論考

Thesis

中国は脅威か?

最近、本屋などで中国に様々な論評をするものが増えている。一方では中国はやがて政治、経済、軍事において強大なパワーを持ち、大国への道を歩むと脅威として捉えるもの、他方では中国は内部に経済格差や国有企業改革の問題等、様々な課題を抱えており、大きなパワーとはなり得ず、場合によっては今の中国は崩壊せざるを得ないという非脅威論など様々な見方があり、中国の将来に関する見方は一様ではない。また、日本の現在、将来の課題も中国との絡みで論じられることが多くなり、それは今の日本経済の低迷の原因は日本の製造業の中国進出に基づく産業空洞化と中国からの安い製品の輸入によるデフレ経済の為だと指摘するもの、また、中台の緊張関係は日本の安全保障政策に影響を与え得るし、中国の環境悪化は日本にも悪影響をもたらす。このような中、日本の将来を考える者にとって中国についての見識を深め、動向を見極めるのは有益と考え、中国研究会を結成して、2月20日から3月4日までの約2週間、中国で研究活動を行った。詳細は別途、「中国研究会報告書」として政治、経済、中台問題、環境問題のトピックを取り上げて発表するが今回は中国についての大まかな印象を報告したい。

目標に基づき邁進する都市

 中国の最初の目的地は上海であったが上海は中国でも一番注目を集める都市である。アジアの経済的な中心都市となるべく開発が進む様が上海の街を車で移動すれば感じることができる。2010年には世界万博が開かれるがそれに向けて未来的な都市計画が策定されている。産業インフラの整備は国際空港の整備、国際コンテナ深水港の整備、大容量通信ポートの整備等で進められ、また、都市の魅力アップの為の環境を考慮した都市基盤システムづくり(熱循環システムの導入やヒートアイランド現象防止のための緑地の活用、交通を円滑にする為の都市高速道路や地下鉄の整備等)も世界の先端の技術を導入しながら進められている。そのような将来性に期待してか上海への外国からの投資は増加傾向にある。特に日本からの投資は01年に前年からほぼ倍増する動きを見せた。この結果、上海は01年まで9年連続の2桁の経済成長率を示しており(中国全体の01年の経済成長率は7.3%)、上海の動向には注目に値しよう。一方、北京の産業政策で注目を集めるのは北京北部に広がる中関村ハイテクパークである。ここで主に先端産業の集積が進みつつあるが日系企業もいくつか研究施設を持つようになるなど期待値は上がってきている。日本が大学進学率が約40%であるのに対して中国は約4%であるが13億の人口の4%の人材に対する期待は強く、そのエリート技術者の集まる中関村の将来性は無視できなくなってきている。以上のように中国の都市の発展性はこれらの政策が成功したときにはその存在感は無視できないものになり得よう。中国国内では発展する都市に対して低迷する農村部の所得格差は最大10倍以上である現状でさらに広がりつつあり、これが中国の政治課題となる可能性があり得るが、それと切り離して中国の都市がどこに向かいつつあるかと言う理解は日本の都市競争力を再考する上で必要な視点であるといえよう。

日中の経済関係

 日本と中国との間の貿易関係は輸出入とも非常に伸びており(2000年は輸出14.4%増、輸入は20.7%増)、その関係を深めている。特に安い労働力など低いビジネスコストを背景にした中国製品の輸入は我が国の対中貿易赤字を増加傾向にしている。そのような中で日本の産業空洞化を懸念する声の高まりが日本で見られ、中国脅威論をあおるようになってきている。これに関して在中日系企業やJETROなどの関係者にインタビューしたが、その見解はほとんど一致している。つまり、「日本の経済の低迷は日本の経済構造の問題であり、それによって日中貿易を止めるようなことがあってはならない。」と言う事である。今、中国では欧米、台湾、シンガポールなどの国の企業の投資が集中しており、その中で厳しい競争をしている。その中で日本企業の投資が滞れば中国での日系企業の競争力は失われ、他に中国市場を取られれば日本企業に打撃を与えることになり得ると言う。中国のWTO加盟は企業にとって大きなビジネスチャンスとなる。特に自動車などはこれまで100%関税だったものが5年で25%までに下げられる。上海市民の車の所有率が5%程度であるのを考慮すれば、今後この分野は大きなチャンスである。関税の引き下げ外資規制の緩和等がWTO加盟によってなされるが、日本の経企庁の試算に依れば中国のWTO加盟の最大の受益者は中国を除いては日本であり、2005年までにGDP+0.09%の影響があるとされている。以上のように日本の不況を取り上げて中国に責任転嫁するようなことがあれば、中国での日系企業の展開に支障をきたす。中国市場と共存できる日本経済の仕組みを考えねばなるまい。

中国との外交安保

 日本が中国との外交安保で問題となるのは台湾有事が起きた場合である。台湾問題について中国の台湾政策に影響力をもつ全国台湾研究会で調査活動を行った。詳細は後に発表する報告書で述べるが全体の印象として、中国は台湾問題を複雑化させたくないという印象が見て取れる。経済的な台湾との関係は強まっており、また両方のWTO加盟によりさらなる関係の深化は期待されている。問題は中国の国内の政治体制の維持の問題であり、台湾の独立を認めれば他地域も独立を主張する恐れがあり、それを避けたいと言うのが本音のようだ。中国も銭副総理の「7つの方針」で台湾が独立を主張しなければ危害を加えないと明言しているとおりである。台湾側も陳総統が「五つのしない」で独立を宣言しないように傾いてきており、日本としては台湾に対する思い入れなどで軽率な発言をして問題を複雑化させるのは慎むべきであろう。ただ、中台の経済的つながりを深化させ、政治対話を促すなど両方の関係の強化、信頼の醸成を後押しする取り組みは日本としてやるべきである。ただ、中国の懸念材料としては中国が毎年、約20%近くも軍事費を増加させ、軍事増強を図っている点である。日本の国益は東アジア地域の平和と安定であることを考えればこの動きが両国民の不信感の増幅や軍拡競争に繋がってはならない。日中首脳会談等でこれに対する日本側の懸念はほとんど伝えられないがこの分野で脅威論をあおるのではなく、政治的対話など地道な努力で信頼関係を図り、アジアの安定を目指すことは日本の責務であると言えよう。

中国は脅威か?

 中国に行くまでの筆者個人の印象は中国は内部問題を抱え、それが問題で脅威とはなり得ないだろうという見方であり、その中で中国国内が混乱した場合の日本はどうすべきかを考えることも訪中する前のテーマの一つとしてあった。しかし、今回の訪中でそのような中国観は覆されたと告白せざるを得ない。先に述べたように明確な戦略に基づく上海、北京の開発は急ピッチで進んでおり、世界の注目を集めつつある。中国の力を軽視する見方ではこの動きを見過ごしかねない。特に上海と日本の都市を比較すれば上海は集中的な投資で世界の都市問題の研究から都市問題の解決や、最先端の産業インフラの導入に努めるなど都市競争力強化の為の開発を猛スピードで進めているのに対し、日本の都市は財政基盤が弱くなりそれらの課題に対処しにくくなってきている傾向が出てきている。このままではアジアの中心都市は上海に取られる可能性も考えられ日本の都市の地位低下も考えられる。上海の都市計画が実現するか否かに関わらず、中国の戦略を冷静に見つめた日本の都市基盤整備の戦略を考えるべきである。また、日本の産業空洞化を懸念する動きが日本経済低迷の中で出ており、日中貿易の動向に支障をきたしかねないが、日本の構造改革とは別個の問題である。中国人の研究者にも日本の経済回復を求める声は多く筆者達にぶつけられたが、日本の早急な経済回復と中国との競合を踏まえた日本の将来の産業政策の策定が求められよう。外交安保においては今回は台湾問題から研究したが中台問題においては基本的には両国間の問題であり、いたずらな介入はかえって両国の緊張を高めさせかねない。ここにおいても日本は冷静な対応が求められるが中国と台湾は相互不信に基づく軍拡競争に走っていることを考えれば、これを止めるための信頼醸成の仕組みを提案することも考えられよう。中国を脅威と捉え、動向に過剰に危機感を持つ声は日本の経済再生よりも中国を非難する声になったりもする。また、軍事的脅威をあおれば両国の不信感が増幅し、かえって安全保障上の問題を生じさせ得る。一方、中国の発展性を否定する声は、もし、中国の産業政策等が成功したときの日本の競争力低下のダメージを見落とすことに繋がる。中国脅威論、非脅威論の多くが日本や世界で論じられているが、どちらかの立場に立脚し、中国の現状を見落とすようなことがあれば日本の戦略に支障をきたしかねない。日中の明るい未来の為にも日本側の冷静な中国の現状分析と中国と共存し得る日本の経済戦略、外交安保面での信頼醸成が求められる。

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平山喜基の論考

Thesis

Yoshiki Hirayama

平山喜基

第20期

平山 喜基

ひらやま・よしき

衆議院議員鬼木誠 秘書

Mission

選挙と地方分権から民主政治を考える 食料問題 首相公選制

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