論考

Thesis

千葉市を「安全・安心なまち」とするために

私が住む千葉市において、「安全・安心なまちづくり」のために第4次千葉市地域防犯計画が策定されています。千葉市の犯罪の現状、千葉市の防犯や再犯防止に向けた取り組みを調査しました。そして、そこから見出した課題を検討するとともに、今後の千葉市における安全・安心なまちづくりをするために必要な施策を具体的に提示します。

1、はじめに ~千葉市の犯罪の現状~

2、第4次千葉市地域防犯計画(改訂版)

3、再犯防止こそ地域の防犯につながる

4、おわりに ~千葉市再犯防止推進計画と千葉市再犯防止推進条例~

1、はじめに ~千葉市の犯罪の現状~

 千葉市の犯罪は減少傾向にあります。これは全国的にみられる傾向です。令和2年(2020年)の千葉市における刑法犯認知件数は6,075件であり、平成12年(2000年)の31,421件をピークに減少し続けています。


図1:千葉市HP(令和3年4月25日閲覧)
https://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/chiikianzen/documents/dai4ji_kaitei_bouhankeikaku.pdf

 令和2年の犯罪発生件数のうち、7割以上が窃盗犯です。窃盗犯4,363件の内訳(図1:千葉市HPによる)は、自転車盗1,474件、オートバイ盗108件、自動車盗76件、車上狙い283件、空き巣183件、部品狙い164件、ひったくり9件、その他2,066件となっており、住宅・駐車場・駐輪場・道路上などで犯罪が発生している傾向があります。

 中でも、電話de詐欺(千葉県警では、平成27年より、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺の4つの総称を「電話de詐欺」としました)については、令和元年には県内で1,409件、被害総額25億6,000万円となっています。そのうち、千葉市では240件、総額3億9,000万円の被害が生じています。詐欺の手口が巧妙化しており、引き続き警戒・対策が必要です。

 また、子どもたちを狙った連れ去り事件、その前兆ともいえる声掛け事案・後つけ事案が千葉県内で多数報告されています。千葉県内における強制わいせつ発生件数261件(令和元年)のうち、子どもが被害者となる強制わいせつ事件が137件と過半数を占めている深刻な状況です。

2、第4次千葉市地域防犯計画(改訂版)

1、地域防犯計画の基本的な考え方

 平成30年3月、千葉市は、第4次千葉市地域防犯計画を策定し、防犯への取り組みを進めてきました。当初、本計画の期間は令和2年度までとしてきましたが、千葉市基本計画が令和5年度からスタートすることに伴い、本計画を令和4年度までとして、時点修正による改訂版としました。

 本計画においては、①防犯意識の向上、②地域における防犯活動、③犯行を躊躇させる環境の整備、④基本的人権の尊重という基本的な4つの視点から策定されています。
特に、着目すべきところは、④基本的人権の尊重だと考えます。子ども、高齢者、女性、障害者、犯罪の被害者等をはじめとした様々なマイノリティの立場におかれた人々の視点に立った取り組みを行うことで、安心なまちづくりを進めることを掲げています。さらに、市民の基本的な人権を侵害したり、住民がお互いに不信感を抱くような「相互監視社会」 を招いたりすることがないよう、取り組みをすすめる際には十分な配慮を行っていくことも大切にするとしています。

2、千葉市の具体的な取り組み

(1)自らを守る意識の涵養

千葉市は、防犯意識の向上のため、市政だより(毎月1回発行、全戸配布)、安全安心メール、街頭防犯キャンペーンを通じて、詐欺の手口や対処法などを紹介しています。高齢者世帯を対象に通話録音装置設置費用の一部を補助し、電話de詐欺を予防するなどの施策もとっています。

(2)繁華街における客引き防止

繁華街等においては、違法な客引きによる通行人への迷惑行為やゴミ・煙草のポイ捨てや客引きによる違法駐車などが多発しています。客引き防止の取り組みを行うことで、犯罪予防・治安維持を図ることになります。本計画に基づき客引き行為を規制する条例をつくることを明示しています。

(3)子どもの見守り

登下校時の児童生徒の犯罪被害防止を図るため、学校、保護者、地域住民との連携による「学校セーフティウォッチャー(学校安全ボランティア)」の見守り活動、こども110番のいえの指定拡大、防犯ブザー貸与などが実施されています。加えて、各区での青色回転灯装着車両によるパトロールを下校時間帯に実施しています。

(4)防犯カメラ設置

千葉市は、平成29年度から、犯罪抑止を目的に、町内自治会等が設置する防犯カメラの設置費用に対し補助金を交付しています。4年間で防犯カメラを設置する自治会等の団体は48団体、設置台数は113台に増加しました。


表1:防犯カメラ(町内会自治体等が設置)【↓閲覧日:令和3年5月22日】
https://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/chiikianzen/documents/dai4ji_kaitei_bouhankeikaku.pdf

 千葉市が独自で中央区富士見地区などの繁華街を中心に、JR主要駅周辺等に設置している防犯カメラも、平成29年度に32台だったものが、令和3年1月末時点で60台と倍増しています。


表2:防犯カメラ(千葉市が駅周辺等に設置)【↓閲覧日:令和3年5月22日】
https://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/chiikianzen/documents/dai4ji_kaitei_bouhankeikaku.pdf

 なお、千葉県警も防犯カメラを県内に120台設置し、防犯カメラネットワークシステム(千葉県警HPより:https://www.police.pref.chiba.jp/seisoka/safe-life_camera.html 、閲覧日:令和3年5月22日)を導入しています。120台のうち、10台は千葉駅周辺に設置してあります。


写真1-1、1-2 千葉市設置防犯カメラ(令和3年5月8日撮影)


写真2 千葉県警設置防犯カメラ路面標示(令和3年5月8日撮影)

(5)防犯パトロール、防犯ウォーキング

 そのほか、防犯パトロール隊や個人で行う防犯ウォーキングなどもあります。千葉市内の防犯パトロール隊は695団体(令和3年1月31日現在、表3参照)ですが、高齢化の影響等で減少傾向にあります。防犯ウォーキング登録者は15,014人(令和3年1月31日現在、表3参照)となっています。防犯ウォーキング登録を市役所で行うと、「防犯」の文字が入った帽子が千葉市から貸与されます。


写真3 防犯ウォーキングのチラシと貸出帽(令和3年4月19日撮影)


表3:パトロール隊、防犯ウォーキング登録数【↓閲覧日:令和3年5月22日】
https://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/chiikianzen/documents/dai4ji_kaitei_bouhankeikaku.pdf

3、より身近な防犯活動とするために

(1)エンタメとしての防犯パトロール

 現在、千葉市の防犯パトロール隊について、どこの自治会が結成しているのかを知る手立てはありません。また、どこに何時に集合しているのかも知るすべはありません。市政だよりや千葉市のHPにて、防犯パトロールを結成している自治会の連絡先や次回パトロール予定などを一覧できるようにすることで、より多くの人が参加することができると思います。また、地域以外の人々も招いて、当該地域のゆかりの地を巡るなどすれば、まちおこしにもつながります。

 現在はコロナによる影響で中止になっていますが、私が隊長を務めていた新宿歌舞伎町パトロールでは、Facebookを用いて告知を行い、参加者を募集していました。お互いが自己紹介をしてから防犯パトロールをはじめ、地元の人がパワースポットとして有名な花園神社や、新宿ゴールデン街など新宿ゆかりの地を紹介しながら回ります。参加者からは、「めったにひとり歩きすることができないディープな夜の新宿を見ることができた」と評判が良かったです。

防犯パトロール隊の必要性を、地域住民でもう一度見つめ直す必要があると思います。さらに、自治会という狭い地域だけで行うのではなく、他の防犯パトロール隊との交流を深めて、一定程度の広域連携を図ることが重要だと思います。それは今まで行われてきたような形式的な交流会だけでなく、パトロール隊の枠を超えた合同パトロールなどを行うことも必要かもしれません。そして、一部の方々だけで行うのではなく、家族や友人を気軽に誘って参加できるような開かれた防犯パトロールこそが地域を守っていくうえで重要になるのだと思います。

写真4 新宿歌舞伎町パトロールの様子(令和元年8月4日撮影)


写真5 新宿歌舞伎町パトロール隊(令和元年8月4日撮影)

(2)オトクにできる防犯ウォーキング

千葉市には、健康増進を目的にウォーキングを推奨するため「ちばしウォーキングポイント」(https://www.city.chiba.jp/hokenfukushi/kenkofukushi/suishin/walkingpoint.html 、閲覧日:令和3年5月22日)という制度があり、月の平均歩数が1日6000歩以上ですと、年間最大600ポイント(50ポイント×12カ月)、健康づくり宣言(アンケート回答等)をすると年間400ポイント(100ポイント×4回)もらえます。このポイントは、1ポイント1円として、千葉市の施設利用や寄附に活用でき、そのほかWAONカードとして買い物に利用することもできます。

 ちばしウォーキングポイントと先に挙げた防犯ウォーキングや防犯パトロールを組み合わせることで、オトクに防犯活動もできることになります。


写真6 ちばしウォーキングポイントのチラシ(令和3年5月1日撮影)

3、再犯防止こそ地域の防犯につながる

1、防犯の鍵は再犯防止にある

 千葉市地域防犯計画に一番欠けている視点は再犯防止です。

 そもそもなぜ逮捕されるリスクを冒してまで違法な客引きをするのでしょうか。私が刑事弁護を担当した被疑者は、「前科があって、昼間の仕事に就けず、やむを得ず、生きるために、違法だと分かっていたが客引きをしてしまった」と話していたのを覚えています。新たな被害者を生まないために必要なのは、犯罪をしてしまった人が社会に戻るための出番と居場所を準備することです。

 未成年者が被害者となる強制わいせつ事件はなぜ繰り返し起こるのでしょうか。性依存症の治療や自助グループによるセラピーを地元で受けていれば、再犯は防止できたかもしれません。排除ではなく、包摂する社会をつくることこそが重要です。

 千葉市地域防犯計画が犯罪被害者支援に加えて、もう一歩踏み込んで、地域に根付く再犯防止・更生支援まで視野に入れれば、より一層深みのあるものになると考えます。

2、更生保護を支える人々

 地域にて再犯防止・更生支援を支える人々がいます。保護司、更生保護女性会員、BBS会員、協力雇用主です。

 保護司は、犯罪や非行をして保護観察を受けることになった人の生活を見守り、様々な相談に乗ったり、指導をする非常勤の特別国家公務員です。千葉市内には180名(表4参照)の保護司がいます。高齢化が進んでおり、減少傾向にあります。原則、対象者を自宅に招いたり、平日の活動も多いため、現役世代にとっては負担が大きく、60代・70代の保護司が大半を占めています。私のような30代の保護司は、圧倒的に少ないです。会社勤務をしている方や家庭に小さなお子さんがいる方にとって保護司活動を行うことはなかなか難しいように感じます。


図2:保護司の年齢(令和2年犯罪白書2-5-6-2図)


写真7 千葉市若葉地区保護司を拝命(2021年4月27日撮影)


表4:千葉市各区の人口と保護司の人数(令和3年4月26日 千葉保護観察所ヒアリング)【数値は令和3年4月1日現在】

 更生保護女性会員は女性の立場から、地域における犯罪予防の活動や子どもたちの健全育成のための支援活動などを行うボランティアの団体です。千葉市内には112名(令和3年4月1日現在、保護観察所ヒアリング)の会員がいます。

 BBS(Big Brothers and Sisters Movement)会員とは、様々な問題を抱える少年・少女たちと、兄や姉のように身近な立場で相談相手になり、勉強を教えることで、少年・少女たちの成長を助ける青年ボランティアです。千葉市内にはBBS会員が4名(令和3年1月1日現在、保護観察所ヒアリング)しかおらず、存亡の危機にあります。

 協力雇用主は、犯罪・非行歴のために仕事に就くことが難しい人たちを、その事情を理解した上で雇用し、立ち直りを支援する個人事業主や会社です。千葉市内の協力雇用主に登録している企業等は190社ありますが、登録のみしている企業等も多く、実際に雇用に至っている会社は数少ないのが現状です。

3、再犯防止のために地方自治体ができること

 再犯防止は今までは法務省の仕事、つまり国の仕事で地方自治体はあまり関与してきませんでした。社会を明るくする運動の一環で、毎年7月(再犯防止啓発月間)に小中学校で作文コンクールを行う程度だったと思います。

 しかし、これからは、地方自治体こそが、就労する場所や住居、更生支援を支える人々をバックアップしていく役割を果たしていくべきだと考えます。まさに、出番と居場所をつくることができるのは、国ではなく、地域なのだと確信しています。

 先に述べたように、若手保護司は、家族との兼ね合いで、自宅で面談場所を確保できないこともあります。自宅を面談場所として利用できない保護司のために、プライバシーの守られた場所で面談ができるようにするために、全国の更生保護サポートセンターが、市役所や区役所の会議室などに設置されました。休日などはそもそも役所が開いていないため、利用できない状態になっています。このように、平日しか使えないとなると、そもそも平日日中に仕事をしている若手保護司は利用できないことになってしまいます。千葉市としては、このような更生保護サポートセンターの休日利用をはじめ、保護司の推薦、市営住宅の提供、保護観察対象者を市役所職員として雇用するなど様々な施策をとることができると思います。

4、おわりに ~千葉市再犯防止推進計画と千葉市再犯防止推進条例~

 令和3年4月1日現在、31都府県、6政令都市、34一般市町村が、地方再犯防止推進計画を策定しています。しかし、千葉県も千葉市もいまだ策定に至っておらず、千葉県内54市町村では、南房総市が策定しているのみです。
http://www.moj.go.jp/hisho/saihanboushi/hisho04_00022.html :閲覧日:令和3年5月22日)


図3:第70回社会を明るくする運動ポスター(法務省HP参照)【閲覧日:令和3年5月22日】

 むろん、単に地方再犯防止推進計画を策定すればよいというものではありませんが、そういった枠組みがなければ行政は動きませんし、更生保護を支える人々が高齢化し、保護司システムやBBSなどが崩壊の危機に瀕していることに鑑み、一刻も早く再犯防止推進を基礎自治体が中心となって行っていくべきです。そして、更生保護を支える人々を確保し、再犯防止・更生支援の有する意義を普及していかなければなりません。

 千葉市を安全・安心なまちとするには、第4次地域防犯計画(改訂版)を着実に遂行するとともに、一歩踏み込み、再犯防止・更生支援に注力していくのが重要だと考えます。

(写真・著者)

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須藤博文の論考

Thesis

Hirobumi Suto

須藤博文

第39期

須藤 博文

すとう・ひろぶみ

弁護士、千葉市議会議員(美浜区)/自民党

Mission

子どもと高齢者が共存できるマチ

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