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筆者の志である「エネルギー融通国」を実現する上で、国際送電連系はその要である。今回、その実現性や課題、メリット・デメリット等を若手研究者と議論するシンポジウムを実施したことから報告する。
2011(H23)年3月11日に発生した東日本大震災以降、電力システム改革が議論され、昨年より実施され始めている。2015(H27)4月には電力広域的運営推進機関(以下、OCCTO)が設立され、続いて2016(H28)年4月より電気小売業の全面自由化が始まった。今後、2020(H32)年には旧・一般電気事業者の発送電部門の法的分離が行われる予定が立てられている。
電力システム改革の目的は大きく3つ挙げられており、(1)安定供給の確保、(2)電気料金の最大限抑制、(3)需要家の選択肢ならびに事業者の事業機会拡大、である。このうち、(1)安定供給の確保については、2011(H23)年に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」施行に伴い、再生可能エネルギー電力(以下、再エネ電力)の導入が急拡大している。その結果、一部地域では再エネ電力の導入が困難となりつつある。
再エネ電力をさらに導入するためには、送電線を新たに整備し、より広域で電力を融通することが重要との議論もある。例えば、経済産業省は「風力発電のための送電網整備実証事業費補助金」を設け、北海道や東北地方において新たな送電線建設が始まっている。さらに、国内だけにとどまらず、より広域(例えば、国際送電連系)の電力融通体制構築の重要性も指摘されている。しかしながら、わが国はこれまで長年にわたり、10社の旧・一般電気事業者が各地域で電力を供給する仕組みを取り、国内での本格的電力融通もOCCTOを通じて始まったばかりの状況であることから、政府やOCCTOにおいて、国際送電連系まで含めた議論を本格的に開始することは、現状では容易ではない。
そこで今般、国際送電連系について研究する「若手研究者」によって、電力網の国際送電連系について考えるシンポジウムを開催し、その意義や可能性について議論を行う。
<プログラム>
●講演「わが国における国際送電連系の意義」
木村 誠一郎(松下政経塾・第35期生)
●講演「欧州における国際送電網の現状と東アジアにおける可能性」
分山 達也 氏(公益財団法人自然エネルギー財団・上級研究員)
●講演「国際送電連系のメリット・デメリット」
永富 悠 氏(一般財団法人日本エネルギー経済研究所・主任研究員)
●パネルディスカッション
上記の趣意ならびにプログラムに基づき、2017年8月4日(金)の14時~16時に、東京工業大学田町キャンパスにおいてシンポジウムを実施した。今回は、主に国際送電連系に関心を持っておられる研究者、専門家にお声かけし、官公庁、シンクタンク、大学、民間企業等から、定員30名を上回る35名の皆様にご参加頂いた。
シンポジウムでは、主催者である弊塾より、研修局の金子一也局長の挨拶に続き、下名から国際送電連系の意義の整理を過去の国際送電連系の事例分析から述べた。特に、国際送電連系が誰のためになり、何のために必要なのかを、現在の電力システムにおける主なプレーヤーの立場から議論した。
図1.下名の発表の様子
続いて、公益財団法人自然エネルギー財団の上級研究員である分山達也氏から、同財団の中で実施されている国際送電連系の議論を紹介頂いた。自然エネルギー財団では2016年に「アジア国際送電網研究会(座長:横浜国立大学・大山力教授)」を立ち上げ、欧州の国際送電網の調査や、東アジアにおいて国際送電網を構築するための諸課題の整理などを行っている。
今回のシンポジウムでは、今年4月に発表した同研究会の中間報告書[1]の内容をベースに、欧州において近年、国際送電連系が増加している背景を説明された後、運用や投資に係る部分と長期的な建設計画を含めた展望について触れられた。欧州においては、直流送電技術の進展が国際送電連系を可能にし始め、それが広域的な市場統合、統合された市場間での相互便益の拡大に寄与している点は大変興味深かった。また、国際送電連系の実施に至るには、まず国家間の合意があって進むものであるとの指摘もあり、単なるエネルギー輸送手段以上の意味があることを再認識させられた。
図2.分山達也氏の講演の様子
講演の最後には、一般財団法人日本エネルギー経済研究所の主任研究員である永富悠氏から、同財団が平成24年度、25年度に経済産業省から委託を受けた調査事業において実施した成果[2,3]を元に、国際送電連系のメリット・デメリットについてお話を頂いた。
メリットについては、(1)電力の安定供給や電化への貢献、(2)安価な電源の活用・設備投資の促進、(3)脱炭素化・化石燃料の削減などが挙げられた。その一方で、メリット(1)に対しては、約束通り供給されるのか、電力の質が確保されるのかなど安定供給を確保できない視点、メリット(2)に対しては電力価格の高い地域での電源の駆逐や火力発電などスタンバイ電源の増加など経済性が確保されない視点、メリット(3)に対しては非効率な火力発電の運用による二酸化炭素発生拡大などの副作用、などの視点が必要であることが指摘された。特に、平時におけるメリットが有事の際には反対にデメリットになる可能性を指摘され、まずは、ビジョンとしての国際送電網という部分では無く、現実的な二国間連系などから着実な検討が必要であることを指摘された。
図3.永富悠氏の講演の様子
三件の講演に引き続き、登壇者三名ならびに会場の方を交えたパネルディスカッションを行った。論点として、欧州において国際送電連系がどのような電力市場において取引される電気を融通しているのかを確認した後、具体的事例として、日韓・日露のバイラテラルを想定した国際送電について議論した。
前者については、国際送電連系の実績が長い欧州でさえ、kWh市場で取引された電力を融通する事が国際送電線の役割であり、リアルタイム市場などΔkWなどの取引で利用され始めたのは極々最近のことであることが紹介された。
後者については、仮に1GW×2回線の国際送電線を日韓・日露でそれぞれ結んだ場合の簡単な費用ならびに収益の試算結果を示し、その実現性などを議論した。
会場からは、国内の旧・一般電気事業者間の連系が不十分であり、関門連系や北本連系などの制約がある中で、国際送電線の敷設が可能なのかや、蓄電池や水素貯蔵など、エネルギー貯蔵との比較の必要性、また、国家レベルで考えた場合、1GW程度の議論が定量的意味を持つのか(すなわち、敷設事業者の利益以上の意味はないのではないか)という意見があった。
図4.パネルディスカッションの様子
普段、筆者は五島列島を基盤に、再生可能エネルギーを活用した「エネルギー融通地域」(エネルギー融通国のミニチュア版)の形成を目指した活動を行っている。既に五島列島からは九州本土に向け、電力の一部を輸出しており、今後、その量は広がると予測されている。一方で「エネルギー融通国」についての議論は研究レポートによる研究・分析[4]ならびに意見表明を除くと、あまり広く発信しておらず、公開での議論の取り組みとしては今回が初めてであった。その意味で、今後、どのような視点に着目し活動を行うべきかの示唆を得る重要な機会となった。
シンポジウム自体は2時間であったが、その後、複数の関係者が残り、1時間以上も本テーマについて意見交換を行った。その中で、法的な視点や市場統合の視点、有事(緊急時)の取り扱いについて、立場や考え方に大きな違いがある事も発見でき、国際送電連系を行うにあたっての議論の難しさ、そして、論点が十分に絞られていない議論であることをあらためて実感することができた。
一方で今回、自然エネルギー財団において「アジア国際送電網研究会中間報告書」の執筆メンバーである分山達也氏、経済産業省事業「国際連系に関する調査・研究」を担当した永富悠氏、また、国際送電連系について普段から考えられておられる研究者の方々と議論できたことは、今後、本テーマを掘り下げるにあたって仲間を得る事にもつながった。いずれの方も30代~40代と、世代が近く、話し易いことも有難いと感じた。このようなご縁を頂いたことから、今後、小さいながらも私的な勉強会を開催し、継続的な議論を行っていきたいと考える。
末筆ながら今回のシンポジウムにご協力ならびにご参加頂きました関係諸氏にこの場をお借りして御礼申し上げます。引き続き皆様からのご支援、ご指導のほどお願い申し上げます。
参考文献
[1] 公益財団法人自然エネルギー財団:アジア国際送電網研究会中間報告書, http://www.renewable-ei.org/activities/reports_20170419.php (2017)
[2] 一般財団法人日本エネルギー経済研究所:平成24年度エネルギー環境総合戦略調査 (国際連系に関する調査・研究)報告書, http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2013fy/E002742.pdf(2013)
[3] 一般財団法人日本エネルギー経済研究所:平成25年度電力系統関連設備形成等調査事業 (国際連系に関する調査・研究)報告書, http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/E003734.pdf(2014)
[4] 木村誠一郎:わが国における国際送電連系の意義に対する一考察, https://www.mskj.or.jp/report/3358.html, 松下政経塾・塾生レポート(2016)
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Seiichiro Kimura
第35期
きむら・せいいちろう
(一社)離島エネルギー研究所 代表理事/(公財)自然エネルギー財団 上級研究員/九州大学 招聘准教授
Mission
「2045年エネルギー融通国ニッポン」の実現