論考

Thesis

MBAカンファレンス

3月11日、私の通っているノースロンドン大学のMBA課程に在籍する学生すべてがグループプレゼンテーションをするMBAカンファレンスが行われた。ここでは、学生が4-5人のグループを結成し、MBA課程で学んだトピックに関連するテーマでプレゼンテーションを行うとともに、外部から講師を呼んで特別講演も行うという試みで、今年で6回目を数える。今回は外部講師に大学の同窓生でもあるBTの取締役を迎えた。このカンファレンスは一般公開されており、約30名の聴衆を得た。
 私の所属するMBA観光学専攻課程は4人のフルタイム学生によって構成されているので、その4人で発表を行った。よく、どういった学生がいるのかという質問を受けるので、ここでその4人のバックグラウンドを紹介する。

 まずビクター・シードマンは今までフリーでツーリズムコンサルタントを営み、ツアーの企画、実行を手がけていた。そこでアカデミックな研究の必要性を痛感し、MBAに入った。MBA修了後は博士課程へと進学することが内定している。将来は観光学の教授を目指す。彼は我々4人の中で年齢も一番高く、(45歳くらい?)個性の強い我々の調整役的存在である。
 サッチアジット・スルジャノワはインド洋に浮かぶ小島モーリシャスから来た。彼はモーリシャス大学卒業後、地元のホテルで勤務。ホテルのマネージャーはすべて外国人が取り仕切っている現状を打破するため、MBA入学を決意。貯金をはたいてロンドンに来ている苦学生である。彼とは無二の親友となったので、お互い母国に帰国後は旅行会社を作って相互に観光客を送客し合うビジネスを始める予定である。年齢は私と一緒の29歳である。
 ジブレロ・カヌーは西アフリカのシエラレオネ出身である。シエラレオネは最近まで内戦があり、戦争で荒れ果てた国家を何とか観光で建て直しを図ろうと試みる政府からの財政支援を得てMBAに入学した。彼も29歳。卒業後はシエラレオネ自前の航空会社を作り、社長になるのが夢だそうだ。

 以上の三人と私で発表を行った。テーマは「Tourism and Sex」。まずビクターがセックスツーリズムのアカデミックなバックグラウンドをグローバリズムとの関係で説明した。次に私がセックスツーリズムはいったい誰に利益をもたらしているのかをマニラの例を挙げて説明した。そして、サッチアジットが、実際にモーリシャスでのホテル勤務の経験を踏まえてセックスツーリズムの現状を報告。最後にジブレロがセックスツーリズムに替わる観光の形態としてアドベンチャーツーリズム、ワイルドツーリズムなどを紹介しながら、安易な外貨獲得手段に走らない観光デスティネーションとしての工夫の必要性を主張し、プレゼンテーションを締めくくった。

 ここで、私の担当部分を詳しく述べたい。
 アジアでセックスツーリズムデスティネーションといえばタイとフィリピンをあげることができる。なぜカンボジアでなくタイなのか、なぜマレーシアでなくフィリピンなのか。この2国をつなぐ共通項は両国とも米軍基地を有する。米軍との何らかの関連性があるのではないかと言う仮説を立て、資料収集した。
 ベトナム戦争の際、米軍は戦闘で疲弊した兵士を癒すために「R&R Policy」というシステムを持っていた。この癒しはセクシャルなものも含んでおり、バンコク、マニラ両都市におけるセックスビジネスはこのR&Rにその起源を見出すことができるのである。その後、ベトナム戦争が終結し、セックスビジネスの主たる顧客は旅行者にとって替わられた。この時、日本人のセックスツーリズムも始まったが、日本人客は団体で訪れるため、一人でひっそりと訪れる白人と比較して目立ち、しばしば矢面に立たされ、日本人に対するデモが行われたりするが、日本人客は減少するのに、セックスツーリズムはまったく改善されることはなかった。ちなみに、オグラディの研究によるとバンコクにおいて性的犯罪で逮捕された外国人数は、ドイツ人がダントツの一位、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアに続いて、日本人は6位なのである。セックスツーリズムと言えば日本というイメージが世界的にも付いているが、これは欧米の研究者が自国に不利な統計を敢えて使わずに研究を発表しているためである。文献を読んでも、世界におけるセックスツーリズムの諸悪の根源は日本であるかのごとく記述している研究者は総じてプーンを代表とするドイツ人とナッシュを代表とするアメリカ人研究者に多い。
 また、セックスツーリズムにおける経済効果という側面も疑わしい。ホールデンの研究によると、マニラにおけるセックスビジネスのオペレーション上のオーナーは75%がフィリピン人、19%が中国人、6%がアメリカ人という構成だが、そのセックスビジネスの資本上のオーナーは、80%が中国人、14%がフィリピン人、6%がアメリカ人という構成になる。ここで中国人はマフィアとの強い結びつきもあり、マニラにおいてセックスビジネスで稼いだ外貨は自国に留まらず、海外に漏れていくのである。
 そのような中、かつてセックスツーリズムのデスティネーションであった韓国は韓国観光公社のイニシアチブによりここ10年間でかなり改善された。女性OLに人気の垢すりエステツアー、焼肉などのグルメツアーを始め、陶芸、民舞等の文化のツアーも数多くプロモーションされ、ここ2年間はかつてないほどの韓国ブームが続いている。結局セックスツーリズム時代に敬遠していたOLや学生層がローカルデスティネーションを訪れることになり、明らかに韓国のイメージが観光によって改善され、経済的にもセックスツーリズムのときより貢献度は高い。4月6日に韓国観光公社マーケティング本部を訪問する予定なので、来月の月例報告で詳しく韓国観光公社の活動について述べるつもりである。

 まとめると、セックスツーリズムに頼ることにより、観光デスティネーションとしてのマーケティング的工夫をしなくなり、そのためにまたセックスツーリズムを認めるという悪循環に陥る。そうならないためにはツアーオペレーター等私企業に任せきりにするのではなく、政府、およびNTO(National Tourism Organisation)の毅然たる覚悟を持った新たなマーケティングイニシアチブの必要性が強調される。

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島川崇の論考

Thesis

Takashi Shimakawa

島川崇

第19期

島川 崇

しまかわ・たかし

神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科観光文化コース教授/日本国際観光学会会長

Mission

観光政策(サステナブル・ツーリズム、インバウンド振興

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