松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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1998年7月

塾生レポート

日本の対台湾政策を考える3 ~囚人のジレンマ~
矢板明夫/卒塾生

 
 国際関係理論の中に、囚人のジレンマというゲームがあります。
 極悪犯罪の容疑者として二人の男が留置場に入れられた。しかし、処刑するには、少なくともどちらか一人の自白が必要である、そこで、取調官は二人を別々に呼んで、それぞれに次のように言い渡した。お前が彼より一日でも早く罪を自白すれば、お前は釈放され、しかも、賞金が貰え、彼は死刑だ。しかし、彼の方が先に自白すれば、お前が死刑だぞ。」取調官はさらに次のような条件を加えた。二人が同じ日に自白すれば、二人とも死刑を免れるが、禁錮十年の刑。二人がともに最後まで自白しなければ、賞金はつかないが証拠がないの二人とも釈放だ。そして、最後に取調官は、「しかし、彼が先に自白してしまわないという自信がお前にはあるのかね、房へ帰って明日まで良く考えろ」と言い渡した。それぞれ独房へ帰って、相棒との連絡を絶たれた二人は、取調官の出した条件について、考えを巡らすが、相棒の出方がまったく分からないので、深刻なジレンマに陥るのであった。

 国際政治の場のおいて、一国の得は他国の損に繋がる現象はが多いので、よく(ゼロ・サム・ゲーム)で説明される。しかし、上に紹介した囚人のジレンマゲームにおいては、出方のよっては二人の得失点(ペイ・オフ)の合計は必ずしもゼロにならない。両者ともに自白する場合は勝者がいなくなり、双方とも沈黙した場合は敗者がいなくなる。このようなゲームを「ノン・ゼロ・ゲーム(非零和)と呼ぶ」。(一人自白した場合はゼロ・サム・ゲーム)
 このゲームの最も理想とする結果は、二人の囚人ともに沈黙を選び、釈放を勝ち取るのである。(ゲーム理論で言えば「協力解」に達することになる)双方とも自分の最も有利な得点を得ることはできないとしても、両者の損失を最低限に食い止めるか、或はある程度の満足ゆく解決を得るためには、両者の協力が必要である。よって、協力が実現するには相互信頼が不可欠である。
 台湾問題を勉強していて、ふっとここ数年、台湾と中国の関係はこの囚人のジレンマの関係には陥っているのではないかと考えた。

 中国は台湾に対して一番恐れているのは台湾独立であり、台湾が中国に一番恐れているのは、武力侵攻である。しかし、誰の目から見ても、中国はこの問題を話し合いの平和解決をしたいし、台湾側も、様々な民意調査の結果から見て、数パーセントの人を除いて、ほとんどの人は現状維持を望んでいる(独立に対して消極的である)。つまり、ある意味で言うと、ゲーム理論でいう「協力解」の達成環境を整っている。しかし、未だに、中台双方による平和へ向けて政治的話し合いは実現されていない。(民間の事務的話し合いは数年前から実現した)

 平和交渉は、中国の呼びかけに対して、台湾政府が拒否している形になっている。中国側は江八条(江沢民の八条件)という平和交渉の条件をマスコミに通じて発表している。「台湾経済の完全自立や、台湾の自主軍備、さらに、外交関係に含まれない部分の立法、司法、行政の独立も認めている。」、極めて現状維持に近い状態である。私の取材している限りでは、江八条は台湾にとって飲めない条件ではない。しかし、なぜ、平和交渉を拒否するのか。ある台湾の政治家はこういった「あの武力侵攻すら放棄できない中国に、私達はどうして信頼できようか、いま、台湾は国際社会の応援を受けているけれども、私達が一旦平和交渉に応じてしまうと、この問題はもう完全に中国の内政問題となり、どの国も口が出せなくなる、台湾はまな板の上の鯉になることは目に見えている。」

 中国は台湾の最低限の信頼関係を勝ち取るために、まず武力の侵攻を放棄しなければならない。しかし、ある台湾問題担当の共産党の幹部は私にこう答えた。「江八条では、私達は妥協できるところはすべて妥協した。台湾に対して、もう十分誠意を示した。武力行使は私達の最後のカードであり、唯一のカードでもある。それでも話し合いが始まればすぐ放棄するつもりだ、向うは話し合いの誠意があるかどうかまだわからないのに、武力行使を放棄すれば、台湾が独立した場合、もしくは、外国勢力が台湾海峡に介入した場合、私達は何もできなくなる。」
 まさに囚人のジレンマだ。
 私は台湾海峡に緊張関係があることに、一番得しているのが誰だと探している所、アメリカという回答が浮かんできた。台湾問題があるから、在沖縄に大量米軍が初めて必要となり、アメリカのアジア太平洋地域における発言権が強く保てる、又、今回のクリントン大統領が示して様に、台湾カードがあるだけてアメリカの対中国外交がうんと優位に立てる。更に、台湾に対しての武器輸出はアメリカの軍事産業の莫大な収入源となっている。今回、クリントン大統領は中国に民間用飛行機を売ったけれども、もし、中国に武器を輸出できれば、文字通り「自己矛盾」を演じることもできる。つまり、アメリカは囚人のジレンマというゲームの中に取調官の役を演じている。

 では、それに対して、「日本は台湾問題にどう影響されているのか。」を考えてみたい。台湾問題があるから、日本のシーレーンの安全が脅かされている、又、ある意味で言うと、沖縄県民が苦しんでいる。更に、衝突が起これば、日本に百万人単位の難民が流れてくる可能性もある。日米安保のガードライン見直し問題で、米中二大国に挟まれて、立ち往生をし、日本の国際地位を低下させてしまったのも台湾問題が原因である。
 つまり、アメリカと違って、台湾問題の平和解決は日本にとっての最大の危機管理である。

 囚人のジレンマを解くために一つの方法がある、第三者が真ん中に入って、双方にコミュニケーションを取らせることである。中台双方と文化的、経済的、歴史的交流を持ちながらも、平和憲法を有する日本をおいて、世界中を見渡しても他の第三者の適任者はいない。台湾問題の平和解決に日本の積極的な働くは日本の国益にもなり、平和国家日本の使命でもある。

 冷戦は終結し、日米の国益がだんだん重ならなくなった今、如何に日米関係を壊さずに、日本の国益を追求する独自が外交を展開するのが、これからの日本の政治家に問われる問題である、日本も囚人のジレンマに陥っているのか。

1998年7月 執筆
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