論考

Thesis

空港問題について考える

 12月19日、私が代表をつとめる「福岡の未来を考える会 政援隊」の主催で「新福岡空港について考える。」というテーマでシンポジウムを行った。講師に明治大学商学部助教授の戸崎肇先生を招き、「九州・福岡の空港、交通整備のあり方について」を講演していただいた。当日は県職員、財界の促進協議会のメンバーの方など参加していただき、なかなか意義深いものになった。今回、このテーマを取り上げたのはまず、単純に1 ,新空港は必要なのか、2国や地方自治体の財政難の中で公共事業の弊害ばかりが言われるが本当に必要な事業は何なのかを考えるべきではないか、という問題意識からである。今月はこの問題について報告する。

何故、新福岡空港建設か

 現在ある、福岡国際空港のまず一番の特徴は日本にある空港の中でも都心からの抜群のアクセスにある。福岡の中心である天神地区や博多駅からも地下鉄で10分前後とそのアクセスのよさは福岡空港の利用客には大変な好評を博している。現空港は今や世界の20都市を結び、国内に32路線を有し、年間の利用客数は国内・国際あわせて約2000万人で全国第4位、貨物では輸出入額が約1兆円と全国第3位の実績を誇っている。このように好評な空港であるが新空港の建設が取り沙汰されるようになったのは、年間着陸回数が14万回に達し、滑走路1本の空港の中では全国第1位の過密空港になるに至り、朝夕のピーク時には時として遅れが生じるという弊害が出たためである。今後、アジアの各国の発展に従い、新たな航路の開発がなされる可能性があるがこれ以上の増便には応えられそうにもなく、市街地にあるため拡張しようにも周辺の建物の高さ制限、用地確保の問題、騒音区域の拡大の問題があり、そのことが拡張よりも新空港移転の論拠となっている。

新空港の構想

 現在、新空港の構想は福岡県や福岡市、商工会議所などの財界が中心となって福岡空港将来構想検討委員会を組織し、そこが中心となって計画を策定している。10月に基本構想骨子案が発表され、3月に最終案が策定される予定である。現在4つの案があるが有力な案は新宮沖ゾーンと言われており、福岡市から北九州側にいった海上につくるという案である。3500mの滑走路を2本備えた用地面積560ha、総事業費8200億円が検討されている。

構想の問題点

 シンポジウム開催にあたり、福岡空港将来構想検討委員会の職員と構想についての議論を行った。骨子案では新空港建設の必要性について論拠を示しているものの納得できない部分もあり、それが住民の新空港の必要性への理解への障害になり得る。特に福岡では近いアクセスが感謝の念に近いものを起こさせており、住民の合意を得るのは難しいと思われ、これらの点についてのより一層の研究が必要であろう。

  1. 航空便の今後の需要予測として右肩上がりの需要増が今後も想定されているが論拠がIATA(国際空港運送協会)発表のアジアの需要予測となっており、福岡独自のものではない。韓国の仁川空港や上海の新空港など競争力の高い空港が比較的近い距離にあることを考えれば空港間競争で福岡の需要が楽観的に伸びるかは疑問であり、他空港との競合を踏まえた需要予測が必要。

  2. 骨子案では空港建設に関わる経済波及効果は公表されていない。委員会の機関紙にそれについての調査レポートがあるが推計のパターンは一つで開港年度の波及効果は約3000億円、開港25年後には1兆円を超え、30年の累計で22兆4000億円に達すると予想されている。しかしながら、正確な予測が困難な状況を考えれば1パターンの推計しかないが悲観的な予測値も出した上で検討すべきではないか。また、事業主体が国及び、福岡県、福岡市、民間であるがために、予測が福岡県内に限ったものとなっている。福岡空港は北部九州の住民にも広く使われており、新空港の潜在力を正確に評価するためには県の垣根を越えた予測もすべきであろう。

  3. 関西空港など建設後に経営が思わしくなく、空港経営が赤字になる例も増えてきている。新福岡空港の経営を考えるためには現空港の経営状況を反映すべきであろうと思われるが収支は空港特別会計制度との兼ね合いもあり、公表されていない(一説に依れば年間150億円の赤字)。現空港の収支を反映して新空港を造ったほうがいいのか。開港後の経営のあり方についても議論すべきである。

  4. 事業主体が複数に渡り、国の空港整備計画にも新福岡空港は検討されていないこともあり、建設費負担の配分が明確でない。住民と建設についての議論をするにはどれだけの負担を国、県、市等がそれぞれするかの検討も必要であろう。

シンポジウムの内容

 戸崎先生には「九州・福岡の空港、交通整備のあり方について」講演していただいた。そこではまず、現代における航空の位置付けとして

  1. 情報化時代における交通の重要性として、IT等による情報化が進んでも人と人が会うことによる情報伝達の重要性は高まりそのための交通手段は重要であること。
  2. 旅行を趣味にするなど人の価値観が多様化する中でそれを支える交通手段は重要である。
  3. 高齢化と地域振興を考えれば、高齢者は地方を重視し、また、地方としてはノウハウを持った人材の集積が振興へと繋がる。ノウハウを持った高齢者を地方に呼び戻すには都会と地方の交通ネットワークは重要である。
  4. 赤字路線の廃止などで地方の交通アクセスが悪くなることも想定されるが地方住民の移動権を保証すると言う観点も必要である。
    以上4点が指摘された。
 次に日本の空港整備のあり方として
  1. 国の総合的な空港政策の欠如が日本の空港政策をバラバラにしていること。
  2. 国内観光基盤の整備が遅れているなど観光政策と空港政策の結びつきが欠如していること。
  3. 地方空港整備のあり方として、空港には1種から3種までのくくりがあり、そのくくりのなかで空港が地方の補助金目当てのせいさくになっていることからくくりを廃止すべきであること。また、空港の採算性には当初から無理があり、それを踏まえるべきこと。空港間の連携も踏まえるべきこと。
 が指摘された。

 3番目に福岡の空港整備のあり方としては新空港建設の場合には新空港への機能を完全に移転することが重要で、関西空港は伊丹空港の機能を完全に集約できなかったことが経営難の一つの要因になっていることを踏まえなければならず、機能分担は航空会社間の競争もあり難しいこと。既存空港のネットワーク化を考えること。また、空港問題を考える上では社会的合意形成に留意すべきであり、その為には1地域住民の意見の反映、2民主的な利害調整、3専門家の適切な活用、4国の適切な空港整備のガイドラインの設定、5効率性の確保、6多数の地方自治体の関与が指摘された。また、北九州空港との連携を議論すべきこと、日本型の空港建設の思想の構築、検証過程を透明性を確保して公表すべきことが指摘された。

まとめ

 政府部門の厳しい財政状況は公共事業のあり方に問題を与えている。ただ、何でも公共事業を停止させればそれは今後、都市の国際競争の中で負け組みともなりかねず、今後の都市戦略を活かした必要であるものは適正な規模でつくるという冷静な議論が必要である。まず、空港問題を語るときは空港のみを論じるのではなく、空港を地域経済の中でどう活かし、経済発展を図るかのビジョンが必要であろう。また、日本の空港問題を考えれば特長のある空港作りの考えも必要である。日本の国際線の空港着陸料はジャンボ機では成田が94万円、関空も90万円、福岡でも48万円と米国の3倍、英国の5倍の水準であると言う。そこが日本の空港の競争力を損なっているとも言えるが、新空港はここを外国並にして新航路の誘致をしていくことも検討すべきであろう。私の考えとしては福岡を現代の楽市楽座にしたいと思っている。かつて織田信長は楽市楽座政策によって領地の関所の通行料をタダにした。その政策の為に多くの商人が信長の領地に集まり、それが領地を経済発展させたとともに各地から人が集まることによって敵将の情報も集まるようになり、この政策が信長に全国統一への道を開かせたと言うことである。福岡も商業の町である。第三次産業が77%を占めることを考えれば人が集まることが経済発展の可能性を生む。福岡は古くからアジアへの玄関口として栄えてきたが、今後も現代の楽市楽座政策によりアジアに門戸を開放し、経済振興、観光振興を図るべきであろう。実際、アジアと福岡、九州の連帯は高まっている。ここ十年間に九州地域の対中国貿易額は3.3倍、5300億円にも達している。今後、中国は6%~7%で成長し、GDPでは10年後には日本に匹敵するといわれているが、そこから来る物流、人の動きを受け止められるだけの器が九州にも必要であろう。しかしながら空港問題にはまだまだ不透明な部分も多い、今回の調査では様々なデーターをしっかり公開した上での政策策定の必要性が痛感されたが、まだまだ空港建設までは行政、政治家、住民を巻き込んだより深い検討過程が必要だと言える。

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平山喜基の論考

Thesis

Yoshiki Hirayama

平山喜基

第20期

平山 喜基

ひらやま・よしき

衆議院議員鬼木誠 秘書

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選挙と地方分権から民主政治を考える 食料問題 首相公選制

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