論考

Thesis

地域通貨の抱える公共性の問題

1.地域通貨の抱える排他性の問題

 地域通貨を構想する人たちには、政府と一線を画そうとする動きが一般的である。国家に頼らない生き方を模索するセルジオ・ラブ氏と友人たちの相互扶助が発展した「friendly favor」のようなタイプでは明らかにそうである。また日本の多くの地域通貨に影響を与えている加藤敏春氏による「エコマネー」でも、政府部門である「公」、市場部門である「私」に対して非営利セクターとしての「共」というものを強調することにより、地域通貨の領域と政府の領域を分けて考えている。しかし、地域通貨を構想する際に、ことさら政府部門との区別をする必要があるのだろうか。または政府部門が地域通貨を構想することには、問題があるのだろうか。

 政府部門が地域通貨を構想する場合に一番問題となりそうなのは、地域通貨の排他性である。地域通貨はその性質上、限定されたコミュニティの中でのみ用いられる。裏を返せば、そのコミュニティに参加していない人は使えない。地域通貨を単に「円」や「ドル」の代わりとして使用する場合にはそれでも問題ないが、地域通貨を利用して公共サービスの自律的供給を目指す場合、政府は少なくとも名目上は万民のために奉仕すべきであるので、この排他性が問題となろう。

2.非営利セクターにおける「会員奉仕組織」と「公共奉仕組織」

 NPO研究の第一人者であるレスター・サラモンは、非営利セクターの基本的区分に関して、非常に異なった二つのカテゴリーがあるとしている。この二つのカテゴリーとは、「会員奉仕組織」か「公共奉仕組織」かである。

「会員奉仕組織」とは、公共の目的も持ってはいるが、その組織に所属するメンバーに恩恵を与えることが主たる目的である組織のことを指す。具体的には、社交クラブ、事業組合、同業者組合、協同組合、政党などがここに含まれる。

「公共奉仕組織」とは、組織に所属するメンバーに恩恵を与えることよりも、社会全体に対して恩恵を与えることが主たる目的である組織のことを指す。具体的には、助成財団などから成る資金供給の仲介機関、宗教団体、医療・教育等のサービス提供機関、公益のための政治活動機関などがここに含まれる。

 では、地域通貨を使って相互扶助サービスの提供を目指す組織がどちらのカテゴリーに分類されるかといえば、前者の「会員奉仕組織」となるだろう。限られたコミュニティの中で使われるということが地域通貨の特徴の一つであるが、これは裏を返せばコミュニティに所属しない人は使えないということでもあるからだ。

 地域通貨がメンバーに対してのみ恩恵を与えるものだとしたら、地域通貨の恩恵を受けるためにはメンバーになる必要がある。地域通貨の公共的な役割を強調するならば、このメンバーシップは誰に対してもオープンなものとして設計されるだろう。そして誰に対してもオープンならば、結局は「公共奉仕組織」と変わらなくなってくる。このような形になったとき、地域通貨の閉鎖性、あるいは「公共奉仕組織」が地域通貨に関わることに対する問題点は解消される。

3.政府とは?

 政府の仕事の一つは、様々な公共サービスを提供することである。ところが最近では政府以外にも、NGOなどの公共サービス提供主体が注目されている。ある分野ではNGOのほうがむしろ住民のニーズに応えている。インドで児童労働の解消と未就学児童のための学校運営の活動をしている、あるNGO関係者は、自分たちの役割について次のように述べていた。彼いわく、本当は政府がいろいろやるべきなのに、政府には問題解決能力がない。だから自分たちが政府に代わって教育サービスを提供している。その点、自分たちの活動は、政府が役に立ってくれない人にとっての「代わりの政府」といえる、とのことである。この例のように政府が機能していない部分をNGOが補完する場合もあるし、別のケースでは政府とNGOが同種のサービスをめぐって競争関係にある状態もあるだろう。特に後者のような場合、住民にとってサービスが受けられさえすれば、それが政府だろうがNGOだろうが問題ない。そう考えれば、非営利セクターの「会員奉仕組織」が扱えるような地域通貨を政府部門が扱うこともまた問題ない。

 政府部門に対して一線を画す必要があるのは、政府を自分たちのものだと見做していないからである。しかし民主主義的観点に立てば、政府は本当は自分たちのものであるべきなのだ。既存の政府とは別次元で新しいコミュニティをつくっていこうという動きは、究極的には、新しい自分たちの政府を創り上げる営みとなる。それを考えれば、地域通貨のような試みは、むしろ積極的に政府部門の中に組み込んでいくべきであろう。

 

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原田大の論考

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Dai Harada

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第21期

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