Thesis
松下幸之助塾主の言葉に「企業は社会の公器」というものがあります。企業は、特定の個人のものでも、株主のものでもなく、その人たちをも含めた社会のもの、つまりは「公の器」であると明言しています。[1]
つまり、企業は、社会に対して、有益な価値を提供するために存在し、社会の期待に応えられるものを生み出していくことで、さらなる新たな社会を作り出していくということです。まさに企業の社会的責任(CSR : Corporate Social responsibility)が重要です。
日本において、企業の社会的責任というと、事業とは関係のない慈善事業と捉えられることも多いですが、これは真の意味でのCSRではないと考えます。松下幸之助も、企業の社会的責任について、「その内容はその時々の社会情勢に応じて多岐にわたるとしても、基本の社会的責任というのは、どういう時代にあっても、この本来の事業を通じて生活の向上に貢献するということだといえよう。こうした使命観というものを根底に、一切の事業活動が営まれることがきわめて大切なのである。」 と述べています。[2]
そのためには、社会が企業に求める価値観の変化や事業のグローバル展開に対応する企業理念を打ち立てること、そしてその企業理念を社員に伝え共有していくことが重要となってきます。特に、SDGsの根幹にある「誰一人取り残さない社会」をつくるためにも、ダイバーシティ&インクルージョン経営により、企業は社会のやさしい公器たることが求められています。
企業が本来の事業を通じて、社会のやさしい公器たるために必要なのは、ダイバーシティ&インクルージョンであると考えます。
ダイバーシティとは「多様性」という意味です。ダイバーシティ経営は、多様な文化や特性を持った人材に入社してもらい、会社における多様性を受け入れるような仕組みを作るというものです。[3]
一方で、インクルージョンとは「受容」という意味です。インクルージョンという考え方は、企業内すべての従業員が仕事に参画する機会を持ち、それぞれの経験や能力、考え方が認められ活かされ、お互いを認め合いながら一体化を目指していくということです。
一般的に、ダイバーシティに対する企業行動として、「抵抗」「同化」「分離」「統合」の4つのプロセス[4]があると言われています。
まず、「抵抗」とは、多様性の存在を拒否する状態です。この段階では、企業は「違い」をコストだと捉えています。だから、この段階にある企業では、女性用トイレを設けないですし、障がい者は出来るだけ採用せず、エレベータ設置など障がい者への配慮を行いません。企業や職種によっては、いまだに厳しい男女差別が残るなど「抵抗」の段階にあります。また、後述する出所者雇用などは多くの企業からすれば、到底受け入れられず、まさに「抵抗」の段階にあります。
次に、「同化」とは、違いを無視し、既存の行動規範の遵守を求める状態です。例えば、体力や性差、障がいなどの特性を考慮せず、一律の働き方を要求するなどです。男女雇用機会均等、障がい者の法定雇用率など法令順守のためというのがダイバーシティの動機付けになっています。この段階では企業の中の多様性を一応は認識しているにもかかわらず、既存の組織文化が温存されるため、少数派社員の意欲やモチベーション低下を招くことにつながります。
さらに、「分離」とは、違いを認め、適応状態であることを意味しています。組織全体の変革ではなく、特定の職場や分野だけで受け入れる状態です。市場のグローバル化や顧客のニーズの多角化に対応するために、ダイバーシティ(多様性)は合理的ですし、企業は性別や人種によって適材適所に配属をするようになります。
ただし、この段階ではいまだ組織全体としての一体感はなく、真の意味のダイバーシティ経営とはいえません。むろん、受け入れる素地が整わないうちに、ダイバーシティ&インクルージョンを拙速に進めてしまうと、そのひずみによる負の影響も少なくないと思います。企業や職種によって、どの段階に自分たちがあるのかという現状認識を行い、ダイバーシティ&インクルージョンをどれぐらいどのように進めていくかをしっかりと考えなくてはなりません。
最後に、「統合」(インクルージョン)とは、違いを受容し、企業の変容のために生かし、競争力強化やイノベーションにつなげる段階です。
この「統合」という最終段階に至るには、一朝一夕では難しく、ある程度の期間をかけて、異なる価値観や意見をぶつけ合うことが大切です。松下幸之助塾主の言葉でいうところの「対立しつつ調和」[5]することで、「生成発展」していくのだと思います。
現在の日本においては、ダイバーシティ&インクルージョン経営という言葉は、ほとんどが女性活躍・外国人雇用の文脈で使われています。一歩踏み込んだものでも、シニア層・障がい者活躍などにとどまっているのが現状です。
それでは、究極のダイバーシティ&インクルージョンとは何でしょうか。それは犯罪や非行をしてしまった経験を有する人々ではないかと考えるに至りました。犯罪の多くは、被害者がおり、犯罪歴を有する人を雇うことで、企業が犯罪者の味方をしているといううがった偏見や風評被害が生じるおそれがあります。これは、犯罪や非行をしてしまったことに関して自己責任論も根強いこと、一緒に働く社員たちも、犯罪歴を有する人々に会った経験がなく(会っていたとしても知らない)、単純にイメージだけで一緒に働くのは何となく恐いなど、様々な理由で、多くの企業が「拒否」の段階でとどまっています。
本稿では、ダイバーシティ&インクルージョン経営として、犯罪・非行をしてしまった経験を有する人々の雇用に関する現状を示したうえで、再チャレンジを応援するための既存の法制度や、再チャレンジをするための公器としての役割を果たしている企業を紹介します。さらに、再犯防止・更生支援を取り入れたダイバーシティ&インクルージョン経営が実現するための施策を示してまいります。
昨今、刑法犯の検挙件数などは減少傾向にありますが、令和2年度検挙された人のうち、再犯者率(過去に検挙歴がある人の比率)は過去最高の49.1%を記録しました(図5参照)。
つまり、刑法犯により検挙された人の内、約半数が犯罪をして検挙された経験を有する者だということです。
日本をより安全・安心な国とするには、再犯者がなぜ再犯に及んでしまうのかという原因を探り、その解決策を導く必要があります。
そして、大切なのは、再犯防止自体を目的とするのではなく、ひとりひとりの更生を支えていく中で、結果として再犯防止をかなえていくというのを忘れてはなりません。
それでは、犯罪を繰り返してしまう原因は何でしょうか。
人生の大半を刑務所で過ごしたAさんは、身体的な障がいを抱えており、働くこともできず、住むところもなく、刑務所の作業報奨金を刑務所出所後、数週間で使い果たすと無銭飲食で捕まるというのを繰り返していました。
Bさんは、夫の死亡をきっかけに、必要のない物品を盗むことがやめられなくなってしまい、何度も窃盗罪で逮捕されてしまいました。
こういった犯罪を繰り返してしまう人々に共通していたのは、「孤独」でした。再犯防止を推進するために必要なのは、彼ら・彼女らが活躍できる出番と安心して過ごせる居場所です。その出番と居場所を確保するために重要な要素の1つとしてあげられるのは、「仕事」だと私は考えています。
図6は、過去に刑事施設を出所し、再び犯罪をして刑事施設に入所した方々について、再犯時に有職者と無職者との割合を示したものです。これを見ると、7割を超える人が再犯時に無職者となっています。
また、図7は、保護観察終了時に、有職者と無職者のそれぞれの再犯率を示したものです。有職者の再犯率と比べて、無職者の再犯率は約3倍高くなっています。こうしたデータから、就労の有無が再犯に至るか否かに影響していると考えられ、就労の確保は、再犯を防止する上で重要な課題です。
けれども、刑務所出所者等が就職することは決して簡単なことではありません。まず、出所後に住所がない人も多く、そういう場合には、必然と住み込みもしくは寮が完備されている職場に限定されます。また、刑務所や少年院に入っていたことを明らかにしない場合、履歴書に不自然な空白期間が出来てしまいます。逆に明らかにした場合には、多くの経営者は様々なリスクを避けて、不採用通知を出すことが多いのではないでしょうか。
出所者雇用をダイバーシティ&インクルージョンと教えてくれたのは、株式会社ヒューマン・コメディの代表取締役である三宅晶子氏でした。
2018年3月、三宅晶子氏は、日本初となる刑務所出所者、少年院出院者専用の求人誌「Chance!!」を発刊しました。この「Chance!!」へ掲載する企業の条件として、①ヒトを大切にする思いのある会社であること、②身元引受が可能であること、③社宅・社寮を備えていること、の3つを掲げています。特に①ヒトを大切にする思いのある会社であるかを重視しており、掲載希望の企業の社長と三宅氏自身が面談を行っています。
「Chance!!」は刑務所出所者、少年院出院者専用の求人誌ということもあり、全ての文字にふりがながふってあり、漢字が読めない方への配慮がされており、企業側も受け入れが難しい罪名を明示しています。さらに、この求人誌の最後には応募票・履歴書もついており、過去に犯した罪名や入所期間、再犯しないための決意、反社会組織との関係を書き込む欄も設けてあります。「Chance!!」の大きな意義は、前科や前歴を隠さなくてよいということです。
三宅氏自身も中学時代から非行を繰り返し、更生した過去を有しており、そうした過去があったからこそ、この「Chance!!」を発刊できたのだと思います。刑務所出所者等は、貧困や虐待、学校でのいじめられた経験を有していたりすることも多く、障がいや依存症の影響を受けて犯罪や非行に及ぶことも珍しくありません。そのような辛い過去やほかの人に理解してもらえないような生きづらさを抱えている人だからこそ、出来ることはあると思います。まさに、再犯防止は、過去を価値に変える究極のダイバーシティなのです。
「Chance!!」に掲載されている栃木県栃木市所在の株式会社大伸ワークサポートを見学させていただきました。少年院出院経験者の子たちと夕飯をともにし、同じ部屋の二段ベッドに泊まらせてもらいました。株式会社大伸ワークサポートの代表取締役である廣瀬伸恵氏の社員を本当の息子たちのように温かく迎え、その社長の熱意に応えるように、様々な過去を有する彼らが一生懸命働き、更生する姿を見ることが出来ました。まさに誰も取り残さない経営がそこにありました。
また、「Chance!!」に掲載されている埼玉県所沢市所在の株式会社Saaaveの会長である星山忠俊氏にも話を伺うことが出来ました。私が主催する勉強会である「素直会議」にゲストスピーカーとしてお呼びしました。素直会議では、様々な社会的問題の現地現場で活躍している方をお呼びして、当該社会問題に対して皆が疑問に思っていることをゲストスピーカーに質問をし、意見交換する場です。星山会長は、「株式会社Saaaveは足場に関わる全ての人々を守るとともに、人づくりの会社である」とも熱弁していただきました。犯罪歴のある方だけでなく、色々な生きづらさを抱えている人々(ソーシャル・マイノリティ)の雇用問題を解決しようと奔走していました。
協力雇用主とは、犯罪・非行の前歴のために定職に就くことが容易でない刑務所出所者等を、 その事情を理解した上で雇用し、改善更生に協力する民間の事業主の方々です。協力雇用主数は、近年増加傾向にあり、2020年10月1日現在、2万4,213社となりました。また、実際に刑務所出所者等を雇用している協力雇用主数については、2020年10月に 1,391社となりました。また、協力雇用主に雇用されている刑務所出所者数についても、ほぼ横ばいで推移していましたが、2019年に急増し、2020年10月時点では、1,959人と減少しました。
有限会社野口石油(福岡県北九州市)の野口義弘会長は、1991年から協力雇用主として、非行歴・犯罪歴のある少年少女らを積極的に雇用してきました。野口さんは、成果ではなく、一生懸命さを評価してきたとおっしゃいました。さらに、「苦労することもあるけれど、彼らにどんな過去があろうとも彼らは本当にかわいい。彼らはお客様にもよく褒められます。うちの子たちは、私にとって、何よりの誇りです。愛は与えっぱなし。」と続けました。
平成30年秋の褒章において、野口会長は、協力雇用主として初めての褒章となる藍綬褒章を受章され、これ以降、協力雇用主にも褒章が毎年贈られるようになりました。
(出典元:「ソーシャルビジネス研究会報告書」平成20年4月)
就職時の身元保証人を確保できない保護観察対象者等について、民間事業者が1年間身元保証をし、雇用主に業務上の損害を与えた場合など一定の条件を満たすものについて、損害ごとの上限額の範囲内で見舞金(最大200万円)を支払う制度です
刑務所出所者等が、刑務所・少年院在所中の職業訓練・就労支援等により、出所・退院後速やかに安定的で継続的な就労へ移行することを促すため、奨励金を支給する制度です。支給要件は、①保護観察対象者等(仮釈放者、仮退院者又は満期釈放・退院後の更生緊急保護対象者)を雇用した協力雇用主で、②刑務所等在所中からの調整に基づき、出所・退院後速やかに雇用を開始したこと、③正社員又は1年以上の雇用継続が見込まれること (週20時間未満の短時間労働者を除く)です。
具体的には、刑務所出所者等を雇用した場合、最長6か月間、月額最大8万円を支払われます(就労・職場定着就労金)。また、就労継続奨励金として刑務所出所者等を雇用してから6か月経過後、3か月ごとに2回、最大12万円が支払われます。
刑務所出所者等に実際の職場環境や業務を体験してもらう講習体験を行った企業(社会保険加入が必要)には最大2万4000円の講習委託費が支払われます。
エ、トライアル雇用制度
事前にトライアル雇用求人をハローワークに登録し、雇用保険に加入して、刑務所出所者等を試行的に雇用した場合、最長3か月間、月額4万円が支払われます。
2020年12月末現在において、全国の都道府県及び市町村のうち、155の地方公共団体では、入札参加資格の審査に際して、62の地方公共団体では、総合評価落札方式に際して、それぞれ協力雇用主としての刑務所出所者等の雇用実績等を評価しています。さらに、地方公共団体が、保護観察対象者を非常勤職員として一定期間雇用した例も69件となっている。
協力雇用主に関する支援が少しずつ増えてきていますが、多くの経営者はこのような支援があることを知りません。そして、地方公共団体は、全国47都道府県1741市町村のうち、前掲の数字にとどまっています。さらに、ローカル10000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)[6]という総務省所管の補助金も再犯防止に活用できるとされていますが、いまだ十分に活用されていません。また、満期出所者においては、これらの奨励金の対象外であり、協力雇用主へ十分なモノとはとてもいえない状況です。
コレワーク東日本(東京矯正管区矯正就労支援情報センター)にて、出所者の就労支援についてヒアリングをさせていただきました。
コレワークは、前科があるという理由などから、仕事に就く上で不利になりがちな受刑者等の就労を支援するために設置されました。ハローワーク(公共職業安定所)に、受刑者等専用求人を出すに当たって必要となる受刑者等の希望職種や資格などの情報提供をはじめとした採用手続きのための支援を行うことで、雇用のマッチングを進めています。
2016年から法務省矯正局で始まった制度で、近年、相談件数も軒並み増加しており、コレワークが刑務所と社会をつなぐハブとなる可能性をおおいに感じました。
現在は、コロナの影響もあって、遠隔地の刑務所とテレビ電話をつなぐリモート面会なども導入しており、閉鎖的だった刑務所も少しずつですが、変わり始めていることが伺えました。
日本財団は、刑務所出所者や少年院出院者の再犯防止及び社会復帰を目指し、2013 年に職親プロジェクトを立ち上げました。「就労」、「教育」、「住居」、「仲間づくり」の視点で企業や民間団体と連携し、刑務所出所者や少年院出院者に就労体験や教育を提供することで、円滑な社会復帰を支援しています。
先に挙げた協力雇用主の多くは、犯罪や非行を行った方を雇っていることや、協力雇用主として登録していることも公にしていないことが多いです。職親プロジェクトはその支援をあえて公にすることで社会に大きなインパクトを与えることが出来ます。
そして、その旗振り役を買って出たのは、千房株式会社の中井政嗣会長でした。
千房株式会社を筆頭に、大阪の7社で始まった職親プロジェクトも、現在は、176社に拡大しました。コロナ禍に入る前の2019年の大阪連絡会議には、数十社の職親企業、法務省関係者、オブザーバーを含め99名の参加者が一堂に集まり、熱い議論を交わしていました。
「反省はひとりでも出来るけれど、更生はひとりでは出来ない」
まさに職を通じて親になろうとする経営者の方々の思い、企業は社会のやさしい公器であることを知ることが出来ました。
先に述べたように、就労のみに特化せず、住居や教育、そして仲間づくりという視点も大切にしており、職親プロジェクトに参加している企業がお互いに助け合っているのも優れたプログラムだと思います。そして、成功事例だけでなく、失敗事例もしっかりと共有することを徹底していました。
職親プロジェクトに参加している大阪市福島区にある良心塾という中間支援施設にも訪問をさせていただきました。良心塾の代表者である黒川洋司氏は美容院の経営者でもありますが、良心塾では、住まいを提供し、学習の機会を設け、農業体験や林業体験など自然との触れ合いや、地域清掃を行うなど地域とのつながりも重視しています。そうした経験を積むことで、今まで歩んできた人生で失ってきた自信を回復して、自分自身を大切にすることを学んでもらうそうです。そして、就労につながる職業訓練や資格取得のための教育を提供するという社会に戻るための繋ぎ目である中間支援施設として活動を続けていることがよく分かりました。中間支援の重要性については、次の項で述べたいと思います。
松下幸之助塾主が、今から55年前に再犯防止について言及していた記事[7]があります。「社会の秩序を乱し法律を犯した者には、その罪にふさわしい刑罰を科さなければならないということはさきに述べたが、その受刑者が刑期を終えて再び社会に出たときに、一つの大きな問題がある。それは何かというと、出所した刑余者に対する世間の目が冷たく、だれも好んでそういう人を雇わない、だからたとえ刑罰を素直に受け、改心して出所したとしてもなかなか職にありつけない、いきおい食べるために再び罪を犯してしまう、という問題である」という内容です。そして、その対策について、「そういう人たちを対象に、政府が特別の会社なり工場をつくったらどうかと思う。もちろんそれは、一般の会社や工場と同じように、自由に開放されたものでなければならないし、また刑余者をすすんで受け入れ、すすんで働かしめるような職場でなければならない。そして、そこで何年か働いて、もうこの人は大丈夫、絶対間違いをしないということになれば、その政府が運営する工場がいわば保証人になって、どこか民間の会社や商店に雇ってもらえるように拝領するのである。」と話しています。
新宿歌舞伎町本部を置く公益社団法人日本駆け込み寺は、出所者の再犯防止と社会復帰の支援を行う再チャレンジ機構の活動理念に賛同し、新宿駆け込み餃子では出所者に就労・研修の場を提供しています。
刑務所の中で失っている元受刑者の体力や社会性を取り戻しつつも社会へソフトランディングで戻していくような訓練・研修をする場が貴重であることを改めて感じました。
こうした民間企業として中間支援を行うケースが増えていくことが重要だと考えます。
ケイエス急送有限会社の代表取締役の杉山勝美氏は、自身も借金8000万円を背負わされた経験から人生のどん底からでも必ずやり直すことが出来るという信念を持ち、協力雇用主として、多くの出所者を雇用してきました。しかし、「協力雇用主は保護司など他機関との連携を取ることも少なく、単独で経営リスクも背負い込まなくてはならない。協力雇用主制度を貧困ビジネスに悪用する者もいる」との声も聞かせていただきました。
協力雇用主の制度についても、他の機関としっかりと連携を取ることができ、雇用主を孤独にしない制度とする必要もあり、それと同時に当該制度を貧困ビジネスに悪用されることのないような枠組みに改善していくよう取り組んでいきます。
千葉県八街市にあるケイエス急送有限会社代表取締役である杉山勝美氏は、自身も借金8000万円を背負わされた経験から人生のどん底からでも必ずやり直すことが出来るという信念を持ち、協力雇用主として、重大犯罪など罪名を問わず、多くの出所者を雇用してきました。しかし、「協力雇用主は保護司など他機関との連携を取ることも少なく、単独で経営リスクも背負い込まなくてはならない。協力雇用主制度を貧困ビジネスに悪用する者もいる」との声も聞かせていただきました。
再犯防止推進法4条により、地方公共団体において、地方再犯防止推進計画の策定の責務が明示されました。図10に示すように、徐々に地方再犯防止推進計画を策定した地方公共団体は増加してきました。
地方再犯防止推進計画を絵に描いた餅にしないためにも、地方公共団体自らが刑務所出所者等を直接雇用し、民間企業に再犯防止推進の範を示してほしいと思います。先に述べた通り、地方公共団体への直接雇用は65例にとどまっています。より多くの地方公共団体で、出所者等の直接雇用を推進されることが望まれます。
令和2年10月1日現在における協力雇用主(個人・法人を合わせたものをいう。以下同じ。)は、2万4,213社(前年同日比897社(3.8%)増)であり、その業種は、建設業が過半数(54.4%)を 占め、次いで、サービス業(16.3%)、製造業(9.9%)の順です。しかし、刑務所出所者等もそれぞれに個性があり、様々な職種があることが望ましいです。
そのために、コレワークや職親プロジェクトがより多くの経営者の方々に知ってもらうことが重要です。そして、刑務所内での就職説明会などを通じて、刑務所の実情や犯罪や非行に走ってしまった人たち、ひとりひとりと向き合ってもらうことが出来ます。さらに、刑務所等に入所しているうちから就職説明会などを行うことで、内定先に合った教育や訓練を刑務所内で行えるように柔軟な対応をとることが出来ればなお効果的です。なお、刑務所内で採用説明会を行ったのは、千房株式会社が初めて行ったとのことでした。
出所者雇用というのはハードルが高いと思う経営者には、刑務作業を受注していただくという方法もあります。刑務所内の刑務作業が、社会との唯一の接点でもあります。社会に求められているものをつくることができるのは受刑者等にとってもおおきなプラスになります。
これは、経営者の方々にとっても、工場や倉庫等の設備費削減や福利厚生費・労務管理が不要などのメリットもあります。刑務作業でつくられた商品の質の高さをみれば、出所者雇用についても、興味が出てくると思います。刑務作業でつくられた商品が販売される矯正展では、一部の商品については、販売直後に売り切れてしまうほどの人気があるのも事実です。
ダイバーシティ&インクルージョンに、再犯防止・更生支援をしっかりと組み込んでいくことが重要です。
誰一人取り残さない社会。これは、子どもであっても、大人であっても、健常者であっても、障がい者であっても、犯罪被害者であっても、犯罪加害者であっても、誰一人取り残さない社会のことを指すと私は信じています。
出所者等雇用によって、再犯防止・更生支援をすることは、犯罪や非行に走ってしまった人々を取り残さないという意味だけではなく、そうした犯罪や非行の被害にあった人々への被害回復にもつながってくると思います。
犯罪者だと排除し、「拒否」する時代は終わりました。犯罪者であったことを隠し、「同化」する時代も終わりました。犯してしまった罪をしっかりと償い、その過去をしっかりと価値に変えて、社会に迷惑をかけた分、社会に貢献していこうとするパワーを企業内で、「分離」することなく、「統合」していくことこそが、次代の経営者に求められた資質ではないでしょうか。
思いのある経営者の方々には、様々な制度があることを知っていただくとともに、刑務所出所者等を「犯罪者」としてではなく、彼らひとりひとりをじっくりと見てほしいです。そして、犯罪や非行と今まで縁がなかった経営者の方々にこそ、再チャレンジ雇用に取り組んでほしいと思います。もちろん、再チャレンジ雇用を行っていく中では、そもそも仕事をする能力や技術を根気よく育てていくだけでなく、彼らの金銭管理能力も養わなければならないことも多いと思います。さらに、愛情に飢えた家庭で育ったがゆえに非行に走った少年少女については依存傾向も強く、社内恋愛やのぞまない妊娠なども少なくありません。協力雇用主への補助金目当て、単純に人材不足を補うためというのでは決してうまくいきません。
地域に根付いたことをしよう、社会貢献をしようと思っている企業の経営者の皆さんには、究極のダイバーシティ&インクルージョン経営を出来ることからはじめていただきたいと思います。刑務作業の受注、職場見学会、刑務所での企業説明会、職親プロジェクトへの参加、協力雇用主への登録とその企業の規模や職種によって今すぐ出来ることもあるのではないでしょうか。
企業が、「社会のやさしい公器」として、多様性をしっかりと活かすことで、社会の求める商品・サービスを提供することが出来るのです。そして、その企業活動やそこから生み出された商品やサービスが、また新たなやさしい社会をつくっていくことになると信じてやみません。
「企業の社会的責任とは何か?」松下幸之助、PHP研究所、2005年
「実践経営哲学」松下幸之助、PHP研究所、1978年
経済産業省HP(2021年8月6日閲覧)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html
「ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義」中村豊、2017年
「松下幸之助発言集 第37巻」、松下幸之助、PHP研究所、1992年
総務省HP(2021年8月15日閲覧)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/local10000_project.html
「枕を高くして眠れる社会を」、松下幸之助、PHP昭和41年3月号、1966年
Thesis
Hirobumi Suto
第39期
すとう・ひろぶみ
弁護士、千葉市議会議員(美浜区)/自民党
Mission
子どもと高齢者が共存できるマチ