論考

Thesis

伝統産業の可能性

2001年はイギリスにおける日本年であり、両国の関係をいっそう友好なものにするべく1500もの文化事業がイギリス全国で行われている。その幕開けとなったのはロンドン・ハイドパークにおける「MATURI」であり、2日間で20万人を動員する大盛況であった。その他の事業も現在のところマスコミの報道も含めて反応は上々とのことである。

 私は現在ロンドンにおいて活動しているのであるが、その目的のひとつがこの日本年事業の一環として10月にビクトリア・アルバート美術館にて行われるイベント「Neo Japanesque2001 SATORI」の広報活動である。このイベントを実施する団体は「日本伝統文化近代化促進協議会(J-ART)」という団体であり、関西(大阪)を拠点に世界各国で活動している。私の京都での活動において接点があり、以来お手伝いをさせていただいている。

 この団体は現在の日本において、特に京都において非常に重要な活動をしているとともに、確かなビジョンと行動力をもった珍しい任意団体である。どのような活動をしているか、またなぜ私が可能性を感じるのか説明したいと思う。

 塾生としての私の問題意識‐文化を柱とした日本・京都の再生‐において京都経済の構造改革は重要である。現在の日本の伝統産業が直面している課題・・・京都をはじめ不況にあえいでいる・・・は、決して一時的な経済不況によるものではなくもはや存在意義を問われる危機的なものである。つまりマーケットで売れるものを作ることができなくなっているのである。人々の需要を満たす製品を作ることができない技術は、姿を消すかいわゆる伝統として保護されていく。そしてこのJ-ARTは真正面からこの問題に取り組んでいる。

 J-ARTのミッションはその名のごとく日本の伝統文化の近代化を促進することである。今回の展示会では、日本独自の技術・素材・デザインを使って現代風に新しくアレンジした着物・インテリア・ファッションを展示する。協力している団体、職人も日本においてトップレベルの人達ばかりであり、まさに日本の技術の粋を集めたという表現がぴったりである。展示される着物の中で一着が美術館に寄贈される予定である。  日本の伝統技術というのは間違いなく世界のトップレベルである。繊維をとってみれば生地・縫製技術はピカイチだし、インテリア、工芸、陶器など枚挙に暇がない。職人道という道を極めることで、世界でもっとも高品質でもっとも繊細なものづくりを可能にしてきた。特に京都はこの伝統の宝庫であって実際に物に触れてみると圧倒的な洗練度がある。

 しかし、高度成長など時代の大きな変化により人々のライフスタイル・価値観も大きく変化し、需要構造も変わった。着物を例に取ると、普段着として日常的に着ていた時代から、卒業式・成人式など特定の日にしか着ない時代へと変化した。需要は低下し新しい需要を掘り起こすことを求められた。技術の中には時代に適応できずに消えていったものもあれば、1000年以上にわたって徐々に姿を変えながらも生き残ってきたものもある。要はその時代にあったものづくりと技術をうまくマッチングできるかという問題であろう。

 一般的に伝統産業というと、補助金漬け・後継者不足など何か後ろ向きのイメージがありがちである。しかし私はこの分野に非常に大きな可能性を感じるのである。要はどうプロデュースするかの問題であって、伝統産業が保有している資産(技術・人材)は世界に誇れるものである。世界のファッション・デザインの中心になりつつあるロンドンの雑誌で目に付くのは、いわゆる日本テイストをうまくアレンジして取り込んだインテリア・ファッションである。イギリスのクリエイティブ産業は高い成長力とホテンシャルを秘めた分野でありロンドンがもっとも輝いている分野でもある。新しいものづくりは市場に受け入れられて初めて輝くのである。

 今日本の伝統産業にかけているのは、自分たちの技術・デザイン感覚は世界に通用するだけの力を持っているという認識と、マーケットのニーズをうまく商品化できる近代的な経営感覚、の二つであろう。デザイン・インテリアなどクリエイティブ産業は今後日本においても成長産業であり、ソフトパワーの時代においてその中核をなす分野である。そして前述の二つを京都に取り戻すという意味で、私はJ-ARTの活動に参加している。

 行政の伝統産業支援など後ろ向きの投資経費が多い中、私には今後の伝統産業の復興のプロセスがおぼろげながら見えているのである。今年度の活動の中で何らかの成果にできればと考えている。

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二之湯武史の論考

Thesis

Takeshi Ninoyu

松下政経塾 本館

第21期

二之湯 武史

にのゆ・たけし

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