Thesis
今月初頭、シンガポールで1週間ほど、日本とシンガポールの自由貿易協定について研究を行った。研究の中で世界を見据えた国家戦略の立て方とその実行の仕方についてシンガポールから、政治のリーダーシップのあり方に示唆を得たので今月はそのことについて報告したい。
なぜ今、自由貿易協定か?
まず、始めになぜ今、自由貿易協定が盛んに議論されているのかを簡単に触れたい。
自由貿易協定を結ぶメリットとしてまず挙げられるのは、貿易自由化が企業間の競争を促進したり、企業間の合併を促進することで経済構造改革を行い、ビジネスコストが削減された結果、両国の消費者に利益をもたらすと同時に、その産業の世界における競争力が強まることである。また、関係国が連携した結果、人材や資本が流動化し、それは関係国またはそれ以外の国にとってその市場を魅力的にし、かつ競争力のあるものにし、経済を活発にすることである。
大きなメリットとしては以上のようなことが挙げられるかと思うが、特に日本とシンガポールの間の自由貿易協定においては後者が重視されよう。それは今回の協定に関するシンガポールのゴー首相の言葉に表れている。『自分は物の移動を中心とした伝統的なものを考えてはいない。自分はこれを「新時代の自由貿易協定」と呼ぶ。その重点は、サービス、情報・技術、教育、留学生交流等である。』
世界の中の日本
日本においても自由貿易の議論はかなり行われているが、世界に比してその進み具合は鈍い。日本、中国、韓国だけが自由貿易に世界で参加していないといわれてきたが、何故か?
それは日本について言えば、国内の中で多くの反発が自由貿易の議論の中で起こるからに他ならない。その中で大きな反発は農産物の問題であるだろう。日本とシンガポールの間での共同検討作業の間でも、日本のシンガポールからの輸入に占める農産物の割合は4.6%にしかすぎないが、日本の農林水産省のほうから関税を下げることへの懸念の意見が重視されていた。これは日本の農業を守るためにも例えシンガポールと言えども関税を下げてしまうと言う前例を作りたくないという意思の現れであろうが、日本政府の中でも自由貿易についてはかなりの温度差を調査の中でも感じた。
シンガポールに続き、韓国との自由貿易への動きを少し調べてみたが、経済産業省では研究所などを通して調査を始めているものの、農林水産省では資料請求にも応じてもらえず、表立って調査は行われていない。日韓自由貿易が囁かれるようになって久しいが、この調子だと実現までまだしばらくの期間を要すると言えるだろう。
しかし、ここで日本がもう一つ考えなければならない自由貿易協定の現実がある。それは世界規格標準を創ろうという世界的な動きである。
今、WTO等で取り決めに向けて動いているが、日本は今、この中で極めて不利と言える現状だ。それは日本の製品が日本の規格に則って流通している市場が日本国内のみであるのに対して、EUではEUの中での規格に則った製品がEU加盟15ヶ国に流通しているからだ。これが意味するものは、世界標準をある製品で決めると言うときにWTOなど国際交渉の場ではEU製品は既にEU加盟国の15票を持っているということである。
それに比して日本の規格は国際交渉の場では1票でしかない。ここで言えることは自由貿易圏を地域で作り、その大きな市場の中で規格を創り、それを持って国際交渉の場に乗り込み、自分達の規格を世界化しようというパワーゲームが行われようとしていることだ。世界標準を取れなかった規格は国際市場からの撤退を余儀なくされる。工業国である日本の製品は、今世界に流通しているが将来的には交渉に負け、規格変更を行うことになり、そのコストから日本の工業の競争力を著しく落とすことにもなりかねない。
今、日本国内では個別の産業に絡む利益の要因から自由貿易への反対が多いが、世界的に孤立したまま日本政府が国際交渉に臨み、交渉に負け、規格変更を行わないといけないことになれば、日本の産業全体、ひいては経済全体が大きな打撃を受けかねない。
世界がパワーゲームで動きつつある中で、日本の国益は自国の産業が大きな打撃を受けることを防ぐためにも、自由貿易をアジアで推進してアジア地域での規格統一を行い、世界的な交渉力をつけるべきではなかろうか。国内の個別利益にとらわれず、世界の現実を直視し、国の舵取りをしていく必要性がある。
シンガポールから学ぶべきこと
シンガポールは小国である。面積は山手線の内側ほどでしかない。それが故に危機感に基づく国家戦略の構築は明確である。知的付加価値を重視し、世界の競争に勝ち残ろうと言う明確な戦略がある。そのためには世界に魅力ある市場をつくるために教育への取り組みは凄まじい。英語は公用語となっているし、それが高等教育を充実させていく効果ももたらしている。それは英語が公用語になったおかげで、シンガポール国立大学はハーバード大学と提携し、衛星で授業をつなぐことによって人材育成に拍車がかかっていると言うことだ。
シンガポールの国会にも足を運んだが、まず議題に挙がったのは教育で如何にすばらしい人材を育成するかであった。また、物流が国内で大きな比重を占めるために、そのインフラ整備の力の入れようは凄まじい。空港は4本の滑走路を持つ飛行場であり、港湾は24時間稼動するオートメーション化された港湾システムが現存しているし、改良中である。外交においては小国シンガポールの利益は如何に資本と物流をひきつけるかが課題であり、自由貿易の輪をどこまで広げられるかが国の盛衰を左右する。その為、五味氏が先月の月例で指摘している通り、どんどん2国間で自由貿易を進めている。
このような足腰の軽さは中国の中の香港を意識して対抗意識を燃やしているのにも起因している。しかし、日本が見習うべきは将来を見据えて国家戦略を立て、それを次々に実行していく政治のリーダーシップではないだろうか。
政治がリーダーシップを発揮するためには個別利益が多く存在する中で日本の国益をまず、国民に明らかにすることであろう。そこから合意形成を図っていかなければ真の改革は達成できまい。
Thesis
Yoshiki Hirayama
第20期
ひらやま・よしき
衆議院議員鬼木誠 秘書
Mission
選挙と地方分権から民主政治を考える 食料問題 首相公選制