論考

Thesis

更生支援 安全安心の優しい日本へ!

再犯防止等推進法の成立、再犯防止推進計画が策定され、今まさに再犯防止政策の内容の充実が迫られています。塾主も刑務所から出た者に対する世間の冷たさを問題にしていました。どんな刑務所改革が必要なのか、出所者支援にあたっている方々の現状から課題を抽出し、再犯ゼロの明るい日本を目指します。

【目次】

1、はじめに

2、塾主思想からみる治安の保持

3、再犯防止の推進に関する法制度と地方再犯防止推進計画

4、再犯防止に関する視点

5、内在的コントロールとしての依存症への対応

6、刑務所(外在的コントロール、公的統制)の改革を

7、出番と居場所

8、おわりに

9、参考文献

1、はじめに

 「罪を憎んで人を憎まず。」

 この言葉こそが、私のビジョンそのものを凝縮したものです。

 私自身も犯罪被害者となった経験があります。なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか、犯人を許すことが出来ないという憤怒や悲哀の気持ちが湧きます。たとえ金銭的に賠償されたとしても、犯罪被害を受けなかった以前のように完全に元通りの生活に戻れることは決してありません。それゆえ、犯罪被害者から犯罪をした人への厳罰を望む声も多くあるでしょう。

 しかし、再犯防止や更生支援は誰のためにあるのでしょうか。厳罰化、つまり罪を犯した人を出来る限り長い期間、刑務所に閉じ込めて、排除すれば解決するのでしょうか。刑務所に長期間入り、「反省」して、まっとうな人間になって社会に戻ってくるということを想像しているのかもしれませんが、憎しみによる排除は、反省を促すことは多くありませんし、決して優しさを生み出すことはありません。つまり、更生支援や再犯防止は、罪を犯してしまった人のためにだけ行うのではなく、将来の被害者・被害者遺族となる人をなくすため、ひいては国民全員のために行っていく必要があるのです。国民が不幸になるというのは、治安が悪化することによる不利益だけでなく、警察署や刑務所での滞在費用、裁判費用、国選弁護人など多大な国費が使われるからです。数百円の被害金額だとしても、数十万円、事件によっては数百万円の税金が使われるのです。それゆえ、私の素志は「被害者もいない、加害者もいない、笑顔あふれる日本をつくる」というものなのです。

 私自身、刑事弁護で被疑者・被告人と多く触れていくうちに、彼らが反省していないから犯罪を繰り返すということはそう多くはなく、むしろ彼ら自身の置かれた境遇や彼らの持って生まれた特性など、様々な要因から、犯罪というのは起きていると強く思うようになったのです。罪を犯すこと自体はすごく悪いことであり、その罪に応じた罰を受けなければならないというのはそうですが、一度過ちを犯した人を二度と立ち上がれないようにするのは明らかに違うということを感じるようになったのです。まさに「罪を憎んで人を憎まず」という言葉が、身に染みるようになりました。

2、塾主思想からみる治安の保持

  松下電器の社員が70~80人ぐらいになったころ、塾主が非常に信頼していた社員の1人が会社のモノを盗ってしまいました。塾主は、「基本的にはすべての人を生かしていくのだ、この社会に生きる人々をともどもに生かしていくのが相寄って生きる人間のつとめ」として、訓戒処分にとどめました。そして、お互いにあやまちを許し合い、また温かく正し合うというところに、豊かな人間味と共同の幸せが生まれてくると続けました(『すべてがうまくいく』松下幸之助、PHP研究所、2016年)。ここで、私が重要だと思うのは、「すべての人を生かしてい」き、「温かく」正し合うという点です。これは、ひとりひとりが与えられた天分を生かし、社会から誰一人排除せずに社会で包摂していくことを示しています。

 さらに、塾主は「国家社会の運営に関して、犯罪や事故をできるだけ少なくし、秩序を高めて治安を保たなければならない。治安の保持こそ、新しい日本の政治における重要事項であるとしている。そして、社会の秩序を乱し法律を犯した者には、その罪にふさわしい刑罰を必ず科さなければならないが、受刑者が刑期を終えて再び社会に出たときに働くことのできる政府直営の工場をつくるのはどうか」という提案もしています(『PHP』昭和41年3月号、松下幸之助発言集 第39巻)。そして、この言葉に関しても、まさに「罪を憎んで人を憎まず」を体現しているように感じます。政府直営の工場をつくることによって、刑務所から社会に戻る際の橋渡しが重要だということを示しており、当時も今も刑務所から日常生活へどう戻っていくかが重要な課題であったことがうかがわれます。

3、再犯防止に関する法制度と地方再犯防止推進計画

 平成30年の刑法犯として検挙されたのは20万6094人(令和元年度犯罪白書)となっており、犯罪者数自体は減少傾向にあり、初犯者も減少しています。しかし、その犯罪者数のうち再犯者が占める割合は、48.8%と過去最高となっています。つまり、犯罪をして捕まった人のうち、2人に1人が再犯者というわけです。

 こうした情勢を踏まえて、平成28年12月、再犯の防止等の推進に関する法律が議員立法により可決されました。この法律は、再犯の防止等に関する施策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、再犯防止施策の基本となる事項を定めています。この法律に基づき、平成29年12月に再犯防止推進計画を閣議決定しました。各自治体レベルでは、一部地域でモデル事業が始まっていたり、滋賀県では、再犯防止三方良し宣言が出されたり、兵庫県明石市では更生支援条例を策定するなどの取り組みが見られますが、地方再犯防止推進計画の策定は全く進んでいない自治体も非常に多いというのが現状です。さらにいえば、再犯防止は、このように政府・自治体だけが動いても、完遂するものではなく、どのようなファクターが重要か考えていきたいと思います。

4、再犯防止に関する視点

 再犯防止を考えるうえで、そもそも人はなぜ再犯するのか、どのように立ち直るのかが重要となってきます。再犯に及んでしまう理由については、内なる性質(個人的・内在的コントロール)と外的環境(外在的・社会的コントロール)の2つがあげられます。

 1つ目は、犯罪をしてしまった人の内側の問題です。本人の持った特質や病気、能力、人間性などです。これはもちろん先天的なものもあれば、後天的なものもあると思います。まず、本人の抱えた問題に誰よりも本人が自覚し、向き合う必要があります。本人が立ち直る意思を有しなければ、どんなに環境を整えたとしても、更生は難しくなります。

 もう1つは、外的環境も重要な要素の一つです。つながりの欠如は再犯を引き起こします。これは先ほどの裏返しで、意志の強い人であっても、本人内部の問題が解決したとしても、劣悪な環境が継続し、周囲に影響を受け続ければ、立ち直ることは難しくなるでしょう。それゆえ、この2つの原因である、内なる性質と外的環境はそれぞれ独立しているわけではなく、相互作用して、再犯につながっていると考えます。

そこで、再犯防止を考える上で、内在的コントロール、外在的コントロールを核に考えていきます。その中でも外在的コントロールについては、国や自治体を中心に考える法的規制や警察・司法・矯正・更生に関する公的統制(formal control)、家庭や学校、会社などにおける非公式統制(informal control)に分類されます。

 まず、内在的コントロールを考えていくうえで、特に重要なのは、犯罪をくり返さないために、心の中でブレーキをつくる必要があると思います。しかし、そのブレーキを蝕んでしまう依存症というものは避けて通れないのです。私自身が刑事弁護をしていく中で、犯罪を繰り返してしまう方でまたやってしまうかもしれないと思うのは依存症の恐れのある方々でした。

 次に、外在的コントロールのうち、公的統制の枢軸となる刑務所が、矯正施設としてあまりに社会と隔離されすぎており、更生とは程遠くなってしまっている現状が課題だとも考えました。また、内在的コントロールの側面という意味(人間性の涵養)でも、刑務所改革は検討せねばならないと思っています。

 そして、外在的コントロールのうち、公的統制以外の面において、民間で安心して、暮らし、学び、働き、そして困ったときに相談できる、伴走してもらえる仲間づくり、こういったものが再犯防止には必要だと考えました。それらを、いわゆる「出番と居場所」を考える上で、彼らが強制力のない中で、社会において更生を図っていくためにどんなモデルケースがあるかを検討することとしました。

5、内在的コントロールとしての依存症対策

(1)依存症の恐怖

 私は、元依頼者の高齢女性Aさんを訪れました。Aさんは、夫を亡くしてから数十年間、万引きを繰り返していました。その数十年間、同居していた家族もどうしてよいか分からず、弁償をしてAさんに説教を続けるしかなかったそうです。Aさんは、金銭的に問題もなく、なぜ自分が万引きを繰り返してしまうのかも分からず、混乱しており、情けないと泣き続けていました。窃盗症という病気は、まだまだ認知度も低く、治療のできる専門家も非常に少ないのが現状です。何とか依存症治療の院長につなぐことが出来て、家族や友人の支援の中、継続的な治療を受け、Aさんは刑務所に入ることなく、現在は平穏な日々を過ごしています。

(2)司法で「治療」の選択肢を

 刑法第9条は、「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」と規定していますが、ここに「治療」を組み入れるか、もしくは、海外では取り入れられているハームリダクションの考え方を導入すべきだと考えます。

 なぜなら、刑務所に入って、「懲役」を受けても依存症が治ることはなかなか難しいです。もちろん、刑務所内で依存症に対する矯正プログラム等もあるものの、その効果はそこまで高いとは言えません。刑務所の中では、依存症の対象となる覚せい剤、アルコール、煙草、窃盗、わいせつ行為のいずれも行うことが出来ず、社会に戻った途端に依存症の対象に触れ、すぐにまた刑務所へ逆戻りになる人が多いのです。依存症については、段階を経て社会内で、治療をすることに大きな意義があるのです。

 いわゆる医療観察制度のような医療・福祉と司法とが連携を取れる制度を依存症に関する事件に適用拡大していく必要性があると考えています。

6、刑務所(外在的コントロール、公的統制)の改革を

(1)満期出所者の闇

 府中刑務所で面会した元依頼者Bさんは、前科10数犯(ほぼすべて無銭飲食)で、刑務所から出てきたその日に、無銭飲食で有罪判決受け、入所中の身です。彼は、刑務所を出てはすぐに入るという生活を繰り返していました。

 懲役刑には、仮釈放という制度があり、懲役刑の満期を待つことなく、保護観察を受けつつ、社会に戻ることが出来ます。むろん、遵守事項等を守らねば、仮釈放は取り消されることとなります。

 しかし、Bさんは、家族からも身元引受を断られ、住所もないため、仮釈放ではなく、満期出所となっていました。出所後も社会とつながることが出来ないまま刑務所へと戻ることになりました。まさに満期出所者の闇です。多数回の再犯者であるBさんは、比較的短期の懲役刑を繰り返していました。それゆえ、資格取得もままならず、人生の3分の1という数十年の時を刑務所で過ごすことになったのでした。

 統計上も、満期出所者8733名のうち、Bさんのように帰住先不明という方が占める割合は42.0%と非常に高いものとなっています。

(2)厳罰化が更生にはつながらない

 現在は刑期を長期化させるような法改正が進んでいます。凄惨な事件などの被害者感情に照らすと、一定程度の厳罰化もやむをえません。しかし、再犯防止の観点からすると、刑期を延ばす厳罰化のみに頼るのは最良の選択とは言えません。先にも述べましたが、社会から切り離される期間が長ければ長くなるほど、受刑者は社会性を失います。懲役という言葉どおり、いくら「懲」らしめ、閉鎖空間で刑務官の指示に従って生活させても、自発的な反省や更生につながるとは到底考えられません。満期出所後、再び自由も不自由もない刑務所に戻るしか選択肢がないような負の連鎖は断ち切らねばなりません。

 対策として2つ考えられるのは、①満期出所をゼロにすること、②刑務作業を通じて人間性や優しさを涵養し、更生することです。

(3)農福連携と再犯防止

 JA共済総合研究所の濱田健司主任研究員よりヒアリングの機会をいただきました。農業と福祉を掛け合わせた「農福連携」という考えを生み出し、農業の有する福祉力を生かし、再犯防止に寄与する可能性があるとのお話でした。農業の有する福祉力は、①懲役生活の中で失った体力を取り戻させる作用があること、②自分が必要とされているという自己有用感を得られること、③農業という共同作業を通じて人間同士のコミュニケーションがとれること、④土に触れ自然と向き合うことが出来ることという4つの視点から再犯防止にも有効だということでした。私自身も、2週間という短い期間ですが、障がい者の方と農業をする現場で実習をさせていただき、その有用性を肌で実感いたしました。

(4)北海道家庭学校から学ぶこと

 そこで、農業の福祉力を実践している100年以上の歴史を有する北海道家庭学校という児童自立支援施設に研修に参りました。そもそも児童自立支援施設は厚生労働省の管轄で、様々な事情や問題行動を起こし、児童相談所による措置(児童福祉法27条1項3号)もしくは家庭裁判所による保護処分(少年法24条1項2号)の審判を受けて児童相談所から措置を受けた子どもたちを預かる施設です。

 北海道家庭学校は、北海道紋別郡遠軽町に所在し、マイナス30度に達することもある極寒の地です。冬は一面雪に覆われ、広さは130万坪(東京ドーム約90個分)で、小中学校、寮、心を落ち着かせるための礼拝堂、酪農をするための牛舎、花や野菜を育てる大自然が広がります。その中で、子ども達はのびのびと生活していました。

 礼拝堂に掲げられている「難有」の書が飾ってあります。困難があり、それを乗り越えていくことで人間は成長できる、つまり「難有(なんあり)」を「有難(ありがた)」いと思えるようにというメッセージが込められています。

 この施設は、開放処遇を行っています。門もなく、寮の玄関にも外側から施錠をすることはなく、窓にも格子はかかっていません。北海道家庭学校において、子ども達は「よく働き、よく食べ、よく眠り、よく考える」生活の中で、花を育て、野菜をつくり、牛を飼い、自然の中で、少しずつ勉強の遅れを取り戻しながら素直になっていく少年たちと生活をともにしました。

 自然、動物、人間と触れ合い、信頼のもとで、作業をすることで、真の更生をすることが出来ると確信しました。

 刑務所改革においても、開放処遇や中間処遇を推進していくこと、そして刑務作業には農業や動物と触れるようなプログラム(島根あさひ社会復帰支援センターの盲導犬育成など)を積極的に推進していくことが重要だと思います。

7、出番と居場所

(1)研修の場が必要

 新宿歌舞伎町で公益社団法人日本駆け込み寺を運営する玄秀盛氏は、出所者の再犯防止と社会復帰の支援を行う再チャレンジ機構の活動理念に賛同し、新宿駆け込み餃子では出所者に就労・研修の場を提供しています。

 刑務所の中で失っている元受刑者の体力や社会性を取り戻しつつも社会へソフトランディングで戻していくような訓練・研修をする場が貴重であることを改めて感じました。

(2)思いのある会社を探して

 2018年3月、日本初となる刑務所出所者、少年院出院者専用の求人誌「Chance!!」が発刊されました。株式会社ヒューマン・コメディの三宅晶子氏は、その求人誌に掲載する企業の条件を①ヒトを大切にする思いのある会社であること、②身元引受が可能であること、③社宅・社寮を備えていること、の3つを掲げています。ヒトを大切にする思いのある会社であるかを確認するためにも、掲載希望会社の社長と三宅氏自身が面談を行うとのことです。

 全国239か所の刑務所に配布の上、受刑者支援NPOを通じて約1000人の受刑者に直接配布されています。求人誌が発刊されて1年で、応募総数109人、内定者は32人、実際雇用は16人にも及んでいます。今まで刑務所等を出所した人々は、なかなか就職できず、就職する際にも前科等を隠して就職していました。ウソをつくことなく、自分が起こしてしまった「過去」を「価値」として輝かせる社会にすることを三宅氏は目標として掲げていました。

(3)出所者雇用の現状

 再犯率が、無職者は有職者の3倍というデータもあり、仕事を持つことも非常に重要です。ところが、出所者を雇う協力雇用主の登録が約2万2472社に及び、最近30年間で約6.6倍の会社が登録している。しかし、その登録した会社のうち、実際に出所者雇用をしている雇用主は945社1473人(平成31年4月現在)にとどまります。

 ケイエス急送有限会社の代表取締役の杉山勝美氏は、自身も借金8000万円を背負わされた経験から人生のどん底からでも必ずやり直すことが出来るという信念を持ち、協力雇用主として、多くの出所者を雇用してきました。しかし、「協力雇用主は保護司など他機関との連携を取ることも少なく、単独で経営リスクも背負い込まなくてはならない。協力雇用主制度を貧困ビジネスに悪用する者もいる」との声も聞かせていただきました。

 協力雇用主の制度についても、他の機関としっかりと連携を取ることができ、雇用主を孤独にしない制度とする必要もあり、それと同時に当該制度を貧困ビジネスに悪用されることのないような枠組みに改善していくよう取り組んでいきます。

(4)住まいの重要性

 NPO法人なんとかなるは、自立援助ホーム「なんとかなり荘」を運営し、家庭で暮らせない若者を「すまい・しごと・まなび」の観点から真の自立へと導こうとしています。この施設に入所している方とともに昼食をともにしましたが、施設自体が家庭のような温もりを感じることが出来ました。

 株式会社生き直しの代表取締役である千葉龍一氏は、自立準備ホームを運営しており、働く意欲のある刑余者に対し、住居の提供をしています。自らも交通事故を起こし、友人を亡くしてしまったという過去を抱えながらも、世の中のために何かできることはないだろうかと一生懸命出所者支援を続けています。令和元年の夏からは、数少ない女性用自立準備ホームも準備されるとのことです。

 また、女性用の更生保護施設であり、100年を越える歴史を有する更生保護施設の両全会に伺いました。小畑輝海理事長は、各種依存症の治療プログラムや週1回のパソコン教室など、女性たちが社会に戻っていくうえで行っている取り組みや支援などについて熱く語ってくださいました。医療や福祉など様々な観点から更生を図っているのがよく分かりました。

 しかし、このような児童自立支援施設・自立援助ホームと更生保護施設・自立準備ホームでは、所轄官庁が異なり、相互の連携はありません。むしろ、同種の施設間でも、他の施設を訪問することは稀です。自立支援等をするための施設が、各自で蓄えたノウハウを共有できるような仕組みづくりが重要です。

(5)孤立させない仕組みを

 公益社団法人日本駆け込み寺の玄氏は「被害者・加害者との境目はない。特に歌舞伎町では、犯罪者とされる人たち自身が被害者であることも多い。それゆえ暴力すら、ハグすることが必要。」だとお話しいただきました。私自身も日本駆け込み寺で1か月間実習をさせていただき、ワンストップで、どんな内容でも相談できる駆け込み寺のボランティア相談員として活動し、歌舞伎町パトロール・清掃活動もさせていただきました。

 千葉県の事業でも、堂本暁子氏が千葉県知事の際に作った中核地域生活支援センターという24時間365日ワンストップで相談が出来るような仕組みがありますが、そういった苦しみ困っている人と伴走できる仕組みを全国の各自治体で作っていくべきです。それと同時に地域活動などを通じて社会的に孤立する方をなくすことが重要だと考えています。

 公的事業・民間事業が相互補完的に役割分担をして活動していくことで、より多くの幅広い相談者を救うと信じています。

8、おわりに

 すべての人に特効薬のように効く再犯防止策や更生支援策はありません。だからこそ、こういった取り組みを多くの人に理解してもらうことが重要であり、誰も排除しない、孤立しないような仕組みを作り、優しいまちづくりをすることこそ必要だと強く確信しています。治療・福祉・仕事・学び・住居など様々なところに「出番」と「居場所」をつくっていき、ともに伴走できる社会をつくっていくと考えています。現状、どの社会保障制度にものらず、結果的に刑務所がセーフティネットとなっている現状を打破していく必要があります。

 多くの方々にヒアリングや実習などの機会をいただいたことに改めて感謝を述べるとともに、今後も引き続き、刑務所改革、依存症治療、民間企業での出所者雇用、農福連携などに関して知見を深め、矯正施設や出所者を雇用している民間企業など、実際の現場に身を投じていきたいと思います。また、犯罪被害者や修復的司法など新たな視点を取り入れるとともに、立法・行政の立場からこのビジョンをより明確なものに出来るか、そのビジョンをどのような再犯防止政策を推進することで実践につなげることが出来るか、研究・研修を進めてまいります。

9、参考文献

1)「令和元年版犯罪白書」法務省法務総合研究所編、2019年

2)「刑務所出所者の再チャレンジに必要なものは?」玄秀盛、株式会社トービ、2011年

3)「公益社団法人日本駆け込み寺事業評価報告書」津富宏(静岡県立大学教授)、2018年

4)「不安解消!出所者支援」、掛川直之、旬報社、2018年

5)「刑務所改革 社会的コストの視点から」、沢登文治、集英社新書、2015年

6)「万引き依存症」斉藤章佳、イースト・プレイス、2018年

7)「刑務所の経済学」中島隆信、PHP研究所、2011年

8)「刑務所しか居場所がない人たち」山本譲司、大月書店、2018年

9)「すべてがうまくいく」松下幸之助、PHP研究所、2016年

10)「平成29年度厚生労働白書」厚生労働省編、2017年

11)「息子が人を殺しました」阿部恭子、幻冬舎新書、2017年

12)「ステッセルのピアノ」五木寛之、文春文庫、1996年

13)「ソーシャルインパクト・ボンドとは何か」、塚本一郎・金子郁容編著、

ミネルヴァ書房、2016年

14)「グローバル化する厳罰化とポピュリズム」日本犯罪者科医学会編、

現代人文社、2009年

15)「刑事司法ソーシャルワークの実務」千葉県社会福祉士会・千葉県弁護士会編、

日本加除出版株式会社、2018年

16)「刑務所処遇の社会学」平井秀幸、世織書房、2015年

17)「農福連携の『里マチ』づくり」、濱田健司、鹿島出版会、2015年

18)「アメリカ人のみた日本の死刑」デイビッド・T・ジョンソン、岩波新書、2019年

19)「平成30年版再犯防止推進白書」法務省編、2019年

20)「犯罪学入門 ガバナンス・社会安全政策のアプローチ」小林良樹、慶應義塾大学出版、2019年

21)「町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト」猪谷千香、幻冬舎、2016年

22)「民間主導・行政支援の公民連携の教科書」清水義次ら、日経BP、2019年

23)「犯罪不安社会 誰もが「不審者」?」浜井浩一・芹沢一也、光文社新書、2006年

24)「2円で刑務所、5億で執行猶予」浜井浩一、光文社新書、2009年

25)「新犯罪論」荻上チキ・浜井浩一、現代人文社、2015年

26)「奈良監獄物語」寮美千子、小学館クリエイティブ、2019年

27)「熱海の奇跡」市来広一郎、東洋経済新報社、2018年

28)「観光につける薬 サスティナブル・ツーリズム理論」島川崇、同友館、2002年

29)「死刑執行人サンソン~国王ルイ16世の首を刎ねた男~」安藤正勝、集英社新書、2003年

30)「終身刑を考える」大阪弁護士会死刑廃止検討PT、日本経論社、2014年

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須藤博文の論考

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Hirobumi Suto

須藤博文

第39期

須藤 博文

すとう・ひろぶみ

弁護士、千葉市議会議員(美浜区)/自民党

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