Thesis
台湾の新聞に「わが国政府、結婚詐欺にあう」という見出しを見た時、思わず噴出した。
今、中国と台湾の間では「パプアニューギニアと台湾の国交樹立問題」をめぐり、揺れに揺れている。中台間の外交相手国の獲得合戦は始まって久しいが,ほとんどの勝負は1979年の米中国交樹立をもって、北京側の完勝に終わったと言われている、しかし、ここ数年、李登輝総統の実務外交の展開と共に、この合戦は新たな動きを見せている。
今回の騒動はまず、オーストラリアの新聞が7月3日、パプアニューギニアのスケート総理の秘密訪台をスクープしたことに始まる、7月5日、台北で両国外相の文書調印が発表された。これを受けて、直ちに中国政府はパプアニューギニア政府に厳正な交渉と強烈な抗議を申し入れた。「台湾と「国交樹立」コミュニケーションの誤りを是正し、両国関係が正常な軌道に戻ることを強烈に要求。さもなければ、パプアニューギニア政府は必ずこれによってもたらすあらゆる重大な結果に対しすべての責任を負わなければならない。」と威嚇した。そして、中国はパプアニューギニアの元宗主国であるオーストアリアを通じて圧力をかけ、経済、政治のあらゆる手段を行使して、パプアニューギニアと台湾の国交樹立を妨害し始めた。7月7日、パプアニューギニアのスケート総理は辞任した、主な理由は国内の経済の不振としているが、今回の騒動と深く関係していることはいうまでもない。これから台湾との国交を継続するのか、白紙に戻すのか、7月13日に国会で指名される新総理(スケート氏の再選も有りうるが)の判断に委ねなければならない。今回、国交樹立の見返りに、台湾はパプアニューギニアに対して、23億ドルの融資をすることが条件だと言われているので、台湾新聞の「結婚詐欺云々」はスケート氏の突然辞任のショックから発した言葉であろう。
私は今回の騒動で二つのことに注目した。
一つ目は冷戦後の世界秩序の中で、外交パートナーを選ぶ時、反共や社会主義といったイデオロギーの大義名分がなくなり。国と国の間、赤裸々の政治目的と金銭関係が表面化したこと。あんまり表に出ていないが、実はパプアニューギニア政府は96年に中国から1.5億元の融資と200万元無償援助を受けている、ほとんど関係のない小国に大金(中国のODAにしてみれば)を出した中国は台湾を意識したことは言うまでもない。「大国は政治の目的のために経済をカードとして使う、小国は経済目的のために政治をカードとして使う。」冷戦後の国際社会の新しい流れを今回の騒動で遺憾なく露呈した結果となった。
もう一つ、私は注目した問題は、周辺の大国オーストラリアをも巻き込んでいることである。オーストラリア政府は再三にわたり、パプアニューギニアに対する事前警告を発し、経済制裁も辞さない構えをみせた原因は、安全保障という観点から、近隣のパプアニューギニアが中台の争奪戦場となって周辺情勢が流動化することを警戒したためとみられている。
こんな前例がある、今年の三月、同じく台湾と国交樹立という理由で、国連安全保障理事会で「マケドニアに駐留する国連予防展開軍(UNPREDEP)の期限更新を求める決議案」は中国の拒否権行使によって葬られた。いわば中国によるマケドニアに対しての外交的報復である。このことが米国とNATO諸国の国連不信を招き、あの国連不在のユーゴ空爆を引き起こしたとも言われている。
中国は常々台湾問題を内政問題だ主張しているが、これらのことから判断しても、もうすでに立派な国際問題である。今回のパプアニューギニアと台湾の問題は、一歩間違えば何に発展するか分からない。
私は非常に残念に思うことがある。
今回の騒動と時期的にちょうど重なったのが、わが国の小渕首相の訪中である。近年に珍しい日中友好ムードだが、終わってみれば、完全に中国外交の術中にはまる結果となった。中国から歴史問題も台湾問題も言われなかった原因は、中米関係の悪化に伴い、中国にとって、日本がまた必要になってきたにすぎない。このような時こそ、「わが国は台湾海峡の安定を強く懸念し、いかなる場合においても、平和解決されることを望む。」という一言を言ってほしかった、このような一言一言が、やがて将来の日本の自主外交に繋がると私は考える。
Thesis
Akio Yaita
第18期
やいた・あきお
産経新聞 台北支局長