論考

Thesis

反省はひとりでも出来るが、更生はひとりではできない

【目次】

1、はじめに ~厳罰化と新自由刑の新設~

2、矯正局と保護局のタテワリ解消

3、被害者支援なくして、加害者更生支援は成り立たない

4、地域から始まる再犯防止

5、新たな中間処遇制度を

6、おわりに ~分断・排除から協調・包摂へ~

7、参考文献

1、はじめに ~厳罰化と新自由刑の新設~

 2020年8月、少年法などの見直しを検討している法制審議会では、18歳・19歳の非行少年につき、家庭裁判所から検察官に送致する「逆送」対象事件を拡大する、起訴後の実名報道を認めるなど厳罰化の方向性で結論付けられました。民法改正により成人年齢が18歳となる関係で、少年法の対象を従前から20歳未満としていたものを18歳未満とすることにしようという賛成派と、少年院における18歳・19歳の占める割合が4割と大きく、若年者の可塑性に鑑み少年法の対象を狭めるべきではないという反対派で意見が割れ、議論が続けられていました。今回の少年法見直しは、賛成派と反対派の折衷案とみられています。

 さらに、2020年9月9日、法制審議会の部会がまとめた要綱案が出され、その中では、明治時代から続く禁錮刑を廃止し、懲役刑と一本化して新たに「新自由刑」(仮称)を創設する方針が示されました。刑務作業に加え、再犯防止に向けた指導や教育プログラム、就業・修学指導を柔軟に導入できるようにし、特に若年受刑者(おおむね26歳未満)の更生に役立てるとのことです。禁錮刑は懲役刑と異なり刑務作業などの義務がなく、交通事犯をはじめ過失犯などに言い渡されることが多く、2019年に刑務所に入った人のうち、禁錮刑は49人で、全体の0.2%と僅かでした。2019年3月末時点で禁錮刑受刑者の81%が自己申告で刑務作業に従事しており、位置づけが不明確になっていました。

 今回の「新自由刑」へと転換するに際し、懲役刑という「懲」らしめて反省させるという発想から脱却し、刑務所の従来有していた矯正施設としての機能に加え、更生施設としての機能も充実させていく千載一遇のチャンスだと考えています。特に、18歳・19歳の厳罰化の方向性が決まった以上、若年受刑者の更生に関しては少年院などが積み重ねてきた教育プログラムをうまく活用し、再犯防止・更生支援につなげられるとよいと思います。

 反省だけならば、ひとりでも出来ますが、更生となると、ひとりでは出来ません。国、自治体、民間企業、NPOが一丸となって、罪を犯してしまった人たちを、もう一度、社会へ戻れるよう彼らとともに伴走していく役割を果たしていくことを願ってやみません。

 本稿においては、犯罪のない笑顔あふれる社会をつくるために、現状の課題をあげつつ、法務省がどうあるべきか、自治体がどうあるべきか、犯罪加害者・被害者をとりまく法制度がどうあるべきかについて具体的な案を提案していきます。

2、矯正局と保護局のタテワリ解消

 「更生保護制度改革の提言」(2006年6月27日更生保護のあり方を考える有識者報告会議)において、「施設内処遇と社会内処遇との有機的な連携を確保し、仮釈放後の社会内処遇を効果的に行うため、これまで以上に豊富な情報が矯正から更生保護官署に提供されるようにすべきである。」との提言がなされました。従前より、法務省の矯正局(刑務所や少年院を管轄)と保護局(保護観察所や保護司を管轄)との連携が必要だとされてきたものの、十分な連携をとることが出来ていたとはいえない状況が長く続きました。

 2020年度より、満期出所者の解消を目的に、全国各地の大規模刑務所内に保護観察官1~4名が常駐するようになるなど、少しずつ連携は進みだしていますが、まだまだ不十分です。

 保護局・矯正局の壁を越えて、積極的に人事交流を行うべきです。現状では入職してから保護局の職員と矯正局の職員の人事交流は2年程度の短期間のものに限定されています。保護局・矯正局というタテワリに縛られることなく、いずれの経験も経ることで初めて信頼関係が生まれ、有機的な連携につながると考えています。私自身も、司法修習において、弁護修習以外に、刑事裁判官や民事裁判官、検察官の下で修習を行いました。同じ法曹であっても、思考回路や視野が全く異なってきます。この違いを、弁護士となる前に身をもって感じ、さらに顔が見える関係が出来たことは、非常に意義が大きかったと思います。それぞれの立場を経験できることで、矯正局による施設内処遇のノウハウ、保護局による社会内処遇のノウハウを学ぶことが出来て、継ぎ目のない支援を行うことにもつながると考えます。

 最終的には、保護局・矯正局の統合も不可欠だと考えています。ただし、保護局が矯正局の一部として統合するような形式や、その逆で矯正局が保護局の一部となるような統合はのぞましくないと思います。かつて、中曽根内閣による行政改革の一環で、保護局を矯正局に吸収・統合しようとする流れがあったものの、全国の保護司らによる反対で統合がかなわなかったという歴史があります。こういった経験を活かし、対等な立場で双方に不満が残らない形で統合をしていくべきです。

 刑務所の中と外をつなぐ架け橋は、コレワーク(矯正就労支援情報センター)、日本財団が運営する職親プロジェクト、協力雇用主、民間会社が発行する受刑者専門求人誌「Chance!!」、保護観察官・保護司、更生保護施設など少しずつ広がりを見せています。だからこそ、行政機構がタテワリ行政から脱却し、官民が連携した継ぎ目のない支援を行う事こそが、受刑者らの再犯防止・更生支援に資すると考えます。

3、被害者支援なくして、加害者更生支援は成り立たない

(1)被害者を置き去りにしない

 再犯防止・更生支援を行っていくうえで、重要なのは被害者支援だと考えます。近年、過去に犯罪を行った方が立ち直っているドキュメンタリーを目にすることが増えました。そのこと自体は非常に嬉しいことですが、被害者に対する賠償や謝罪をどうしているのかについて語られることは多くありません。被害回復も満足にされていないのに、「昔はワルやっていたけれど、今は真面目にやっています。刑務所や少年院で罪と向き合った。過去を価値にして頑張ります。」などと言われても、被害者や被害者遺族は納得できないし、違和感が残るというのが一般の方からみれば、自然な考えではないでしょうか。だからこそ、被害者支援をしたうえで、再犯防止・更生支援をするという順番を間違えてはならないのです。

(2)前提としての金銭的補償

 犯罪被害者への金銭補償は主に①国の犯罪被害者給付金、②被害回復給付金支給制度、③自治体による見舞金、④加害者が払う損害賠償金があります。

①犯罪被害者給付金について

 犯罪被害給付制度は、殺人などの故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた犯罪被害者の遺族又は重傷病若しくは障害という重大な被害を受けた犯罪被害者の方に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が犯罪被害者等給付金を支給し、その精神的・経済的打撃の緩和を図り、再び平穏な生活を営むことができるよう支援するものです。犯罪被害者給付金の上限額は死亡2964万円ですが、被害者の年齢や収入などを考慮して遺族に支給された犯罪被害者給付金の2019年度の平均額は613万円にとどまります。

 ノルウェーなどは被害者専門の省庁(暴力犯罪補償庁)をつくり、その補償金額の上限は約8750万円と非常に高額となっています。

②被害回復給付金支給制度

 組織犯罪処罰法の改正により、2006年12月1日から、詐欺罪や高金利受領罪(出資法違反)といった財産犯等の犯罪行為により犯人が得た財産(犯罪被害財産)は、その犯罪が組織的に行われた場合やいわゆるマネー・ロンダリングが行われた場合には、刑事裁判により犯人からはく奪(没収・追徴)することができるようになりました。

 このようにして犯人からはく奪した「犯罪被害財産」を金銭化して「給付資金」として保管し、そこからその事件により被害を受けた方に給付金を支給する制度が「被害回復給付金支給制度」です。2018年度には15件、開始決定時給付資金総額は5億5179万円でした。

③自治体による被害者支援

 自治体が行う被害者支援は、自治体間においてばらつきが大きいのが現状です。2004年に制定された犯罪被害者基本法で、被害者支援は自治体の「責務」と明記されたものの、警察庁によると、犯罪被害者に特化した支援条例を整備した自治体は21都道府県、7政令市にとどまります。市区町村では326にとどまり、全体の2割弱にすぎません。

 近年起きた京都アニメーション放火殺人事件については、36人の遺族が住む28の市区町村の内、支援条例があるのは10自治体であったことも報道で取り上げられました。この事件がきっかけで、静岡県菊川市は見舞金30万円を新設することになりましたし、京都市では、被害者が家事サービスに払った費用を給付する仕組みを新設しました。京都市の取り組みは、事件の遺族、負傷者の「悲しみや喪失感に堪えながら食事の支度や子どもの送迎をこなすのがつらい」という声に応えたものです。

 犯罪被害者支援条例を整備している自治体の中には、兵庫県明石市のように、殺人事件などの加害者が賠償金を支払わない場合に上限300万円で市が立て替え、その後加害者から取り立てる制度を設けている自治体もあります。このような立替え制度は、ノルウェーでは回収庁というものがあり、加害者への求償を行うこととなっています。こういった立替え・求償の制度はひとつの自治体で行うのではなく、国をあげて被害者支援庁をつくって全国一律に支援を行っていくことが必要だと考えています。

④加害者が支払う損害賠償金

 加害者側に資力のない場合は賠償金も受け取れません。日弁連の調査では、賠償金回収率は罪が重くなるほど低く、殺人は3.2%、殺人未遂は1.4%しかありません。民事上の賠償責任に関して、現行法において、刑事裁判所の手続きと連結して関われるのは、(ア)刑事和解、(イ)損害賠償命令制度の2つがあります。

 (ア)刑事和解というのは、平成12年11月から、民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解の制度です。これにより、刑事被告事件の被告人と被害者等は,両者間の当該被告事件に関連する民事上の争いについて合意が成立した場合、共同して、その合意の内容を当該被告事件の公判調書に記載することを求める申立てをすることができ、これが公判調書に記載された場合には、その記載は裁判上の和解と同一の効力を有し、被告人がその内容を履行しないときは、被害者等はこの公判調書を利用して強制執行の手続を執ることができるようになりました。

 (イ)損害賠償命令制度というのは、平成20年12月から、一定の重大犯罪につき、刑事事件を担当した裁判所が、有罪の言渡しをした後、引き続き損害賠償請求についての審理も行い、加害者に損害の賠償を命じることができるという制度です。損害賠償請求に関し、刑事手続の成果を利用するこの制度により、刑事事件とは別の手続で民事訴訟を提起することに比べ、犯罪被害者の方の立証の負担が軽減されることになります。

 しかし、平成30年における刑事和解の件数は18件、損害賠償命令制度の件数は309件(令和元年版犯罪白書)となっており、利用は低迷しています。こうした制度の利用率を上げるためには、より実効的な執行手段を用意する必要があると考えます。刑務所在監中であっても被害弁償を出来るようにし、出所後の就労先などにも被害弁償を続けるような仕組みが必要ではないでしょうか。これは先にあげた被害者支援庁設立、賠償金の立替払い、回収を国が行っていくことで解決すると思います。

(3)修復的司法の観点から

 刑事事件の判決において定められた刑罰を全うし、民事事件での賠償責任を果たして初めて「償い」のスタートラインに立つことが出来ると思います。本当の意味での反省をすること、罪と向き合うのはそういった最低限のことを行ったうえで、償いが始まるのです。刑罰を受けたとしても、金銭補償がされたとしても、被害者が受けた心の傷は元に戻らないですし、後遺症が残る場合や被害者が亡くなっている場合もあるからです。被害者や被害者遺族は、なぜ事件が起きたのかという真相を知りたい、加害者との対話をしたい、刑を軽くするために言葉にする謝罪ではなく、心からの謝罪を聞きたいなど様々な思いがあるものの、既存の刑事事件や民事事件、金銭的補償ではこの希望には応えることが出来ません。

 西鉄バスジャック事件(2000年5月)は当時17歳の少年による牛刀を用いた犯行で、2人が負傷し、1人が死亡した。被害者のひとりである山口由美子氏(顔には今でも大きな傷跡が残っている)は、加害少年と面会を重ね、その少年が不登校・家庭内暴力といった問題を抱えていたことを知りました。そして、同じような被害を二度と生み出さないために、山口氏は不登校親の会「ほっとケーキ」を立ち上げ、子どもや親の居場所づくりをするため、活動をされています。これらの活動は、加害少年との対話があったからこそ生まれたのだとお話しされていました。


山口由美子氏と
(2019年12月17日撮影)

(4)小括

 被害者支援に関する専門庁をつくり、捜査段階から公判、加害者が収監された後などにおいても一貫した被害者支援ができるようにしなければなりません。また、国が犯罪被害者に支払われる賠償金を補償・回収するような仕組みをつくる必要があります。被害者と加害者が対話する修復的司法など、被害者支援を厚くすることが国の責務であると考えます。家族間の性犯罪など被害を訴えることが出来ず、事件が表出していないものもたくさんあります。声なき声に耳を傾けることこそが被害者支援政策を考える上で重要な視点だと思います。

4、地域から始まる再犯防止

(1)地方再犯防止推進計画の策定

 平成28年12月、再犯の防止等の推進に関する法律が議員立法により可決された。この法律は、再犯の防止等に関する施策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、再犯防止施策の基本となる事項を定めています。この法律に基づき、2017年12月に再犯防止推進計画を閣議決定しました。各自治体レベルでは、36の地方公共団体でモデル事業が実施されており、地方再犯防止推進計画が策定された自治体も、都道府県17団体、市区町村5団体にもなりました(2019年10月1日現在)。


法務省提供資料
(http://www.moj.go.jp/content/001286429.pdf)

 滋賀県では、「再犯防止三方良し宣言」が出され、兵庫県明石市では更生支援条例を策定するなどの取り組みが見られますが、地方再犯防止推進計画の策定は全く進んでいない自治体も非常に多いというのが現状です。今回のコロナ禍において、担当の健康福祉課は再犯防止推進計画などを後回しにせざるをえない状況も発生しています。


兵庫県明石市の泉市長と
(2019年9月29日撮影)

(2)地域に愛される刑務所づくり

 2017年3月末に収容人数減少に伴い、旧奈良監獄(奈良少年刑務所)は廃止されました。そして、旧奈良監獄は、行刑資料館が開設され、2022年には星野リゾートが経営する客室数を数十室におさえた監獄ホテルとしてリニューアル予定です。

 旧奈良監獄には、100年以上もの積み上げてきた歴史があります。江戸時代、長らく鎖国を続けてきた日本は、日米修好通商条約をはじめ、欧米諸国と領事裁判権を認めるなどの不平等条約を結ぶこととなりました。そこで、明治政府の喫緊の課題は、不平等条約の改正でした。しかし、欧米列強からは、「日本には、まともな法律も、ロクな監獄もない。そんな状態で、私たちの国民を裁かれ、収監されたくない」との声が強く、治外法権を含む不平等条約の改正は難航しました。ちなみに、江戸時代から続く監獄は、キリギリス監獄、通常「ギス監」といわれる狭く不衛生なものでした。


ギス監
2019年11月24日撮影)

 そこで、人権に配慮するとともに、美しい外観を備えた奈良監獄(左写真)、千葉監獄、金沢監獄、長崎監獄、鹿児島監獄という明治五大監獄がつくられることとなり、監獄の近代化がすすめられました。これら五大監獄の設計を任されたのは、司法省(現在の法務省)の技官である山下啓次郎でした。彼は、罪人を懲らしめるための暗く冷たい監獄ではなく、罪を深く悔いて再出発するための希望の場所をつくりました。明治五大監獄は、日本近代化の象徴のひとつでした。

 そして、地域に愛され続けた奈良監獄施設内の「若草理容室」は、受刑者が散髪する珍しい理容室で、職員や地域住民のべ18000人が利用したという記録が残っています。老朽化ゆえ旧奈良監獄の建て替えの話がでたときには、地域住民を中心に、「奈良少年刑務所を宝に思う会」が結成され、県議会や地方自治体、日本建築学会を巻き込んで、奈良監獄の建物保存を求める運動をした結果、国の重要文化財に指定されました。

奈良監獄にて
(2019年11月24日撮影)

 刑務所というと、地域から疎まれる迷惑施設のように扱われることも少なくありませんが、旧奈良監獄のように地域に愛される存在を目指すべきだと思います。そのためには、刑務所や受刑者を正しく理解してもらう必要があります。

 具体的には、先に述べたような「若草理容室」のような市民と受刑者の接点を創出し、積極的に刑務所施設見学や施設を利用した地域活動などを行い、地域住民と職員との触れ合いを行うことが大切です。例えば、島根あさひ社会復帰促進センターで行われていた「文通プログラム」は全国的に行うべきものだと考えています。「文通プログラム」というのは、地域ボランティアと受刑者がペアとなり、ペンネーム(匿名)での文通を通して月1回、書簡を通じた交流を行うものです。地域住民の方々には受刑者への正しい理解を得てもらい、受刑者からすれば他者と良好な関係を築く力や自己肯定感を高めることが出来ます。このプログラムを経験した64名の内、37名が出所し、刑務所再入者は1名、再入率2.7%と他のプログラムに比して非常に低いものとなっているというデータもあります。

 刑務所が地域に溶け込み、地域の人々に愛される存在となることこそが、社会がやさしくなる第一歩だと信じてやみません。

5、新たな中間処遇制度を

 松下幸之助塾主は「国家社会の運営に関して、犯罪や事故をできるだけ少なくし、秩序を高めて治安を保たなければならない。治安の保持こそ、新しい日本の政治における重要事項である」としています。そして、「社会の秩序を乱し法律を犯した者には、その罪にふさわしい刑罰を必ず科さなければならないが、受刑者が刑期を終えて再び社会に出たときに働くことのできる政府直営の工場をつくるのはどうか」という提案をしています(『PHP』昭和41年3月号、松下幸之助発言集 第39巻)。政府直営の工場が、労働者としての能力と実績があるというお墨付きを与えたうえで、民間企業に就職をしてもらうという一種の社会との橋渡しとしての役割が重要であるということです。

 日本財団が行っている職親プロジェクト、コレワーク、受刑者専門求人誌などに参加している企業は、職場と居住先の両者を準備しているところが大半であり、民間企業が塾主の提案した工場のような中間処遇施設の役割を果たしています。また更生保護施設も重要な中間処遇施設としては重要だと考えます。

 現在、無期刑または長期刑の仮釈放者のみを対象として、本人の意向等も踏まえ、必要に応じ、仮釈放後1か月間、更生保護施設で生活指導員による生活指導等を受けさせるという中間処遇的な制度もありますが、平成30年度の当該制度利用者は72名のみと僅かです。

 海外の中間処遇制度をみてみると、イギリスの認可住居(Approved Premises、住居制限を伴う仮釈放者、社会内処遇命令に服している者等が対象)、アメリカの社会内矯正センター(Community Correctional Center、社会内拘禁に付された被収容者が対象)、カナダの社会内居住施設(Community Residential Facilities、同行戒護のつかない一時外出、昼間仮釈放、全面的仮釈放、法廷釈放を受けた受刑者が対象)というものがあります。これらの海外の制度を参考に、日本でも、本格的に中間処遇を積極的に導入し、刑務所と社会の壁を少しずつ薄く低くしていくよう検討していかなければなりません。

 ①出所に際して行っている生活環境調整(特別調整・一般調整)をより充実させるとともに、②中間処遇制度の対象も短期刑なども含めるようにし、③更生保護施設・自立準備ホームや自立更生促進センターの拡充・連携、④依存症対策を行う施設やプログラムの充実が重要です。様々な中間処遇制度類似の制度があるものの、うまく利活用されておらず、責任の所在が曖昧になってしまっています。これらの制度を行政改革によって、整理して、役割・責任の所在を明らかにする必要があると思います。

6、おわりに ~分断・排除から協調・包摂へ~

 コロナ禍になり、多発する自粛警察、ブロック経済的思想の強まりなど、より一層、分断・排除の風潮を感じます。そして、経済の低迷は、企業の倒産などにくわえ、自殺や事件など社会的不安の増加にもつながります。

 しかし、事件増加が見込まれる今だからこそ、犯罪を生まない、犯罪をくり返さないですむようなやさしい社会づくりが必要だと感じます。犯罪者を激しく糾弾し、排除するのではなく、犯罪被害者や被害者家族を支援する方法を構築し、再犯を防止するようなプログラムや出番・居場所を提供することこそが必要だと考えています。そのためにも、①矯正局・保護局の統合によるタテワリ行政打破、②被害者支援庁設立による被害者支援充実、③地域に根付いた再犯防止支援を積極的に行うこと、④社会に戻っていくための中間処遇制度の充実が求められています。

 誰もが犯罪被害者、犯罪被害者家族、犯罪加害者、犯罪加害者家族になる可能性があります。だからこそ、こういった更生支援・被害者支援は大切であり、安全安心な社会をつくっていくには、より多くのやさしい理解者が必要です。失敗をしても、再チャレンジをすることを応援できるやさしい社会をともにつくっていきましょう。

7、参考文献

1)「令和元年版犯罪白書」法務省法務総合研究所編、2019年

2)「刑務所出所者の再チャレンジに必要なものは?」玄秀盛、株式会社トービ、2011年

3)「公益社団法人日本駆け込み寺事業評価報告書」津富宏(静岡県立大学教授)、2018年

4)「不安解消!出所者支援」、掛川直之、旬報社、2018年

5)「刑務所改革 社会的コストの視点から」、沢登文治、集英社新書、2015年

6)「万引き依存症」斉藤章佳、イースト・プレイス、2018年

7)「刑務所の経済学」中島隆信、PHP研究所、2011年

8)「刑務所しか居場所がない人たち」山本譲司、大月書店、2018年

9)「すべてがうまくいく」松下幸之助、PHP研究所、2016年

10)「令和元度厚生労働白書」厚生労働省編、2019年

11)「息子が人を殺しました」阿部恭子、幻冬舎新書、2017年

12)「ステッセルのピアノ」五木寛之、文春文庫、1996年

13)「ソーシャルインパクト・ボンドとは何か」、塚本一郎・金子郁容編著、
ミネルヴァ書房、2016年

14)「グローバル化する厳罰化とポピュリズム」日本犯罪者科医学会編、
現代人文社、2009年

15)「刑事司法ソーシャルワークの実務」千葉県社会福祉士会・千葉県弁護士会編、
日本加除出版株式会社、2018年

16)「刑務所処遇の社会学」平井秀幸、世織書房、2015年

17)「農福連携の『里マチ』づくり」、濱田健司、鹿島出版会、2015年

18)「アメリカ人のみた日本の死刑」デイビッド・T・ジョンソン、岩波新書、2019年

19)「令和元年版再犯防止推進白書」法務省編、2019年

20)「犯罪学入門 ガバナンス・社会安全政策のアプローチ」小林良樹、慶應義塾大学出版、2019年

21)「町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト」猪谷千香、幻冬舎、2016年

22)「民間主導・行政支援の公民連携の教科書」清水義次ら、日経BP、2019年

23)「犯罪不安社会 誰もが「不審者」?」浜井浩一・芹沢一也、光文社新書、2006年

24)「2円で刑務所、5億で執行猶予」浜井浩一、光文社新書、2009年

25)「新犯罪論」荻上チキ・浜井浩一、現代人文社、2015年

26)「奈良監獄物語」寮美千子、小学館クリエイティブ、2019年

27)「熱海の奇跡」市来広一郎、東洋経済新報社、2018年

28)「観光につける薬 サスティナブル・ツーリズム理論」島川崇、同友館、2002年

29)「死刑執行人サンソン~国王ルイ16世の首を刎ねた男~」安藤正勝、集英社新書、2003年

30)「終身刑を考える」大阪弁護士会死刑廃止検討PT、日本経論社、2014年

31)「再犯防止をめざす刑務所の挑戦」手塚文哉、現代人文社、2020年

32)「『許せない』がやめられない」坂爪真吾、徳間書店、2020年

33)「新しい視点で考える犯罪と刑事政策」鮎川潤、昭和堂、2017年

34)「犯罪学大図鑑」DK社編、三省堂、2019年

35)「刑事政策[第2版]」川出敏裕・金光旭、成文堂、2018年

36)「塀の中の美容室」小日向まるこ、ビッグコミックススペシャル、2020年

37)「農福連携が農業と地域をおもしろくする」吉田行郷ら、コトノネ、2020年

修復的司法に関しては、千葉県弁護士会の山田由紀子弁護士を理事長とするnpo法人対話の会など民間の取り組みがあり、双方合意の上で、被害者と加害者がそれぞれの家族や地域の人々が関与して対話することで、被害者・加害者やその家族も回復していく場を設けています。<>

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須藤博文の論考

Thesis

Hirobumi Suto

須藤博文

第39期

須藤 博文

すとう・ひろぶみ

弁護士、千葉市議会議員(美浜区)/自民党

Mission

子どもと高齢者が共存できるマチ

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