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実践活動報告(その5) ~長崎県内企業の皆様へ:風力発電メンテナンス産業に参入しませんか~

昨年度より筆者も積極的に関わらせて頂いている「風力発電メンテナンス産業の育成」について、H29年度よりその具体的取り組みを開始する。その具体的な取り組みについてご紹介する。

1. はじめに


 2016年度(H28年度)より筆者はインターン先である「長崎海洋産業クラスター形成推進協議会」および「五島市再生可能エネルギー産業育成研究会」において長崎県および五島市の支援の下、風力発電メンテナンスに関する調査研究を実施した[1]。その結果、洋上風車のメンテナンス分野における五島の強みとして以下5点のような項目が明らかになってきた。



・五島の強み(1) いち早いノウハウ集積の可能性

・五島の強み(2) 五島市が陸上風車を保有

・五島の強み(3) 造船業の知見を活用

・五島の強み(4) 国のサポート

・五島の強み(5) 人材の集積



 また、松下政経塾・塾生研究レポート「五島市における洋上風力発電プロジェクトに伴う経済効果」において、風力発電メンテナンス産業の経済波及効果を見積もったところ、風力発電は建設のみならずメンテナンスによって長期間の雇用効果が得られると得た[2]。



 2016年3月時点で、わが国には3.1GWの風力発電設備が稼働しているが、これまでの分析を適用すると、これに必要な人員は1000人規模と推定される。それに対し、昨年度に行った調査から、陸上風車のメンテナンスに従事する人員は100人規模の単位で不足していることがわかっている。さらに、今後拡大が見込まれる洋上風車メンテナンスは、それ自体が新たな取り組みであることから、技術面のハードルは高いものの、新規参入者にとって比較的門戸が開かれている分野と言える。



 そこで本年度(2017年度/H29年度)、これまでの成果を活かし、五島において風力発電メンテナンス産業の拠点を作ることに取り組みたいと考え、長崎県の支援を受け「風力発電メンテナンス産業への参入支援事業」を6月より開始することとなった。以下、その詳細について述べる。




図1. メンテナンス産業への参入支援事業ポスター



2.「 風力発電メンテナンス産業への参入支援事業」の概要



 今回筆者が担当する「風力発電メンテナンス産業への参入支援事業」は大きく、人材育成と技術開発の二つの分野に着目し、長崎県内事業者による参入を促すこととしている。

 人材育成においては、実際に風車のメンテナンスを担う人材を育成し、メンテナンス実務を担える人材を生み出す事を狙って実施する。国内ではすでに、風車メーカーである日立製作所などでも一般向けのトレーニングを行っている。例えば、日立製作所の場合、最も基礎的な半年点検が行えるレベルに至るまでで、交通費や人件費、食費などを除く計6日間の講義およびトレーニングの研修費が1人あたり90万円が必要である[3]。つまり、風力発電業界との接点がそれほど多くない企業にとって、仮に風力発電産業に参入したくても初期費用の大きさは参入を阻む一つのハードルとなっていた。

 また、青森県などでは県内企業を対象に、風力発電のメンテナンス事業へ参入を希望する事業者を集め、青森県内にある大手風力発電事業者のメンテナンストレーニングセンターにて参入支援のための取り組みを行っている(図2)。




図2. 青森県が県内企業向け参入支援トレーニングを行っている施設の例[1]



 これに対し、今回実施する「メンテナンス産業への参入支援」事業は、国内外の先行事例を参考にしながらも、参入希望者の裾野を広げるとともに、具体的な事業に結びつくことを想定し、以下3つの特徴を以て実施する。



1.経営者セミナーの開催: 初めの取っ掛かりとして、風力発電メンテナンス産業に関心を持つ「経営者」を対象に、その実態や今後の見通しについて説明するセミナーを実施。

2.メンテナンス「実務分野」および「技術開発分野」の両面での参入を支援: 風力発電設備のメンテナンス実務を担う分野での事業参入と、メンテナンスを支援する機器開発に係る分野での参入の両方を支援する。とりわけ技術開発については、将来的に洋上風車を見越した技術開発を視野に入れ開発をサポートする予定。

3.実風車を活用予定: 体験コース/入門コースなどステップアップ形式のトレーニングを準備し、その際、五島市内にある実機の風力発電設備を活用予定。



 特に、オープンイノベーション形式を用いた技術開発分野も含めた取り組みはこれまで国内では行われておらず、新たな取り組みである。



 今回の参入支援事業を通じ、実際に風力発電のメンテナンス事業に参入に至るまでの経緯を図3に示す。まず始めに、経営判断などを行える方に「ステップ(1):経営者セミナー」に来て頂き、そこで、メンテナンス産業の実態や今後の見通しなどを理解して頂いた上で、参入を検討頂く。その上で、五島にある実際の風車を用いて行う「ステップ(2):風力発電メンテナンス体験コース」に、経営者ご自身、または、将来メンテナンス実務を担当する可能性のある担当者、機器開発に携わる可能性のある担当者に来て頂き、どのような作業があるのかを五感を使って体験して頂く。それによって、本当に参入できるかどうかなどの判断が行えると考える。なお、平成29年度は長崎県からの補助によりステップ(1)ステップ(2)については、長崎県内事業者であれば、研修費等不要で受講することができる。

 その後、「ステップ(3):参入意向面談」を本事業の主催者であるNPO法人長崎海洋産業クラスター形成推進協議会などと行った上で、それ以降のスケジュールを調整し、実務分野において参入するには、およそ1ヶ月の「ステップ(4):メンテナンス入門コース」を通じて実務を担える人材育成を行い、参入を進めていくことを考えている。また、技術開発分野については、現在の技術課題をクラスター会員企業などと共同で進めていくことを想定している。




図3. 本事業を通じた風力発電メンテナンス事業への参入フロー



3. 今後の予定



 今後、図1のポスターの通り、6月および7月に、経営者セミナーを長崎市内、佐世保市内、五島市内で各1回以上、7月から8月にかけて風力発電メンテナンス体験セミナーを五島市内で開催する予定である。なお、2017年5月30日付の長崎新聞にも取り上げて頂いたことから、既に問い合わせは頂いているが、日程等が決まり次第、NPO法人長崎海洋産業クラスター形成推進協議会のウェブサイト(http://namicpa.jp/)にて告知する予定である。



 風力発電メンテナンス人材育成において先行する欧米では、風力発電設備の導入が加速する2000年代初頭から専門学校(Collage)が相次いで設立され、国や業界を挙げて人材の育成、輩出が行われてきた。今後、わが国においても風力発電設備の導入が広がると予想され、ますます人材需要および作業を効率化する支援機器が必要となってくると考えられる。風力発電メンテナンス分野の人材育成を通じて、再生可能エネルギーの導入拡大およびエネルギー融通国・エネルギー融通地域の実現に貢献していく所存である。




図4. 本事業について取り上げて頂いた長崎新聞記事(2017.05.31付)



参考文献

[1] 木村誠一郎: 風力発電メンテナンス産業による島おこし(https://www.mskj.or.jp/report/3368.html), 松下政経塾・実践活動報告(2017)

[2] 木村誠一郎: 五島市における洋上風力発電プロジェクトに伴う経済効果(https://www.mskj.or.jp/report/3373.html), 松下政経塾・塾生研究レポート(2017)

[3] 株式会社日立製作所: 「日立風力保守トレーニングセンター」を開設(http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2016/10/1024b.html), 2016年10月24日付日立製作所ニュースリリース (2016)

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Seiichiro Kimura

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