論考

Thesis

日本の外交と安全保障を考える(1)周辺有事と台湾海峡

甚だ不謹慎の例えを許してもらいたい、日本語の中には「あてうま」という言葉がある、「当馬」もしくは「試馬」と書く。「広辞苑」を調べると、「牝馬の発情を検査するための、或いは促すための牡馬;転じて、自分の野心を隠して置き、表面他の人をその位置に推す-当て馬する」とある。
 今の国会での与野党の議論を見ていますと、なぜか私はこの言葉を思い出す。
 マスコミは今国会を久々の安保国会と呼んでいる。北朝鮮の脅威から日本の安全を守るために日米安保ガイドラインの関連法案の整備を急いでいる。予算審議もそこそこに処理し、あの共産党まで議論に加わり、国会でテポトンや朝鮮有事を連発している、日本の政治家とアメリカの要人との行き来もいつになく忙しく、慌しい情景である。
  しかし、少し注意して国会中継を見ていますと、いま、行われている議論には根本的な欠陥を持つことに気がつく。

 自民党の議員は「北朝鮮の暴走を防ぐために、日本はアメリカと軍事同盟をより強固なものにしなければならない、日本の後方支援は北朝鮮に対して軍事抑止力的を果たす。」と主張する、不思議なことに、野党の民主党はこの件で自民党よりも積極的になっているよう気がしなくもない。
 しかし、私は考える。軍事抑止力とは、かつて米ソ間に行なわれた軍備競争のように軍事力バランスを均衡させることによって、相手の軍事行動を押さえとどめることである。北朝鮮のケースはこれに当てはまらないのではないかと思う。今の日米韓三国対北朝鮮という構図はもう十分過ぎるほど軍事バランスを崩している。戦争になれば、北朝鮮の軍部も含めて恐らく誰もがアメリカ軍の勝利を確信するのであろう。にもかかわらず、北朝鮮がもし戦争を仕掛けるような暴走があるとすれば、「自国内の政治はいよいよ行き詰まり、自暴自棄の戦争だとしか考えられない」と大方の専門家は見ている。その時、いま日本で議論になっている日本の米軍に対して後方支援という約束は、どれだけの抑止力を果たせるのか、大きな疑問を持たざるを得ない。

 もう一つ、ミサイルが日本に飛んでくる場合も議論になっている、これは確か大変なことである、日本は恐らく多くの死者を出すのであろう。しかし、これも少し考えれば、この件は日本の市民生活にとっての脅威であって、日本の国家安全にとっての脅威ではない。ミサイルが何発飛んできたところで日本という国が滅るまでいたらない。第一、そうなれば、日米安保の第5条にが自然的に発動し、現在のシステムの中でも日本はアメリカと協力しながら自衛権を行使できる。つまり、ミサイルが飛んでくることは日本の安全保障の問題よりも危機管理の問題になるのである。今、日本がそういう非常事態に備えてしなければならないことは日米安保の増強ではなく、いかに速やかに対応し、被害を最小限に食い止める非常事態法の立法ではないかと考える。
 さらに、湾岸戦争でアメリカが見せた強さを考えれば、対北朝鮮の開戦があるとすれば、米軍は極めて短期間で勝負をつけられると予測できる。その過程の中で、日本の水、食料の運搬といった後方支援はどれだけ必要性があるのか非常に曖昧である。
 以上のことを総合すると、なぜ、いまこの日本経済が大変な時期にガイドラインの見直しを急がなければならないのか、そして、あのような後方支援はどういう意味をなすのか、首を傾げざるを得ない。
 ふっと目を南に向いて、私は回答を見つかったような気がする。
 台湾海峡である。昨年、外務省北米局長の高野氏が国会答弁の中で、関連法案の中の周辺有事は台湾海峡を含むと発言したところでたちまち罷免された、恐らく本当のことを言った責任を取らされたことだろう。
 ガイドラインの見直しの仮想敵は北朝鮮ではなく、中国だと考えれば、ことの真相は自然と見えてくる。中国は台湾に対して武力行使を放棄していない。そして、96年に米軍と台湾海峡を挟んで対峙した経験がある。最悪な状態になれば、アメリカは台湾海峡で中国と一戦を交えるかもしれない。恐らく朝鮮戦争やベトナム戦争のなよう長期戦になる可能性はある。そのとき、日本の後方支援の諸項目は大変役に立つものであろう。

 アメリカにとって何よりも大事なことは戦時中ではなく、日米一体ということは中国との外交交渉のときの強いカードになる。あの突然出てきたTMD構想も全く同じことで、日本がお金を出して、アメリカが開発所有する。できるのは2007年、日本がメリットを得る前に、アメリカが対中国外交で、台湾への売却することをちらつかせ、優位に立つことができる。
 結局、アメリカも日本の政府も最初から中国を意識し、この審議を進めている。北朝鮮は、日本国民を安心させる当て馬である。そもそも、もし本当に北朝鮮を気にするならば、北朝鮮限定の立法すれば良いである。
 良く聞かれる言い訳としては中国との外交上の配慮からで敢えてを台湾のことを言明しないのだというのある、それなら中国ともっと話し合いを重ねるべきである。理解を求める努力を何もしないで相手を意識する立法をひたすら進めることは、外交上の配慮もへったくれもないと言えよう。実は、中国は日米の真意を最初から百も承知で、早くから新聞で日本非難をはじめている。
 話を分かりやすくまとめよう。いま、日本の国会で審議されているのガイドラインの見直しとは;
 米国は中国と対抗し、アジア太平洋地域においての覇権よりよく維持させるために、日本の協力を求めて来た。日本はこれに協力するかしないかの話である。
 これに協力すれば、日米安保は元より日米関係をさらに発展させることができるのであろう、また、近隣台湾の民主と安全を守ることに日本が貢献するというメリットがある。しかし、同時に、日中関係を停滞もしくは後退させ、さらに、いざという時、日本の米軍基地もしくはその他の地域は中国の攻撃にさらされる覚悟をしなければならない。
 そういうことは国会で話題にすることはタブー視されているようである。

 ダチョウ政策という言葉がある。砂漠でダチョウが敵に遭遇すると、たちまち頭を砂の中に入れ、自分が敵を見えないから、恐らく敵も自分を見えないのだろうと考える。
 いま、国会で日本政府の弁明を聞いていると:「米軍は先制攻撃をしない、中国は台湾を攻めない、後方支援だから攻撃されることはない。」国民にう信じさせようとしていることはまさにダチョウ政策だ、大変無責任の姿勢である。
 国民にとって安全保障とは一番大事な問題なので、当て馬を使うのをやめて、日本は台湾海峡に介入すべきかどうか、二者択一の時、国民はなにを選ぶのか、もっと利害関係をきちんと並べて、説明をし、国民の間で大いに議論を呼ばなければならないことが政府の務めだと考える。

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矢板明夫の論考

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Akio Yaita

矢板明夫

第18期

矢板 明夫

やいた・あきお

産経新聞 台北支局長

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