論考

Thesis

「スロータウン」で地域再生に活路を

戦後日本経済の高度成長時に人口が都市部へと移動する中で各地域は様々な振興策を打った。企業誘致、美術館や博物館などのいわゆるハコモノの建設、リゾート開発などである。しかし、誘致した工場も産業構造の変化の中で国外へ流出するなど存続が難しい状況である。国も5度にわたる「全国総合開発計画」などで地域振興を図ったが、過疎過密の問題は解決に向かっていない。そればかりか中山間地をはじめとする多くの過疎地域は少子高齢化の流れの中で存続の危機さらされているのである。私もこのような状況の中で、どのようにしたら地域の雇用確保など経済の活性化をできるのか考えていたが、「ディズニーランド」を少し真似したような借り物が無意味なことは「宮崎シーガイア」や「ハウステンボス」の経営破綻が象徴的に示している。これまでに多くの地域で多くの方々が苦労をされてきたことであり、簡単に答えが見つかるはずがない。

 そのようなときに「スローフード」という言葉を耳にした。1986年にイタリアで始まった伝統的な食を大事にしていこうというNPO運動である。

(1)消えてゆく恐れのある伝統的な食材や料理、質のよい食品、酒を守る。
(2)質のよい素材を提供する小生産者を守る。
(3)子供たちを含め、消費者に味の教育を進める。

という指針を掲げ、1989年に協会を設立、現在7万人以上の会員を持っている。私はこの考え方が地域振興に活かせるのではと思ったが、確信を持つまでには至らず、具体策も見えてこなかった。が「スロータウン」という本に出会い確信を持った。

 平成14年6月7日、三井物産戦略研究所国土・地域振興室の園田正彦室長による「スロータウン構想」の提案に賛同した全国12市町村から成る「スロータウン連盟」設立準備会(研究会)が発足され、基本理念、活動内容などについて活発な議論がなされた。そして、平成14年11月1日、三井物産本社において、「スロータウン連盟」設立総会が開催された。「スロータウン連盟」は、効率、利便性を重視し、常に新しいものを追求する「スピード社会」と、万事手間隙をかけて物事を深く追求し、“保存・再生”に重点を置く「スロー社会」という二つの社会(社会システム)が共存する懐の深い社会を構築し、国民一人ひとりの幅広い選択が可能となる、真に“より良い人生”を実現することを目的としている。

 設立にあたっては、趣意に賛同する52市町村が設立発起人として参加し、今後、基本理念の広報、啓発活動を主として、参加市町村ですでに取り組まれている保存再生活動を集めた書籍の出版や、世界に発信するための「スロータウン宣言」の作成、またホームページの開設、機関紙の発行などの活動を展開していく予定とのことである。

 園田正彦室長は「保存ではなく再生」、「黒澤映画のように一つ一つ手を抜かずにすることが重要」と私とのインタビューでお話をされた。また、「まちづくりは思いや目的がそれぞれ違うので、国づくりより難しいのでは」とも言われた。

三井物産戦略研究所(http://mitsui.mgssi.com/world/0211/toku_05.html

 先日「スロータウン連盟」に加盟している岡山県赤坂町を訪ねた。ここでは赤坂町を中心に「株式会社赤坂天然ライス」を設立し、町の米である「朝日米」を使い、町の水を使い、町の雇用を増やし、と全てを町でまかなっている。

★赤坂町の概要(岡山市の北約20km)
人口:5,268人(平成12年国勢調査)
面積:42.99平方キロメートル
産業別人口割合:1次20.9%、2次29.0%、3次50.1%

★(株)赤坂天然ライスの概要
設立:平成7年3月22日
資本金:95,000千円(設立当初70,000千円)
出資比率:赤坂町71.5%、岡山パールライス(株)10.0%、三井物産7.4%他
従業員:121名(内パート100名)
売上高:2,052,724千円(平成13年9月期)

 社長でもある難波勉赤坂町長は「経済の循環構造を変える必要性」から設立されたとのことであった。確かに現在議論されている地方主権への最後の切り札であり、最大の難関である「税財源の移譲」が実現しても客体がなければ地方の自立はいつまで経っても進まない。江戸時代は各藩が自立し、多くの特産品をつくった。それが現代にも続いている。現在の地方においても生産・加工・販売という一連の流れをどうつくるかにかかっているとも言えるのではないだろうか。農業によって採れた作物を加工することで「付加価値」を付ける、これからの日本の地域経済を支えるカギを握るであろう。(株)赤坂天然ライスはその一つの試みとして大変意義深い。平成7年10月末の創業以来平成13年9月期決算までの6年間の累計売上額が百億円を突破するなど地域経済に与える影響も大きい。ただ、自動車や電機メーカーと同じく商品は真似をされるなどして類似のものが出てくるらしく、マンネリ化をどう解消するかがポイントとのことである。「付加価値」を上げていくには研究・開発部門の拡充が重要になってくるように感じた。

「スロータウン連盟」では、保存・再生活動として、(1)地産地消、(2)農家リフォーム、(3)郷土文化、郷土芸能、郷土工芸品、郷土料理のリニューアル、(4)里山、里川、里海、ふるさとの心の保存・再生、(5)自然エネルギーの再生などを掲げており、それぞれの地域の固有のものを磨き上げて活用しようとしている。

 農業だけでなく、地域文化再生、これまでとは違う「新しい観光」の提案、など地域に根ざした息の長い、持続的発展のできる経済の活性化ができるのではないか。それには「時間と手間ひま」をかけて地域発の「オンリーワン」を創出することが必要である。「スロータウン」の動きは今後も全国各地で広がっていくことであろう。私もこの一端を担うべく今年は自分なりの提案をしていきたい。

引用文献

  • 「スロータウン」 園田正彦 ぎょうせい
  • 「町おこし」の経営学 三井物産業務部「ニューふぁ~む21」チーム編 東洋経済新報社
  • 三井物産戦略研究所ホームページ
  • (株)赤坂天然ライス会社案内・概要 赤坂町

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福原慎太郎の論考

Thesis

Shintaro Fukuhara

福原慎太郎

第22期

福原 慎太郎

ふくはら・しんたろう

株式会社成基 志共育事業担当マネージャー

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「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~

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