松下政経塾 The Matsushita Institute of
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1998年4月

塾生レポート

日本の対台湾政策を考える(1)台湾決議
矢板明夫/卒塾生

 
1996年5月16日、参議院外務委員会は「アジア・太平洋に関する小委員会」の提案を 受け、「中国・台湾情勢に関する決議」(以下「台湾決議」)を可決した。台湾の総統選挙、中 国の威嚇軍事演習、そして、米国の空母出動から、およそ2月後のことである。
この決議は、いろいろな批判を受けながらも、日本の現代外交史上において、大きな意義をも っている。1972年以来、日本の立法府が初めて、台湾問題に関して独自なメッセージを発したも のである。

月例報告シリーズ「日本の対台湾政策を考える」の第一弾として、この「台湾決議」を取り上 げたい。
「台湾決議」は五つの提案によって構成されている。

  1. 台湾問題は、中台双方による自主的、平和的な話し合いによって解決されるべきであり、これが妨げられるようなことがあってはならない。
  2. 湾海峡における軍事的緊張が、中台双方の軍備増強につながり、アジア近隣諸国の安全保障上の警戒心を招き、すでに顕在化しつつあるアジアの軍拡競争に拍車がかかるような事態を回避するための措置が講じられるよう強く希望する。
  3. 台湾が、みずからの努力により民主主義の制度化に尽力しつつあり、民選により指導者を選出したことを歓迎するとともに、中台双方が民主主義と人権の保障を発展させ、より開かれた社会を建設していくよう期待する。
  4. 中国経済及び台湾経済が持続的に発展し、かつ、資本、技術、市場をめぐる中台経済関係が発展していることを歓迎し、これがアジア.太平洋における持続可能な成長に貢献することを期待する。
  5. 日中両政府間のすべての分野における対話を一層充実させ、こうした対話を議会間交流、民間交流などの各レベルでも緊密に行うことにより、日中両国間の相互理解を一層深めるとともに、両国関係がアジア.太平洋の平和と安定に貢献するよう積極的に努力するべきである。

しかしながら、この決議を世界のマスコミもとより、日本の新聞もほとんど話題にしなかっ た。
何よりも残念なことは、私はワシントンで台湾の駐米副代表鄭博久先生をインタビューした ところ、この決議は台湾の政界も、官界もほとんど知れ渡っていないだという。
唯一反応を示し てくれたのは中国の外交部で、内政干渉の疑いがあるということで遺憾の意を表明したそうであ る。

日本の外交行動はいつもタイミングが悪いと言われている。今回の「台湾決議」を見て、そう いう非難を受けても仕方ないと思い当たる部分は実に多い。台湾海峡の緊迫が過ぎて2ヶ月、関 係者も忘れかけている頃に、日本は初めて自分の立場を表明し、台湾側に対しての応援効果はほ とんどなく、日中関係に軋みをもたらすマイナス効果のほうが大きかった。

このほかにも、私は「台湾決議」にはいくつの問題点を持っていると考える。僭越ながらここ で批評を加えさせて頂きたい。

まず挙げられるのは、内容の薄さである、全文を読み通して、平和、民主主義、経済発展、と 言った誰も否定できない正論が並べられている。ほぼ全会一致で可決という結果を見ても、議会 において、あまり深く議論を交わされなかったことが伺える。一国の外交政策を決めるには、正 論という建前はもちろん大事だが、それを具体化させ、より踏み入ったものにしなければ、空論 に陥りやすい。現に、「日本の議会はこういう決議を可決したと言われても、具体的に今までと どう変わったのか、われわれには伝わってこない。」と台湾の外交官は言っている。

二つ目の問題はアピールの不足が挙げられる、日本国内のマスコミ界や学者をもっと巻き込ん で、話題作りの努力をする必要があったと思う。「アジア太平洋に関する小委員会」の成立趣旨 の中に、この委員会の役割を「外交と国民世論の良き仲介役」と自ら位置づけをしている。しか し、この決議はほとんど世論の援護を受けていない、国際的にもインパクトを著しく欠けている。

三つ目の問題は、よく外国に非難されていることであるが、国内政治の過大視と外交の軽視であ る、実は台湾海峡が一番緊迫していた時、日本は住専問題の最中にあり、衆議院は新進党の座り 込みで空転していた。国家にとって安全保障上、外交上の瀬戸際という時に、参議院の一小委員 会しか対応に当たれなかったことは大きな問題だと言える。日本の政治家はもっと国際感覚を養 うべきである。

四つ目の問題は、言葉の厳密さに欠けることである。たとえば、「中台双方」という言い方は 「日中共同声明」を違反する恐れがある。日本は公式的に「中国は一つ、台湾は中国の1部」と いう外交上の立場をとっています、それを無視して「中台双方」という言い方は誤解を受けやす い。また、「中台双方が民主主義と人権の保障を発展させ、より開かれた社会を建設していくよ う期待する。」という言い回しは、台湾決議の趣旨と関係ないところで揚げ足を取られる可能性 があり、ここで用いるべきでないと考える。

以上、「台湾決議」に対して私見を若干述べさせて頂いた、大変未熟であり、かつ、すべき論が ほとんどである、実際、外交というものは、私の想像を超えて、もっと複雑かつ多元的であること は承知している。みなさまのご指導、ご批判を頂きたい。
台湾決議はこれまでの日本外交政策から見て、様々な問題点を残しながらも「中国にものを申す」 という意味で大きな一歩を踏み出したと言えよう。「参議院アジア太平洋に関する小委員会」の先 生方に敬意を表したい。

1998年4月 執筆
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