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2002年2月

塾生レポート

「退耕還林」中国延安市での砂漠化への対応
原田大/卒塾生

 
松下政経塾中国研究会では、2月20日から3月4日まで、現地調査を行った。全体の報告書は近々発刊の予定であるが、ここでは中国西部大開発における環境回復活動について取り上げる。

西部大開発とは

 西部大開発とは、その名の通り、中国西部地域の開発を進めようというプロジェクトである。鄧小平時代の「豊かになれるものから豊かになればよい」という原則により、沿岸部の諸都市では目覚しい発展がみられ、年7~8%にも達する中国の最近の経済成長を牽引してきた。そして沿岸部の経済発展が軌道に乗り一応の成功を収めた今、発展した沿岸部と取り残された内陸部の経済格差が大きな問題となっている。西部大開発は内陸部の経済発展を促し、国内の経済格差を是正するプログラムである。

対象地域

 西部大開発の対象地域は、中国西部=内陸部に存在する12の省、市、自治区である(http://www.china.org.cn/ri-xibu/2JI/2bNew-/N-2.html参照)。面積では約540万平方キロ(総面積の約56%)、人口では約2億8000万人(総人口の約23%)を占める。自然環境は厳しく、交通も不便である。西北部では水不足と砂漠化に悩む一方、西南部では過剰な水資源と洪水に悩まされている。

延安市での対策

 延安市は西安から北に約300km、黄土高原にある中規模都市である。ここは西部大開発地域の中でも、北西部の乾燥が問題となっている地域である。耕地に適した平地が少ないため、住民たちは急斜面まで開墾し、雑穀類を作っている。

 この急斜面の開墾により、森林破壊と土壌流出という問題が発生している。すなわち、もともと森林であった山の斜面を開墾してしまうので森林が破壊され、その結果開墾された耕地が斜面であるためにひとたび雨が降ると表土が簡単に流出してしまうのである。肥沃な表土が流出してしまうと土地の生産力が下がり、更に広い耕地が必要となって、自然破壊のプロセスが更に進んでいく。

 近年中国では、「退耕還林」というスローガンを掲げ、環境保全に取り組んでいる。これは読んで字のごとく、斜面の上のほうまで無理に開墾した土地を、もとの森林に戻そうということである。「退耕還林」プロジェクトは中央政府の強いリーダーシップのもと、中国全土で進められている。そして植林された地域は「封山緑化」、つまり住民の入山と家畜の放牧を禁止し、植林地区を守る政策が取られている。

 しかしここで、急斜面を開墾してやっとできた畑を放棄してしまっては、住民の生活は成り立たないのではという疑問を持たれたかと思う。実際畑を放棄してしまっては住民の生活が成り立たないので、代わりの畑を創出する努力がなされている。第一に、等高線耕作である。つまり、斜面をそのまま利用するのではなく、階段状に畑を作って土地を利用する方法である。日本流にいえば、段々畑といったところであろうか。この段々畑の良いところは、畑が水平に作られるので土壌流出を防げることである。さらに、斜面では価値の低い雑穀しか作れないのだが、平地ではより価値の高いとうもろこしなどが作れるようである。等高線耕作は中国のみならず、土壌流出を防ぐ手段として世界中で行われている。

 延安市で特徴的なのは、もう一つの平地造成法である。すなわち、谷間にダムを作って平地を作り出してしまうのである。これはどういうことかというと、川にダムを作ると水が溜まるだけではなく、川が運んできた土砂も溜まる。黄土高原では土壌流出が激しく、従って河川が運ぶ土砂の量も多い。この土砂をダムでせき止めて、平地を作ってしまおうというのである。驚くべきことに、約5年で高さ10m位のダムが一杯になり、平地ができるそうである。こうして創出された平地に新たな畑を作り、そのかわりに斜面の畑は森林に戻すというプロジェクトが行われていた。ダムによる平地の創出と斜面の還林は同時に行われていたのだが、十分な平地が作り出されるまでは、政府は畑を放棄した農民に食糧援助を行っていた。

中国の環境問題と日本の役割

黄土高原の砂漠化問題を考えた場合、日本は直接的利害関係、間接的利害関係、人類共通の利益を追求するという3つの観点レベルから、関心を持つべきである。

 第一に、黄土高原の砂漠化問題は、日本にとって直接の利害関心事項である。黄土高原の土砂は、「黄砂」という形で日本にまで飛来する。九州でも、黄砂の飛来する回数は年々増加している。それを考えれば、黄土高原の砂漠化問題は、日本としても直接の利害関係にあるともいえる。砂嵐による空港閉鎖という大きな経済的問題から、洗濯物が干せないといったごく身近な問題まで関係がある。

 第二に、黄土高原の砂漠化が中国社会にもたらす影響を考えれば、日本は間接的に利害関係を持っている。すなわち、中国の安定と発展は、日本の安定と発展のためにも必要であるが、砂漠化による貧困の増加と、工業で発展する沿岸部との社会格差は中国の社会不安要素となる。こうしたリスクを解消するために日本が協力することは、日本のためでもある。

 第三に、環境問題は人類全体で取り組まなくてはならない課題である。地球環境問題に取り組み、持続可能な社会づくりにリーダーシップを発揮していくためには、国家の枠を超えて地球全体のことを考えた行動基準が求められる。こうした観点を持つと、中国の環境問題は、もはや他人事と捉えられるべきものではないだろう。

 詳細は、中国研究会報告書へ

2002年2月 執筆
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