Thesis
1996年5月16日、参議院外務委員会は「アジア・太平洋に関する小委員会」の提案を受け、「中国・台湾情勢に関する決議」(以下「台湾決議」)を可決した。台湾の総統選挙、中国の威嚇軍事演習、そして、米国の空母出動から、およそ2月後のことである。
この決議は、いろいろな批判を受けながらも、日本の現代外交史上において、大きな意義をもっている。1972年以来、日本の立法府が初めて、台湾問題に関して独自なメッセージを発したものである。
月例報告シリーズ「日本の対台湾政策を考える」の第一弾として、この「台湾決議」を取り上げたい。
「台湾決議」は五つの提案によって構成されている。
しかしながら、この決議を世界のマスコミもとより、日本の新聞もほとんど話題にしなかった。
何よりも残念なことは、私はワシントンで台湾の駐米副代表鄭博久先生をインタビューしたところ、この決議は台湾の政界も、官界もほとんど知れ渡っていないだという。
唯一反応を示してくれたのは中国の外交部で、内政干渉の疑いがあるということで遺憾の意を表明したそうである。
日本の外交行動はいつもタイミングが悪いと言われている。今回の「台湾決議」を見て、そういう非難を受けても仕方ないと思い当たる部分は実に多い。台湾海峡の緊迫が過ぎて2ヶ月、関係者も忘れかけている頃に、日本は初めて自分の立場を表明し、台湾側に対しての応援効果はほとんどなく、日中関係に軋みをもたらすマイナス効果のほうが大きかった。
このほかにも、私は「台湾決議」にはいくつの問題点を持っていると考える。僭越ながらここで批評を加えさせて頂きたい。
まず挙げられるのは、内容の薄さである、全文を読み通して、平和、民主主義、経済発展、と言った誰も否定できない正論が並べられている。ほぼ全会一致で可決という結果を見ても、議会において、あまり深く議論を交わされなかったことが伺える。一国の外交政策を決めるには、正論という建前はもちろん大事だが、それを具体化させ、より踏み入ったものにしなければ、空論に陥りやすい。現に、「日本の議会はこういう決議を可決したと言われても、具体的に今までとどう変わったのか、われわれには伝わってこない。」と台湾の外交官は言っている。
二つ目の問題はアピールの不足が挙げられる、日本国内のマスコミ界や学者をもっと巻き込んで、話題作りの努力をする必要があったと思う。「アジア太平洋に関する小委員会」の成立趣旨の中に、この委員会の役割を「外交と国民世論の良き仲介役」と自ら位置づけをしている。しかし、この決議はほとんど世論の援護を受けていない、国際的にもインパクトを著しく欠けている。
三つ目の問題は、よく外国に非難されていることであるが、国内政治の過大視と外交の軽視である、実は台湾海峡が一番緊迫していた時、日本は住専問題の最中にあり、衆議院は新進党の座り込みで空転していた。国家にとって安全保障上、外交上の瀬戸際という時に、参議院の一小委員会しか対応に当たれなかったことは大きな問題だと言える。日本の政治家はもっと国際感覚を養うべきである。
四つ目の問題は、言葉の厳密さに欠けることである。たとえば、「中台双方」という言い方は「日中共同声明」を違反する恐れがある。日本は公式的に「中国は一つ、台湾は中国の1部」という外交上の立場をとっています、それを無視して「中台双方」という言い方は誤解を受けやすい。また、「中台双方が民主主義と人権の保障を発展させ、より開かれた社会を建設していくよう期待する。」という言い回しは、台湾決議の趣旨と関係ないところで揚げ足を取られる可能性があり、ここで用いるべきでないと考える。
以上、「台湾決議」に対して私見を若干述べさせて頂いた、大変未熟であり、かつ、すべき論がほとんどである、実際、外交というものは、私の想像を超えて、もっと複雑かつ多元的であることは承知している。みなさまのご指導、ご批判を頂きたい。
台湾決議はこれまでの日本外交政策から見て、様々な問題点を残しながらも「中国にものを申す」という意味で大きな一歩を踏み出したと言えよう。「参議院アジア太平洋に関する小委員会」の先生方に敬意を表したい。
Thesis
Akio Yaita
第18期
やいた・あきお
産経新聞 台北支局長