論考

Thesis

世界的危機と日本の対応

政経塾の塾生として、9月11日にアメリカで起きたテロ事件は非常に衝撃を受けた。普段想像もできないような規模のテロである今回の出来事は、自分活動のテーマの延長上にあるもののまったく考慮にいれていなかったといっても過言ではなく、未熟さを感じている。

 日本の報道を見ていると、今回のテロを「文明の衝突」と見る傾向が強いように思われる。アメリカという世界で唯一の超大国、同時にキリスト教文明を代表する国家に、イスラム教徒が反乱を起こしたという見方であろう。イスラエルの建国以来、アメリカはユダヤ人社会を全面的にバックアップし、パレスチナ人の恨みを買ってきた。しかし、キリスト教とイスラム教との対立は十字軍の時代まで遡ることができ、「文明の衝突」は約1000年続いていることになる。

 解釈はいろいろあろうが、事態は確実に「文明の衝突」に近づいているといえよう。アメリカの兄弟国イギリスはいち早く全面的な支援を表明したし、文明を共有するヨーロッパ諸国はそろってアメリカを支持し、空爆に参加する用意を表明している。一方、中東、東南アジア、中央アジアのイスラム諸国はアメリカの空爆を非難し、デモを繰り返している。唯一引き裂かれているパキスタンでも、一般市民レベルの感情はアンチ・アメリカである。

 確かに、6000人もの人命を奪ったテロ事件は許されるものではない。アメリカの対イスラム外交政策に対して多少同情する人はいるものの、この非業な事件は決して許されない。しかし、アメリカのリベンジはかえって文明間の対立を助長する結果となってしまっている。国連施設への誤爆、多数の一般市民の犠牲、など予期せぬ事態の発生に世界の世論はアメリカの空爆に懐疑的になっているのも事実である。

 現在私が滞在しているイギリスでも、世論は圧倒的にアメリカ支援というわけではない。ご存知のとおり、イギリスは非常に多人種社会であり、もちろんイスラム人社会も非常に影響力を持っている。テレビでは一般人が自由に討論する形式の番組が毎晩放送され、非常にバランスの取れた議論を行っている。「テロとの戦争ならなぜアイルランド・スペインのテロ組織を空爆しないか」「何をもって戦争を終結させるか」などなど。

  何よりも日本の対応には疑問が残る。日本の精神性というのは神道の八百万の神の思想を受け継いだ、「万物を受け入れ認める」ことに本質がある。宗教的に見れば最も理解しやすい。神道、仏教、キリスト教、イスラム教、あらゆる宗教が衝突なしに共存し、生活文化にまで落とし込まれている。今回の戦争を文明の衝突とするなら、どうしてこの精神を世界に主張できないのか。いまもっとも求められているエッセンスが日本の社会に根付いているではないか。

 東アジア各国は、そろってアメリカ全面支援を打ち出している。誤解を恐れずに言えば、世界でもっとも長い歴史をもつ日本、中国こそ今回の戦争を仲裁すべき存在ではなかろうか。空爆によって次なるテロの可能性が強まっている。テロに対して空爆、空爆に対してテロ、この繰り返しは長い目で見れば決して終わることはないのでは。

  日本が国際社会でリーダーシップをとるというのは、こういう役割を進んで果たすことができてこそ可能になると思われる。アメリカ追従主義を批判する世論がようやく聞かれるようになった今日においても、こういった一大事で存在感を発揮することはできていない。自らのすばらしい宗教観が世界に貢献する可能性をもっていることに気づくべきである。

 今回のテロは決して許すことはできない。罪のない6000人の生命を一瞬にして奪ったのだから許されるはずはない。しかし、空爆によって一般市民が多数死亡している現状はいかがなものか。感情的になっている当事者たちに対して違った立場から仲裁を試みる。日本の宗教観にはそうした使命が隠されていると思う。国の使命というのは存在すると思う。

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二之湯武史の論考

Thesis

Takeshi Ninoyu

松下政経塾 本館

第21期

二之湯 武史

にのゆ・たけし

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