論考

Thesis

「観光立国・ニッポン」を目指して

松下幸之助の先見性

「…日本の景観の美であり、自然の美しさです。フジヤマだけが日本の景観ではありません。山、谷、川、海、これが皆、美景で、日本に来る外人客は例外なくその美しさを讃えています。(中略)戦後、経済自立の道として、工業立国、農業立国あるいは貿易立国などとやかましく叫ばれて、これに多くの金も費やされました。しかし今まで充分な成果を挙げ得なかったのは、決して理由のないことではないと思います。その点から見れば、観光立国こそ、わが国の重要施策としてもっとも力を入れるべきものといえるでしょう。…」(「文藝春秋」昭和29年5月号)

 松下幸之助塾主は今から約50年も前に既に「観光立国」を提唱していた。今年1月24日、首相官邸において第1回観光立国懇談会が開催された。小泉内閣になって初めて「観光立国」が謳われ、日本政府もようやく観光に重点を置き始めた。「観光」とはもともと四書五経の一つ「易経」の一文「観国之光」からきており、「国の文化、政治、風俗をよく観察すること」を意味している。

ようやく動き始めた日本

 今回の観光立国懇談会は、直接的には平成14年のデータで出国者が約1,700万人に対して、入国者が約500万人しかいない現状を改善することから始まっている。平成22年(2010年)までに入国者数を1,000万人にすることを目標にしているが、観光の効果はそれによる経済波及効果だけではない。懇談会でも、「美しい魅力ある日本の形成」、「地域、日本の歴史、文化の再認識による自信と誇りの醸成」、「国際相互理解の促進による世界平和への貢献」などが挙げられており、外国人との交流の中で「日本らしさ」「日本文化」の良さを見直すきっかけとなるはずである。普段気づかない点、ダメだと思っている点に、実は日本や地域文化の魅力が隠れていたりすることも多い。さらには、日本を正しく理解してもらうこと、日本の持つ「ソフト・パワー(映画、アニメ、ゲームなど文化的魅力)」を発揮することで、日本を魅力的な国に捉えてもらうことは、安全保障上の面からも重要である。

 また、「観光立国」とは海外からの入国者が増えるだけを意味するとは思わない。多様な地域文化・資源を活かして多様な魅力ある地域ができることは国内の交流人口増加も可能にするだろう。それは、観光産業による内需拡大が見込めると同時に、地域経済と地域文化の活性化にも寄与する。今後の地方分権・地域主権時代を支えるのは財政的裏づけである。税財源の移譲と共に自立的な「地域経済圏」をつくることが必要不可欠である。日本全体で人口減少が見込まれる中、これまでのような「定住人口」を軸にした地域づくりは極めて厳しい状況である。自立的な地域経済圏創造のためには文化、農林水産業、交通などあらゆる地域資源を活かした「観光」「交流」をキーワードにした「交流人口」を軸にした地域づくりが重要である。

魅力ある「観光立国」をつくるために

 そのためには、これからの「観光」はこれまでのような団体客中心のスタイルだけでなく、個人・少人数グループをターゲットにした大きな意味での「集客交流」を見据えたものにすべきである。「人が動く」そのことが何よりも重要である。現在でも「観光コンベンションビューロー」のような組織をつくる自治体もあるが、これからは、国際交流協会、国内交流団体も含めた一括した戦略が必要であり、組織の統廃合も含めて体制をつくるべきである。また、「観光」=「遊び」のマイナスイメージが日本ではどうしても拭い切れていない。それは芸術やスポーツなど文化面でも言えるが、日本の勤勉さか、生真面目さか、はたまた洗脳のせいなのか。江戸時代のお伊勢参りや芸術文化の隆盛を見る限り、日本人にはそういうものに対する罪悪感はそれほど大きくないはずであり、学校教育も含めた意識を変えていく作業が必要に思えてならない。これは私たちの暮らし方、行き方の問題にも結び付く。「観光立国・ニッポン」を実現し多くの外国人や他地域の人を迎えるためには、「ウェルカム!」精神が必要なことは言うまでもない。それと同時に、私たち自身が楽しみながら地域の文化を掘り起こし、見つめ直すべきである。その過程で得る誇りと自信、日々の暮らしが何よりも魅力となるに違いない。

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福原慎太郎の論考

Thesis

Shintaro Fukuhara

福原慎太郎

第22期

福原 慎太郎

ふくはら・しんたろう

株式会社成基 志共育事業担当マネージャー

Mission

「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~

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