論考

Thesis

地域経営

今月は、地域主権(地方分権ではない!!)による地方政治を志す塾生との間で多くの議論をたたかわせて、自分なりの地域政治に対して多くの示唆を得ることができた。将来首長を目指す人間として、私の考え方を提示したい。

 現在、国の財政とともに地方財政は非常に苦しい状況におかれている。地方債の残高だけで250兆円を超える規模であり財政非常事態宣言を出す自治体も増加している。そのため多くの首長は財政再建を第一に掲げ、地域経営に関する議論も経済的効率化に終始しており、いかに地域が自立した経済システムを構築するか、といった議論が抜け落ちている印象は否めない。どういった産業を基幹に位置付け、どういった人材を輩出し、どういった都市文化を築いていくのか、最も大切な部分、つまりはビジョンが欠落しているのである。

 戦後日本は「均衡ある国土の発展」を合言葉に、徹底した全国画一政策をとってきた。税財政行政、建築行政、教育行政、あらゆる部分で国家の指導のもと玉虫色の政策が施され、日本総「金太郎飴」状況が生み出された。地域独自の産業構造、特色ある景観、個性あふれる人材、など明治期の日本まで見られた多様性は著しく損なわれた。外国人に対して、観光地としての日本が全く訴求しないのはこれを証明している。

 わが国の発展の歴史を見ると、特に江戸期における幕藩体制下において地域の独自性は大きく花開いた。独自の通貨を採用し、独自の教育機関で子弟を教育し、独自の経済構造を築き上げ、国土の多様性は醸成された。事実、当時日本を訪れた外国人の記述によると、日本は世界で最も美しく多様な国だと言われている。また明治維新期に個性あふれる維新の志士が全国各地で生まれたのは、この多様性に担保されたと言える。

 多様性を確保することは生物学的に言っても非常に重要で、そのために遺伝子という神秘のシステムを確立したのである。多様性を失った生物、国家はわずかな衝撃によっても非常にもろい体質を作り上げてしまう。

  地域経営において最も重要なポイントは、どういうビジョンを持っているかに尽きると思う。「元気な町」「活力ある都市」「市民がいきいき暮らせる社会」というのはビジョンではない。あまりに抽象的で、必然性がない。その地域が持つ生活文化、歴史、などに基盤を置き、地域独自のコア・コンピタンスを分析し自らが得意とするところを重点的に伸ばしていけるようなビジョンが求められている。

 しかし現実論として今日の異常な財政状況は、ビジョンから演繹される個別的な政策を実現する上で大きな障害となり、首長の第一の関心となるのも理解はできる。われわれ塾生としても、誰もが忘れてしまった理想を持つことと同じくらい、現実を踏まえることは重要である。そこで20期生の同士と「地域経営研究会」を立ち上げ、共通のテーマである都市計画、公共事業、地方税財政、観光などの研究をすることにした。ビジョンと現実、理想と経済合理性のバランスを塾生の間に養うことが目的である。

  事務的に長けた官僚出身の首長が求められる時代ではない。ビジョンとアイデアを持ち、それを強力に推し進めるリーダーシップを身に付けた首長こそ今地域を救える存在であると確信している。

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二之湯武史の論考

Thesis

Takeshi Ninoyu

松下政経塾 本館

第21期

二之湯 武史

にのゆ・たけし

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