論考

Thesis

世界にとって必要な国 日本

 毎日、目にし耳にするニュースは世紀末を感じさせるものばかりである。唯物論的歴史観によると、人間は進歩史観で捉えられるが果たしてそうであろうか。科学技術の進歩は、人間の精神・創造力を骨抜きにし、人間らしさ・道徳観・歴史観を失わせた。

 そんな中、日本のあるべき姿として「世界が必要としている国 日本」が私の理想である。建国以来2000年の歴史を有する唯一の国家日本の知恵を世界に生かすべく国づくりを行うべきである。

1. 大きな歴史的岐路に立って

 有史以来、人類は幾多の試練を乗り越えてきた。戦争、飢餓、貧困、圧政など数え上げればきりがない。そして、それを乗り越えるにあたって数百万、とも数千万ともいわれる人命が実際に犠牲となってきた。

 そうした記憶が日本人全体に薄れてきている中で、完全に平和ボケしてしまった今日、われわれが直面している状況は、実はこうした過去の試練と比べてもより困難であると言わざるを得ない。そして科学万能主義・経済至上主義・唯物論的歴史観に囚われた現代人が、こうした危機を敏感に感じ取る能力を失ってしまっていること自体が最大の困難であるのだ。

 では、なぜ今回の試練を過去よりも重大と受け止めるのか。その答えは簡潔かつ明確である。人類の生存基盤そのものが危機に瀕しているからである。つまり地球環境、大気、あらゆるものをふくめた自然の摂理に現在の文明が適っていないのである。

2. 科学万能教・拝金主義の悲しい結末

 こうした状況を踏まえた改革者が日本に一体何人いるか。政治家、企業経営者、評論家、学者・・・。残念ながら私はたった一人にしか出会ったことがない。

 今日、社会の改革を訴える人間はゴマンといる。しかし、この社会が抱えている「何となく何かが間違っている」という雰囲気の本質を察している人間はごくわずかである。ましてやこの文明の行き着く果て、またそれを乗り越えた理想の社会のイメージ、を持っている人間は皆無である。せいぜい経済回復くらいが関の山である。

 その理由は明白であり、彼らの発想の根本が「科学万能・経済至上」から出発しているからである。「目に見えないもの」「感じ取るもの」「自然の摂理」、といったものをはなから否定し、また想像することができない。

 特にこれはいわゆる学者・評論家・エコノミストに多い。こうした人種こそ塾主の言う「己の知恵・才覚に囚われ、素直な心を持っていない」人間である。彼らの作り出す雰囲気は恐ろしいほどである。週刊ビジネス誌、月刊誌、などを貫く主張はいかにも底が浅く短期的でまったく本質を言い当てていない。マスコミに登場して偉そうに、しかもテレビ局の言いなりのコメントを吐く評論家たちは、自らの売国奴的スタイルに気づいていないどころか、それを格好良しとしている。

 日本の論壇をリードしている学者・エコノミストはアメリカの市場経済を礼賛する。しかし、彼らは「経済」の意味をわかっていない。経済学を机上で理解しているだけである。金儲けのために世の中の間隙を縫うような‘ビジネス’を起こし、上場まで育て上げ売り逃げる。そこにはIPOで得た大金は残るが、事業を通して世の中を良くしようという志は見当たらない。しかし、現実に日本はその方向へ向かっている。
 人と人の関係は利害関係がもとになり(会社の肩書きがなくて付き合える人がどれくらいいますか)、コミュニティーは崩壊し、信頼が失われた。お互いは不信感で満ちて、隣に誰が住んでいるかも知らない。世の中をこうした切り口で捉える事もできるのであり、こうした事がより本質なのである。

3. 日本の役割

 わずか数十年前には世界で最も活力に満ちていた国・日本。その評価はあろうとも、人間の質、特に精神力では現在の日本人とは比較の仕様がないくらい充実していただろう。

 そうした人間を作ったのは教育システム(現在の義務教育のような)ではなく生活文化にあったのだ。朝起きれば神棚・仏壇に手を合わせる。ここで人間の謙虚さや自分たちの先祖を敬う精神が醸成されていく。地域のコミュニティーは人間を育て、共同作業はその大切さを教え、大家族はときに人間の死に直面し、長幼の秩序を教える。これらはすべて普段の生活の中で培われてきたものなのである。日本にはこうした生活文化があった。

 今までも何度も書いてきたが、日本は数千年の農耕社会である。世界でも稀に見る豊かな自然環境はこの国独特の精神文化・生活文化を醸成してきた。自然観・宗教観はその好例である。しかし、こうした日本の資産を日本人自身が受け継いでいないではないか。もはや都会には自然らしい自然は残っていない。神棚・仏壇は家の中から無くなってしまった。

 こうした当然の文化をもう一度取り戻し、しっかり生活の中に組み込めれば日本人はもう一度世界の中で重要な役割を果たすはずである。これが塾主の言う「日本の運命」である。日本は世界で必要な国なのである。

2002年5月 執筆

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二之湯武史の論考

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Takeshi Ninoyu

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第21期

二之湯 武史

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