松下政経塾 The Matsushita Institute of
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1998年12月

塾生レポート

日本の対中国政策を考える(3)対中弱腰外交の終焉
矢板明夫/卒塾生

 
 中国古典「柳宗元」の中にこんな話がある:
 黔州(けんしゅう)という地方にロバは元々生息していない。ある人はロバを連れてゆき、山に置き去りにした。地元の虎はロバの体の大きさを見て、怖くて近寄ることできない。ある朝、ロバはたまたま鳴いた、その声の大きさに虎は更にびっくりして、遠くへ逃げてしまった。しばらく月日が過ぎた、ある日、虎は恐る恐るロバに近づいてみた、怒ったロバは虎を足で蹴った。ロバにはこれしか能がないことを悟った虎はロバを喰い殺してしまう話である。
 四字熟語にすると、「黔驢之技」もしくは「黔驢技窮」になる。見かけだけ強く、実際何も能のないロバと、外見と思いこみだけで相手を過大評価し、自信のない虎を両方諷刺する意味合いを持っている。

 いささか不謹慎ながら、このお話の中の虎とロバの関係を例に、日中関係に考えてみたい。
 これまで日本は中国に対して、言いなりのように弱腰外交を続けてきた。争点になりそうなものを全て、妥協するか先送りしてきた。
 一つ例を挙げる:台湾の李登輝総統の訪日問題で、中国首脳が「不快感」を示すだけで、日本の外務省がすぐパニックに陥る。94年のアジア大会、95年アジア太平洋経済協力会議、そして、毎年の京都大学同窓会、李登輝氏は訪日に対して強く意欲を示したにも関わらず、日本政府は中国の顔色ばかり伺ってビザを出さない。結果として、李総統はアメリカ、東南アジア、アフリカ、中南米、といろんな所を歴訪する実績を持ちながら、本人の一番行きたい、ゆかりの深い日本に来られないでいる。大変片務的な自主規制である。
 外務省の某幹部は私にこのように呟いたことがある:「中国を怒らせたら、何されるかわからない、10日以内に全ての中国滞在日本人を強制退去させるようなことを政府の命令で簡単にできる国ですから。」
 確かにそういうことにならば、中国に進出している日本企業にとって壊滅的な打撃であろう。日本の財界は大騒ぎして、内閣もすぐ吹っ飛んでしまうのであろう。中国には野党のような反対勢力をもっていない;世論もない;いざとなれば、自分の国家利益の損害を顧みない位国家のメンツを大事にする;そして、全てトップダウンで物事が決まる。中国と付き合っていて、日本はそういう不透明で合理的でないところを一番怖がっていた。
 しかし、昨年末、中国の江沢民国家主席が訪日する際に、日本の小渕首相は台湾問題に関して最後まで中国の要求を飲まなかった。歴史問題も妥協しなかった。日本にして見れば、珍しく対中国「強気外交」を行使したのである。
 「どうなるのかな?」と誰もが大変心配したところ、意外と中国の反応は大したことなかった、口でいろいろ批判されたけれども、結局経済面の協力はこれまで通り、絶対くれないだろうと覚悟していた北京―上海間の新幹線の工事も結構前向きに考えてくれているようである。
 私は小渕首相の今回の対応はいろいろ問題があると考えるが(詳しくは先月の月例報告)、しかし、日本は一つの教訓を学ぶことができたような気がする。

 中国は日本が考えるほど怖い国ではないし。意外と行使できる外交カードを持ち合わせていないことである、そして、私達が思う以上に中国は日本の経済力に頼っていることも今回で確認することができた。江沢民氏の訪日は、まさにロバが虎を蹴ったように、日本は中国の正体を知った結果となった。これを契機に、日本は対中国外交で、もっと強く自国の国益を主張する自信を得た。
 長い年月を経て、日本の対中国外交は、ようやく未来志向と自己主張へと、大きな一歩を踏み出したような気がする。大変喜ばしいことである。
 しかし、ここで一つ気を付けなければならないことがある。自信を得たからと言って、独りよがりの状態になり、相手を軽視してはならないことである、中国の言い分を十分聞いた上で、自分で判断することは日中関係の理想の姿であろう。

 最近日本のマスコミで中国に好意でない言論は大変増えてきた、誠に心配しなければならない傾向である。「黔驢之技」の話でいうと、日本は自信のなかったところは虎に似ているが、実際にロバを喰い殺すほどの力を持っていると勘違いしたら破滅の道を辿るのだろう。中国は日本にとって大事な隣国である、日中友好は全ての分野において、日本の国益になることを再確認したい。
 また、中国と間、歴史問題等が話題となれば、日本は謙虚と反省の気持ちで望まなければならないことは言うまでもない。
 来月は今回の話を踏まえて、李登輝氏の訪日について書きたいと思う。

1998年12月 執筆
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