Thesis
日本が、現状にある財政危機から脱し、生産性の高い政治・行政を行っていくためには、これまでの中央集権的行政組織と財政構造を反省し、現状の行財政の抜本的な組織・構造改革と、それに平行した中央、地方とのガバナンスの向上が必要である。これらに関する私案を纏めたい。
日本における政治・行政の現状を考えてみたとき、現状にある財政危機から脱し、生産性の高い政治・行政を行っていくためには、これまでの中央集権的行政組織と財政構造を反省し、現状の行財政の抜本的な組織・構造改革と、それに平行した中央、地方とのガバナンスの向上が必要である。
平成14年の地方分権一括法(「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」)によって、機関委任事務が廃止され、地方分権改革は進んできている。また、平成18年度においては、政府として三位一体改革の全体像(補助金廃止4兆円、税源移譲3兆円規模、地方交付税見直し)を示すということが謳われている。
そういった地方分権が進めば進むほど地方のガバナンスが問われてくるといえる。
そして、今後のさらなる改革においては、中央政府自体を小さくするという意味での地域主権型国家への転換が重要なことである。道州制の実現という与野党ともに掲げる政策の実体に対するビジョンを明確に定めることが求められている。
地方制度調査会、全国知事会等をはじめ、各政党、各都道府県における研究がすすんできているが、私自身がこれまで研修や研究をしてきたことをふまえて、大まかな私案を纏めてみたい。詳細や多分野にわたって網羅することはできないが、国とその出先機関としての地方支分部局、そして都道府県、市町村の二層制をどう転換していくべきか、そしてその地方自治体がどう運営されていくべきか、という点について簡潔に述べていきたい。
日本の行財政における最も大きな欠点のひとつは、国民から国に集めた税金を、地方交付税や国庫補助金によって地方に配分するという財政構造にあるといえよう。周知のことではあるが、地方税収が多い連邦制型、中央政府に主に集めた税金を中央政府が責任を持って歳出する単一国家型という先進諸国の特徴において、日本は、歳入においては単一国家としての歳入と、それを大きく地方に交付あるいは補助金によって統制した上で、連邦制に近いほどの大きな地方歳出を形成している。
中央省庁においてもいわゆる「補助金行政」が業務の大半を占め、地方においても不足分を地方交付税がまかなうことによって歳出削減努力に対するインセンティブが働かず、モラルハザードを引き起こすなどの極めて非効率な構造を呈している。
この構造を転換するための国庫支出金削減と税源委譲、そして地方交付税制度の見直しが三位一体であるが、果たしてどの程度まで補助金を認め、また地域間所得の調整をどのように新たに行っていくかというビジョンを大きく描いていかなければならない。
これに対し、地方交付税制度から広域自治体間(都道府県間)の水平調整制度への転換、国庫支出金の削減という歳出に対する自治体の自主権、そして課税自主権の確立ということを前提として掲げたい。
複雑な交付税基準によって地方に配分される地方交付税に対し、国、自治体それぞれの受益に対応する税源移譲を進め、そしてその課税自主権を持った広域自治体(都道府県間)が各広域自治体間において、それらの格差を人口、面積によって比例される計算式を基準に、協議をもって水平に調整を行う。国庫支出金に関しても、住民に近い行政でありながら、ナショナルミニマムとして国が確保する社会福祉などに関する業務など、国の基本的な業務に対する効率化をする上での業務を除いて、全廃するべきであろう。
そして、こうした税財政構造の抜本的な改革をした上で、あるいはその進行段階において、さらに考えるべきなのは、道州制についてである。現在の都道府県、市町村という二層制を、道州、都道府県、市町村という三層制にするのか、市町村の大幅な合併によって一層制にするのか、あるいは都道府県合併、市町村合併によって道州と市といった二層制にするのかといったことが言われている。
これに関しては、北海道、東北や関東、北陸信越、東海、近畿、四国、九州といった各地域においてそれぞれ道州制特区と地方支分部局の統合、合併、広域連合といった取組みもみられるが、結論として、道州、都道府県、市町村という三層制が望ましいと考える。
ただし、この場合の道州は、国の行政のうち、外交、安全保障、金融といった全国的な行政以外において、これまで国が行っていた経済産業政策、空港港湾や高速道路等の広域基盤整備といった分野の国の出先機関、すなわち地方支分部局を統合することから始まって、運営されていくものである。
つまり、国における内政の省庁は、世界的な視野や日本の各地域からの情報のなかで、先進的政策の研究や発表、基本方針の明示を、現状よりきわめて少人数で行い、多くは各道州地域のブロックに、国が行っている内政に関する権限、カネ、人(公共事業でいえば、国土交通省管轄の工事)を移動させていくわけである。
平成12年の行政改革大綱においてなどにより、地方支分部局の統合と業務のブロック化が始まっているが、都道府県、市町村の財政構造を前述の通りに改革し、さらに霞ヶ関の中央省庁の地域分割として、地方政府として道州制を確立すればよいであろう。その際には、国による霞ヶ関のスリム化と現業のブロック化、地方支分部局の統合という改革とともに、各地域ブロックでの合併あるいは広域連合による取組みとをすり合わせ、道州制基本法を設定していくことになるであろう。
財源調整も、都道府県への税源移譲と水平調整制度への移項、国庫補助金の削減という流れにおいて、中央政府は大きなスリム化をはかり、地方支分部局の統合と諸事業の大幅見直しによってコスト削減を推し進め、結果として、小さな中央政府と、ブロック地方庁的なものが形成されていくことになる。この地方庁的な行政組織に対して、次は、道州制基本法をもって税源移譲とともに、新たな地方政府を作っていくことになるわけである。
そうしたなか、将来的な財源調整機能は、この道州内における都道府県の水平調整で行われるといったことも考えられるであろう。
では、その道州政府やそれによる都道府県議会との構成をどうするか。
各地域ブロックでの取り組みの流れの延長として考えてみる。北東北三県では、合併の可能性もあるが、合併においては、都道府県議会が道州議会になるということになるであろう。しかし、それ以外の都道府県では、合併は今のところ考えられず、広域連合制度に対する取組みがなされている段階である。
たとえば、首都圏では、既に石原都知事主導での「ディーゼル車排ガス規制」や中田市長による「青少年育成条例」において、首都圏共同での取り組み実績を上げており、神奈川県の松沢知事をはじめとして、「首都圏連合」への取組みが議論され、事務局も設置された。
現行の広域連合制度では、「広域連合の名称、構成団体、区域、処理する事務、広域計画の項目、事務所の位置、議会の組織と議員選挙の方法、広域連合の長その他執行機関の組織と選任方法、経費支弁の方法を定める」とある。
「関西経済連合会」の提言では、広域連合関西州を名称とし、関西広域連携協議会を構成する2府7県(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、三重県、奈良県、和歌山県、福井県、徳島県)を構成区域、商工業、科学技術などの地域発展政策や広域基盤インフラに関する事務等を処理する。そして、執行機関の組織は、関西の総合力を発揮するために州知事が州の処理する事務について強い権限を持つ関西州知事を住民による直接公選とし、独自に行政組織を持つ。議会においても独自に設置し、直接公選による議員定数を100名程度、州の設置により議員総数が増えないように構成自治体議会議員の定数を同数以上削減するとしている。
区域は、ある程度地方庁として統合された地方支分部局によって決定されるであろうし、事務、行政組織もそれらを継続することになると思われる。州知事は、公選に移項するのが望ましいし、議員定数も増加しない、あるいは削減していくことが適切であろう。公務員の人数においても、国の出先機関は、国家公務員の6割、20万人が働いている。これらが、国から地方への許認可事業や、地方の産業育成に対する業務を行っているわけであるが、煩雑な許認可や補助金業務が、地方の独自の業務へと移項し、公務員数の削減とともに、効率的な行政運営も行われるであろう。結果として、国と地方の役割、国民の受益負担の明確化とともに、国家をスリム化することが出来るわけである。
さらに、もうひとつとして、国と地方との役割分担が明確になった場合には、憲法改正が必要にもなるが、参議院議員と道州議会との兼ね合いも考える必要がでてくる。道州議会から数名の議員を選任し、中央政府が地方自治に影響を与える法令を制定する場合に、連邦参議院への同意が必要となるわけである。
こういった道州間・都道府県間において、多様な制度設計、法律や課税による統治の適正な競争がおこなわれるためには、この道州と都道府県との役割分担を明確にしていかなければならない。そしてさらに、その上で、課税権や立法権を再度設定していくことが肝要である。
なかでも産業政策や社会基盤においては、国際化、アジアでの競争激化のなかにおいて、それぞれ規制改革や国際的視野における戦略投資が各道州で大きく行われることが重要であり、多様な分野において国際競争力のある地域を形づくることがこの道州の大きな役割といっていいであろう。
そうしたなかで、国民は、これまでの国家財政という遠い財政運営から、より身近になった道州の財政運営に対し、大きく将来責任をもって監視していくことになっていく。
「財政基盤の確立と行政運営の効率化」をもとに実施されている市町村合併によって、1999年には3232あった市町村が、2400以下になっている。合併特例債も充実され、基準財政需要額の算定に配慮する合併特例期間も5年から10年へと延長され、さらに1000程度に削減し、権限委譲が可能な市町村の機能強化を図ってきている状況である。
しかし、それらの合理化によって、果たして財政再建にむけた財政改革へと自治体は、大きく舵をきったであろうか。各市町村の地方財政状況悪化の各指標においては、合併特例債による財政負担を超える効果は出ていないといっていいであろう。
地方分権が進むなかにおいては、各基礎自治体のガバナンスこそが大きく問われてくる。首長や議員の給与見直しから始まり、市町村を運営する手法も多様性を持たせていく必要があるのではないであろうか。
日本における自治体の首長と議会の二元制は、古くから対立構造を続けており、行政の長たる首長は議員からの指摘を受けないように情報を閉鎖的にし、議会は往々にして形式的なものか、政局的なものにしかなりえないという批判もある。首長と議員における対立ではなく、改革案や提案が活発化することが重要である。
これまでの、地区内の全般的なサービスを請け負っていく自治体という位置づけよりも、税の種類とそれに見合ったサービスを各自治体が提供し、さらに、より身近な行政サービスを担い、住民参加の容易な市町村においては、間接民主主義のなかにおける議会と首長という二元制を重視しつづけるのではなく、規模に合わせてシティーマネージャー制度の導入や、特定目的自治体設立制度、共同執行機関設置制度、他の市町村あるいは自治体からの公共サービス代行制度などを取り入れ、より効率的な政府を市民が全体で作り上げる仕組みにしていくべきである。
議員報酬についても、実費補償のみといった選択肢ができてもいいし、議会や委員会を夜間に開催するなど住民が参加しやすい手段を講じるべきである。
最後になるが、地域主権型国家においては、国と地方の税源、権限において役割分担が明確になり、中央省庁は大幅に縮小再編され、受益と負担の明確化が実現する。
国は、国家存立基盤としての領土保全、防衛、外交、国籍、文化財保護全国的に統一した施策である金融政策、知的財産権、全国統一基準、年金、義務教育方針などを専管項目とする。その他においては、各地方からの情報と、世界情勢を踏まえての国家における基本ビジョンを提示することになるだろう。
道州では、産業政策、公共事業、環境保全、高度医療、司法、警察、高等教育、災害復旧等を担うべきである。都道府県では、医療、社会保険、基礎自治体では、福祉、義務教育、戸籍、都市計画を担うことになる。
こうした役割分担において、各分野に即した課税権、立法権を持たせることによって、国民が国全体の運営を監視するとともに衆知を集め、生産性の高い政治を行っていくことが、これからの日本を経営していく上で極めて重要である。
日本の抱える先進国にとって世界戦争時依頼、例のない巨大な債務を抱える日本においては、これまでの中央集権的、官僚主導的国家運営を強く反省し、国家の運営を責任ある国民市民のものへと戻していくことこそ、日本の新たな民主主義における地域主権型国家日本の国家像である。
【参考文献】
『松下幸之助発言集』 (PHP)
『道州制・連邦制 これまでの議論・これからの展望』 田村秀著 ぎょうせい 2004年
『日本の地方自治』 (自治体研究社) 中西啓之 1997年
『「地域主権」の確立に向けた7つの挑戦 -日本再編計画2010-』 PHP総合研究所 2002年
『新たな国のかたちをめざして~分権型国家システムの制度設計~』慶応義塾大学G-SEC 2004年
『県庁がなくなる日』 マネジメント社 金子仁洋 著 2005年
『市町村崩壊』 スパイス 穂坂邦夫 著 2005年
『地方の自立と自己責任を確立する関西モデルの提案』(社)関西経済連合会 2003年
『分権改革における関西のあり方』 関西分権改革研究会 2005年
Thesis
Keizo Maekawa
第24期
まえかわ・けいぞう
前川建設株式会社
Mission
『地域主権型国家日本の実現』