論考

Thesis

多久市長インターン報告

場所  佐賀県多久市役所 横尾俊彦市長および総務課秘書係
期間  平成15年6月23日(月)~7月7日(月)
目的  市長に随行することで公務の経験、ならびに市長の哲学を体得する

多久市概要

 佐賀県のほぼ中央部に位置し、人口約2万4千人、面積約97平方㎞の四方を山に囲まれた都市である。長崎自動車道の多久IC、JR唐津線などがあり交通の便利はよい。県庁所在地の佐賀市まで約20㎞の距離にある。

自分のなすべきこと

 今回の研修で一番大きなことは自分のなすべきことを改めて考えるきっかけをいただいたことであった。私はこれまで「地域主権の実現」をテーマにかかげ、研修に勤しんできた。その理想に向けて今後も取り組んでいきたいと考えている。ただ、それは手段であり、目的ではなかった。私がなすべきことは「人間が人間らしく暮らせる社会づくり」であり、塾是にもある「人類の繁栄幸福と世界の平和」を実現することである。このことを二週間の研修の中で改めて考えることができた。それは市長という職を通して、また市役所はじめ多くの方々との出会いを通してである。

命懸けの方々に敬意を

 6月23日(月)9時40分頃けたたましいサイレンが鳴った。多久市役所にて研修受け入れの辞令交付式を終えてすぐのことである。10時からの市議会本会議を前に横尾市長はすぐに現場に急行した。幸い火事はぼやで済んだが、火事があった場合にはできる限り現場へ行かれるとのことであった。小さなことだが現場の消防士やかけつけた消防団員の方々も元気付けられるであろう。また、6月30日には消防訓練の激励にも随行した。体を張って訓練をされている消防士の方々を見ながら自然に涙が出てきた。改めて感じたことは消防は命懸けということだ。先日も別の所で若い消防士の方々が亡くなる痛ましい事故があったが、命を懸けて市民の安全を守る消防に携わる方々に市長は常に敬意を払われていた。私もまったく同感である。都道府県であれば警察、国家では軍隊(自衛隊)とそれぞれ命懸けで国民の安全を守っている方々にそれぞれの首長が敬意を払うのは当然である。

身のある文化振興

 6月24日(火)、あるご夫妻が市長を訪ねて来られた。ご主人はドイツ留学経験がおありの神戸市出身のバイオリニスト、奥様は多久市出身のピアニストであった。公園や川のほとりなど自然の中で演奏したり、子供たちにも教えるなど、これから多久市を拠点に活動されるそうである。午後5時を過ぎた市長室でも即興の演奏をご披露され、集まった職員の方々も演奏に聞き入っていた。現在日本全国に多くの公共ホールや美術館がある。それ自体は素晴らしいことであるが、肝心な中身、つまりソフトが不十分なことが残念ながら多い。地元の伝統文化や芸能と共に生の音楽や芸術に触れる機会を提供されるご夫妻に感銘を受けると共に、多久市の皆さんを大変うらやましく感じた。また、こういう一つ一つの積み重ねが「身のある本当の文化振興」なのではないかと思いを強くした。

孔子の里 多久

 多久市には孔子を祀った多久聖廟がある。毎年4月と10月には釈菜(せきさい)と呼ばれる行事が行われている。これは多久聖廟が落成した1708年、第4代多久領主・多久茂文が自ら献官となって釈菜を執り行った(領は佐賀藩の一部)。以来約300年にわたり毎年欠かさず行われており、現在は市長が献官として栗や筍など様々な物を供えている。
 また、多久では横尾市長が理事長を務める「財団法人 孔子の里」が孔子にちなんだ様々な行事や活動を展開している。平成10年度から「全国ふるさと漢詩コンテスト」を行い今年で6回目を迎える。全国各地から300件以上の応募があり、毎年11月に選ばれる最優秀作品は石碑にして設置される。平成6年度から「論語かるた大会」も行われている。これは論語を小倉百人一首のように読み札と取り札に分けた「かるた」にしたもので、子供たちでも楽しみながら容易に論語を覚えられる。私も和歌の入門編とも言える小倉百人一首かるたに長年親しんできたが、論語かるたは大変面白い試みだと思った。一昨年には小泉純一郎首相にもプレゼントされたそうである。その他にも中国音楽講師を招いての演奏会、書道作品展、中国語・太極拳・中華料理などの6教室が行われるなど、幅広い角度から孔子の教えに触れる機会を提供している。これらの催しは復元された「東原庠舎(とうげんしょうしゃ)」で主に行われている。東原庠舎とは時の領主・多久茂文が多久聖廟よりも前(1699年)につくった身分を問わず学ぶことのできた学校で、ここから多くの人材が輩出されている。今回、林口彰・常務理事と事務職員の田島恭子さんにはご案内をいただいたり、資料を提供していただいたりと格別のご配慮をいただき、改めて感謝したい。
 私の地元、島根県益田市でも毎年和歌のコンテストである「柿本人麻呂大賞」を産経新聞社、益田青年会議所などの主催で行ったり、画家の雪舟にちなんだ美術大賞「雪舟グランプリますだ」を行ったりしているが、来場者の数を見る限り市民の関心は残念ながら低い。益田市については別の機会に譲るが、本当の意味での文化の発展のためには「市民の関心や参加」が何よりも重要ではないかと思う。多久でもより多くの市民の方々の関心が増すことが多久の持つ文化資産を現代の文化として蓄積できるのではないかと思う。
 多久聖廟近くには「朋来庵」という観光協会が運営する物産館がある。ここでは誘致されたものも含む地元企業の製品の紹介という面白いコーナーがある。いわゆる土産物以外でも産品と考えるのは当然と言えばそうなのだが、私自身これまでにあまり見た記憶がない。また、売られている商品の多くに「孔子の里」を冠していた。他には「サザエさん」の原作者・長谷川町子さんの出身地ということで、サザエさんを使ったカレンダーやお菓子なども販売されている。特にカレンダーは断られながらも粘り強く交渉を重ねた横尾市長の努力の結晶である。多久市は失礼ながら孔子が実際に来た訳でも住んでいたわけでもない。また、サザエさんの舞台になった町でもない。しかし、このように売り込もうという一所懸命な取り組みがなされている。
 翻って益田市はどうか。益田市はこれまで何度か紹介してきたように、万葉の歌人・柿本人麻呂の生誕終焉の地であり、画家・雪舟の終焉の地という言い伝えが残っている。しかしながら、それらを前面に押し出して特産品の開発や売込みがなされているとは残念ながら思えない。さらに益田市も出資した第3セクターの物産店の「石見空港特産品センター(通称ビービー益田)」は経営難に陥っている。時代、場所、環境などが違うため同じレベルで議論することはできないが、彼我の差をこれから調査していく必要がある。

「食」の勘違い

 多久市北部に岸川という地区がある。この山あいの集落の中に「岸川まんじゅう」を売る店がある。一つ百円前後の蒸しパンのような饅頭であるが、わざわざ買いに来る人が多く、多久の名物の一つになっているとのことである。ここの饅頭は「当日中に食べる」ように注意書きがあった。私はそれを読んで、「日持ちがしないなんて、どういうことだ?」と不親切に思ったが、勘違いしていたのは私の方だった。添加物漬けの現代の食生活にどっぷり浸かっていた私の感覚が完全に麻痺していたのである。現代においては冷蔵庫などの保存技術が発達しているのに、効率最優先で何でも日持ちがするようになっている。しかし、このような食生活をしていて本当によいのか、食文化がこれでよいのか、改めて考えさせられた出来事であった。多久には「岸川まんじゅう」のようなものが残り、しかもそれが中心部から3km以上も離れた岸川地区で売られており、自治体の中の地域文化があることを素晴らしく思ったものである。

地味な市長と陰で支える方々

 私は市長の職にある方は飛行機であればスーパーシートを使い、どこでもタクシーを利用されるものだという先入観がこれまであった。しかし、今回その認識を改めた。二度の出張に随行させていただいたが、飛行機はすべて普通席であった。出張予算を確保するのが難しいとのことだが、私には意外であった。ただ他の自治体の市町村長がどういう対応をされているのかわからない。また、沖縄に出張した際には、那覇空港から市内へはバスを利用した。横尾市長によれば「現地の生の空気に触れることで得るものは多い」とのことで、まさに政経塾の現地現場主義を実践されている。その他東京などでも地下鉄など公共交通機関を多く利用した。市長はいろいろな場所に招かれ挨拶やテープカットを行うので一見華やかに見える。しかし、舞台や映画に出演する俳優やプロスポーツ選手が見えないところで努力をされているように市長もまた同じである。氷山は見える部分の11倍の大きさのものがその下にあると言われるが、まさにそれぐらいの仕事があり、真に現状の改革を推し進めていくには努力を要する。横尾市長に間近で接しながらそのように感じた。
 「リーダーは孤独」と言われるがその一端を垣間見た思いもした。また、年齢に関係なく市長という立場に対して多くの人が敬意を表するので、よほど自分をしっかり持たないと勘違いしてしまう人がたまにいるのも仕方がない。市長という仕事を疑似体験しながら松下政経塾の塾是・塾訓・五誓の意味を噛みしめ、常に自己を磨き強い心を持ち続けることの重要性を痛感することが多かった。
 佐賀県市長会会長、市町村職員共済組合理事長を務める横尾市長の仕事は多忙であり、激務である。しかし、市長を支えるスタッフの方々も同じように忙しい。秘書係の鳥井武係長、福島充子さん、市長公用車運転手の冬野政昭さんの3人で市長や助役を支える。来客も多い市長室・秘書係のフロアにはいつも緊張感がみなぎっている。鳥井係長はスケジュール調整や折衝など、福島さんは出張手配や来客の方々へ絶妙のタイミングでお茶を出されるなど気配りが行き届いている。また、公用車を運転される冬野さんの存在も大きい。朝早くから公用車のチェックに始まり、市長が移動する際には運転、会議などに出席の時もずっと待機、夜遅くなっても次の日に備えて洗車とある意味市長以上に多忙である。冬野さんは過去25年以上にわたり、5人の市長の運転手をされてきた方である。会議などでの待機中に運転手同士の間での情報交換もあり、人的ネットワークも広い。さらに市長は移動中も打ち合わせなど業務がある場合も多く、その時には守秘義務が必要な話が出てくることもある。また、分刻みでの移動が多い場合には公用車が必要不可欠である。現在、経費削減の流れの中で、タクシー会社に委託するなど市長公用車を廃止する動きもあり、私も基本的にその方向に賛成の考え方であった。しかし、このような現実と公用車があることのメリットを総合して考えると、慎重にかつ総合的複合的に考慮した上で判断すべきと感じた。決して一面だけを見て、効率化・経費削減という一方的な見方にとらわれてはならないのである。

市長は経営者

 市長は市役所のトップである。ということは会社で言えば「社長」であり、「経営者」ということになる。松下幸之助塾主が言われた「政治も経営」を実践できるポジションである。多久が孔子に縁があるというだけでなく、横尾市長は論語を大変大事にされている。組織のトップに立つ人間としてである。「古典」と「哲学」の重要性を繰り返し説かれていた。孤独な立場のトップにとって必要かもしれないということはこれまで以上に理解できる気がしたが、やはりその立場の方でないとわからないのであろう。
 研修期間中に様々な方がお見えになられ、地方自治の問題を幅広く扱うだけでなく、国全体の問題にも関わることがわかった。これまで日本の諸課題を考えるときに、政治であれば「国政」か「地方」かということを考えることもあったが、地方と国政では違う面もあるが、扱う部分が違うだけと思うようになった。トップであればすべてに通じることが実感できた。製造業を例に取ると、メーカーのトップも販売からサービスまで通じているが、販売会社のトップも同様に幅広く見ているというのと同じである。そう考えると、規模の差はあるが、市長など首長を経験した方は知事でも、首相でもできそうである。大統領制もしくはそれに近い国が多いが、アメリカ、フランス、台湾など地方の首長経験者が国家元首になるのもわかる気がする。日本にも知事出身の総理大臣が出る日も近いのかもしれない。

アメリカ、東京、中央官庁ではなく、地方、市町村で

 明治維新以降日本は欧米を追いかけてきた。富国強兵による列強入り、戦争を挟んで戦後の驚異の経済成長により世界トップクラスの経済大国になった。しかし、現在の日本人は現状の生活に満足できず、自国に誇りも持てず、未来に夢も希望も持てないでいることが多い。それはなぜか。もうアメリカを見習い、東京、中央官庁に手本を求める時代ではないということではないか。多久に来て改めて感じたことがある。それは「現場には無限の可能性とアイデアがある」ということである。しかし、残念ながらそこに住む市民の方々は自分達が持っている財産に気付いていないことが多い。それは、私の地元益田市でも、日本の多くの地方都市でも同じことが言える。「何もないんです」、この言葉を地方に住む人達は簡単に言ってしまう。しかし、本当に「何もない」のか。私は二千年以上の歴史を持ち、先人たちが日々の暮らしを営んできたこの日本でそれは絶対に間違っていると思う。明治維新後の富国強兵の中で、戦後のGHQ支配の中で、私たちは日本が本来持っている大事なもの、日本にしかない価値観を失ってきた。明治以後のこの130余年の発展の歴史は、別の角度から見ると「日本の伝統・歴史・文化」を捨ててきた歴史でもある。敗戦でどん底に突き落とされながらも、世界のトップにこれだけの短期間でなったことは先人の努力に敬意を表したい。しかし、これからは「真に豊か」と感じられる地域づくり、国づくりをしていく必要がある。そのためには地域や国が持っている価値に気付くことである。
 私は地域や国の価値をそこに住んでいる人々に気付かせることが政治家の役割の一つではないかと考えている。「私たちはできる」、「私たちが住む町は素晴らしい所だ」と繰り返し説く必要があるように思う。アメリカのクリントン元大統領のように「人類史上最も偉大な国」とまで演説で言うかどうかは別にしても、国民に対するメッセージを送り続けることは重要であると考える。現在のブッシュ米大統領、ブレア英首相など多くのリーダーがそうしている。アメリカのような世界をリードする国でさえそうなら、自信を失い、誇りを持てずにいる日本や地方自治体にはなおさら必要である。横尾市長は多久のよさ、価値を大変理解していらっしゃると思う。それがあるからこそ、これまで精力的に動きまわってこれたのであろう。しかし、今回の多久市議会の一般質問において「市長の姿勢が見えない」という旨の質問があった。政治的駆け引きも考えられる中で質問の本当の意図がどこにあるかもわからないし、私の滞在も二週間であるので確証はないが、一般市民から見ると市長という存在は毎日接するわけではないので、見えにくい面も多い。横尾市長も考えられているようだが、今後は「広報活動」をより活発に行うことの必要性も感じた。

マスコミのレベルの低さ

 今回何度かマスコミの取材が入り、同席させていただいたが、そのレベルの低さを痛感した。事前の勉強や準備はほとんどなく、「財政はやはり厳しいか」という質問などには呆れるしかなかった。そういうことは自治体のホームページなどを調べればすぐわかることだが、何でも聞いて、適当に自分たちが意図するように使えばいいと思われているのであろうか。メディアの報道が正しいかどうかを見極める「メディアリテラシー」の重要性を改めて強く感じた。また、他の所でも感じたことだが会議などに入って一番態度が悪いのはマスコミ各社の人々である。だらけた格好、姿勢はとても見苦しい。結局、共通しているのは取材相手に対する敬意のなさ、つまり「取材をさせていただく」という姿勢のなさである。ここにすべての根本原因があるように思えてならない。日本が抱える大きな問題の一つにマスコミがあることを改めて思い知らされた経験であった。

多久市への提案

 最後に、今回二週間の短い間ではあるが、多久市に滞在してみて感じたことをもとに僭越ながら私なりの提案をしてみたい。私の勉強不足による非現実的なものや費用等の関係ですぐ実現できないものもあるかと思うが、何かのヒントになれば幸いである。

1.わかりやすい予算の解説
 わかりやすい予算の見方や解説をした冊子を発行してはどうだろうか。「経営感覚を持った政治・行政」を行うために、トップが経営感覚を持つのは当然である。しかし、それだけでは足りず、職員と市民の双方のコスト意識向上が必要であると私は考える。多久市役所の実情を把握していないが、他の市を見る限りでは財政担当以外の職員の方々は地方財政の仕組みを知らないことが多いようである。それではコスト意識を持った行政は難しいであろう。また、行政職員にも難解な地方財政の仕組みを市民が知ることは通常では考えにくい。しかし、市民にもある程度は財政の仕組みを理解してもらわないことには行政への要求は減ることはなく、無用な反発を招きかねないように思う。また、補助金など中央省庁によりがんじがらめになっている現在の行政の現状を市民に知らせない限り、国政選挙での正しい判断にもつながらない。最近ではわかりやすく解説をした冊子を発行しているところもあり、財政民主主義の観点からも必要だと思う。

2.営業本部の活性化
 「営業本部」の更なる活性化を期待している。多久市は全国唯一の「営業本部」を持っている都市である。私も同様の考えを持っていたが、横尾市長は自ら営業本部長になり、既に実践されていた。「さすが」の一言に尽きる。ただ、その意識が他の職員、市民にも伝わっているかというと私にはまだまだの感は否めない。また、以前はあったようであるが、「営業本部」をホームページなどで前面に出してもよいのではないか。そうすることで市民の皆さんにもより伝わるように思う。市長は見事なトップセールスをされていると思うが、営業本部を活性化していくためにも今後は多くの職員の方々が営業マンの意識を持つようにどうされるのか期待しているところである。私自身の営業の経験からも売る必要がない市役所のようなところではなかなか根付きにくいと思う。販売会社等ではノルマや歩合給など「にんじん」で釣っている面もあるが、市役所ではそうはいかない。本当に心から多久のために尽くしたいと思わない限り難しいように思う。しかし、もともとそのような「志」持って入庁された方が多いはずであり、今後の取り組みを私も一緒に勉強させていただければと思っている。

3.「市長室」の創設
 市長の考え方、メッセージをよりわかりやすく市民に伝え、市民の声を幅広く取り入れるためにも秘書・広報・広聴機能を一括して市長直轄の「市長室」を創設して行ってはどうだろうか。多久では既にケーブルテレビを開設し、市町村では珍しくメールマガジンも発行しているが、今後の市民とより一体となった市政を展開していくには、広報機能の強化によるマスコミへの情報提供が不可欠である。また、現在のマスコミのレベルを考えたとき、ある面ではマスコミへ対抗し独自で強力な情報発信を行い多久市の考え方をしっかり発信していくべき局面も出てくるであろう。そうしていく場合に、現在別々の場所でされている業務を同じフロアですることにより、情報が一元化でき、効率が上がるのではないかと思う。前述したように横尾市長も広報機能の強化に関しては関心を持って検討を始められているので期待して見守りたい。

4.商店街の活性化
 人に優しい商店街はつくれないだろうか。日本の各都市で中心市街地の空洞化が叫ばれ、多久市も例外ではない。多久にも「京町商店街」などの商店街があるが、人通りは多くない。しかし、私は今後の高齢化社会を考えた時には「歩けるまち」というのは重要なポイントだと思う。簡単にはいかないが、老人ホームなどと一体となって整備した、人に優しい商店街づくりというのはできないものだろうか。クルマ社会では郊外の大型ショッピングモールが便利なのはわかるが、高齢者には不便である。地域に根ざした商店街が見直されるときが必ず来るはずであり、多久の商店街はまだまだ再生可能ではないかと私は思う。今後の多久の財産となるよう商工会などと一体となった取り組みに期待したいものである。

5.人を呼ぶしかけを
 多久には人を呼ぶしかけが必要ではないか。多久は最初に触れたように佐賀県の中心に位置し、高速道路・長崎自動車道のインターチェンジがあるなど交通の便利もよい。福岡市からも1時間足らず、佐賀市からも近い。近くには唐津、武雄温泉、長崎など集客力のある場所も多い。市内にも天山、八幡岳などの山々、4つのゴルフ場、「天然温泉ゆうらく」など集客できるものもある。これをより活かすべきではないか。
 残念ながら「多久」の知名度は高くないとは私は思う。さらに福岡、佐賀の人々から意識されているとは考えにくい。多久の人口は2万4千人であるが、周辺に多くの人口を抱えていることを活かすには人を呼ぶしかけをつくる必要があるように思う。私はターゲットを福岡市、佐賀市に絞ってはどうかと思う。福岡市には単発でキャンペーンなどをされることもあるようだが、アンテナショップをつくるのも一案である。車で一時間足らずという地の利を活かして毎日取れたて産品を直送するのもいいのではないか。それこそ多久にしかない「営業本部」の出番である。人口が多いのはもちろんだが、県庁所在地であり、メディアが集まる情報発信都市の福岡市と佐賀市をターゲットにPR活動と売り込みを集中的に強化するのは結果が出やすいと思うのだが、いかがであろうか。

6.景観の取り組み
 山に囲まれているという多久独特の風景を活かさない手はないのではないか。多久は山に囲まれた町であるが、それをデメリットだと思うか、メリットとして活かすかで分かれてくる。私も最初はデメリットだと思っていた。しかし、上から眺める景色のよさと下から見た景観の素晴らしさを感じたときメリットとして活かすべきと感じた。盆地特有の霧がかかるのも幻想的な風景に思わせるのである。コンクリートを極力排し、景観をさらに磨いていくことで、景色のよいところに、おしゃれなレストランや宿泊施設を建てるのもよいであろう。私は滞在中に少し高手にあるレストランで食事をしながらこのように考えた。

7.公共施設の瓦葺
 多久IC、多久駅、将来立替時の市庁舎や公民館、学校などを多久聖廟に模した建物にするといいのではないか。孔子の里がより活きてくるように思うのである。例えば韓国の古都で観光地でもある慶州(キョンジュ)の高速道路のICは瓦葺である。現在の日本では難しい面もあるが、静岡県の掛川ICのように独自のものを採用しているところもあり、将来的に考慮するのも面白いと思われる。

まとめ

 今回は横尾塾員の格別の配慮により、二週間ほとんどの場所に随行、同席をさせていただくことができた。多くの方々をご紹介下さりどこへ行っても困らない環境をおつくりいただいた。改めて感謝をしたい。また、受け入れを担当していただいた藤田和彦総務課長や平原英典人事係長はじめ多久市役所の皆さん、その他お会いした多久の皆さんお一人お一人がお気遣いいただいたおかげで、大変スムーズに有意義な研修をさせていただいた。二週間という短い間ではあったが、自分にとって多久市が「第二の故郷」と思えるようになれたのも、暖かく迎えていただいた皆様のおかげである。多久聖廟の屋根は島根県西部に多く見られる「石州瓦」によって復元されている。これからもこの「瓦のご縁」による「変わらぬご縁」を大事にしていきたい。


佐賀県多久市役所ホームページ http://www.city.taku.saga.jp/
財団法人孔子の里       http://www2.saganet.ne.jp/ko-si/


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福原慎太郎の論考

Thesis

Shintaro Fukuhara

福原慎太郎

第22期

福原 慎太郎

ふくはら・しんたろう

株式会社成基 志共育事業担当マネージャー

Mission

「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~

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