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私は日本財団と(株)ベネッセの子どもの貧困対策プロジェクトに参画し、大阪府箕面市において現場マネージャーとして活動している。今回のレポートでは、マネージャー就任時から約3か月かけて、スタッフとともに作成した理念について説明する。
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<松下幸之助から学んだ理念の重要性>
経営をおこなううえで、最も重要なことは何であろうか。松下幸之助は、それは経営理念であると答えている。松下幸之助は経営理念について、著書「実践経営哲学」の中で次のように述べている。
”この会社は何のために存在しているのか。この経営をどういう目的で、
またどのようなやり方で行っていくのか”という点について、しっかりと
した基本の考えをもつということである。
そして、その重要性と効用について同書の中で次のように述べている。
事業経営においては、たとえば技術力も大事、販売力も大事、資金力も
大事、また人も大事といったように大切なものは個々にはいろいろあるが、
一番根本になるのは、正しい経営理念である。
刻々に変化する社会情勢の中で次々と起こってくるいろいろな問題に
誤りなく適正に対処していく上で基本のよりどころとなるのは、
その企業の経営理念である。また、大勢の従業員を擁して、
その心と力を合わせた力強い活動を生み出していく基盤となるものも、
やはり経営理念である。
これらの発言から、松下幸之助は経営理念を企業の存在意義、基本方針として用いていることが分かる。企業の存在意義、基本方針が明確であれば、その活動が力強いものになっていくのは当然ではないだろうか。松下幸之助の経営理念への考え方は、弊塾での私の学びの1つである。
私が本プロジェクトに参画し、真っ先に取り掛かった仕事は理念の作成であった。もちろん、その仕事だけに専念できるわけではない。プロジェクトの立ち上げ段階はやるべき仕事が山のようにある。鉛筆1本購入するところからオフィスの整備を進め、拠点でのプログラム内容を考案する。そのような中、理念について話し合う時間を確保し、スタッフと議論しながら理念の作成を進めてきた。理念の作成には、約三か月もの時間を要した。次の5つが私たちの理念である。
外部向けに発信するメッセージ性の強い①スローガン、私たちが目指すものを表す②綱領、スタッフが目指す人材を示す③信条、スタッフの日々の心構えである④心得、みのお拠点の存在意義と運営の基本方針を文章で示した⑤運営趣意書の5つである。本レポートでは、、①スローガン、②綱領、③信条、④心得について説明する。
<スローガン:Be kind, and strong(優しく、そして強くなれ)>
まず、①スローガンについてである。私たちは、Be kind, and strong(優しく、そして強くなれ)をスローガンに掲げている。このスローガンには、2つの意味が込められている。1つは、子ども達にこのような大人になってほしいという思いを込めている。人として何よりも重要なものは優しさであると、私たちは考えている。普段、成績優秀な子どもが大人から褒められる機会が多い。しかし、いくら頭が良くても人の気持ちが分からなければ、世間から煙たがられる。そのような人と一緒にいたい、一緒に働きたいと思う人は稀ではないだろうか。
人は誰しも常に強者でいることはできない。一人で生きていけると高を括っている人も、年を取り、人の手を借りる時は必ず来る。また、心身の健康を害した際も、他人の気遣いに救われることがある。そのような時、人の優しさは心に響くのである。
ただ、優しいだけではいけない。優しくても弱ければ、自分のことで精一杯である。その場合、他人に優しさを振りまく余裕などない。いつも人に優しく接するには、強さが必要である。その強さとは、自分のための強さではなく、人のための強さである。Be kind, and strong(優しく、そして強くなれ)には、そのような思いが込められている。
さらに、より重要な意味合いとして、このスローガンにはスタッフがこのような大人になろうという思いが込められている。子どもは大人の背中を見て成長していく。子どもに求める姿を大人が示す必要がある。そのために、何よりもスタッフの日々の振る舞いが重要ではないだろうか。この心構えを持って、日々子ども達と向き合っていきたい。
綱領:みのお拠点が目指すもの
ほっと一息つける居場所をつくり、
そっと寄り添いながら子どもの背中を後押しし、
すべての子ども達の生き抜く力を引き出し育む。
私たちは、子ども達の生き抜く力を育むことを目的に活動している。生き抜く力とは、果敢に挑戦する力、自ら考え選ぶ力、状況を冷静に振り返る力、仲間と関係を構築し協力する力、最後までやり抜く力の総称である。私たちは国内外の研究結果を踏まえて、この生き抜く力こそが貧困の連鎖を断ち切る力であると考えている。では、子ども達の生き抜く力を育むためには、どのような環境を整える必要があるのであろうか。
私たちは生き抜く力を育む場所として、特に次の2つを兼ね備えていることが重要であると考えている。まずは、その場所が子ども達にとってほっと一息つける居場所であることである。複雑な家庭環境下の子ども達は、様々な悩みを抱えている。安心できる居場所の存在が子どもの心に安らぎを与え、次なる意欲を生むのである。そのような場所であって初めて、生き抜く力を育む基盤が整う。
2つ目は、子ども達に寄り添い伴走しながら、そっと子どもの背中を後押しする大人の存在である。これは、大人の価値観や意見を上から押し付けることを意味していない。私たちは、潜在的に生き抜く力が子ども達に備わっていると考えている。大人は子どもの生き抜く力を最大限に引き出す環境を整え、成長を見守り、適切な助言を施すことが求められているのである。
生き抜く力を引き出すためには、その力を育む場がほっと一息つける居場所であり、そこに存在する大人が子どもの背中をそっと後押しすることが重要であることから、上記の内容を綱領とした。
信条:みのおスタッフが目指す人材
互いの感謝が協力を生み、一致団結が未来を拓く
私たちが掲げた綱領を実現するためには、スタッフ一人一人の力を結集しなければならない。一致団結こそが生き抜く力を育める社会への鍵となる。一致団結とは、心を1つにして共通の目標に向かって力を合わせることである。一致団結するために必要な要素はいくつかある。共通の目的意識を持つこと、リーダーの存在とスタッフの適材適所の実施、同じ試練を乗り越える体験、などが考えられる。
その中でも私たちは、互いへの感謝が重要であると考えている。「ありがとう」が普段から飛び交う職場では、自分の力を貸したり、仲間の力を借りたりすることが自然に行われる。また、「ありがとう」の背景には、相手への敬意や承認の気持ちがある。互いの感謝が信頼関係を形成し、スタッフの心を1つにしてゆく。この信条には、スタッフ一人一人の力を結集することで綱領を実現していこうという思いが込められている。
心得:日々の心構え
挑戦:すべての子ども達が生き抜く力を育める、社会づくりに挑戦する。
共感:子どもと親の気持ちに寄り添い、豊かな関係を構築する。
GIFT:子どもに豊富で多様な体験を提供する。
持ち味:一人ひとりの持ち味を活かす環境を整える。
感謝:互いに感謝を言葉で伝え、協力し支え合う。
みのお拠点では上記5つを日々の心構えとして重要視している。今回はこの中から、GIFTに着目して説明する。みのお拠点ではスタッフの長所を活かして、子ども達に豊富な体験の機会を提供する。例えば、スタッフの中には元ミュージシャンで音楽に秀でているスタッフや、お菓子作りが趣味であるスタッフ、元M-1出場者で漫才が得意なスタッフがいる。そのようなスタッフが自身の長所を活用して、子ども達に豊富な体験を提供する。この機会提供を私たちはGIFTと呼んでいる。GIFTは贈り物、プレゼントの意味である。まるで気持ちを込めて相手にプレゼントを渡すかのように、素敵な体験の時間を子ども達に贈りたい。
この取り組みの背景には、子どもの物事に挑戦する意欲の低下がある。低所得層の子ども達は、家庭の事情により物事にチャレンジできないことが続き、そもそもチャレンジしようという意欲をなくしてしまう。所得格差が意欲格差を生んでいるのである。意欲はすべての活動の根幹である。そのために、意欲の格差は将来のあらゆる格差につながってしまう。
私たちは子ども達のやってみたい!の気持ちに寄り添いたいと考えている。まずは、豊富で多様な体験をGIFTする。そして、その中から自分が興味があるもの、好きなことを見つける。そして子ども達が好奇心をもってどんどん探究する。みのお拠点が子ども達のやってみたい!楽しい!が溢れる場所にしていきたい。
<理念作成編後編へ>
ここまで、スローガン、綱領、信条、心得について説明してきた。理念作成編後編では、設立趣意書について説明する。そして、これら理念と共に、みのお拠点の今後の活動をどのように進めていくのかを述べていきたい。
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Susumu Yamamoto
第35期
やまもと・すすむ
Mission
天分を活かして誰もが働くことができる社会の実現