論考

Thesis

生産性の高い政治と効率的な行政へ向けて ~新しい地域と公共の経営~

国、地方ともに財政再建が大きな課題となっているなか、地域主権型国家への転換が叫ばれている。市町村合併、道州制の動きが進み、国と地方の役割分担をなす変革に加え、「生産性の高い政治、効率的な行政」を実現するには、成熟社会における市民や企業が、行政とともに地域と公共の経営に関わっていかなければならない。

1.はじめに

 人口減少が始まるという大きな変革期にある日本においては、政治が、行政、経済、あるいは社会に対する新しいビジョンを示さなければならないであろう。

 松下幸之助塾主は、国家経営というものに対する考えのなかで、経営とはそもそも建築用語であり、政治とは、広い意味で、「国家経営」であると考えた。辞書によると経営とは、もともと建築上のことばで、「土地を測量し、土台を据えて建築すること」をいう、そしてそれが「ある目標をたて、これを達成するために、規模を定め基礎を固めて、物事をおさめ営んでいくこと」という定義になっていった。つまり、松下幸之助が考えた「真の政治」、「国家経営」とは、「国家の未来を理想の姿にしていくという基本理念があり、国民一人ひとりが物心一如の繁栄へむけた理念を持ち、そしてそれを現実に実現する具体的目標を定めて、国家、国民がともに力を尽くしていく」ということである。(PHP研究所 『日本再編計画 無税国家への道』 斎藤精一郎責任監修)より

 私は、国、地方ともに財政再建が大きな課題となるうえに、こうした大きな変革の時代に突入した日本において、地域主権型国家というものが、改めて重要な国家経営理念の一つであり、依然として是正されていないこの改革課題を三年間、研究し、微力ながら日々、訴えてきたつもりである。市町村合併が進み、道州制についての各機関での研究や北海道での特区としての取り組みははじまったが、国と地方の役割分担をなす変革は、一刻も早く実現しなければならないということは、周知のことであろうと思う。

 そして、そうした財政構造上や、地方自治体の権限に対する大きな変革に加えて、さらに「生産性の高い政治、効率的な行政」を実現するためには、成熟社会における市民や企業が、行政とともに地域と公共の経営に関わっていかなければならないと実感する。

 これまで、明治からはじまる日本の中央集権と地方分権の歴史を歴史観レポートに、また、私なりの「地域主権型国家日本」の国家像を国家観レポートにてまとめてきたが、ここでは、最後の「個別レポート」として、それらを出来るだけ端的に纏め、そこから先に、「新しい地域と公共の経営」というものを考えていきたい。

2.明治維新、戦後改革に次ぐ「第三の改革」とは何か

 現在の日本は、新たな地方分権の時代の流れにおいて、明治維新、戦後改革に次ぐ「第三の改革」のなかにあると言われている。明治維新において中央集権的近代国家日本は出発し、明治における近代化、戦後の経済復興とも、中央集権的構造を維持して日本は発展を遂げてきた。戦後憲法で地方自治が謳われ、その後、地方自治の充実が随時図られてきているが、人口減少局面、グローバル化のなかにある現在の日本においては、より根本的な地方分権改革が求められているのである。この流れについて、あらためて明治維新、戦後改革と、今日という三つの視点で、端的に纏めたい。

 まず、明治維新であるが、江戸の幕藩体制という各藩の世襲制による大名によって統治される封建的な社会から、近代的な地方制度を持つ国家を実現するために、明治2年の版籍奉還、明治4年の廃藩置県、戸籍法の制定によって明治の国づくりが始まった。それから東京、京都、大阪を三府とする3府302県が統廃合と明治11年三新法(郡区町村編成法、府県会規則、地方税規則)などの地方制度の整備を経て、明治21年には現在の都道府県区域が確定し、46府県となった。明治22年に欽定憲法としての大日本帝国憲法が制定される。

 これは、中央集権としての近代国家、日本がそれまでの歴史を大きく塗り替えて出発することになったという意味で、極めて重要な「第一の改革」であった。

 第二次世界大戦に敗戦し、占領軍による統治のもと日本政府が行った戦後改革は、「治安維持法の廃止」、「天皇制討議の自由」といったものから始まる。天皇を象徴とした国民主権を謳った「日本国憲法」には、「大日本帝国憲法」にはなかったその前文と第二章の戦争の放棄、第十章最高法規、そして第八章に地方自治が、新たな章として付け加えられた。アメリカによってそうした日本の地方自治には、府県知事の公選や20歳以上の普通選挙制度、内務省の解体をはじめとして、制度的な戦後改革が施される。

 府県は、それまで完全な中央の出先機関であったのであるが、これを占領軍の強い意向もあって完全自治体にする際に、内務省は、「機関委任事務」の制度を府県に拡大した。そういった内閣省は、内政、警察、地方におけるあらゆる人事権や権限を持ちすぎているがゆえに、解体された。これは、それまでの中央集権化を是とした国家のあり方に対し、アメリカによる地方分権改革が抜本的に進められていったという意味で、やはり大きな「第二の改革」である。

 さて、ここからが、では、今、なぜ「第三の改革」なのかということを考えていくことになる。

 まず、一番に明記しなければならないのが、昭和24年のシャウプ勧告においては、権限を持たない地方が、極端に中央政府の税収に依存する日本の財政構造に対して、行政責任明確化の原則と、財源保障機能としての財政調整制度などの指摘がなされていたことである。この勧告が基づく地方自治の思想は、実に明確である。

 「地方政府は、民主的生活様式に潜在的な貢献をなすものであるから強化されねばならない。強力な、自立した、実力ある地方行政団体があれば、政治力は、遠隔の地にあり、かつ個人とは無関係の中央政府に集中されるよりも、むしろ分散され、国民の身近におかれるのである」

 そして、こうした構造への指摘が是正されないまま、占領軍の改革と日本の中央政府との対立のなかで国のあり方が変容していく。さらに、東西の対立とそれによるアメリカの対日政策の転換、さらには朝鮮戦争の勃発、によって、日本は逆に地方自治の充実、地方分権というよりは、産業政策重視、再軍備、労働運動の牽制、中央集権化といった方向に再編成されていく。

 田中角栄の『日本列島改造論』(1972年6月出版)に象徴される日本のその後の経済政策は、中央の一極集中という政治課題に対抗して、逆に地方への分配や地方の公共投資の重点を行っていく。これらは、農村に不釣合いな構造物と土建国家構造を生み、都市の生産性を停滞させ、アジアや香港の都市への資本の流出も行われた。その反省に中曽根内閣では大都市の整備が行われていくが、こうした長期ビジョンと実効性に欠けた政府の国土への投資は、バブルとその崩壊を経たいまの日本経済への重荷として大きくのしかかっているといえよう。80年代後半に、バブル経済が発生し、地方自治体は公共投資や福祉サービスの拡大をしていくが、90年にバブル崩壊後、ゼロ成長時代に突入し、政府の財政危機は、70年代以上に深刻なものとなってしまっている。

 こうしたなかにおいて、中央、地方における行政改革が推進され、自治体のリストラが議論されていく。1980年代の基本的な方向は、首相の諮問機関である第二次臨時行政調査会の報告書にはじまり、自治体の効率化、職員の削減、公共投資の見直し、自治体の広域再編というものが提起された。しかし、国鉄民営化などの課題も山積しており、実際には、90年代に入って、また、いまなおこうした行革や地方分権、そして市町村合併といったことが行われている。このころの道州制に対するものも、広域連合制度が1994年に法制化されたが、具体的な実務レベルで実行されはじめたのは、ごく最近といっていいであろう。

 1999年の地方分権一括法による機関委任事務の廃止をはじめとして、ますます日本の地方分権と行政改革は進んでいくであろうが、ここに必要な長期的な日本のビジョンと国家経営的な政治のあり方の追求によって、中央集権的政治経済構造に変わる、新たな「国のかたち」を形作っていくことが、強く求められている明治維新と戦後改革に継ぐ「第三の改革」の本質であろう。

 「第三の改革」の位置づけは、その高度経済成長と右肩上がりの経済成長が終焉を迎えた現在において、政治、経済における一体的な分権化を進めていくことであろう。政官業の癒着のなか、あらゆる方面で「土建国家」的体制を固辞するのではなく、中央と地方、官と民、における適切な分権化を行っていくことと、東京一極集中から地方の特色が活かされた経済構造への転換である。しかし、それは、「小さな政府」を実現していくということでは、経済、財政的な意味しか持たない。民主主義の発展形としての市民の良識、正義というものが政治に取り入れられていく地方自治と、それによって生まれる理念とともに、力強く主体性を持つ国家を形成するということである。

3.地域主権型国家日本の国家像

 まず、新たな「地域主権型国家日本」においては、州、都道府県、市町村といった三層制とする。

 この州においては、これまで経済産業省、国土交通省、環境庁、厚生省など、中央政府と地方支分部局や直轄の諸機関がおこなってきた主な内政分野に対して、大きく中央政府から「広域地方政府」としての州へとその機能の移管を進めていくことになる。この州の単位において、域内の自治体への調整機能を持つとともに、財政構造上もこの「広域地方政府(州)」が、自立した課税自主権、歳出自主権を持つことにする。

 これは、地域主権型国家日本へと転換する上で、何よりも重要な改革であり、地方交付税制度、税制度、補助金の在り方について、このビジョンに対して抜本的な財政構造改革を進めていくことになる。

 次に、都道府県であるが、これは、国民的にも地域の文化的枠組みとして130年間の年月とともに定着をしてきており、東北三県などが自主的な合併への動き進めるといったケースを除いて、残すべきであると考える。

 では、どう変わるかを述べれば、従来の都道府県は、総合自治体として、あらゆる行政分野に関わり、基礎自治体への補完・調整機能も担ってきたわけである。さらにその行政の財源も、国の垂直的財源保障制度としての交付金や中央の許認可が必要な補助金に依存してきた。これらが、州の存在によって都道府県が総合自治体としての機能や、国からの補助金、交付金に依存する存在ではなくなるわけである。

 新たな都道府県は、基礎自治体ではまかないきれない、大規模病院(市や民間病院では投資できない医療課題をカバー)、高等教育、警察、防災、などの行政分野に限定して、補完・調整的機能へと縮小された特別目的自治体(Special Purpose District)となる。

 そして、基礎自治体となる市町村であるが、これは最も住民に近い地域単位におけるローカルガバナンスの中心的存在として、多様な規模と特性が在るべきだと考える。

 「財政基盤の確立と行政運営の効率化」をもとに実施されている市町村合併によって、1999年には3232あった市町村が、2400以下になっている。合併特例債も充実され、基準財政需要額の算定に配慮する合併特例期間も5年から10年へと延長され、さらに1000程度に削減し、権限委譲が可能な市町村の機能強化を図ってきている状況である。

 国の優遇措置による市町村合併が進められていくなか、合併しない宣言をする市と合併する市があり、合併する市は、どこと合併するかが議論にあがり、住民投票という手法も多く使われた。これに関して、各市町村には、その風土と歴史、構成する面積、人口から、合併の是非が住民によって決定されていると解釈する。優遇措置を短絡的に目的としないものであれば、その基礎自治体は、今後も発展するとも考えられるが、合併後のローカルガバナンスのあり方を強く問わなければならないだろう。

 人口25万人から30万人という規模が中核市としての基準であったり、その周辺市町村が10万人前後で存在することも必要であろう。また、山岳などの農村地では、やはり数千人程度の小規模村町がなければならない。それらには、それぞれのコミュニティーのあり方があり、政治行政のあり方があっていい。これらを州が今後はある程度の単位で補完していくことになるであろう。東京都23区の行政区は、普通市へと変更し、横浜市、大阪市、名古屋市の大都市においては、その行政区単位の普通市化も検討する。そうした上で、政令指定都市は、府県と同格の特別市とする。

 区域は、ある程度地方庁として統合された地方支分部局によって決定されるであろうし、事務、行政組織もそれらを継続することになると思われる。州知事は、公選に移項するのが望ましいし、議員定数も増加しない、あるいは削減していくことが適切であろう。公務員の人数においても、国の出先機関は、国家公務員の6割、20万人が働いている。これらが、国から地方への許認可事業や、地方の産業育成に対する業務を行っているわけであるが、煩雑な許認可や補助金業務が、地方の独自の業務へと移項し、公務員数の削減とともに、効率的な行政運営も行われるであろう。結果として、国と地方の役割、国民の受益負担の明確化とともに、国家をスリム化することが出来るわけである。

 さらに、もうひとつとして、国と地方との役割分担が明確になった場合には、憲法改正が必要にもなるが、参議院議員と道州議会との兼ね合いも考える必要がでてくる。道州議会から数名の議員を選任し、中央政府が地方自治に影響を与える法令を制定する場合に、連邦参議院への同意が必要となるわけである。

 こういった道州間・都道府県間において、多様な制度設計、法律や課税による統治の適正な競争がおこなわれるためには、この道州と都道府県との役割分担を明確にしていかなければならない。そしてさらに、その上で、課税権や立法権を再度設定していくことが肝要である。

 なかでも産業政策や社会基盤においては、国際化、アジアでの競争激化のなかにおいて、それぞれ規制改革や国際的視野における戦略投資が各道州で大きく行われることが重要であり、多様な分野において国際競争力のある地域を形づくることがこの道州の大きな役割といっていいであろう。

 そうしたなかで、国民は、これまでの国家財政という遠い財政運営から、より身近になった道州の財政運営に対し、大きく将来責任をもって監視していくことになっていく。

 第28次の地方制度調査会の審議においても、道州制に対する本格的な論点整理と研究が行われ、1月13日には、8、9(関東甲信越を南関東、北関東のふたつに)11道州(中・四国を中国、四国の二つ、北関東を北陸と北関東の二つ)といった区割り案も出された。私の基本的な考え方との大きな違いは、2層制を基本し、全国一斉に実施するとするものであるが、道州を「広域地方政府」とする地域主権の理念という点で、大きな差があるようにおもえる。

 これらは、税財政上の制度改革(後述する)においては、大きな時間と労力を要するが、州単位の内政業務は、すでに、地方支分部局が多くの業務を担っている。さらに、平成12年の行政改革大綱においてなど、地方支分部局の統合と業務のブロック化が始まっいる。

 国による霞ヶ関のスリム化と現業のブロック化、地方支分部局の統合という改革とともに、各地域ブロックでの都道府県の合併あるいは広域連合による取組みとをすり合わせ、市町村の合併や広域連合をすすめながらの市町村の機能強化と都道府県との機能分担の見直しによって、州導入への準備を進めていくことは出来る。

 最終的には、国会、州議会、県議会、市町村議会の人員、法律・条例の関係について、税財源の運営上の規律や新しい財源調整制度、権限・業務の役割分担などを定めた道州制基本法を設定していくことによって実現されるであろう。

 ここで、税財政上の改善に加えて、もう一点、大きな改革上の論点は、議会がどう設置されるかということであろう。最もドラスティックな一つの案は、国会議員の大幅な削減とそれにともなう州議会議員の設置と公選州知事による道州参議院への移項、県会議員の大幅削減である。対案としては、県議会あるいは市長による州議会の構成、県知事の代表による州知事ということが考えられるが、「広域地方政府」としての州を考える場合、前者が正しく、後者は、理念に反する。

 議会と首長そのもののあり方も、現在の日本は 日本における自治体の首長と議会の二元制は、古くから対立構造を続けており、行政の長たる首長は議員からの指摘を受けないように情報を閉鎖的にし、議会は往々にして形式的なものか、政局的なものにしかなりえないという批判もある。首長と議員における対立ではなく、改革案や提案が活発化することが重要である。

 これまでの、地区内の全般的なサービスを請け負っていく自治体という位置づけよりも、税の種類とそれに見合ったサービスを各自治体が提供し、さらに、より身近な行政サービスを担い、住民参加の容易な市町村においては、間接民主主義のなかにおける議会と首長という二元制を重視しつづけるのではなく、規模に合わせてシティーマネージャー制度の導入や、特定目的自治体設立制度、共同執行機関設置制度、他の市町村あるいは自治体からの公共サービス代行制度などを取り入れ、より効率的な政府を市民が全体で作り上げる仕組みにしていくべきである。

 議員報酬についても、実費補償のみといった選択肢ができてもいいし、議会や委員会を夜間に開催するなど住民が参加しやすい手段を講じるべきである。

 さて、最も重要な財政構造の改革について述べたい。これは、歴史のパートでも述べたとおり、シャウプ勧告で指摘されてからも是正されることのなかった、日本の行財政における最も大きな欠点のひとつである。

 日本は、英国、イタリア、フランスなど単一国家と同様に国から地方への各種交付金による垂直調整方式がとられている。一方、ドイツ、アメリカやスウェーデンは、若干の垂直的調整のほかに、地方政府間での水平調整制度をとっている。ここで注意すべきなのは、日本は、単一国家が採用する水平調整方式であるにもかかわらず、歳出における国と地方との割合が、極めて地方歳出の大い連邦政府のような様相を呈していることである。従って、垂直調整の役割があまりにも大きすぎる構造をなし、完全にモラルハザードを起こしている。「結果の平等」を国が補償するのか、それとも「機会の平等」とするのか、すでに日本においては、当然、後者を選択せざるを得ない。

 交付税を中心とする垂直調整制度から広域自治体間(都道府県間)の水平調整制度の導入とその比重の向上、国庫支出金の削減という歳出に対する自治体の自主権、そして課税自主権の確立ということが重要である。

 複雑な交付税基準によって地方に配分される地方交付税に対し、国、自治体それぞれの受益に対応する税源移譲を進め、そしてその課税自主権を持った広域自治体(都道府県間)が各広域自治体間において、それらの格差をたとえば、人口、面積によって比例される計算式を基準に、協議をもって水平に調整を行う。

 国庫支出金に関しても、住民に近い行政でありながら、ナショナルミニマムとして国が確保する社会福祉などに関する業務など、国の基本的な業務に対する効率化をする上での業務を除いて、大幅に削減していくべきであろう。

 地域主権型国家においては、国と地方の税源、権限において役割分担が明確になり、中央省庁は大幅に縮小再編され、受益と負担の明確化が実現する。

 国は、国家存立基盤としての領土保全、防衛、外交、国籍、文化財保護全国的に統一した施策である金融政策、知的財産権、全国統一基準、年金、義務教育方針などを専管項目とする。その他においては、各地方からの情報と、世界情勢を踏まえての国家における基本ビジョンを提示することになるだろう。

 道州では、産業政策、公共事業、環境保全、高度医療、司法、警察、高等教育、災害復旧等を担うべきである。都道府県では、医療、社会保険、基礎自治体では、福祉、義務教育、戸籍、都市計画を担うことになる。

 こうした役割分担において、各分野に即した課税権、立法権を持たせることによって、国民が国全体の運営を監視するとともに衆知を集め、生産性の高い政治を行っていくことが、これからの日本を経営していく上で極めて重要である。

図1.これまでの行政機構イメージ(前川作成)

図2.地域主権型国家の行政機構イメージ「新しい地域のあり方」(前川作成)

3.地域の経営が問われるこれからの基礎自治体行政

 こうした地域主権型国家においては、ローカルガバナンスの中心となる基礎自治体としての市町村が、大きくその地域と公共の経営に責任を持っていくことになる。全国各地の自治体が、現在進めている行財改革の主な柱としては、「事務事業の見直し」、「民間委託の推進」、「職員の定員管理と給与の適正化」という三つが上げられるであろう。

 こうした動きがようやく主流化してきたわけであるが、自治体間でどのような差がうまれてきているのか。現状の市町村について、日経新聞社、日本産業消費研究所によるアンケート調査からの行政サービス水準の相対評価と、経常収支比率との相関図を示したのが、下の図である。

図3.自治体の経営健全度とサービス水準の関係(前川作成)

 横軸がそのサービス水準(原点基準を全国平均とする)であり、水道料金といった定量的なものから、行政改革推進度や住民参加度、アウトソーシング度、情報公開度といった定性的な部分においてもポイントとなる改革手法採用の有無をアンケートし、算出されたものである。

 縦軸は、経常収支比率(原点基準を80%とする)である。この経常収支比率とは、経常経費充当一般財源÷経常一般財源総額×一〇〇 によって算出され、地方自治体の財政の弾力性を示す指標として利用されている。従来より、総務省(前自治省)の指導としては、道府県で80%、市町村で75%を上回らないことが望ましいとされていた。経常経費の主なものは、まず人件費であり、扶助費であり、公債費である。公債費の比率が大きいところでは、繰り上げ償還などの努力と建設事業の見直しが求められる。

 このグラフでは、主に近畿圏の市町村をピックアップしてある(薄いピンクは他塾生出身地、青は全国的に突出している例長野県の市町村や豊田市)が、見て分かる通り、ほとんどの自治体が80%を超え、財政の硬直化が深刻化しているのがわかる。大都市で高いサービスを提供しながらも極めて財政が悪化している神戸市や大阪市、一方農村のなかには左下に位置する市町村も存在するわけである。

 一方で、突出して、高サービスと良好な財政健全度を保っているのが豊田市(人口45万人、面積918km2※平成17年4月に近隣市町村と合併し、以前は人口約35万人、面積290km2)であるが、これは、トヨタ自動車に関連した中小企業による法人住民税を主体として自主財源が豊富にあることが原因である。しかし、その上で、神戸市のように財政を悪化させるのではなく、不交付団体として国からの交付税に頼らずに、元金償還額を上回らない形で、市債を発行していくというプライマリーバランスの黒字化を設定しているのである。既に、平成17年度では、元金償還額が102億円に対し、新規借り入れ額は、80億円である。従って、除々に、元金額は減っていくことになる。国は、こうした黒字化を2011年には実現しようとやっきになっているが、既に、豊田市では実現しているのである。もう一つ例をあげると、長野市である。長野県では、県知事選挙等、政治と住民側からの行政運営への意識改革が進んできたことが、近年言えるが、私が合併しない宣言をした下条村や栄村、あるいは今回の長野市を調査した上でみえてきたことは、1970年代、つまりは、国の行革が始まる1980年代よりも10年早い段階から、市町村の行政運営に対する経営意識を持っていた首長が、人件費の削減やゴミ収集の民間委託等のアウトソーシングを中心に進めていった結果であるということが分かってきた。

 今後、平成16年度の三位一体改革では、都道府県が不況による法人税減収と交付税削減とのダブルパンチを受け、市町村においては、市民住民税の比率が高いため、ある程度安定していたが、平成19年度以降、2011年のプライマリーバランス黒字化を目指す政府の方針で、交付税が大きく減額して行くことが予想される。(平成18年度では、地方財政計画によると、5.9%の前年度比減)こうした状況にも、いかに自治体の経営力を高めていくかは、いっそうの民間委託や市民との協働、少数精鋭による人件費、そして投資的経費の見直しと、長期的な政策投資ということが言えるであろう。

4.新たな地域と公共の経営 ~企業や市民の役割拡大について

 日本という国の公共は、これまで行政中心に経済発展や公共福祉の増大という目的で形成されてきたわけであるが、今後は、経済も社会という人と人とのつながりを重要視することで新たな需要を創出し、政治行政も、より地域の特質や、市民との協働のあり方を模索することによって地域の活性化や人々の心の豊かさを満たすべき時代にある。

図4.新たな公共空間の形成(前川作成)

 地域の特色やその創意工夫によって、国の規制からはなれて産業や施策をすすめていくために、構造改革特区が、すでに全国で500を超えて認定されている。またPFIもそれなりに定着し始め、民間資本活用が日本に沿った形で進められてきたわけであるが、規制緩和、官業開放という流れは、まだまだ進むべき先がある。指定管理者制度の導入によって、今年9月までに全国すべての地方自治体は直営か委託かの決断を義務付けられ、地方自治体が運営している文化施設、スポーツ施設、病院、給食センター、上下水道が検討される。既存のNPOや企業がその適用を受けていくことになるわけである。現在の状況をいえば、自治体ごとでその取組みの差があり、資産のある企業やNPOへの委託を進める自治体もあれば、地元のそれらの醸成を待って除々に進めていくという方針の自治体もある。

 またさらに、官と民が提案内容を競う形で入札が行われる「官民共同入札」が、ハローワークの仕事、社会保険庁の年金事業、刑務所の運営などで試行がはじまっている。今後の通常国会で法制化が実現すれば、これまでの役所の業務が多く入札をかけて民間と生産性と効率化を競い合うことになるのである。企業には、大きなチャンスであるとともに、社会的な責任を背負って事業を展開するという企業理念を改めて持ちなおさねばならない。

 市民と政治行政との協働においても、図に示すように、市民と行政との間を、市民ができるものとして、社会資本の管理を周辺住民が担うアダプト制度や、教育に関して、地域運営協議会が権限をもって校長を中心にそれぞれの学校の実態に適した経営と運営をおこなっていくコミュニティースクールなどが挙げられるであろう。

 行政への提言としては、公共事業などへのパブリックコメント、市民会議や街づくり協議会などによる行政施策への参画と反映、市民による行政の監査としての市民オンブズマンなど、既に各所で不十分ながら、取り組れている。

 政治との直接的なかかわりも、公開討論会を実施して、投票行動の質的向上を図ったり、ローカルマニフェストを、市民サイドからも要求あるいは検証する、作成して候補者を擁立するなど、さまざまな手法がある。

 これらは、私自身も研修活動で、ローカルマニフェスト推進ネットワーク関西や、地元加古川市でのアダプト制度への参加、市民団体活動を進めていくなかで、まだまだ浸透不足であることを実感する。しかし、すでに始まっている動きが、「新しい地域と公共の経営」のもっとも基礎を担う市民、企業の役割として、より大きく広がっていくことが、日本の「生産性の高い政治、効率的な行政」を実現していく最も必要なことであると認識する。

5.おわりに ~生産性の高い政治、効率的な行政に向けて~

 「日本は一億の国民がある、一言語である、ほとんど一民族である、非常に好もしい状態である。」「そういうことを考えて見ますと、私は日本の政治が、日本の国民性に準拠した政治の仕組みをとったならば、もっともっと政治の能率が上がっていくだろうということを最近になって痛切に感じるようになりました。」「同じ政治をするのに、アメリカが一ドルかかるなら、日本はもっと安くできる。」(松下政経塾「建塾の理念」 松下幸之助塾主発言より)

 松下幸之助塾主は、経済界がその生産性の向上を、予算を1割かけて研究し追及しているように、政治も「政治の生産性をいかに高めるか」を研究すべきである、税金をもっと安く、そして本当に慈悲のあるより良い政治というものが出来ると訴えていた。

 現在の日本は、先進国に前例のない累積債務をかかえることによって、日本人としてその危機を自覚しはじめ、ようやく政治の生産性を高める研究と実行を政治行政が、そして企業市民とともに移しはじめてきているといえよう。受益と負担が不明確であったこれまでの財政構造を是正し、改めて財政民主主義の確立と自立した地域、市民による公共を築くことが、21世紀の日本の基礎力を養う重要な使命であると考える。

【参考文献】

『松下幸之助発言集』 (PHP研究所)1993年
『日本をひらく 新国土創成論』(PHP研究所)松下幸之助 1976年
『私の夢・日本の夢 21世紀の日本』(PHP研究所)松下幸之助 1977年『高度成長の時代』(日本評論社)香西泰 1981年
『日本の地方自治』 (自治体研究社) 中西啓之 1997年
『日本社会の可能性 持続可能な社会へ』 (岩波書店) 宮本健一 2001年
『日本再編計画 -無税国家への道』 (PHP総合研究所)江口克彦 2002年
『「地域主権」の確立に向けた7つの挑戦 -日本再編計画2010-』 PHP総合研究所 2002年 
『地域地方政府システムの提言 -国・地域の再生に向けて-』 NIRA総合研究開発機構2005年 
『全国優良都市ランキング 2005-06』 日本経済新聞社・日経産業消費研究所 編 2005年
『パブリックビジネス・リポート』(日経BP社) 2005年
『図説 地方財政データブック <平成17年度版>』(学陽書房)出井信夫 参議院総務委員会調査室 編 2005年

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前川桂恵三の論考

Thesis

Keizo Maekawa

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第24期

前川 桂恵三

まえかわ・けいぞう

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