論考

Thesis

松下政経塾「益田フォーラム」報告

今回は平成16年1月31日に島根県益田市にて開催した、松下政経塾「益田フォーラム」について報告する。

開催趣意書全文

 日本は明治維新、戦後と大きく近代化する中で発展し、世界第2位の経済大国になった。しかし、そこで引き起こされたのは環境問題をはじめとする様々な問題であり、地方都市に残ったのは地域経済と地域文化の衰退という現実である。「グローバル」時代が声高に叫ばれ、世界競争時代に取り込まれようとしている中、地方都市の現状はますます厳しさを増している。しかし、「グローバル化」は人間が真に豊かに、人間らしく生きていく道であろうか。また、「グローバル化」に対応することしか道はないのであろうか。

 私は、これからの地方都市に求められるのは、これまでのようなアメリカ・東京「しこう(志向、思考、嗜好)」ではなく、足元を見つめ直し、文化を掘り起こす「ローカル」な視点ではないかと考える。過疎化、高齢化が進む地方都市ではあるが、磨くことによって光る宝、資源がまだまだ埋まったままになっている。が、多くの地域ではその価値に気づかず、「何もない所」という言葉を簡単に発してしまいがちである。他のどこにもない「オンリーワン」の地域をつくること、それが現在の地方都市が真剣に考えるべき道である。その答えはアメリカや東京など外ではなく、足元にある。今こそ「グローバルに考え、ローカルに行動する」ことを実践すべき時である。

 経済的豊かさを達成した今、私たち日本人に必要なことは精神的な豊かさを生み出す文化、持続発展が可能な経済をつくり出すことである。その大きな役割を果たすのは他でもない、地方都市ではないか。そして、それは多様性を持った地域の集合体としての日本、国際社会をつくることにもつながり、結果的に真の平和を生み出す基になる。このフォーラムでは、島根県益田市を題材として、足元の地域文化を見つめ直すことで、地域の活性化に結び付ける方法を、地域文化に携わる方々、地方都市の活性化に辣腕を振るう市長と共に考えていく。

基調講演講師・パネリスト

横尾 俊彦 (佐賀県多久市長、松下政経塾第1期生)

 昭和31年、佐賀県生まれ。松下政経塾卒塾後、九州にて「まちづくり請負人」として活躍。フットワークのよさを活かして佐賀県鹿島市での「ガタリンピック」などを手掛ける。益田市へ飛び込み調査も経験。平成9年より多久市長。現在二期目。「市役所は市民に役立つ所」、「市長はCEO(最高経営責任者)」をモットーに経営感覚を持った行政運営を進める。「営業本部」の創設、「ISO9001」の取得など、斬新な施策を打ち出す。多久市は孔子を祀った「孔子廟」があり、「論語かるた」の作成などを通して論語およびそれらに関する文化の普及を図る。また、長谷川町子の出身地であることを活かし、「サザエさん」の多久市カレンダーを粘り強い交渉の末に作成。著書に「青年市長 ニッポンの新世紀」(共著)。佐賀県市長会会長、財団法人孔子の里理事長など。

秋田 千鶴 (益田あけぼのライオンズクラブ会長)

 昭和20年、島根県出雲市生まれ。益田市西部の日本海を望む絶景の場所でペンションを経営するかたわら、古布を使った作品展を企画するなど地域の文化活動に多岐に渡り参加。中国地方で3人しかいない伝統工芸品地産プロデューサーも務めた。その他にも、島根県文化財保護審議会委員、益田市行財政改革審議会委員など多数務める。平成8年からはNHKラジオ「列島あさいちさん」の「あさいちレポーター」を務めるなどテレビ・ラジオ等へ多数出演し益田を全国にPR。今年度は全国でも珍しい「益田糸あやつり人形」(島根県無形文化財)の振興にも力を尽くす。現在、益田あけぼのライオンズクラブ会長。

佐藤 聞雄 (「劇団くちぶえ2001」脚本・演出)

 昭和35年、奈良県生まれ。「益田、石見に住むことに誇りを持とう」というテーマで子どもミュージカルを脚本、演出。平成12年、(社)益田青年会議所が中心になって開催した「人麻呂フェスティバル」をきっかけに設立された「劇団くちぶえ」の子どもたちのために、奈良県より毎週土日に益田へ4年間通い指導を行う。「劇団くちぶえ2001」は益田市内の各イベントをはじめ、広島フラワーフェスティバル、山口きらら博など県外のイベントにも出演。社団法人桜井青年会議所卒業。現在、奈良県司法書士会事務局長。桜井ライオンズクラブ所属。ミュージカル劇団アートネットワークSUMOH代表。

田原 淳史 (益田市在住・一般市民代表)

 昭和48年、益田市生まれ。地元高校を卒業後、静岡の大学へ進学。大学卒業後、島根県に帰り就職。在学中は外から、就職後は島根県の中で見た郷土、益田について考える。その後、仕事の関係で益田に戻り、友人達と郷土について考え、議論する機会も多い。郷土への熱い想いを持つ若手の一人。現在、島根県埋蔵文化財調査センター勤務。

福原 慎太郎<コーディネーター> (松下政経塾第22期生)

 昭和48年、益田市生まれ。早稲田大学教育学部理学科地学専修卒業。本田技研工業(株)勤務を経て、平成13年財団法人松下政経塾に入塾。「地域主権の確立」、「地方都市の活性化」を研修テーマにし、市町村中心の政治行政体制の確立を目指す。益田市役所合併推進室ならびに佐賀県多久市、山口県柳井市での市長インターン研修等を行う。また、小学校から取り組んでいる「小倉百人一首かるた」を通じて地域の活性化、益田をPRする活動を行っている。現在、益田市かるた協会副会長。

 基調講演では、横尾俊彦市長に、地域文化を活かした活動の実践例として、「まちづくり請負人」としての経験、また、多久市長に就任してからの実例をお話いただき、パネルディスカッションでは、各パネリストの方々が考える地域文化発掘における現状と課題等について議論していただくことをお願いした。

開催までの道のり

 今年度から卒塾生一人一人がフォーラムを開催することになった。松下政経塾を正しく理解していただく広報活動の一環として、また卒業発表の一環としてである。結論から言うと、様々なことを経験させてもらい、大変よい勉強をさせていただいた。また、いろいろな出会いをいただいた。

今回こだわった点

1.面白いパネリスト

 これまでに何度か各種フォーラムに参加したが、「決まりきったパネリストによるありきたりな話」も残念ながら少なくない。地域の課題にかかわらず諸問題を真剣に考えるのはもちろん重要である。しかし、「遊び心」というか「面白さ」がなければ考えたり、聞く気にもなれない、と思ってしまいがちなのも人情である。今回はそういう意味で、「面白そうな話」をしていただると考えた4人の方々に依頼し、快くお引き受けいただいたことは感謝の念に耐えない。

2.商品販売

 今回は、松下政経塾関連書籍と多久市の産品を販売させていただいた。収益を上げることが目的ではない。松下政経塾を一人でも多くの方に知っていただく際にはいろいろなものが必要である。松下政経塾に関する書籍があることすら一般の方々にはわからない。そこで、「松下政経塾塾長講話録」など三点と松下幸之助「人間を考える」を受付にて販売させていただいた。また、横尾市長にお願いして「論語かるた」、「サザエさんカレンダー」、「論語日めくりカレンダー」の三点をお持ちいただいた。せっかく素晴らしい先進事例、取り組みをされているので、ぜひ現物を見ていただきたい、知っていただきたい、との思いからである。おかげさまで、多久市からお持ちいただいた商品は完売であった。特に、「論語かるた」は経営者の方を中心に好評で、論語かるたの今後の広がりに期待感を持った。

3.交流会

 これまでのフォーラム参加経験から、交流会があると非常によいと感じていたので、交流会も追加で企画した。パネリストの方々と話せたり、参加者同士の交流ができたりと、フォーラムへの参加の価値が格段に上がると私自身は感じている。おかげさまで、約60名の方々にご参加いただき、大変な盛況であった。松下政経塾の価値は「ご縁をいただく」ことにあると私は考えている。今回も「それぞれの皆さんにとっての出会いの場」をぜひ提供したいという強い思いがあった。参加していただいた方々それぞれによい出会いがあったように感じている。人間は一人では何もできない。みんなで協力していくためにはやはり「出会い」から始まるのではないかと思う。

開催してみて

 一つのイベントを企画し開催することは、自分にとって初めての経験であった。場所の選定・交渉、多くの段取り、参加依頼の訪問と目まぐるしいものであった。当日が終わると本当にホッとしたものだった。「肩の荷がおりる」という言葉が実感できるほど気持ちが楽になった。しかし、多くの皆さんの支えがあってこそ開催することができたのである。フォーラムに関わっていただいたすべての皆さんに感謝したい。大変なことも多かったが、実に充実した準備期間であった。反省点を活かしながら、よりよい松下政経塾フォーラムが開催できるように今後も努力していきたいと思う。

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福原慎太郎の論考

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Shintaro Fukuhara

福原慎太郎

第22期

福原 慎太郎

ふくはら・しんたろう

株式会社成基 志共育事業担当マネージャー

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「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~

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