論考

Thesis

環境と紛争、安全保障

 政治において環境問題を扱うことは、様々な問題の背景を探ることに繋がる。日本の安全保障を広く考える場合、表面的に軍事的な対策をとるだけでは不十分であり、様々な紛争を引き起こす問題の根本的な解決に向けての努力が必要となる。

地球規模の環境問題

 地球規模の環境問題の解決に取り組むことは、すなわち日本の安全保障につながる。あたり前ではあるが日本も地球上にあり、温暖化、オゾン層破壊などの地球規模の環境問題の影響を直接受けるからである。この場合、日本が関心を払うべき地域は地球上の全地域ということになる。

環境問題を要因とする紛争の予防

 発展途上国においては、農業が主要な産業であり、農業は自然環境に大きく作用される。特に水問題が重要である。インドとパキスタンの間でのカシミール紛争も、民族対立に加えて、インダス川の水をめぐる争いという側面もある。イスラエルと周辺アラブ諸国との紛争にも、水源地をめぐる争いがその背後にある。

 また、環境の悪化は食料生産量の低下を引き起こし、これが貧困、さらには飢餓へとつながる。インド西部からパキスタン、アフガニスタン、そして中東へと続く地域は乾燥地帯であり、基本的に人々は厳しい自然環境のもとで生活している。このような地域においての環境保全、自然回復事業は、農業・放牧を中心とする人々の生活基盤の保全、回復に直結する。日本にも影響を与える地域紛争を予防するために、環境保全、回復事業に投資することは、意味がある。

石油エネルギーに頼る経済システム

 1991年の湾岸戦争、そして今回のアフガニスタン侵攻にも石油が関係してくる。湾岸戦争の場合、石油供給の多くを中東の湾岸諸国に頼ってきた国々にとって、この地域の安定と、石油の継続的かつ安全な供給は非常に重大なことであった。今回のアフガニスタン侵攻の影にも、中央アジアの石油をめぐる思惑がうかがわれる。すなわち、世界最大級の埋蔵量を持つとして期待される中央アジア地域の石油をパイプラインでインド洋の積出港まで運ぶために、アフガニスタンを通る必要があるというのだ。

 この問題を根本的に解決するためには、石油エネルギーへの依存度を下げることが一つの道筋となろう。そのためには、風力、太陽エネルギーといった新エネルギー源の開発を積極的に推し進め、多様なエネルギー源をバランスよく持つ必要がある。脱石油エネルギー、そして新エネルギーへのシフトは地球環境を守るためだけではなく、アジア地域の人々の平和と安全をはかる上でも大きな意味がある。

環境安全保障外交

 もちろん起きてしまった紛争にどう対処するかの論議も必要ではあるが、それと同時に紛争の根本的な原因を見つめ、その解決に取り組む姿勢もまた必要である。環境問題が直接日本の国益に影響を与えるのであれば、環境問題を倫理的なもののように扱うのではなく、現実的な取り組みが大切である。紛争を引き起こすメカニズムを解明する努力と、紛争の背後に潜む要因を正当に評価する新しい物差しの採用を考える時期である。

 そしてこうした取り組みは地球規模で考えなくてはならず、そのためにどのような投資ができるのかを考えることが、日本独自の安全保障戦略に繋がっていく。

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原田大の論考

Thesis

Dai Harada

松下政経塾 本館

第21期

原田 大

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