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2002年11月

「経営」を考える
福原慎太郎/卒塾生

 
 松下政経塾の創設者である松下幸之助氏は「経営」の神様と呼ばれた。松下氏は企業だけでなく個人の人生もいかなる組織も人間の営みはみな「経営」であり、その一番大きなものが「国家の経営」であると述べている。私自身、入塾以来ことある毎に「経営」とは何かを考えてきた。しかし、未だにわかったような気もしたり、実際まったくわからない面がある。企業でいう、決算時に黒字にするというのも経営の一面であると思う。「ヒト」「モノ」「カネ」をいかにうまく使うか、これも経営の一面であろう。

 私が入塾以来考えてきたことをまとめると、「経営」に必要なものは「人間」をどれだけ知り、「人情」をいかに理解することができるか、ということである。

「掃除」から学んだこと

 松下幸之助氏は松下政経塾に初めて入塾してきた塾生に対し、「君たちにはぜひ日本をよくしてもらいたい。そのためにも毎朝早く起きて掃除をすることから始めてほしい。」とおっしゃったそうである。

 現在でも松下政経塾では毎朝6時に起きて、塾の内外を掃除している。はじめは正直言って嫌であった。入塾する際に一番気にかかっていたことであった。掃除をすることではない。早く起きることである。私は朝が苦手なので、できるかどうかとても不安であった。しかし、それは杞憂に終わり、一週間も経たないうちにすがすがしさを覚えていた。思い出してみれば、自動車の営業マン時代も毎朝の洗車から始まっていた。雨の日も風の日も雪の日もお店の外に展示してあるクルマを一台一台洗車していた。お客さんを迎えるためであったが、今考えると自分を磨かせてもらっていたような気がする。

「日本を美しくする会 掃除に学ぶ会」というものがある。カー用品販売の「イエローハット」の創業者、鍵山秀三郎さん(現相談役)の掃除哲学に学ぼうと有志が集まり、平成5年11月に結成された。現在では日本全国47都道府県と外国ではブラジル、中国にも「各地の掃除に学ぶ会」がそれぞれ設立され、合計すると89か所に上る。毎月一度定期的にトイレ掃除などの実習が各地で開催されている。

 私も今年7月、地元島根県益田市の「益田掃除に学ぶ会」に参加させていただいた。そして、2回目の参加で念願の便器磨きを担当することができた。便器を素手で磨くことは抵抗があったが、すぐにそれは乗り越えられた。そして、何とも言えないすがすがしさと共に、目に見えない「力」が自分に湧いてくる気がした。それが何かは言葉にできないが、何かわからない「自信」が付いたことは確かである。

 「掃除に学ぶ会」ではトイレ掃除をする理由として、
  1. 心を磨く
  2. 謙虚な人になれる
  3. 気づく人になれる
  4. 感動の心を育む
  5. 感謝の心が芽生える
という5点を挙げている。

 私は掃除に関してはまだ初心者で、これからもまだまだ学んでいきたいと思っているが、これらは掃除をさせてもらって振り返ってみると、すべて当てはまっている。またこれらはそのまま「経営者の心構え」として、必要なのではないかとも思えてくる。中でも「気づく」ことは何にも増して重要なことではないかと考えている。従業員がどう考えているか、顧客、取引先がどう考えているか、面と向かって言われることもあるだろうが、そうでないこともある。そうしたときに必要なのは、「どれだけ自分で気づけるか」だと私は思う。言われてからやるのでは遅いとも思う。松下幸之助氏もそれを我々塾生に伝えたくて、掃除から始めることを言われたのではないだろうかと私は理解している。

人間を動かす

 この世の中が「人間」で成り立っている限り、人間によってしか良くも悪くもできないのではないだろうか。「理想」と「理屈」だけで何とでもなるのであれば誰も苦労はしないはずである。そう考えると、経営についてもどうしたら一人一人の人間がよりよく動いて能力を発揮するか、が重要になってくる。しかしながら、現実に一時の栄華を誇った企業も、国家も落ちぶれてしまっているのである。
 大東亜戦争の開始を告げたハワイ真珠湾攻撃を指揮した山本五十六元帥は人育ての名人と言われた。そして、「やってみせて 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」という言葉を残している。この言葉は元々は、米沢藩主・上杉鷹山の言葉「やってみせて、言って聞かせて、させてみる」であるが、経営の一番重要な側面を物語っていると思う。


 また、山本元帥は殉職や戦死した部下の名を手帳に書き込み、いつもその冥福を祈り、遺族に詫びる言葉をつぶやいていたという。私はこの言葉に出会って、また山本元帥の人となりを初めて知ったとき、頭を殴られたような気がした。私は軍隊というのは大学の体育会よりももっと上下関係が厳しく、上官の言うことは何でも聞くので統率しやすいものだと思っていた。そして、戦時中は部下が死ぬことはしょうがないと割り切っているものだと思っていた。実際そういう上官もいたかもしれない。しかし、山本元帥はそうではなかった。軍隊であっても人間は、上司がやってみせて、言って聞かせて、させてみて、ほめないと動かない、ということをわかっていたのだ。表向き従ったふりはできるがそれではよい成果は得られない。また、戦争であっても部下の命を大事にし、ずっと詫びる気持ちを持ち続ける部下思いの上司だからこそ部下はついて行ったのであろう。大東亜戦争開戦当時連戦連勝を続け、欧米列強をうならせた日本海軍の強さはこういうところにこそあったのではないだろうか。


 戦争時の軍隊でさえそうだとしたら、平時でさらにいろいろなことを改革していこうとするときに、右肩上がりではない困難の世の中で経営を考えるときに必要なものは何か。「人情の機微を知ることは人生で最も重要なことである。」松下幸之助氏の言葉にあるように「経営」においても「人間」と「人情」をいかに理解できるか。これこそが必要なのではないかと考えている。

 私をはじめ松下政経塾を巣立っていく仲間はどこかで指導的立場、いわゆる「経営者」として社会に貢献することが塾生としての使命である。「経営とは何か、どうあるべきか。」今後も常に自問自答しながら学び続けていきたい。

2002年11月 執筆
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