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実践活動報告(その9) ~「五島産エネルギーを活用した地域振興シンポジウム」開催報告~

エネルギー自給率を上げ、さらにエネルギーを輸出することで外貨を稼ぐ「エネルギー融通地域」は、地域の振興にどのような効果をもたらすのでしょうか。今回、五島地域において地元産エネルギーを活用した地域振興について考えるシンポジウムを開催したことから、以下、報告する。

1. 開催趣意およびプログラム

 五島市の産学官関係者によって構成される五島市再生可能エネルギー推進協議会では、H28(2016)年度より、農林水産省「農山漁村再生可能エネルギー地産地消型構想」支援事業を受け、エネルギーの地産地消を農山漁村の発展に結び付けるための構想をつくる議論を進めてきた。その一環として、地域電力会社を設立し、資金面の地域循環を作り出す検討なども行われている。

 筆者は、H28(2016)年に五島列島での活動を開始して以降、五島市再生可能エネルギー推進協議会と連携関係にある民間団体「五島市再生可能エネルギー産業育成研究会」のコーディネーターとして活動している。昨年度は、風力発電設備のメンテナンス支援業務などを積極的に手掛けてきたが、今年度は新たに、小売電気事業の調査分析なども行ってきた。それら取り組みの一例を、2017年9月に塾生レポート「自治体電力の”日本版シュタットベルケ化”の可能性」として上梓、また、10月には地域エネルギー会社の先進事例として、ドイツの視察調査なども行った。

 それらの調査を行う中で、自治体が主体となり地域電力会社を作るケース、また、地元企業が複数集まり出資して会社をつくるケースなどがあることがわかってきた。九州においてそれら取り組みが活発な場所が福岡県であり、同県みやま市では、同市が55%を出資する「みやまスマートエネルギー(株)」が設立され、広く事業展開が行われている。また、みやま市に隣接する八女市では、同市内73社が出資した「やめエネルギー」を設立、5月より事業を開始している。とりわけ八女市の事例は、地域全体を巻き込み小売電気事業者を作ろうとする動きであり、その出資者数の多さからも全国から注目されている。

 翻って五島市では洋上風力発電をはじめとする風力発電、また、太陽光発電の導入が進んできた。将来、それら五島産エネルギーによって生み出された電気を地元で調達し、地元の需要家が消費することが実現すれば、五島に新たな雇用を生み出す可能性がある。さらに、五島の特産品である農林水産物の加工や保存に地元電気を用いることで、ブランド価値をさらに高められる可能性も考えられる。

 以上の背景に基づき、五島産エネルギーの地産地消によって得られる効果、また、それを行なっていくためには何が必要かを五島市民の皆様と一緒に考える機会としてシンポジウムを企画した。なお、企画は五島市再生可能エネルギー推進室と相談しながら、H29(2017)年12 月19日(火)13:30~15:30に、五島市役所第一・第二会議室を使わせて頂き、以下のプログラムにて実施することとした。

<プログラム>(敬称略)

 13:30-13:45

 ●開会挨拶 塩川 徳也(五島市役所地域振興部 部長)

 ●来賓挨拶 河内山 哲朗(公益財団法人松下政経塾 塾長)

 13:45-14:10

 ●講演 「エネルギーの地産地消がひらく五島の未来」

        木村 誠一郎(松下政経塾 第35期生)

 14:10-14:35

 ●講演 「電力の地産地消に取り組む福岡県・八女市の挑戦」

      中島 一嘉(やめエネルギー株式会社 取締役)

 14:35-14:40 休憩

 14:45-15:25

 ●パネルディスカッション

 「五島産エネルギーを活用した農林水産業・商工業の振興」

      中島 一嘉 やめエネルギー株式会社 取締役

      松井 信正 長崎総合科学大学 教授

      田口 勇  ごとう農業協同組合 常務理事

      出口 浩一 奈留町漁業協同組合 参事

      清瀧 誠司 福江商工会議所 会頭

      冨永 聖哉 (株)アットグリーン マネージャー

 <進行>木村 誠一郎 公益財団法人松下政経塾 第35期生

 15:25-15:30

 ●閉会挨拶 清瀧 誠司 五島市再生可能エネルギー推進協議会 会長


図1. シンポジウムのチラシ

2. シンポジウム内容

 今回のシンポジウムは師走の平日ということもあり、どの程度集まって下さるか不安があった。しかし、福江商工会議所を中心にエネルギー関連産業の皆様に呼びかけて下さったおかげで、当日は60名以上の皆様にお越し頂く事が出来た。

 シンポジウム開催にあたり、主催者である五島市再生可能エネルギー推進協議会を所管する五島市役所地域振興部長の塩川徳也氏ならびに共催者である公益財団法人松下政経塾・塾長の河内山哲朗氏よりご挨拶を頂いた。両氏からは、人口減少が進む五島市において、地域振興手段としてのエネルギー産業への期待についてお話を頂いた。


図2. 開会挨拶(地域振興部 塩川徳也 部長)

 


図3. 来賓挨拶(松下政経塾 河内山哲朗 部長

 続いて、筆者から「エネルギーの地産地消がひらく五島の未来」との題目で講演をさせて頂いた。

 五島市における最も重要な課題の一つは人口減少である。その対策として質の高い雇用創出による定住人口の拡大が目指されているが、とりわけ、①教会群の世界遺産登録、②海洋再生可能エネルギーの導入、③鮪の養殖基地化、④椿の島づくり、の重点4施策が行われている。

 海洋再生可能エネルギーの分野では、既に五島市は日本でも屈指の集積地となりつつあるものの、海洋だけでなく再生可能エネルギー全般を俯瞰した場合、実は五島列島全体が日本でも極めてエネルギー自給率の高い地域であることを指摘した。その上で、これまでは発電所の導入などによって雇用創出を目指す取り組みが行われてきたが、今後は、作り出されたエネルギー(例えば電気)を活用する事によって、地域経済を活性化させ、雇用が創出できる可能性と、その定量的規模感を示した。さらに、五島産エネルギーを用いることで、地域産品の付加価値を高められる取り組みの事例なども紹介した。

 


図4. 講演「エネルギーの地産地消がひらく五島の未来」(筆者)

 筆者の講演に続き、やめエネルギー株式会社を設立した中島一嘉氏より、「電力の地産地消に取り組む福岡県・八女市の挑戦」としてご講演頂いた。地域電力会社を設立するに至った経緯、現在の契約状況、サービス内容、大手電力会社に対する割引状況、今後の展開など、事業を行っているからこその充実した内容であった。

 経緯については、八女市の53億円の地元資金が、これまでは地域電力会社が無いため外部に流出しており、それを食い止めることが会社の主目的であることが述べられた。中島取締役が何度も繰り返されていた「もったいない」という言葉が、特に印象に残った。

 また、事業開始後半年が経過し、損益分岐点に対する契約の獲得状況や、どのような営業活動を行っているのかなどのお話も、大変具体的であった。お客様の声として、電気料金が安くなることを期待する方、地域のためになることが重要と考える方、興味が無い方など、様々な場合があり、それらの声を聞きながら行う営業活動自体が、お客様に電気がどのように使われているかを考え直してもらうキッカケを提供することになっているというお話は、大変感銘を受けた。

 今後は、ネガワット取引におけるアグリゲーター事業や、HEMSを活用した高齢者見守りサービスなど幅広く展開していくことを検討し、電気を販売することに伴う複合的サービスを提供していくとのことであった。

 


図5. 講演「電力の地産地消に取り組む福岡県・八女市の挑戦」(やめエネルギー株式会社 中島一嘉 取締役)

 2件の講演後、休憩を挟み、「五島産エネルギーを活用した農林業・商工業の振興」という内容でパネルディスカッションを実施した。今年度、農林水産省の支援事業によって実施された検討結果を(株)アットグリーンの冨永マネージャーよりご説明頂いた後、その内容を受けた2つの論点についてディスカッションを行った。

 1つ目の論点は、農業、水産業、商工業において、五島産エネルギーを活用することで得られるメリットならびに付加価値の向上であり、ごとう農協の田口常務、奈留町漁協の出口参事、福江商工会議所の清瀧会頭から、それぞれの見解を伺った。2つ目の論点は、五島市においても八女市のような地域電力会社が設立できるのかという点であり、懸念点などを長崎総合科学大学の松井教授に、具体的な事業実施の可能性を福江商工会議所の清瀧会頭およびやめエネルギーの中島取締役よりお話頂いた。

 パネルディスカッションを通して、それぞれの立場がおぼろげながら見えてくると共に、今後、地域電力会社が設立された場合、その経営上重要な視点が明らかになったと思われる。

 パネルディスカッション後、五島市再生可能エネルギー推進協議会の清瀧会長より閉会のご挨拶として、これまでの五島市の取り組みにおける市長のリーダーシップと、資金の地域内循環を目指した取り組みが重要であることが触れられた。

 

 


図6. パネルディスカッションの様子

3.シンポジウムを振り返って

 筆者は松下政経塾入塾以来、エネルギー自給率を上げ、さらにエネルギーを輸出することで外貨を稼ぐ「エネルギー融通国」の実現を志として活動を実施してきた。そして、その地域版「エネルギー融通地域」に最も近いのが長崎県・五島列島であり、その実現に具体的に携わりたいと考え、五島列島に移住した。

 一方で、「エネルギー融通国ないしはエネルギー融通地域の実現が、私たち国民一人一人にとってどのような恩恵があるのかわからない」と、色々な方から指摘を受けたことがある。それに対し、私自身も学びながら研究させて頂いた。その結論の一つが、エネルギーの地産地消とその受け皿となる地域電力会社運営による地域振興である。

 今回のシンポジウムを通し、地域電力の可能性や高い期待はあるものの、どのようにそれを実現に結び付けていくのかの議論が若干不足している事も明らかになった。例えば、事業組織のあり方について、五島の地域振興に効果を上げる観点では、福岡県みやま市のように自治体が主導する形が有効なのか、八女市のように地域の複数の企業が出資して経営する形が有効なのか、また、出資に制限がある農協さんや漁協さんとどのように加わってもらうのか、などを詰めていくことが、事業を開始するために重要と感じた。また、契約を増加させ損益分岐点をどのように越えていくかは会社経営上、非常に重要であり、その点も容易では無いこともわかった。

 一方、五島市において地域電力会社を起こし、資金循環ならびに地域振興を目指す機運も、地元企業を中心に出始めている。そこで、まずは先行事例を参考に、五島市に適した地域電力のあり方を広く議論すると共に、地に足の着いた事業実施を行っていく必要があろう。微力ながら、筆者もその取り組みに貢献していければと考える。

 末筆ながら今回のシンポジウムにご協力ならびにご参加頂きました関係諸氏にこの場をお借りして御礼申し上げます。引き続き皆様からのご支援、ご指導のほどお願い申し上げます。

参考文献

[1]木村誠一郎: 自治体電力ビジネスの“日本版シュタットベルケ化”の可能性(https://www.mskj.or.jp/report/3382.html), 松下政経塾・塾生研究レポート(2017)

[2]木村誠一郎: ドイツ・シュタットベルケ視察報告(https://www.mskj.or.jp/report/3388.html),松下政経塾・実践活動報告(2017)

 

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(一社)離島エネルギー研究所 代表理事/(公財)自然エネルギー財団 上級研究員

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