論考

Thesis

コロナから守ろう、私たちの安全安心を!

新型コロナウイルスは、世界中を混乱に陥れました。コロナがもたらす影響は感染症による直接的なものだけではありません。緊急事態宣言下で行われた飲食店・カラオケボックス・漫画喫茶などへの営業自粛要請や、テレワークへの切り替えが求められ、緊急事態宣言明けには新しい生活様式の推奨など様々な場面で私たちの日常生活にもコロナによる影響が生じました。自粛による経済に与える影響、STAY HOMEによっておこる家庭内の問題、仕事や住居を奪われた人々、コロナに起因する犯罪について考えていきます。

【目次】

1、はじめに

2、未曾有の経済危機

3、STAY HOMEの落とし穴

4、衣食住を奪われた先にあるもの

5、犯罪被害を生まないために

6、おわりに

1、はじめに

 2020年4月7日、新型コロナウイルスに係る緊急事態宣言が出され、GWも自粛を余儀なくされました。感染症に罹患していた志村けん氏や岡江久美子氏の死亡がニュースで伝えられ、新型コロナウイルスの恐ろしさに日本中が気付かされることになりました。

 私は、新型コロナウイルスそれ自体の恐ろしさもさることながら、そのウイルスが引き金となって、私たちの生活における様々な場面で多大な影響が出てくること、それに対応する必要性が非常に高いと考えるようになりました。

図1 コロナがもたらす影響(筆者作成)

 例えば、景気低迷による失業者の増加による景気低迷、自粛生活に伴うDVや虐待の増加、マンガ喫茶等の閉鎖によりホームレスの増加が生じ、マスクなどの物資が不足することで便乗詐欺も増加しています。こういった新型コロナウイルスに起因する様々な二次的被害は、目に見えないところで、着実に社会を蝕んでいます。本稿では、こういった社会の闇の部分に光をあてていきたいと思います。

2、未曾有の経済危機


図2 コロナによる経済的損害がもたらす日常への影響(筆者作成)

 2020年4月5日、東京都江戸川区で、妻から「コロナのせいで収入が減った」と言われた夫が平手打ちをし、転倒した妻が死亡した事件(週刊女性PRIME、2020年4月14日付)が起こりました。同月25日には「コロナの影響で働けず、金がなかった」として、女性を包丁で刺し、現金数千円の入ったバッグなどを奪う強盗殺人未遂事件(朝日新聞、2020年4月27日付)も起こりました。

 これらの報道を受けて、敗戦後、国民全体が貧困にさらされていた頃(1948年9月)の松下幸之助塾主の「貧困は罪悪である」(「PHPのことば その9 経済の目的」松下幸之助、PHP研究所、1953年)という言葉を思い出しました。その言葉には、「衣食足らざれば礼節を知らず」が人間の本性であり、だからこそ、貧困を除去し、社会を繁栄させていかねばならないという願いが込められています。

 営業自粛せざるを得ず、自由競争が制限されているこの状況下においては、積極的な経済政策が必要です。今をしのがなければ、疫病が去った時に立ち上がる企業も個人もいなくなってしまいます。こういった場合の経済政策は下記のような全国一律で必要なものもあれば、その地域特有の問題も数多くあり、各自治体での対応も重要になると思います。



※上記の経済対策①②は、政府発表資料に基づき筆者作成(5月1日時点)

 兵庫県明石市においては、今回のコロナにおいて、全国でもいち早く方針を打ち出し、早期に補正予算を成立させました。具体的に言えば、大きくあおりを受けるのが、個人商店、ひとり親家庭、貧困層、学生と見極め、①個人商店に家賃2か月分(最大100万円)の融資、②ひとり親家庭に児童扶養手当に5万円上乗せ、③生活に困っている人に対し、明石市社会福祉協議会からの更なる貸付10万円を認めました。さらに、学生らの学費のために無担保無利子で50万円を貸し付け(明石市から各学校へ直接振込)をすることを早々に決めました。もちろん、各自治体によって財政規模等も異なり、一概には言及できませんが、その地域を支える人たちの現状を一番よく分かっている各自治体が住民に合った支援策をどんどんと考えていくべきです。こうした危機的状況にあっては、各自治体は、財政調整基金を取り崩すなどして、住民や地元企業を支えることが必要とされていると思います。

3、STAY HOMEの落とし穴

(1)陰のパンデミック

 小池百合子都知事が記者会見(2020年4月23日)において、「今年のゴールデンウィークは、いのちを守るSTAY HOME週間にしましょう」と発表しました。感染病対策としては、人との接触を出来る限り減らす必要があることは理解できます。
しかし、家が万人にとって、安心できる場所とは限らないのです。家にいる時間が長くなれば、DV、虐待、依存症のリスクが高まります。


図3 自粛期間におけるDV・虐待・依存症の増加(筆者作成)

(2)DV・虐待

 実際問題、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「多くの女性や少女たちにとって、最も安全であるべき場所に最大の脅威が迫っている。自宅の中でだ。」として、DVの世界規模での急増に関し、警鐘を鳴らしています(AFP通信、2020年4月6日付)。

 3月から外出禁止の措置がとられたフランスではDVの相談が3割以上増えて深刻な問題となっており、日本においても、厚生労働省が2020年1月から3月にかけての虐待件数は前年同月比で1~2割増加していることが分かりました(日本経済新聞、2020年5月12日付)。

 DV対策として、内閣府には、「DV相談+」が取り入れられ、4月29日には電話・メールともに24時間で相談できる体制となり、チャットでの相談も受け付けられるようになっています(図4参照)。虐待対策についても厚生労働省が設置する「189番」や、NPOにより、18歳までの子どもが相談できる「チャイルドライン」が設置されています。


図4 内閣府HPから引用(https://soudanplus.jp/


図5左 厚生労働省HPから引用( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dial_189.html
図5右 チャイルドラインHPから引用(https://childline.or.jp/

 しかし、自粛生活ゆえに、DVや虐待をしている人たちの監視下に置かれていることが多く、相談すること自体のハードルが上がっていることに気付かねばなりません。自粛生活の中でも、被害を受けている人がSOSを出せるようなSNSやチャットを利用した仕組みづくりが重要となっています。

(3)依存症

 在宅勤務が増え、精神的ストレスの中、アルコール摂取量が増えることによるアルコール依存症患者の増加が予想されます。また、アルコール依存症患者たちが、自助グループ(AA:アルコホーリクス・アノニマス、飲酒をやめようとする当事者同士が集まって対話する場)などが開かれなくなったことで、アルコールに再度手を出してしまう「コロナ・スリップ」が生じています。アメリカのアルコール依存症支援団体Alcohol.orgが3000人のアメリカ人労働者に対して行った調査(https://www.alcohol.org/guides/work-from-home-drinking/【最終アクセス日:2020年6月27日】)によると、カリフォルニア州とニューヨーク州では対象となった労働者の38%が「在宅勤務中に飲酒している」と回答しています。また、全回答者の3分の1以上が1人でいる時には飲酒量が増えると答え、5分の1の回答者が隔離に備えてアルコールを備蓄したと回答しています。

 依存症は「孤独」に起因することも多いです。自粛期間において人が集まる形でのコミュニケーションが難しい今だからこそ、SkypeやZoomなどを使った新しい形でのコミュニティ作成が必須となると思います。医療機関や保健所の対応が不十分になっている状況を乗り切るためにも、民間の力に頼り続けています。自粛生活の中で、依存症患者自身や家族には大きな精神的な負担がかかります。今後も、新たな生活様式を実践していくうえで、自殺や家族内トラブルを避けるためにも、行政が、依存症についての相談窓口を早急に準備することが必要と考えます。

4、衣食住を奪われた先にあるもの

 緊急事態宣言が出され、集団感染を防ぐため、多くの漫画喫茶等が営業を自粛し、炊き出しイベントも中止に追い込まれました。漫画喫茶を住居としていた人たちは、住まいをなくしました。そして、炊き出しがなくなり、ホームレスの人々の食料供給源がひとつ失われました。

 昨年7月より、私は、東京都新宿区にある公益社団法人日本駆け込み寺にて、相談ボランティアや歌舞伎町の夜間パトロールなどを定期的に続けてきました。この駆け込み寺の事務所の向かいにある大久保公園周辺には、携帯電話を片手に何をするわけでもなく佇む女性が多くいます。この多くは個人的に売春をしている女性たちなのです。自粛期間に入り、新宿からは人の流れがほとんどなくなってしまったにもかかわらず、大久保公園周辺にいる女性の数はほぼ変わらない状態でした。パトロールなどの時に声掛けをしている顔見知りの女性に話を聞いてみると、バーや風俗業界も営業自粛となり、店舗での売り上げが見込めなくなったため、出会い系サイトなどを利用して、「パパ活」と称した個人売春をするしかなくなったそうです。また、別の女性は、漫画喫茶やホテルを渡り歩いていたそうだが、漫画喫茶も締まり、人出が少なくなった新宿でひたすら声をかけられるのを待っているということでした。


図6 コロナに衣食住を奪われる人たち(筆者作成)

 ホームレス状態を解消するために、既存の枠組みを利用し、要件の緩和された住居確保給付金や生活保護を積極的に使うしかないと考えられます。ただし、ホームレス状態になった人々にとって、これらの情報に触れること自体が難しいため、既存のホームレス支援団体や専門家などと協力して、情報の周知徹底をはかることが重要となってきます。

 また、地方自治体は、県営住宅などを積極的に開放したり、地域の空き家などの有効活用に努めていくべきだと考えます。


図7 厚生労働省HPより引用(https://www.mhlw.go.jp/content/12003000/000631370.pdf

5、犯罪被害を生まないために

 上述してきたように、経済的理由で犯罪に及んでしまったり、精神的なストレスからトラブルに発展したりという犯罪もありますが、災害や疫病という危機的状況の時に「便乗型」の犯罪が起こることが多くみられます。例えば、品不足になっているマスクを高額で売りつける、助成金が出るといって詐欺を働くなどというケースです。


図8 コロナ流行に伴う犯罪増加(筆者作成)

 これら便乗型の被害者になるのは、危機的状況にあり、かつ情報弱者となってしまっている人です。だからこそ、関係自治体や警察が協力して正確な情報を提供すること、24時間365日困ったときに相談できるような場所や居場所があることが重要となってきます。また、特に高齢者に対しては、デジタルデバイドが生じないように対応していくことが重要です。

 なお、上記の図で示したように、警察署や刑務所は密室状態が続くため、ひとたび感染が広まれば、ウイルス抑制は困難となります。イラン、ブラジル、コロンビア、アメリカなど世界各国で刑務所内での大規模感染、暴動、脱獄が発生しています。幸い、日本では、刑務所等における新型コロナ肺炎の発症は、北海道月形刑務所の刑務官、東京拘置所に収容中の被告人、大阪拘置所の刑務官の3例のみであり、いまだ刑務所や拘置所がクラスターとはなっておらず、刑務所内部でデマが流れることもなく、暴動や脱獄なども起こっていません。むしろ各地の刑務所における刑務作業では、民間企業の受注を受け、布マスクや防護服、医療用ガウンの製作を始めています。通常は「迷惑施設」と呼ばれる刑務所が、社会に貢献している姿を見ることが出来ました。社会が分断することなく、皆が協力して出来ることから始めていくことがコロナ時代を生き抜いていくうえで重要なことだと思い知らされました。

6、おわりに

 今まさに新型コロナウイルスの感染者が増大していく中、医療関係者や福祉関係者が現場の最前線で闘ってくれています。しかし、日本全国民が自粛生活、新しい生活様式を迫られる中で、目に見えぬ「陰のパンデミック」が国民を襲い始めています。
貧困、DV、虐待、ホームレス、犯罪の増加への対策が遅れれば、新型コロナウイルスの波が去ったとしても、深い傷を残し、復旧することもままなりません。国・地方自治体と企業や民間団体が知恵を出し、力を合わせて生き抜いていくことでしか解決できません。

 私自身も、安全・安心な国づくりをするため、人々の命や生活を守る政策を研究・研修をしていきます。今回のことで改めて、危機的状況に陥ったときこそ、他機関と連携した平常時の準備と、リーダーの想像力・決断力が大切だということを痛感しました。様々な危機的状況を乗り越えていけるよう、様々な人に会って仲間づくりをするとともに、様々な現地現場に足を運び、想像力・決断力を養っていきたいと思います。みんなが安心して暮らせる社会をつくっていける政治家を目指して日々活動してまいります。

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須藤博文の論考

Thesis

Hirobumi Suto

須藤博文

第39期

須藤 博文

すとう・ひろぶみ

弁護士、千葉市議会議員(美浜区)/自民党

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子どもと高齢者が共存できるマチ

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