 十分な判断能力を身につけた」と反論してきたが、必要な情報 が公開されてない状況で判 断能力を問題にすること自体がナンセンスなのである(確 かに巻の人々は誰に聞いても原 発問題に関して一家言持っており、よく「巻町民なら 誰でも原発問題に関して3時間は議 論できる」と言われてはいるが)。「由らしむべ し。知らしむべからず。」を改めなけれ ば、住民投票でなくても実のある政策選挙は 望めないのである。

 巻町ではこの2年間に町長選挙2回、町議会選挙1回、住民投票は自主管理のを含め ると 2回、計5回もの投票が行われてきた。この間、原発以外の問題について町政は 停滞し、 住民もなかなか落ち着いて市民生活を送れないという問題が一方であった。 本来、十分な行政情報の公開がなされ、幅広い層から選挙に立候補できるシステムが整 った上で、実質 的な政策選挙が行われるならば、議会制民主主義に則った代議制の方 が優れていると思う 。しかし、そうした改革を行っていくのも政治である以上、現在 の住民の総意から乖離し た議会政治を補完し、候補者選挙において公約に基づく政策 選挙を促し、民主主義の危機 といわれる低投票率を改善させる突破口としても、住民 投票を導入すべきだと思う。もち ろん、何から何まで住民投票にかけるというのは非 効率であるので、a)原発、市町村合併などの重要案件および一定額以上の起債を伴う 案件かつb)住民の賛否が拮抗している場合に限り実施すべきであると考える。この意 味では、9月8日の沖縄の住民投票は、b)に関して信任投票に近く、本来ならば4. 8億円もかけて行なうことではないと思われ る。

2)住民投票結果の法的根拠について

 現在の日本の法体系の下では、具体的法案の賛否を問う住民投票というのは、憲法改 正お よび一部地方にのみ制定される特別法以外に認められていない。そこで、今回の 住民投票 について「結果については何ら法的根拠はないのだから、原発建設計画に影 響を与えるも のではない」あるいは「住民投票により心理的、政治的に原発建設が難 しくなった」とい う解説が大半だ。

 しかし、今回の住民投票は、巻町議会の制定した住民投票条例に基づき行なわれたも ので あり、町長は住民投票の結果を尊重することが明記されている。また町有地の売 却は、本 来町長の専決事項であり、国や県の機関委任事務ではない(この点で沖縄基 地問題とは本 質的に異なる)。従って巻町が町有地を東北電力に売却しないという行 為は、巻町におい ては法的効力を持っていると考えられる。問題は、県や国が電源三 法等の法律に基づいて 、町長に強制売却を命ずることができるかどうかである。確た ることは言えないが「東北 電力という民間企業が介在するだけに法的にも難しい」と の声がある。

 ところで、今回の住民投票に向けての運動に関しては、公職選挙法は適用されず、連 日戸 別訪問とビラの配布が繰り返された。特に建設推進派の飲食付き講演会や豪華原 発見学ツ アーは、その運動姿勢が批判された。なぜ住民投票条例に運動に関する規定 を設けなかっ たのか、「住民投票を実行する会」の首脳に聞いて見たところ、「条例 で罰則を設けられ るのは過料まで。実際取り締まるにも県警頼みになる。それなら町 民の良心に期待して特 に規則を作らないほうがいいのではということになりました。 」住民投票に関する法整備 も容易なことではないと思った次第である。

(続きは次回 の月例報告にて)

1996年7月 執筆
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