Thesis
平成12年4月に「地方分権一括法」が施行されたが、地域づくり、地域のお金の使い方について、自ら決める、自ら責任を持ついわゆる地方分権、地域主権をより現実のものにするには、住民に最も近い市区町村などの「基礎自治体」の充実が望まれる。
変動する国際社会への対応と少子・高齢化社会への対応の条件下で個性豊かな地域社会の形成の両方に対応するためには「補完性の原理」を確立する必要がある。「補完性の原理」とは、民主主義国家の下での個人が所有する社会的権利・義務は、本来、その個人に最も身近な基礎自治体(市町村や都道府県)に帰属すると考え、その基礎自治体よりも、もっと広範囲か上位の自治体(州や国)に帰属させた方が望ましい個人の社会的権利や義務については、基礎自治体から上位の自治体に委譲されるべきという考え方である。したがって、より上位の行政自治体(州や国)は基礎自治体(市町村や都道府県)の本来機能を補完するだけである。「補完性の原理」は、マーストリヒト条約が加盟国の外交・安全保障政策、経済・通貨の統合などのほか、超国家機関としてのEU設置を正式に発足させたのと同時に確立した行政理念でもある。
また、住民に一番身近な市町村を基本にした体制にすべきことは1949年のシャウプ勧告でも指摘されている。
基礎自治体は明治初めには7万余りあったものが、二度の大合併期を経て現在は3千余りになっている。現在も3度目の大合併期を迎えており、更に減少が見込まれている。また、(政令)指定都市、中核市、特例市など「市」の種類も増えてきている。「(政令)指定都市」は地方自治法で規定されている人口50万人以上の市で、当初(昭和31年)は横浜、名古屋、京都、大阪、神戸の5市が指定された。その後福岡、札幌、さいたまなどが指定され、現在13市である。「既存の政令市と同等程度の規模と能力を有する」という基準のために、実際は人口が約百万人程度にならないと指定されていない。ただ、今回の市町村合併論議の中で、合併した場合は70万人程度でも指定されることになり、今年4月に静岡市と清水市が合併して誕生した新しい「静岡市」も指定される予定になっている。
中核市は(1)人口30万以上、(2)人口50万未満の場合は、面積100平方キロメートル以上が要件になっており、愛知県豊田市、岡山市など37市が対象である。特例市は人口20万以上であることが要件で、神奈川県茅ヶ崎市、滋賀県大津市など58市が対象である。
また、一般の市と町村の違いは(1)人口5万人以上、(2)中心市街地を形成していている区域内にある戸数が全戸数の6割以上、(3)都市的形態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が全人口の6割以上、が要件になっている。
政令市については、もともとの議論の際に県を越えた直轄も見据えていたことから、現在のような要件になったと思われるが、法律と実際が余りにかけ離れているように思えてならない。中央官庁による裁量の典型的なものではないか。また、政令市、中核市、特例市、一般市というような細かな区分けが必要なのであろうか。私には中央官庁が権限を小出しにしているようにしか思えない。韓国の広域市(釜山、大邱など6市)、中国の直轄市(北京、上海など4市)のように都道府県を越えて中央政府と直接結びつくのであればよいが、日本では都道府県の合併などによる機能強化や「道州制」の実現により、地方分権体制をより強くすると思われるので、人口50万人以上は政令指定都市として認めてよいのではないか。また中核市、特例市、一般市の権限をもう一度見直すべきである。基本的には基礎自治体で行い、それを補完していくという「補完性の原理」を徹底しないで、現在のような小出しの分権では本来の意味での分権には程遠いのである。
おそらく、現在の市町村合併が進めば都道府県をどうするべきかという議論になるであろう。神奈川県を例にすると既にその必要性が垣間見れる。県人口は849万人である。そのうち、政令市の横浜(340)と川崎(123)だけで54.5%を占め、中核市の横須賀(43)、相模原(60)を入れると66.7%と3分の2を占める。これに特例市(藤沢38、茅ヶ崎22、平塚25、小田原20、大和21、厚木21)を加えると、合計713万人に上り、県人口の84%を占めることになり、おのずと県の役割が問われてくるであろう。「首都圏連合構想」を公約に掲げた松沢成文塾員が神奈川県知事に当選したことや、青森、秋田、岩手の合併など既に動き始めている面もあることから、この流れは今後ますます加速していくと思われる。(カッコ内は人口:平成12年国勢調査)
また、日本の大部分を占める町村をどう考えるかは今後十分に議論していくべきである。平成14年11月1日に行われた第27次地方制度調査会第10回専門小委員会では合併しない町村は権限を返上すべきとの西尾私案が提出され、全国町村会などの猛反発を招いた。財政難の中の行政コストとも関わることであり、自治の根幹に関わる部分であるので慎重に議論されなければならないし、住民が自ら決められるよう、進めていく必要がある。
地方自治は住民自治であり、住民が「主役」である。「主役」であるためには私たち自身がより一層の「主体性」と「責任」を持つ必要がある。「自分達の地域をどうするか」という視点が最も重要である。現在議論されている市町村合併も私たちに一番身近な基礎自治体である市町村がどうあるべきかという視点で考えなければならない。また、市町村は「末端行政」ではなく「先端行政」というように発想の転換をすべきである。
Thesis
Shintaro Fukuhara
第22期
ふくはら・しんたろう
株式会社成基 志共育事業担当マネージャー
Mission
「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~