松下政経塾 The Matsushita Institute of
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1998年6月

塾生レポート

日本の対台湾政策を考える(2)米中協調新時代を迎えて
矢板明夫/卒塾生

 
 クリントン米国大統領は久しぶりに中国を訪問した。緊張していた米中関係に新しい風を吹き込み、政治、安全保障、軍事交流、人権、経済貿易、エネルギー環境問題など幅広い問題について中国の首脳と合意し、米中協調新時代の幕開けを世界中にアピールした。大変喜ばしいことである。
しかし、気になることもある、米中協調新時代ということばのように、両国の合意の中身を見ると、大国意識が見え隠れする。クリントン大統領の「世界の将来に特別の責任を持つ二つの大国」という講演の中の表現に代表されるように、「米中の建設的戦略パートナーシップ」とは、世界の秩序を力で維持するという覇権主義的な意味合いを持つものと思われる。会談で主な内容となったアジアの通貨危機にしても、南アジアの核軍拡競争にしても「二大国」だけで決められてはいけない問題だと考える。特に、日本の早急金融再建を求める合意は、正論だけれども、日本の内政干渉の疑いをもつものである。

 こういう「米中協調新時代」を日本のような第三国はどのように対応すべきか、これからの問題として大きく浮上すると思う。対台湾政策を例に考えてみたい。
 今回、クリントン大統領の訪中は、米国の対台湾政策の路線変更は大きく注目されている。四年前の一期目のクリントン政権は李登輝総統の訪米を認め、台湾海峡軍事演習危機の時に空母出動させ、中国に強硬な政策を取ってきた。しかし、今回、クリントン大統領は自ら「二つの中国を支持しない、台湾の国連の加入を支持しない、台湾の独立を支持しない。」という三つの不支持を言明している。
 また、クリントン大統領は中国入りした6月25日、中国の対台湾窓口機関である海峡両岸関係協会が台湾側の窓口海峡交流基金会に手紙を送り、同会会長の中国訪問を要請した。この時間の偶然は、米国の威を借りて台湾にプレッシャーをかけるという意味合いもある。今年の一月、中台を相続いで訪問したペリー前国防長官は「中国は無条件で対話の再開を考えている」と台湾側に伝え、同じ頃ナイ前国防次長も訪台し、台湾が独立しない前提で国際活動拡大に協力の意向を示した。実は、最近、米国が中台対話再開の推進の役割を果たしている。
 しかし、こういう表面的な現象に捉えられてはいけない、米国は本当に対台湾政策の調整に入ったかどうかは、まだ、疑問である。クリントン大統領の言動は米国議会で大きな批判を受けている。発言の直後、米国国会において、台湾支持する決議が可決された。「台湾の独立を支持しない。」という発言は台湾民意を無視する事であり、米国の自ら標榜してきた民主主義と相矛盾するものであるとして、台湾に対しての武器輸出の継続も改めて宣言された。 良く考えると、クリントン大統領の今回の発言は経済や貿易を大事にする米国財界の要望を汲み入れしたものであり、議会の決議は、民主主義と自由主義を宣言したものである。アメリカは大統領と国会の二つの立場をうまく利用して国家利益にかなう一つの国際戦略を取ったのである。

 ここで、日本のこれからの対台湾政策は如何にあるべきかという問題が浮上してきた。今年の秋、中国の江沢民主席は日本を訪れる。首脳会談の際に、台湾問題に対して、今回のクリントン大統領と同じ声明をもしくはそれ以上のものを日本の総理に求めてくるに違いない。

 日本はこれまで米中間の架け橋としての国際的な役割を果たしてきた、よって、対台湾政策もアメリカとリンクしてきた。一昨年参議院で可決された台湾決議に代表されるように、中国は一つだと認めながらも、台湾にもエールを送り、台湾問題は平和的、民主的に解決されなければならないと主張してきた。
 しかし、今回のクリントン大統領の中国での言動を見て、安易にアメリカに追随してはならないと思う。日本頭超しの米中協調新時代のおいて、日本の自国利益にかなう対台湾政策を制定しなければならない、さもなければ、時代に置き去りにされてしまう。

 かつて作家のF・スコット・フィッツジェラルドは「一流の知性の証拠は、二つの相反する考えを念頭におきながら思考を機能させることにある」と述べている。日本はアメリカと同じく、中国を必要としている、かつ人権と民主主義を主張しなければならない。問題は日本の政治家はの二つの目的にかなう独自の政策を展開できるための一流の知性を持ち得ているかということだ。

1998年6月 執筆
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