論考

Thesis

報道されない民間の日台交流

今年2月、1999年に起きた台湾地震の被災者に希望と勇気を与えようと、日本の民間人が自分たちでアマチュア合唱団を組織し、地元の合唱団らと被災地4ヵ所でボランティア公演を行った。しかし、このことは、日本ではほとんど報道されなかった。その理由はなぜか。中国と台湾で暮らす矢板明夫塾員が、肌で感じた日台報道の不公平感を追究する。

今年2月19日、産経新聞に「大震災の復興へ『希望の声』届け台湾でコンサート」という記事が掲載された。内容は、日本からアマチュア合唱団が台湾を訪れ、震災復興を祈念し、ボランティア公演を行ったというものである。
 この公演の様子を、台湾ではテレビ中継をはじめ、多くのメディアが大きく取り上げた。一方、日本のマスコミはほとんど関心を示さなかった。この催しのスタッフとして企画・運営に携わった私は、事前に現地駐在の日本のマスコミ各社にファックスで資料を送り、取材・掲載を頼んでおいた。取り上げたのは、先の産経新聞一社だけであった。理由は、「この話、日本の大物政治家や政党が絡んでいれば面白いのに・・・」というのが知り合いの記者の弁である。
 私はいささかショックを受けた。日本のマスコミはどのような姿勢で台湾のことを日本に伝えているのか。民間交流だけでは報道するに値しないのか。しかし、日本と中国の民間交流については話の大小に関わらず熱心に報道している。作家の大江健三郎氏が清華大学で講演する話や宝塚劇団が上海で公演する話、日本の民間団体が中国で植林する話等々である。一昨年、中国で開催された黒澤明映画祭は規模・反響共に今回の合唱団より小さかったのに、日本の新聞ほぼ全紙に取り上げられた。とにかくプラスのものならなんでも取り上げられる。一方、日台間の民間交流はどんなに盛大でも取り上げられない。日本のマスコミが取り上げるのは、政治、軍事、特に両岸関係に集中している。しかも、中国側から一方的に断じたものが多い。
 日本のマスコミはなぜこのような報道姿勢をとっているのか。私は中国に対する遠慮からきていると考える。中国は今の台湾政府の合法性を認めていない、そのため、長年日本のマスコミが台湾に進出することを阻んできた。ごく最近まで、日本のほとんどのマスコミは台湾に支局を開設できなかった。例外として産経新聞だけが台北支局を置いていたが、その代償として中国本土から31年間追放されていた。1998年11月、ようやく中国の暗黙の了解で、日本のマスコミ各社は台湾進出を果たした。しかし、常に中国から睨まれている状態であり、中国を刺激したくないという気持ちが報道姿勢に現れている。
 私は最近、活動拠点を北京から台北に移した。だから、日中と日台の交流の深さをつい比べてしまうが、日台の交流の深さは、私の想像を超えるものがあった。テレビをつければ常にどこかのチャンネルで日本の番組が放送されている。ちょっと大きな本屋にいけば日本の新聞が買える。日本語を話せる人が大勢いる。常に日本の芸能人がだれかが来ている。芸術家や政治家もしかりだ。日台青少年文化交流などの行事は年中随所でやっている。台湾の国際的な組織に大概日本人のインターンが来ている(例YMCA)。政党の中にも日本人の顧問がいる。こんなに日本と台湾の交流は盛んなのに、その実態は日本では報道されない。残念でならない。日本人はもっと台湾に関心を向けるべきだ。長年、不撓不屈に台湾報道を続けてきた産経新聞には敬意を表すると供に、日本の他のマスコミにはもっと公平に台湾報道を行ってくれるよう願ってやまない。

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矢板明夫の論考

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Akio Yaita

矢板明夫

第18期

矢板 明夫

やいた・あきお

産経新聞 台北支局長

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