論考

Thesis

空に太陽がある限り (c)浜口庫之助

この度、2000年12月17日をもって、約一年半の英国ロンドン滞在に終止符を打ち、久しぶりに日本の地に戻って参りました。
 私の本拠地は今神奈川県の茅ヶ崎にあります。冬になると毎朝私の部屋から富士山がくっきりと見えるのです。朝、富士山を見ると「今日も一日頑張れるぞ!」という気持ちを新たにすることが出来ます。冬の快晴は空気までもさらさらに感じます。そういう朝は、部屋の中にとどまっていないで、早く外に出て、朝の空気を胸いっぱいに吸い込みたいという衝動に駆られます。
 日本に住んでいる私達は冬もお日様を見ることが出来るのが当然のことだと思っています。冬でも昼間は家にいるのがなんかもったいないような感じがして、ついつい外に出て行きたくなってしまいます。しかし、このような気候を持つ国というのは、世界の先進国の中では、極めてまれな存在であるとは、私もロンドンに住む前は全く気が付きませんでした。
 ロンドンの冬は、もう三時半には暗くなってきます。第一、昼間もからっと晴れません。毎日がダークグレーの世界です。しとしとと雨もよく降ります。そのためか、近所の人も冬になると皆家にこもり、外に出ようとはしません。洗濯物も外では絶対に乾かないので、家の中でヒーターの上において乾かせます。もちろん布団を干すなんて考えられません。結局外に出る用事は極力最低限に押さえ、暖かい家の中で生活します。

 思えば、世界の覇権はお日様の出ない長く暗い冬を持つ地域に片寄っているような気がしました。英国しかり、ドイツしかり。アメリカもさんさんと太陽が照りつける西海岸や南海岸よりも、東海岸に覇権の中心があります。フランスも暖かい南海岸ではなく、パリにその中心があり、中国も南方の諸都市ではなく北京がいつまでも覇権を握っています。結局これらの地域に住む人々は外に出るより家の中にいる時間が多いから、机上で構想だの戦略だのを練っているのでしょう。お日様が出る国は外に出てもっとおおらかに生活したいと思うので、やはり、戦略的な面ではお日様が出ない国に負けてしまうのは当然といえば当然でしょう。

 私は以前から、近未来に石油がなくなると言われている割に代替エネルギーの開発が遅々として進まないのはなぜなのか不思議に感じていました。各電力会社は原子力発電所の安全性のアピールに多額の広告宣伝費を費やしていますが、その費用をもっと太陽光発電の研究開発費に当てられないのか疑問に思っていました。しかし、ここで全ての謎が解けたような気がしました。
 世界の国々が石油に頼っている間は、中東の採掘権を一手に引き受けるオイルメジャーを擁するアメリカの覇権は安泰ですし、原子力に頼っている間は米、英、仏の覇権は安泰です。しかし、もし安価な太陽光発電が実用化すれば、世界の覇権構造ががらっと一変するのです。今まで資源を持たざる国として窮乏を極めたアフリカ諸国や東南アジア諸国が一転して資源供給国となるのです。そして、太陽光発電は、ひとたび設備投資すれば、太陽熱は無尽蔵ですので、資源が枯渇する恐れは全くありません。最近、電力を無線で送信する技術や電力を缶詰にする技術も開発が進んでいると聞きます。これらの技術が全て実現すれば、開発途上国も欧米先進国の介在なしに発展が遂げられる道筋が開けるのです。

 欧米先進国は開発途上国の低開発状態のおかげで利益を享受できるシステムを作り上げてきました。そして、そのシステムを強化するがごとくに、途上国に対して多額の開発援助を行って、大量生産大量消費のシステムに組み入れてきました。エネルギーのイニシアチブを欧米諸国が握っている間は途上国がいくら生活が豊かになっても彼らが真に利益を得ることはないでしょう。
 しかし、21世紀は全ての国々が等しく幸せを分かち合える時代にしなければなりません。ここで日本が出来ることは、同じ一年中太陽の照る国として、安価な太陽光発電を早急に実用化して、太陽の照る国すべてが利益を享受できる新たなシステムを作ることでしょう。現在、重積債務に苦しむ国々はみな太陽には困っていません。本来、太陽が全ての生命の根元であるはずなのに、逆になっているのはあまりに不自然です。21世紀はもっと自然に忠実に生きていくことを世界にアピールしなければいけません。日本は風土的にも、文化的にも、技術的にも、最もそれを可能にする国だと思います。
 「サスティナブル・ディベロプメントとは、熱い雪のようなものだ。実現不可能。」と途上国の人から言われたことがあります。私は1年半のロンドンでの研究で、何がサスティナブル・ディベロプメントか結局分からずじまいでした。しかし、日本に帰り、朝、富士山を仰ぎ、気持ちよくて町を散歩していたら、冬でも洗濯物や布団を干している家々を見て、その答えは太陽にあると直感しました。もちろん、まだまだ越えなければいけない難問は山ほどあります。しかし、ここで、この論理的整合性の全くないこの文章を残すことで、私は今後の人生の一方向性を示したいと思います。これが論理的に整合したとき、サスティナブル・ディベロプメントが実現すると信じています。

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島川崇の論考

Thesis

Takashi Shimakawa

島川崇

第19期

島川 崇

しまかわ・たかし

神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科観光文化コース教授/日本国際観光学会会長

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観光政策(サステナブル・ツーリズム、インバウンド振興

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